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人工知能をプラスして、人々の暮らしやビジネスをもっと豊かにしたい。ブレインパッドは、食品製造ラインにAIを活用することにより、効率的かつ高精度で“安全・安心”を確保する仕組みをキユーピー株式会社様に提供。その革新的な施策についてご紹介します。
キユーピー株式会社
生産本部 生産技術部 次世代技術担当 担当次長 荻野 武様 <写真中央右>
株式会社ブレインパッド アナリティクスサービス本部
副本部長 AI開発部長 太田 満久 博士(理学) <写真右>
AI開発部 チーフデータサイエンティスト 今津 義充 博士(理学) <写真中央左>
営業部 アカウントマネジャー 吉井 俊介 <写真左>
「キユーピーという会社は、理念をすごく大切にしています。そのひとつに『良い商品は、良い原料からしか生まれない』という言葉があります。お客様においしさと安心をお届けするため、使用する原料の受け入れ検査を行います」とキユーピー生産本部次世代技術担当次長の荻野 武様は語ります。
中でも、最も厳しく検査を行っているのが、ベビーフードの原料。無害でもやや変色した材料が混ざっていたら、母親は不安に感じるでしょう。母親がわが子の健康と安全、安心を思う気持ちを考えれば、厳しい検査は当然といえます。
「万全を期するという意味で、生産を担当している鳥栖工場ではスタッフの4分の1にあたる30〜40名のスタッフを投入してダイス(角切り)ポテトの目視検査を行っています。しかし、8時間に及ぶ目視検査というのは、実に過酷な業務です。もちろん、これまでにも機械学習ではない自動検査システムの導入にもトライしたのですが、登録したパターンではない不良が次々と出て来るので全く収束しませんでした」と荻野様。キユーピーは多くの原料を使用しており、材料の受け入れ検査の自動化を構想していた荻野様にとって、不良品パターンを登録する手間を考えると暗澹たる気持ちになったといいます。
そんな荻野様の胸の内に、一筋の光明が差しました。ディープラーニングを含めた機械学習によって支えられるAIという最新技術です。荻野様は、「特に過酷なベビーフード材料の品質検査に自ら学習して精度を高めていけるAIを用いれば、自動化できるのではないか」とひらめき、さっそくダイスポテトを対象とする検査システムの検討を始めました。
この時、荻野様の頭の中には、自社の原料受け入れだけでなく当社に原料を調達されているサプライヤーにおける品質検査の効率化もあったといいます。
「色彩選別装置というものがあるのですが大変高価なため、原料メーカーにおいて、簡単には手を出しにくいかと思われます。そこで、安価で高性能の検査システムができたら、サプライチェーン全体が低コストで高品質化していけます。そういうテーマも掲げました」
もっとも、それまでキユーピーはAIに取り組んだことがなかったので、「果たしてそんなことができるかどうかもわからない状態だった」と荻野様は打ち明けます。そこで、まずは可能かどうかを検討することから始めました。
安価で高性能の装置を目指すにあたり、荻野様は数十社のAI技術を検討。そして、AIプラットフォームとして、画像解析の分野で早くから注目を集めているとともに、「将来性や発展性に富む Google のTensorFlowがベスト」と判断します。
「Google さんを訪ねて、一番信頼できる開発パートナーの紹介を要請したのです。そこで出された社名がブレインパッドさんでした」
「荻野様の要望を伺って、いくつかの手法が浮かびました。その中で、良品、不良品とラベルをつけて学ばせていく“教師あり学習”なら高い精度を出していけるのではないかと打診したら、荻野様からダメだと言われたのです」とブレインパッド AI開発部長の太田満久は打ち明けます。ではなぜ、荻野様はラベルをつけていく方法はNGと判断したのでしょうか。
「ダイスポテトで100点を取ることが目的ではなく、あくまでもキユーピーが使用している多くの原料が対象です。そうなると、ラベリングは現実的ではありません。ここは“教師なし”を目指そうという高い目標を掲げました」(荻野様)
ブレインパッドとしても「どれだけ精度が上がるかやってみないとわからない」(太田)状態でした。検査基準が厳しいだけでなく、ベルトコンベア上を高速で流れてくる原料に対して行わなければならないという“精度と速度の両立”も開発テーマとなるからです。
「ラベルなしは無理とは思いませんでしたが、非常に難しいと感じました。ほかと同じ精度が出せなければ価値はない、と。そこで、社内ではいかに楽にラベリングするかといった方法も考えてリスクヘッジすることも検討したのですが、結論として荻野様の思いを第一に、“教師データなし”でチャレンジしようと決めました」(太田)
「結果的に当社としても新しい試みとしてチャレンジする意思決定をしたのは、荻野様の目標達成に協力したいという思いと、さらにその先にいる消費者の“安全・安心”に役立ちたいという思いを共有できたからです。もちろん、このチャレンジを通じて当社自身も成長できるといった考えもありましたが」とブレインパッド アカウントマネージャー 吉井 俊介は述懐します。
ブレインパッドは、キユーピーから提供されたサンプルデータでいくつかの手法をテスト。その結果、TensorFlowが最適なプラットフォームと判断しました。
「我々のようなスペシャリストが力量を発揮するには、ライブラリーに柔軟性があるTensorFlowが最適だと評価しています」と太田は言います。荻野様も「TensorFlowは2015年にリリースされてから急激に導入事例が増え、進化のスピードが最も速い」と評価します。
「Google がTensorFlowの開発に多額の投資を行っていることから、高い将来性を感じています。システムの移植性も良いですね」(荻野様)
開発のブレークスルーとなったのは、AIを良品・不良品を判定する“分類器”としてではなく、良品のみ学習しそれ以外を弾く“異常検知”として用いればよいという発想。不良品のデータを学習させる必要がないので、学習の負荷を半減させても精度と速度の両立が可能となります。良品と不良品の閾値を学習させるために、約1万8000枚の製造ラインの写真をTensorFlowを使って学習させました。テストでは、あえて流した不良品を正確に指摘するなど上々の立ち上がりでした。
実際にラインに実装した後も、運用に試行錯誤は続いています。しかし、それはあえて図ったこと。ブレインパッド AI開発部 チーフデータサイエンティストの今津 義充は次のように説明します。
「今回、アルゴリズムを最初につくり込むのでなく、早くから現場に導入してアジャイル的にPDCAを回すことにしました。現場に導入してみると、カメラへの環境光の影響や学習の安定性、学習時間のスピードなどいろいろな問題が生じましたが、日々改良を加えて精度を上げています。この流れをつくれたことがとても良かったと評価を頂きました」
「ブレインパッドさんは、PoCが完了した段階あたりで信頼できるパートナーだと感じました。とても難しいテーマでしたが、終始真摯に対応してくれました。開発もほぼ順調に進み、PoCから5カ月後に鳥栖工場に導入して実証実験に着手できました。仕様が決まっていないものに一から取り組むことのリスクをものともせずにチャレンジしてくれましたが、そんなベンチャーマインドがまさにAIビジネスには不可欠と感じています」と荻野様。
今後の目標としては、現実的に原料検査の速度を2倍に上げ生産効率の向上を目指すとのことですが、一番の目的は現場で作業される方々の負担を軽減すること。しかし、まだまだ精度や環境への依存性といった課題が残されており、「今後さらに突き詰めていかないと、現場の方々の信頼は獲得できない」と今津は身を引き締めます。なぜならこのプロジェクトは、キユーピー1社の品質向上や、キユーピーグループの国内全83工場の生産現場の効率化だけには収まらない可能性があるからです。
「我々は、“安全・安心な原料を世界中に広める”という大義を掲げています。将来的には、このAIによる検査技術が“食の安全・安心”という日本のコア・コンピタンスを世界中に発信するコア・テクノロジーにしていきたいと考えています。例えば、今後の発展が見込める東南アジアなどに高額なシステムを導入するのは難しいので、できる限り安価で高品質のシステムをつくり上げていきたい。ブレインパッドさんには、これからもパートナーとして力を発揮してもらうことを期待しています」と荻野様は締め括りました。
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