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AIを社会実装するためにデータサイエンティストができること

公開日
2024.06.06
更新日
2024.06.06
AIを社会実装するためにデータサイエンティストができること

AIを中心とした変化の激しい現在。そのような背景のもと、データサイエンティストの役割やミッションについて気になっている方も多いのではないでしょうか。

「AIを社会実装するためにデータサイエンティストができること」というテーマを深掘りする本対談では、AIの最前線で活躍するデータサイエンティスト「からあげ」さんと、株式会社ブレインパッドのデータサイエンティスト内池さんをお迎えしました。お二人の出会いとキャリアチェンジのきっかけ、データサイエンティスト職のバリューの出し方から生成AIとの向き合い方に至るまで、多岐にわたるトピックを通じてお二人の視点を共有します。本記事を通じてこれからの時代を歩むためのヒントを少しでも掴んでいただけたら嬉しいです。

本記事の登場人物
  • 松尾研究所 からあげ氏
    データサイエンティスト
    からあげ
    会社
    株式会社松尾研究所
    所属
    AI開発事業
    役職
    シニアリサーチエンジニア
    2023年まで製造業の企業でハードウェア・ソフトウェア開発に従事。2023年から松尾研究所にジョイン。
  • データサイエンティスト
    内池 もえ
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    シニアマネジャー
    日系コンサルティング会社を経て2019年にブレインパッドに参画。機械学習を用いた需要予測の事例や、金融商品取引の分析事例を担当。昨今は汎用ソルバーを用いた数理最適化の事例にも従事。フィージビリティの検証からKPI設計までトータルで支援。機械学習をはじめとした技術の「社会実装」の実績をもつ。東京大学グローバル消費インテリジェンス寄付講座 (GCI) 2020-2023 特別講師。

1.出会いとこれまで

DOORS編集部 今回は、AIの現場最前線で活躍する「からあげ」さんと、株式会社ブレインパッドの内池による対談です。「データサイエンティスト」という職種に焦点を当てて、過去・現在・未来のAIやデータサイエンスについて大いに語っていただきたいと思います。まずはお二人の出会いのきっかけから教えていただけますか。

株式会社松尾研究所・からあげ氏×株式会社ブレインパッド・内池

きっかけは「ディープラーニングおじさん」

ブレインパッド・内池もえ(以下、内池) はい。からあげさんと出会ったきっかけは「ディープラーニングおじさん」でした(笑)

株式会社ブレインパッド・内池
株式会社ブレインパッド・内池

もう何年も前の話になりますが、当時の私はデータサイエンティストへのキャリアチェンジを明確に意識して、業務の傍ら勉強をしていました。そんなときに、からあげさんの書かれた「ディープラーニングおじさん」の記事を発見して、転職エントリを書くタイミングで私のブログで取り上げたんです。その通知がからあげさんに届き、リアクションしていただいたのが出会いのきっかけでした。

ディープラーニングおじさんの詳細はからあげさんのブログ記事に譲りますが、当時の私は未経験から独学でディープラーニングを修得し、意欲的に会社を変えていくおじさんの存在に感銘を受け、とても勇気づけられました。

株式会社松尾研究所・からあげ氏(以下、からあげ氏) 懐かしいですね。内池さんが私の記事をきっかけに転職したという話を聞いて責任を感じていました(笑)。若い方の人生を狂わせてしまったのではないかと心配になった記憶もあります。

その後、TensorFlow ユーザーグループ(TFUG)の勉強会で初めてお会いすることができ、記事をきっかけに転職をすることができましたと言っていただけましたね。それからも縁あって何度もお会いしてお話しできており、本当にいい縁をいただいたと嬉しく思っています。

内池 からあげさんがディープラーニングおじさんの存在を世間に発信されていたおかげで、モチベーションが上がりまして、今に繋がっています。その節は本当にありがとうございました。

からあげ氏 いい方向に進んで、本当にほっとしています。

DOORS編集部 きっかけがブログ記事だったのですね。からあげさんは、ブログやX(旧Twitter)などで今も情報発信を続けておられますが、そのきっかけがあれば教えていただきたいです。

からあげ氏 ブログは昔からの趣味で、20年以上前から書いています。書き始めた理由は、その頃流行っていたからですね。まだブログという名前もなかった気がしますが、ホームページ作成なども流行っていた時代です。

初めは身の回りのことや日記的なものを書いていました。書くことが好きなので、今でも書き続けているという感覚です。最近気付きましたが、書き続けるのは大変だと思われる方が世の中には多いですよね。書くこと自体が上手いと思っているわけではないのですが、書くことが苦にならないという意味では才能だったのかもしれないと今では思っています。

内池 職業や活動を決める場面で、苦にならないというのは大事ですよね。からあげさんにとって、ブログなどの執筆活動はそういうものだったのだろうと思いました。

からあげ氏 AIやエンジニアリング、データサイエンスに関わるようなことも苦ではないですね。そういった分野はワクワクしながら楽しんでいます。

内池 実は私も、データ関連のことであれば全然苦になりませんでした。今でこそからあげさんの著書でも触れられている通り、ChatGPTに面倒なことを任せることができるようになってきていますが、データを使ってビジネスに還元していく活動は泥臭い作業を伴います。それが苦にならなかったことが、データサイエンティストとしてやっていきたいと思えた理由の一つでした。

からあげ氏 本当に向いているというのは、重要だと思います。

東大のグローバル消費インテリジェンス寄付講座での接点

DOORS編集部 お二人の接点でいうと、東京大学さんのグローバル消費インテリジェンス寄付講座(※)もあるのでしょうか。

※東京大学グローバル消費インテリジェンス寄付講座・・・AIの研究を行う東京大学松尾・岩澤研究室 が運営を行うプログラム。 SセメスターとAセメスターにおいて、4か月間、毎週火曜日の18:45〜20:30に開講される (アーカイブ動画もある) 、国内最大級のデータサイエンスの講座。

参考:GLOBAL CONSUMER INTELLIGENCE 東京大学グローバル消費インテリジェンス寄付講座

内池 うっすら接点があるぐらいですね。前々回に講義を担当させてもらった時に、からあげさんから「講義を見ていた」とご連絡をいただきました。

DOORS編集部 このお話は、『機械学習を社会実装するということ』という資料が公開されて、反響が高かったというタイミングの内容ですね。

内池 そうですね。

からあげ氏 あの資料は周りでも評判がよかったですね。まだ公開されていなかったとき、ぜひ早く公開してくださいとお願いしました(笑)。

内池 意外と外部発信に消極的なもので・・・(笑)

二人の経歴について

DOORS編集部 ここからは、お二人のあゆみ、バックボーンをお聞きしたいと思います。まずはからあげさんから、お願いします。

からあげ氏 新卒で入った愛知県の製造業の会社に長くいました。最初はハードウェアや回路設計なども行っていましたが、ソフトウェアが今後重要になってくると感じ、社内でソフトウェアエンジニアにキャリアチェンジしました。

件のディープラーニングおじさんに出会ってからは、AI活用に関連する活動を社内で行っていました。その後、やっぱりAIの社会実装を加速していきたい、もっとそちらにシフトしていきたい気持ちがだんだん大きくなっていきました。

そして昨年、株式会社松尾研究所に転職し、複数のプロジェクトのデータサイエンティストを担うようになるという流れです。

DOORS編集部 では、内池さんお願いいたします。

内池 前々職から話すと、医療法人グループの経営企画という変わったポジションからキャリアをスタートしました。経営企画と言いつつ実態は何でも屋さんです。すでに炎上していたERP導入プロジェクトの立て直しが最初の大きな仕事で、苦節2年で稼働に漕ぎ着けました。

ただ、医療業界はやや特殊で、経営の舵取りと現場の稼ぎ頭の双方を担う医師を中心に事業が回っています。そのような環境で奮闘していましたが、当時の私はまだ20代。発言力がまだまだ足りず、苦い思いをすることも多かったです。

その経緯から、もっと実力と説得力を磨いていきたいと考えてコンサルティングファームに転職しました。そこではIT調達戦略や基幹システム群のSAP S/4HANAへのリプレイスのプロジェクトなどを担当しました。

そんな中、たまたま知人の講演を聴く機会があったのですが、その内容が「機械学習で会社を立ち上げた」というものだったんです。機械学習がビジネスになるという事実は当時の私にとって衝撃的なことで、これをきっかけに松尾先生の著書を読んだりと、勉強の日々が始まりました。

そんなタイミングで、たまたま機械学習案件の引き合いがあり、希望して飛び込みました。そして機械学習案件に携わる日々を過ごすうちに、自分のやりたいことはこれだと確信し、機械学習やデータ分析によりコミットするためにブレインパッドに転職しました。その後は、機械学習案件や数理最適化を用いたサービスの商用化など、様々な案件でPMやモデル開発のリードを担い、今に至ります。


2.それぞれの支援スタイル

データ活用社会おける組織の立ち位置

DOORS編集部 ここからは、現職にフォーカスを当てたお話をしていきます。株式会社松尾研究所さんとブレインパッドは、クライアント企業のAI、データ活用支援や社会実装支援をするという点で共通点があると思います。そのうえで、どのようなことを意識してバリューを出しているのかについて興味があります。まずは内池さん、いかがでしょうか。

内池 そうですね。この議論の前提として、まずはAIやデータ分析を生業とする企業をざっくり整理してみました。

  1. プラットフォーマー・・・飛び抜けたマシンパワーで最先端のサービス/ソリューションを作りつつ、環境も提供する企業
  2. 研究開発・・・先端技術の応用研究を軸に事業を展開する企業
  3. 領域特化・・・特定の領域(たとえば最適化)に飛び抜けた強みを持つ企業
  4. 分析オペレーション支援・・・アウトソーシングやそれに近い形での日常的な分析支援を主な事業とする企業
  5. 包括的支援・・・顧客に対して包括的にデータ活用支援を提供する企業。抽象的な課題だったとしても、顧客との議論と対話を重ねながら解くべき問いを明らかにし、機械学習やデータ分析等の手段を用いて実際の社会に適用する役割をフルで担っていく

ブレインパッドは主に5つ目の支援スタイルで、分析の課題を解くことにとどまらず、悩んでいる段階から社会実装までを繋げていけるような支援をしています。さらにその先の目標として、次世代標準を示しながら少しずつ社会を変えていくことを目指しています。

DOORS編集部 とても興味深いです。今の分類に対して、からあげさんはどういった感想を抱きましたか?

からあげ氏 率直に面白いと感じました。こうしたイメージができていなかったので勉強になります。松尾研究所は2と3に加えて、5にも少しずつ取り組んでいるように感じますね。ただ、色々なプロジェクトがあり、手広く取り組んでいる側面も実はあったりします。

内池 松尾研究所さんは2番のイメージが強いですが、松尾・岩澤研究室などの周辺組織も含めると、たとえば人材育成であったりと、手広くかつ複数の項目にも跨りながら・ないしその枠組みを超えて取り組まれていると感じますね。

ブレインパッドも包括的データ活用支援という言葉にとどまらない取り組みが多いです。超上流工程から取り組んだり、研究開発にあたる業務に取り組んだりもしています。

からあげ氏 確かにブレインパッドさんは2、3にも取り組んでいると感じます。在籍している方々を見てもレベルが高く、論文を読まれたうえで議論を行ったり、実装するということも伺っています。技術力もあったうえで、領域特化的なものだと最近ではLLMにも積極的に取り組んでいるように見えています。

内池 はい。社内でLLM研究プロジェクトを早々に立ち上げたのは、現場から自然発生的に「ブレインパッドとして取り組まなければならない」という声が上がったからで、そういう思いを持った社員が集結したプロジェクトになりました。

このように新しい技術をどんどん取り入れながら、既存の手法も組み合わせ、世の中に還元していきたいという思いで業務に取り組んでいます。

からあげ氏 ボトムアップで取り組みが始まるという点に、ブレインパッドさんの強さを感じます。

データサイエンティストとして内池が目指す役割:局所的な改善ではなく社会全体のアップデート

DOORS編集部 今度は内池さんとからあげさんのそれぞれの役割についてお話を伺いたいと思います。

内池 まずはいちデータサイエンティストとして、顧客や社会の課題をデータサイエンスの問題に落とし込み、それを解いて社会に還元していく役割を担っていると考えています。

ただ、最近それだけでは少し足りなくて、そこを起点に色々とやっていかなければならないと感じることが増えました。個々の課題を解いていくこともそれはそれで重要です。しかし、単に解くだけで終わってしまい、局所的な改善で終わってしまうのはもったいない。社会に対してもっと大きなインパクトを与えたり、社会の状態をアップデートすることを目指さなければならないと考えています。

実際にプリセールスや案件の中でも、そういった視点を持って取り組むようにしています。技術的なアプローチだけでなく、どうすれば横展開できるのか。様々な主体の相乗りを誘発することができるのか。対象となる業務の次世代標準をどのように提示しうるか。

従来よりも1つ、2つ上の視点でデータ活用を考えることが求められつつあると感じますし、このように社会に対するインパクトの与え方の構想もセットで考えていくことが自身の役割だと考えています。

また、自身の役割についてはもう1つの思いがあります。データサイエンティスト職のあり方がまだまだ成熟しきっておらず、かつ活躍している方の属性に偏りがある中で、1つの局所最適解、言い換えるとロールモデルとして機能し、バリューの出し方を提示していきたいと考えています。私を見て「そういう活躍のしかたもあるんだ」と感じて後に続いてくれる方が出てくると嬉しいですね。

DOORS編集部 内池さんはコンサル的な面もあり、いい意味で1つの職種では語り尽くせないという印象を持っています。今の内池さんの思いを体現していく場合、職種名は1つだけに留まらないと感じましたが、これからも職種としてはデータサイエンティストを続けていくのでしょうか?

内池 わからなくなってきている部分はありますね。今も肩書き的にはデータサイエンティストですが、コンサルタントの経験もありますし、いい意味でかけ合わせてやっていきたいと考えています。肩書きに拘るのではなく、自身の役割を見極めた上で、それを体現していければいいのだと思います。

そうは言いつつも、つい昨日もデータサイエンティストとして一生懸命アルゴリズムを考えていましたし、データサイエンティストとしてのアイデンティティはちゃんと持っています。

プロジェクトマネージャーとしてのからあげ氏の役割:シチュエーションに合わせてバリューを発揮

DOORS編集部 からあげさんも、”データサイエンティスト”という一言では言い表せないくらい、幅広い役割を担っておられますよね?

からあげ氏 役割としてはPMですね。プロジェクトにもよりますが、取り組んでいることは様々で、PoCに近いことをすることもあれば、コンサルのように相談に乗りながらプロジェクトを進めることもありますし、より社会実装に近い位置でシステム/ソフトウェア開発を進めていくこともあります。

このようにプロジェクトのバリエーションが豊富なことに加えて、一緒に働くメンバーも様々です。優秀な人材が揃っているのですが、尖った人材が多いため、置かれた環境に応じて、場面場面で自身がいちばん力を発揮できることを見極めるようにしています。

内池 聞いていて思ったのですが、最前線で活躍されている方は場面場面で様々な活躍をされますし、一つの職種名で語るのは難しいのかもしれませんね。からあげさんも「名前が職種を超える」に近い状態なのではないかと感じました。

からあげ氏 私自身は器用貧乏なところがあると感じています。データサイエンス一本のキャリアではなかったので、まだまだ実力不足を感じることも多いです。

逆に、エンジニアリング的なところであれば価値を出せたり、周囲を助けられたりすることも多いです。足りない部分については上手くキャッチアップしていかなければならないと、特に転職後は痛感しています。

内池 ありがとうございます。松尾研究所にからあげさんがいることの意義は大きいと感じます。技術を社会に還元していく段階ではどうしても研究開発の知見だけでは足りず、ビジネスの現場でいかに納期を守ってプロジェクトを進め、安定したシステムを構築し、稼働させ続けられるかといったSI的な知見が必要になってきます。からあげさんの知見を上手く掛け合わせられているのではないかと想像しています。

からあげ氏 まだ転職して1年経たないぐらいですが、いい結果が出てきているプロジェクトや取り組みも出始めていて、ようやく成果を感じられつつありますね。


3.生成AIとどう向き合うか

生成AIを含めた変化と、我々データサイエンティストはどう向き合うか

DOORS編集部 ここから、「生成AI」にテーマを移していきます。ちなみに、私はからあげさんの著書(『面倒なことはChatGPTにやらせよう』)を購入し勉強させていただいています。

『面倒なことはChatGPTにやらせよう』(講談社/著者:カレーちゃん、からあげ/2024年)

そんな生成AIについて、お話を伺っていきます。生成AIがもたらしている、現状のさまざまな変化についてどう思いますか?

内池 生成AIに限らずですが、技術自体も活用方法も変化が激しいと感じています。変化をどう捉えて付き合っていくのかについて話してみましょうか。

私たちの業界は、仕事のやり方のベストプラクティスが毎年変わっていくような業界です。そんな中、ブレインパッドも松尾研究所さんも、勉強すること自体や、新しい技術を実際に試してみることが好きな人が集まっていて、変化に自然と食らいついているような状態にあると思います。

このような向き合い方が、技術を使って社会に還元していく立場の人や組織にマストで求められるようになっていくと思います。枯れた技術で堅い分析をすることも大事な一方で、それだけではコモディティ化してしまう。それこそChatGPTで出来てしまいますよね。

一般論のような主張になってしまいますが、ChatGPTを使うことも含めて、変化に追随していくことが重要なのかなと思っていますね。

からあげさんは、生成AIに代表される大きな変化をどう捉えて向き合っていますか?

からあげ氏 そうですね。面白いな、というのが最初にあります。進化や変化が激しいので、ついていくという感覚でいると大変だと思いますが、自分よりも賢いかもしれないものが安価に使えるというところに面白さがあると感じていますね。

それをどう使うかを考える部分はまだまだこれからで、自分自身もいまだに使いこなせている気はしないですし、もっと色々な価値を出していけるのではないかと感じています。新たな事例を作りつつ加速させていくことが現在の関心事です。

AIの導入は上手くいかないこともあると思うのですが、今までは学習含めたコストがかかりすぎることがネックになることも多かったと思います。生成AIだと、比較的コストパフォーマンスよくAIを活用できるユースケースが出てきていて、個人的にもプロジェクトの中で「期待以上の成果が出せた」といったことを体感する機会がありました。メンバーが頑張ってくれたのも確かですが、生成AI自体の可能性も同時に感じています。

役に立つ応用事例の提示が求められている

内池 ありがとうございます。すごく共感できるお話でした。ブレインパッドとしても企業の話を聞いたり、実際に有償案件で生成AIに取り組む機会が増えていますが、どのような応用のしかたが最も価値が出るのかについては世の中的にもまだまだ手探りの段階だと感じています。

そういった状況なので、事例を作って活用を加速させていくことが重要な局面だと捉えています。実際、現場のデータサイエンティストの考える応用のアイデアでさえも、本当に価値の出る応用方法とはまだまだズレがあると思います。

からあげ氏 私もあると思います。

内池 ここを解きほぐしていきたいですよね。

からあげ氏 そう、それは重要だと思います。

内池 そこをどうやったらいいのかというところに、まさにチャレンジしている最中です。例えば、ブレインパッドでは最近、りそなホールディングス様との取り組み事例を発信しています。生成AIの活用方法を業務特化型に限定し、現実的なアイデアを次々と生み出していく取り組みです。一つ一つは小さいかもしれませんが、実際に効果が出たという事例をどんどん作って出していくことが使命だと思っています。ここの思いはきっと一致していますよね。

からあげ氏 私も、取り組みもアピールも同時に重要だと思いました。松尾研究所としても、どんどん出していけるようにしていきたいですね。

内池 そうすると、日本で技術の活用がもっと盛り上がるようなきっかけになるかもしれませんね。

からあげ氏 そうですね。すぐに出せないと失望論のように盛り下がってしまうこともあったりするので、それはもったいないなと。本当に使い道がない物なら仕方ありませんが、自分は可能性を感じているので。ちゃんと役に立つことを、社会実装して示していかないといけないかなと思っていますね。

内池 最後に、個人としてできることについて話しておきましょうか。個人として生成AIをどう活かすかは、からあげさんが本にまとめてらしゃるので、それを読んでくださいという感じですかね(笑)

からあげ氏 そうですね(笑)色々な人に少しでも役立ててもらえれば嬉しいと思っています。

生成AIとデータ活用社会の進化の方向性

DOORS編集部 他に生成AIというテーマで話しておきたいことはありますか?

内池 個人レベルでしっかり学んで試していくことと、企業や組織が事例を作っていくことが大事というのは先程お話しした通りです。

他にも論点があって、日本におけるLLMをどのように調達するべきかについてまだ答えが出ていないと感じています。海外のプラットフォーマー製の大規模な学習をしたモデルに乗っかりファインチューニングして使うことを前提とするのか。APIを使う立場がいいのか。あるいは国産LLMの開発に注力するべきなのか。

また、生成AIの作り方でいうと、汎用的なAIを作ることによって特定タスクを解くのか、それとも初めから特定タスクを解くことを目指して学習するのかといった分岐もありますよね。このように、生成AIの扱い方に関する論点はまだまだたくさんあると考えています。

松尾研究所や研究室として、生成AIについて考えていることや、取り組んでいることをお聞きしてもよろしいでしょうか?

からあげ氏 松尾研究室の方では、国からNEDOの予算を貰い、生成AIの開発力を強化するGenerative AI Accelerator Challenge(GENIAC:ジーニアック)というプロジェクトに取り組んでいます。参加者を募って、開発ノウハウを含めて共有していくというような内容です。

研究所の方針としても、領域特化のLLMを学習段階から作っていくプロジェクトに取り組もうとしています。

企業や立場によって方向性は変わってくると思いますが、ゆくゆくはAIもパーソナライズされていくのではないかと予想しています。今はみんなが同じものを使っていますが、一人一つパーソナライズされたAIを持つような未来が来る可能性もあると考えています。色々な影響要因があるので、将来の予想をしてもあまり当たらないかもしれませんが(笑)

内池 外生変数が多いですよね(笑)

パーソナライズの流れについてですが、たとえばChatGPTでは既にGPTsが提供されています。カスタマイズができてお気に入りの返答をしてくれる、そのような機能が既に実装され始めているし、歓迎されてもいると感じています。生成AIに限らず、「みんながこれを使うんだ」ではなく、パーソナライズの方向へ徐々に進んでいけるといいのかなという気はしますね。

からあげ氏 プラスの価値があると思いますが、全体としてその方向に行くかは、正直まだわからないというところですかね。

内池 そうですね。将来はどうなることやら。本当に先が見えない中で戦っているなという感じですよね。変化が早いということは、10年後に世界がガラッと変わっているかもしれません。

4.これからのデータサイエンティスト

求められる役割と時代の変化

DOORS編集部 先が見えない状況の中で、お二人は最前線で戦っていると思います。データに携わる者として、データサイエンティストに求められる役割は今後どのように変わっていくとお考えでしょうか。

内池 世の中どんどん変わっていくので、それに応じてベターな解は変わっていくのだろうと思っています。

データを活用していく機運はより高まっていくはずですが、同時に、データを使える人とそうでない人の格差が広がる状況は望ましくないとも考えています。高度な技能によってプラスαの価値を出すだけでなく、直接的な活用支援や次世代の教育などの方法も含めて、データ活用全体を牽引していく役割を担っていかなければならないのだろうと考えています。

からあげ氏 生成AIが普及してきていますが、データが重要ということはあまり変わっていないとも考えています。大量にあるデータの学習の必要性は多少減ってきたのかもしれませんが、やはり独自の高品質なデータによって生まれる価値は変わらずあると思いますね。

キャリアに関しては、不安でいっぱいという感じです(笑)ですが、新しい価値を出せるように継続して頑張るしかないかなと日々考えています。

スキルの掛け算と技法のアップデートがコツ

内池 私のすごく雑なイメージをお伝えしてみてもいいでしょうか。

データ活用には魔法に近いところがあると思っているんですよね。また、データの効果を倍増させられるスキルや、そもそもどこに魔法を打つべきかを見極めるスキルは戦士としての能力だと捉えています。その両方ができる魔法戦士のような人が育っていくといいのかなと個人的には思っています。

さらに言うと、その魔法自体は、時代の流れと共に陳腐化するものと捉えなければならないとも思っています。たとえば漫画作品『葬送のフリーレン』に登場するかつての屈指の魔法使いが放つ魔法は、数十年後に一般攻撃魔法と称されあっけなく攻略されてしまっています。

物事の変化を受け入れながら、時代に合ったモダンな魔法を仕入れ、「魔法剣乱れ打ち」を放っていく。そういうイメージでキャリアを積んでいければ、何があっても戦っていけるのではないかと思いますね。

【関連記事】
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からあげ氏 そうですよね。面白いなと思いました。AIって結局、何かと掛け合わせて価値が出るものだと思っています。AIやデータサイエンスだけで社会で価値を出せるわけでは必ずしもなくて、それに自身の強みを掛け合わせられると、自分ならではの価値を出していけますよね。これまで色々やってきたので、上手く組み合わせて価値を出していきたいと考えています。

内池 先程の例えに戻ると、魔法自体を進化させる魔法特化型の人材も必要なので、パーティーを組んで戦っていくのが望ましいのですかね。

からあげ氏 そうですね。一人でできることは限られていると、最近強く感じています。力を持っているメンバーとパーティーを組むことで初めてできる大きなプロジェクトもありますし、チームの力の重要さを実感しているところです。

DOORS編集部 お時間が来てしまいました。私たちの生活は、日々、データサイエンティストたちが開発し続けるAI技術によって劇的に変化し続けています。この最前線で活躍するお二人をはじめとしたデータサイエンティストは、ただの技術者ではなく新しい時代の創造者としての役割を担っているのだと思いました。

本日はありがとうございました。

内池 ありがとうございました。大変有意義な時間でした!

からあげ氏 はい、楽しかったです!

【関連情報】
株式会社松尾研究所テックブログ


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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