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人工知能をスポーツアナリティクスにプラスして、バレーボールチームのさらなる勝利に貢献したい。
ブレインパッドは、AIによる試合中のリアルタイム未来予測を行う仕組みの構築を推進しています。
一般社団法人日本スポーツアナリスト協会
代表理事 渡辺 啓太様<写真中央>
株式会社ブレインパッド
デジタルソリューション本部 本部長 東 一成<写真右>
デジタルソリューション本部 プレディクティブマーケティングサービス部
部長 鬼頭拓郎<写真左>
2008年から8年間にわたり、バレーボール全日本女子チームを率いた眞鍋政義監督は、iPadとデータを駆使した「IDバレー」で旋風を巻き起こし、2010年世界選手権では32年ぶりの銅メダル、2012年ロンドン五輪では28年ぶりとなる銅メダル獲得の快挙を成し遂げました。
このiPadを用いた情報分析システムを世界で初めて考案・導入し、全日本女子チームの躍進に大きく貢献したのが、当時全日本女子チームのチーフアナリストを務めた渡辺啓太様です。渡辺様は現在、桐蔭横浜大学でアナリストの育成に励みながら、一般社団法人日本スポーツアナリスト協会(以下、JSAA)の代表理事も務め、スポーツアナリストの普及・育成活動を精力的に行っています。
バレーボールのデータ活用について、渡辺様はこう語ります。
「バレーボールは、他のスポーツと比較してリアルタイムのデータ活用が進んでいます。タブレット端末や無線を使って外部から様々な情報を伝達でき、監督やコーチはその情報に基づいて、試合中でも選手に指示やアドバイスができます。こうした環境はバレーボール特有のものといえるでしょう」
扱われるデータの1つに、選手ごとの「アタック効果率」というものがあります。
これは、アタックによって得た得点から、アタックミスや相手ブロックポイントによる失点を差し引いた得失点差を打数で割って求められるもの。企業に例えると、売上からコストを差し引いた利益を測るような指標であり、各選手がどれだけチームに貢献しているかを示すKPIです。
今やバレーボール界では、ナショナルチーム、クラブチームのほとんどがアナリストを擁し、こうしたKPIを駆使しながら、チームを勝利に導くデータ活用に取り組んでいると語る渡辺様。その中でも特に重要なのが対戦チームの分析、いわゆるスカウティングです。
対戦チームの過去データを分析し、チーム力や戦術、選手の特徴を把握し、それに対抗するための選手起用、戦術立案を行います。渡辺様はこうしたスカウティングの重要性を十分に認識しながらも、同時にある課題を感じていました。
「どんなにスカウティングを行っても、それはあくまで過去のデータ分析に基づく、対戦チームの“過去の姿”。監督や選手が知りたいのは、今まさに目の前にいる対戦相手がどんなチームであり、もっといえば、次にどんなプレーを仕掛けてくるかなのです」
つまり、渡辺様が必要としていたのは、刻一刻と戦況が変わるバレーボールの試合中における、「リアルタイムの未来予測」だったのです。
世界トップクラスのデータ分析力を持つ全日本チームが今後も優位性を確保するには、世界中のどのチームも着手していない、全く新しいデータ分析・活用にトライする必要がありました。
そこで渡辺様は、元々関係のあったSAPジャパン株式会社と、バレーボールの新たなデータ分析・活用の可能性を追究するプロジェクトを開始しました。
このプロジェクトが進行する中で、SAPジャパン株式会社とパートナー関係にあったブレインパッドにも協力の打診があり、AIプロジェクトは新たな座組で再スタートすることになりました。
プロジェクトのゴールは「対戦チームのトスがどこに上がるかをAIで予測する」というものに設定されました。なぜ「トス」なのでしょうか、渡辺様はこう説明します。
「バレーボールにおいて、偶然性が少なく予測しやすい代表的なプレーがサーブとトスです。サーブの予測は私たちのノウハウでも対応できる部分がありますが、トスの予測は非常に難しいものでした。私たちは常々、『対戦チームのセッター(=トスを上げるプレイヤー)の思考を捉えたい』と思い、データ分析を重ねてきました」
バレーボールは、相手コートにボールを打つサーブから始まります。相手チームはこのサーブをレシーブで受け、トスでつなぎ、アタックで打ち返します。防御側はこれを防ぐためブロックをしますが、ブロックの成功確率を高めるには、相手チームのアタックがコートのどこから打たれるか──言い換えれば、アタックの直前に行われるトスがコートのどこに上がるかを予測する必要がありました。
バレーボールはサーブを受けてから始まる1本目の攻撃における得点確率が最も高いスポーツです。この攻撃を防ぐことができれば、試合を優位に運ぶことができます。そこで、対象となるトスを「相手チームの1本目のトス」に限定し、まずはこれをAIで予測することになりました。
渡辺様の担当チームは、バレーボールに特化した分析ソフトウェア「データバレー」を用いて、対戦チームの膨大なデータを蓄積していました。ブレインパッドが最初に行ったことは、この膨大なデータをAIで分析できるように整形し、データベースに格納する作業でした。
次に行ったのが予測モデルの作成です。これは膨大なデータを分析し、トスが上がる方向とその他データの間に何らかの規則性がないかを探るもの。予測モデルの作成について、ブレインパッド デジタルソリューション本部 本部長の東 一成はこう振り返ります。
「トスが上がる方向は、セッターの過去のプレーに関連するのか、チームに関連するのか、あるいはセッターやチームに関係なくすべての試合に共通の傾向があり、これに関連しているのかなど、ありとあらゆる可能性を考慮しました。プロジェクト開始当初は膨大なデータを前に、これらをどうにかして “似たような動きのチーム“に類型化できないかと知恵を絞っていました」
さらに考慮すべきは、スポーツに特有の「モメンタム(=ゲームの流れ)」の要素でした。ゲーム序盤と、ゲーム終盤の勝敗に直結する1点を争う場面では、セッターの判断が当然変わります。モメンタムへの対処について、ブレインパッド デジタルソリューション部 プレディクティブマーケティングサービス部 部長 鬼頭拓郎はこう振り返ります。
「AIで何らかの未来予測を行う場合、回帰分析が用いられることが多く、通常それは1次式で表現されます。しかし、バレーボールでは、セッターの特徴以外にも、試合の流れなどプレーに影響を与える変数が複数存在します。そこで回帰分析を2次式で表現するなど様々な工夫を試みました。ビジネスシーンでも同様のケースは多々あるので、そういったAIのノウハウが、様々な形で今回のプロジェクトに活かされています」
こうしたプロセスを経て完成したAIは、まず過去の試合データを用いて、どのくらいのトス予測精度が出るか検証されました。プロジェクト開始当初こそ思うような精度が得られませんでしたが、渡辺様をはじめ、監督やコーチのみなさまの視点、ノウハウを取り入れAIのチューンアップを重ねることで、最大60%の精度でトスの方向を予測できるようになりました。
しかし現状では、対象となる試合によって予測精度にばらつきが出るのも事実。常に一定以上の予測精度が確保できれば、AIの実戦使用も十分に可能だと渡辺様は考えています。
現在の60%という精度はあくまでも一里塚。ブレインパッドは今後もAIの予測精度向上に向けた取り組みを継続していきます。
「今回、アルゴリズムを最初につくり込むのでなく、早くから現場に導入してアジャイル的にPDCAを回すことにしました。現場に導入してみると、カメラへの環境光の影響や学習の安定性、学習時間のスピードなどいろいろな問題が生じましたが、日々改良を加えて精度を上げています。この流れをつくれたことがとても良かったと評価を頂きました」
「私たち人間が次のプレーを組み立てる場合、例えば『今試合は22-18で自分たちがリードしている』『ローテーションにより相手のどのブロッカーが前衛にいるか』など、いくつかの状況や過去データから次に取るべき戦術を判断します。
これがAIの場合、今申し上げたような情報はもちろんのこと、『相手のブロッカーには180cmと183cmと190cmの選手がいる』『前回ローテーションではライト、前々回ではレフトにトスを上げた』『自チームのアタッカーAの効果率は45.0%、アタッカーBの効果率は44.3%』など、より多くの情報を参照し、瞬時にして最善のプレーを示唆してくれる可能性があります。
人間にはとても扱いきれない情報を扱える点がAIのメリットです。私の担当するチームには、すでに15年間に及ぶ膨大なデータの蓄積があるので、AIの力によってこれらの資産を勝利のために活用したい。これはバレーボール界のみならず、スポーツ界にとって非常に価値のあることだと思います」
近年のテクノロジーの発展により、スポーツ界で取得できるデータの種類、量は幾何級数的に増加しています。そのデータの活用範囲は、試合の勝ち負けだけでなく、選手のコンディショニング調整や、ファンや観客を獲得するためのマーケティングなど、多様な領域に広がりつつあります。
渡辺様はこうしたデータ活用を、バレーボール界、スポーツ界の中だけで行うのではなく、ブレインパッドのようデータ分析の専門家の知見を活用し、様々な可能性を切り拓いていきたいと考えています。
ブレインパッドは引き続き、JSAAの新たな試みの支援を通じて、スポーツアナリティクスの世界に大きなインパクトをもたらすブレイクスルーを追究していきます。
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