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製薬会社への高付加価値サービス提供を目指し、売上予測モデル開発に取り組む、IQVIAソリューションズ ジャパンとブレインパッドのAIプロジェクト。
ブレインパッドは、IQVIAソリューションズ ジャパン株式会社様の売上予測モデル開発にAIを組み込むことで、テクノロジーを活用したさらなる高付加価値サービスの提供を目指す取り組みを支援しています。
IQVIAソリューションズ ジャパン株式会社
テクノロジーソリューションズ
・アソシエイトディレクター 西 裕志様 <写真上段左>
・パートナー 庄田 佳史様 <写真上段中央>
・マネジャー 林 恒一郎様 <写真上段右>
株式会社ブレインパッド
アナリティクス本部
・データサイエンティスト 仁ノ平 将人 <写真下段左>
・データサイエンスアドバイザー 塚野 匡良 <写真下段中央>
ビジネス統括本部
・シニアアカウントエグゼクティブ 早川 遼 <写真下段右>
IQVIAジャパングループ様(以下、IQVIA)は、活動の源泉として、データ・テクノロジー・高度な分析力・専門知識の4つに集約された「IQVIA CORE™」を駆使することにより、 ヘルスケアや人々の健康の進展に取り組むお客様をご支援するグローバルリーディングカンパニーです。
IQVIAには、日本国内に約4000人超が在籍しています。世界的には100カ国以上の国と地域にわたって、様々な案件に対応。膨大なデータは15万を超えるサプライヤーをソースとしています。医薬品のライフサイクルにおける臨床開発から販売後をカバーするフルラインでサービスを提供し、全ての過程でデータ、テクノロジーを活用した様々な支援を行っています。
IQVIAでテクノロジーソリューションズを専門とするチーム(以下、テクノロジーソリューションズ)は、激変しているヘルスケア業界において、テクノロジーを主とした「IQVIA CORE」を活用することで、業界全体のコストの最適化とビジネスの進展に貢献してきました。
「これまでデータ活用サービスの領域では、お客様向けにBI基盤・DWHを構築する支援、IQVIAのデータを活用したSaaSソリューション、データ活用のレポーティングなどのサービスを行ってきましたが、テクノロジーカンパニーとしての認知度を上げるためにも、IQVIAのデータを活用したさらなる高付加価値サービスを提供する必要性を感じていました。そこで売上実績から売上予測を導くのはどうかと考え、お客様や社内でのヒアリングをしたところ、ニーズと合致したのです」とテクノロジーソリューションズの西様は、売上予測モデル開発に着手した経緯を説明します。
売上予測モデル開発に着手するまでには、実は4年もの長い道のりがありました。
その最初のステップが、2016年の分析基盤構築でした。より高付加価値なサービスを提供するためには、ビッグデータを効率よく高速に扱えるデータ基盤が必要でした。そこで分析基盤構築に豊富な実績があるブレインパッドをパートナーに、拡張性・柔軟性のあるデータレイクをクラウド上に構築したのです。その後も、分析基盤の改良・改善は継続しています。
次のステップでは、構築した分析基盤を活用して、IQVIAが持つ医薬品市場データや調剤レセプトデータ、医科レセプトデータ、海外保険者データによる高度なアプリケーションサービスを次々とローンチしてきました。このステップは現在も継続しています。
そして第3ステップとして、さらなる高付加価値サービスの提供を目指して、機械学習を活用したサービスの構築への取り組みを始めたのでした。
第3ステップの最初のサービスとして売上予測に取り組んだのは、顧客企業や社内にヒアリングした際にニーズが高かったからでした。
ただサービス化に際しては、1つチャレンジがありました。IQVIAでは、コンサルタントによる個別のサービスと、テクノロジーソリューションズによる標準サービスの大きく2つを提供しています。私たちテクノロジーソリューションズとしては、売上予測をどこまで標準サービスに組み込むか、これから開発するサービスとしてどのような特徴を持たせるか、というのを決めなければならなかったのです。
そこで社内で既に売上予測に取り組んでいるチームや、営業やデリバリー担当にも広くヒアリングして、売上予測のユースケースやニーズを探りました。またIQVIAの医薬品市場データ(以下、IQVIAデータ)には市場サイズ、期間、製品グループなどにさまざまな粒度があるので、どの粒度のデータを扱うのかも問題でした。
こうした社内調整を進める上で、組織横断的に一体となって情報交換しながら、ビジネス成功に向けた前向きなディスカッションが進んだと西様は言います。製薬会社の先の病院のさらに先におられる「患者第一」の考え方が、社内の協力関係を可能にしているのかもしれません。
IQVIAはデータを事業中核の一つとしており、社内にもデータサイエンティストは多数所属しています。機械学習のスキルも高く、多くの案件も手掛けています。したがって、売上予測モデルを内製するという選択肢もありました。
「様々な検討を重ねた結果、私たちテクノロジーソリューションズでは独自に作り上げる方向に定めました。ただ、機械学習モデルを組み込んだシステムの構築は初めてでした。そこで実務経験が豊富で、モデル構築からサービス化までのフルラインのスキルを持っているパートナーと効率よく進めたいと考えたのです」と西様は外部パートナーと進めるに至った理由を説明します。
数多くの外部パートナーがある中で、西様が今回のプロジェクトで声を掛けたのはブレインバッドだけだったと言います。その理由は実務経験が豊富でフルラインのスキルがあることはもちろんでしたが、IQVIAの分析基盤構築に関わってきたことが大きいと西様は説明します。「私たちの分析基盤を使いこなせて、かつIQVIAデータの内容を知っているということでは、ブレインパッドに匹敵するパートナーは他にはありませんでした」(西様)。
西様がブレインパッドに今回のプロジェクトの進め方を相談したのは、2020年1月のことでした。2月から打ち合わせが始まり、その後IQVIA内部の調整を経て、4月にはプロジェクトが正式に動き出しました。
最初のフェーズは、方向性検討のための仮モデルによるPoCでした。期間は約1カ月半です。この段階で既にかなり精度の高いモデルができたので(ただし後述するようにこれは例外的な期間の短さです)、モデルの評価や客先へのヒアリングに時間を掛けることができました。たとえば当初は売上予測期間を直近の3カ月間と考えていましたが、ヒアリングの結果、半期目標設定の参考値として使えないかなどもう少し長期でのニーズが高いことがわかりました。
また精度に関しては、市場全体で見ると高い精度でも個別の製品グループで見ると低いところもありました。そこで何を重視するかを徹底的に討論して、モデルの改善を図りました。
こうして7月から8月末までの次のモデル構築フェーズでほぼモデルが完成し、その後は売上予測サービスとして、何をどの頻度で製薬会社様にご提供するかといったサービス内容などのビジネススキームの検討に入りました。
ビジネススキームの検討を受けて、10月から12月まではモデルの仕上げのフェーズに入りました。これまではIQVIAデータの市場サイズでは町丁目レベルのデータを用いて学習してきましたが、製薬会社様のニーズでは市区郡レベルの売上予測も欲しいという声もありましたので、市区郡レベルのデータでの予測検証も行いました。
こうして売上予測モデルがほぼできあがった2020年11月26日に、IQVIAは「TechIQ Global Virtual Conference Japan」と銘打った製薬業界向けのセミナーイベントを開催しました。その中で西様は弊社の仁ノ平と一緒に、「機械学習×IQVIAデータ〜売上予測モデルの業務活用への可能性〜」というテーマで登壇しました。仁ノ平は、ブレインパッドのデータサイエンティストで売上予測モデル開発の主要メンバーです
「機械学習モデルのビジネス活用案件を多数手掛けており、製薬業界以外の経験も豊富な仁ノ平さんに話をしてもらうことで、セミナーの内容に厚みを持たせるのが狙いでした」と西様は、仁ノ平を起用した理由を説明します。
結果は好評で、聴講していた製薬会社様から多数の問い合わせがありました。「サービスそのものに関心を寄せられた会社もありましたが、機械学習や売上予測というキーワードに興味を持たれた会社が多かったようです」(西様)。
こうしたカンファレンスでの共同講演以外にも、ビジネス化に際してはブレインパッドもさまざまな協力をさせてもらっています。
たとえばブレインパッドは、IQVIAの顧客への説明資料にどのようなコンテンツを含めたらいいかについてアイデアを出し、ドラフトを作成しています。そのドラフトを元に社内およびブレインパッドとの討論をしながら、テクノロジーソリューションズで説明資料を完成させていきました。また顧客への説明の際にもブレインパッドのメンバーが同行することもあります。
「テクノロジーソリューションズのメンバーは、データとテクノロジーに関して業界への知見は持っていますが、機械学習モデルのビジネス化経験は浅く、熟知しているとは言えない状態でした。我々が持つ強みとブレインパッドが持つ経験とスキルを組み合わせ、足りないところを補い合うことで、検討および構築のサイクルがうまく回ったのだと思います」と西様は、プロジェクトが滞りなく進んだ要因を説明します。
構築したモデルに関する評価は、「いいものができた」(西様)というものであり、プロジェクトとしては成功したと言ってよいでしょう。その具体的理由として、西様は以下の項目を挙げています。
・全体での誤差率が低い
・業務に使える品質といえる
・顧客企業に興味を持ってもらえている
またテクノロジーソリューションズの林様は、「製薬会社のお客様と話をしてわかるのは、皆さまが売上予測や機械学習に強い興味をお持ちである一方、活用についてはこれからだということです。そんな中で今回初めて具体的な形で売上予測をお見せできたのは、極めて大きな一歩を踏み出せたと言えます」と評価しています。
一方で売上予測モデルのような100%正確な結果を出すことが不可能なことに関しては、誤差をどう理解することが重要だと西様は強調します。「お客様から誤差への説明を求められる前に、先にこちらから説明することにしています。先に誤差が発生する原因を考えつく限り洗い出しておき、このモデルは何が得意で何が苦手かについて責任を持って説明する姿勢が大切だと思います」(西様)。
最初のフェーズで、「仮とはいえ、1カ月半でモデルを構築してくれと言われて、『本気ですか!』と思いました。ところが前述のデータ分析基盤構築の成果もあり、スムーズに分析に取り掛かることができました。実際、1ヶ月半という短い期間で4回ぐらい機械学習のループを回せたのです。通常は3カ月で1回ループを回せるかどうかなのです」と仁ノ平は振り返ります。
ブレインパッドのアカウント営業の早川も、当初不安があったことを明かします。「これまで売上予測モデルのシステム化について多数関わってきましたが、通常はプロモーション履歴や天候データなど他のデータと組み合わせてモデルを構築します。ところが今回は売上データだけで売上予測モデルを作るという。本当にできるのか不安でした。しかし実際にできてしまったことは、IQVIAデータの正確性と網羅性がどれだけ高いかの証しです」
しかしデータが整備されていたことは、成功要因の半分かもしれません。今回のプロジェクトでは、社内体制にも万全を期したと西様は強調します。「普段営業的な動きをしていて業界を深く理解しニーズ把握が的確な庄田と、IQVIAデータに詳しく市場への理解が深い林に入ってもらいました。また分析基盤のプラットフォームであるAWSに詳しいメンバーも巻き込んで環境準備も含めてスムーズに進むよう配慮しました」
「会議の場で、こういうデータが必要なのではないかと指摘してくださる庄田さんと、ではそのデータをすぐ用意しようと請け負ってくださる林さんがいてくださったおかげで、極めて短期間に精度の高いモデルを作成できたと思います」と仁ノ平も体制の良さを成功理由に挙げています。
需要予測モデル作成に限らず、分析プロジェクトにおいては、必要なデータをすぐに用意できることが最大の成功要因です。そのためには普段からデータを整理しておくことはもちろん、そのデータをすぐに取り出せる体制を作ることが必要になってくるのです。
プロジェクトが正式に発足した2020年4月は、ちょうど緊急事態宣言が発出されたタイミングでしたが、コミュニケーションは円滑だったと言います。
「分析基盤構築の際に、ブレインパッドが用意してくださったプロジェクト管理ツールが今回も役に立ちました。Wikiをベースとした、タスクの進捗や成果物の評価をリアルタイムに共有できるツールです。これをブレインパッドが整理して、管理してくださいました。私たちもこのツールには慣れていたので、緊急事態宣言で会えなくてもスムーズに進めることができました」と西様は振り返ります。
週次のオンラインミーティングがあり、そこで進捗状況や課題を共有していましたが、その時間だけでは話すことも限られます。そこでIQVIA側でも別途内部の定例ミーティングを実施しました。その中で、社内のデータサイエンティストがモデルのアウトプットを分析し、その内容を共有することでモデルへの理解を深めていったと言います。
またフェーズの合間の報告会では、リーダークラスのメンバーと方向性を再確認し、アウトプット評価を共有しながら進めることを重視したとも言います。
IQVIAでは、ブレインパッドのプロジェクトへの取り組み方に対して高く評価しています。
「第1ステップの仮モデルの構築は、ビジネスの方向性を決めるために行ったので、途中で軌道修正がけっこうありましたが、私たちの要望にブレインパッドは真摯に応えてくださったと感謝しています」(西様)。
「私は機械学習のプロジェクトは初めてで、知らないことが多かったのですが、たくさんのことを吸収させてもらって、有意義だったと感じます」(林様)。
「分析で高い精度が出せたことについて、他業界を含めてもかなり好結果だと説明してもらい、安心感を持って進むことができました」(庄田様)。
現在IQVIAでは、社内のメンバーだけでモデルが作れるようになっています。スキルトランスファーに関して仁ノ平は、「最終的にこのシステムを使うのはIQVIAの方々です。ですから最初から理解しやすいように、使いやすいようにというのを念頭に置いて作成しました。複雑なコードや読みづらいコードは徹底的に排除しています」とその方針を説明しています。
「売上予測をどこまで標準サービスに組み込むかを決めなければならなかった」と前述しました。現時点では、標準サービスとしてはモデルがアウトプットしたデータ、またはそれを基にしたレポートまでとなっています。
今後は顧客ニーズを見据えて、標準サービスとしてツールに取り入れて、顧客に自由にシミュレーションしてもらうことを目指しています。
また現時点では、モデルは都度手動で動かす運用となっていますが、今後は効率化を目的にシステム化に取り組む予定です。
さらに売上予測以外にも、たとえば処方箋データなどを活用した分析や営業活動へのリコメンデーションなど、機械学習のテーマも広げていきたいとしています。
こうした今後の取り組みの方向性の中で西様は、ブレインパッドに対して、「売上予測モデルのシステム化のサポートについては当然期待しています。また個別案件についても分析結果の示唆出しをも含めて共同提案していただきたいと考えています。さらに機械学習以外でも、ブレインパッドはさまざまなアプリケーションやサービスを持っているので、私たちのお客様のニーズにマッチするものがあれば、一緒にビジネスをしていきたいと個人的には考えています」と言います。
また庄田様も「お互いの強みを合わせて、製薬業界のデジタルトランスフォーメーション推進も含めた協業ができればいいなと考えています」と期待を寄せています。
ブレインパッドはこれからも機械学習をはじめとするデータ分析を通して、IQVIAのビジネスの高度化に貢献していきます。
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