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本記事では、DXによって需給プロジェクトを大きく前進させた「キリンビール」様のサプライチェーンマネジメントにおける成功事例の一部やそれにまつわる成功ポイント・エピソードをご紹介いたします。
※本対談は、2023年6月5日から6月16日にかけて開催された日本最大級DXオンラインイベント「DOORS-BrainPad DX Conference- 2023」で配信されたものです。他にも収録されたコンテンツがあるので、読んでみてください。
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※所属部署・役職は収録当時のものです。
【関連】サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?成功事例や必要性・メリットをわかりやすく解説
ブレインパッド・東 建志(以下、東) こんにちは、ブレインパッドの東です。このセッションでは、未来の需給を作るキリンビールのSCM(サプライチェーン・マネジメント)の成功事例についてお話しできればと思っています。
【関連】【スペシャリスト鼎談】サプライチェーンDXの未来(前編)
この業務改革プロジェクトは「MJプロジェクト(M:未来, J:需要)」とも呼ばれ、昨年の10月からスタートし、およそ3年間に渡る計画となっています。今も引き続き進行中です。
誰もが知る大企業であるキリンビール様がSCMプロジェクト(以下MJプロジェクト)をどのように推進され、どのように社内を巻き込んでいかれたのかといったところをお話しいただきます。
お話しいただくのは、キリンビールの生産本部SCM部長の林さんと、主幹の丹羽さんです。どうぞよろしくお願いいたします。
またMJプロジェクトに発足当初から伴走させていただいた、ブレインパッドのデータサイエンティスト岡崎にも参加してもらっております。
東 ではまず「MJプロジェクト」についてお話しいただきたいです。当プロジェクトの発足に至った背景や目的を教えていただけますか?
キリンビール・林 達也氏(以下、林氏) キリンビールの現状は、社内外の環境変化が非常に大きくなっており「需給」業務の複雑性が大きく増しています。そのため、現行のシステムだけでは複雑性に対して、十分に対応できないという状況だといっても過言ではありません。一方で顧客にはこれからも、キリンビールの製品を提供し続ける必要があります。
この最も重要な「需給」業務が「人」に依存していることに課題を感じ、このままの状態を続けた場合、事業継続の観点からリスクがあると考えました。これがMJプロジェクトの発足に至った理由です。
東 この需給業務の複雑性は、日本の製造業における大きな・本質的な課題の一つですよね。では、このプロジェクトの概要や目指すところを改めてお聞かせいただけますか?
林氏 MJプロジェクトは「需給業務のDXを推進・加速していく」位置づけで考えています。ただ、システム開発はあくまでも手段であり、プロジェクトを推進するキリンビールの目的は二つあります。
です。結果として、今キリングループで掲げている「CSV経営(※)」に繋げ、キリンビール全社の持続的な成長を支えていくことが狙いです。
※CSV経営:イノベーションや創意工夫により、持続的に、社会的課題の解決と緩和に貢献すると同時に、売上創出/費用削減/事業リスク低減を通して企業価値を向上させる」こと
東 「未来の需給を作る」という言葉は特徴的だと思っています。この言葉にはどういった思いが込められているのですか?
林氏 プロジェクトを通じて、グループメンバーのマインドを一つにしたいという思いを込め、ビジョンをそのままプロジェクト名にしました。
その他には「将来に渡って商品を安定的に顧客に届け続けるための、盤石な運営組織体制を作る」という点と、「働くグループメンバーの働きがいの向上」という思いも込めています。
「デジタルの力」と「人間の力」の両面で抜本的な業務変革を実現したいと強く思いました。
東 「自分たちの未来を考えていく」という、まさに自分ごととして捉えやすいメッセージだと感じました。実際、プロジェクトの中でもMJという言葉が当たり前に浸透しており、この言葉が意味するところに向かって、今全員が一丸となって、プロジェクトが進んでいると思います。その点についてもまた深掘りしていければと思っています。
このMJプロジェクトを推進するにあたって、プロジェクトパートナー企業としてブレインパッドを選定いただきました。改めてどういったポイントからブレインパッドを選定いただいたのか、おうかがいできますか?
キリンビール・丹羽 俊晶氏(以下、丹羽氏) SCM部では、最新技術や業務変革に関する知見を一切持っていなかったという点が大きかったですね。また社内では、従来や過去からの常識にとらわれている場合、大胆な発想が出てこないと考え、外部のパートナーを探したことがきっかけです。
そこでブレインパッドを選んだ理由は、データ分析を基軸にした課題解決に強みを持っているためです。またブレインパッドのアプローチは大掛かりなパッケージの導入を前提にすることなく、あくまでデータ分析という強みを活かしながらキリンビール特有の課題に寄り添ってくれるのも、選んだ理由の一つかと思います。
東 本当に大変ありがたいお話です。とはいえキリンビール様の場合、社内外も含めて候補となるパートナー企業様は多かったと思います。その中でブレインパッドを選ぶ決め手となったのは何でしたか?
丹羽氏 お会いする前、そこまで時間をかけて業務の説明を行っていなかったにもかかわらず、初めてお会いした際に「キリンビール様の課題は、ずばりここですよね?」とはっきり特定してくれたのが決め手でした。このとき、「ブレインパッドの人たちなら、一緒に成功していけるんじゃないか」と直感しましたね。
東 本当にありがとうございます。当時お会いさせていただいた際、仮説ベースでたくさん議論し合いましたよね。では、現状のMJプロジェクトのお話に戻ります。今もなお進行中のMJプロジェクトが今どういう状況になっているのか、お話しいただけますか?
丹羽氏 あくまでMJプロジェクトのゴールは「業務の抜本的な変革」です。そのゴールを見据えながら早期の変革実感を創出し、スモールサクセスを積み重ねることを狙うために、プロジェクトの第一弾として「materio(マテリオ)」という資材の管理アプリをリリースしました。
materioの機能は簡潔に言うと、キリンビールの商品のリニューアルやデザイン変更が発生した際に、変更前の包装資材を使い切るために適切な調達数量を算出することをサポートしてくれるアプリケーションです。これによって年間1400時間の業務時間の削減を見込んでいます。このmaterioを皮切りに2024年までには、より大きな生活ソースに向けた本格的なDXを検討しています。
東 当初ここまで大きな効果が出ることは、期待はしていたものの、とはいえ予想以上の成果が生まれたと思っています。
成功の要因は何より、キリンビール様の現場の方々が「業務削減を実現するんだ」という強い意識をとにかく持っていらっしゃたことがポイントだと感じています。
そこでここからは「キリンビール様のDXのお取組みで上手くいっていることや、上手くいっている理由」についてお話しできればと思います。なぜ上手くいっていると思うのかを掘り下げることで、本セッションを視聴してくださっている方々の、DX推進の参考になるかもしれません。
まず、プロジェクトを現場で推進してきた丹羽さんにおうかがいしてもよろしいでしょうか?
丹羽氏 もちろん最初から順風満帆ではありませんでしたし、現在も全てが前向きに進んでいるわけではありません。というのも、ブレインパッドとキリンビールの間では企業としての「文化・価値観」「仕事のやり方や進め方」に違いがあったからです。
例えばシステム開発。キリンビールは「品質重視」を標準として掲げているので、比較的重厚なプロセスを採用しています。一方でブレインパッドは「スピード」や「柔軟性」をより重視しています。そういった違いから要所要所でお互いに戸惑いを感じた瞬間はあったかもしれません。
しかしここで「違いはあって当然だ」と受け止め、お互いがお互いに寄り添いながら丁寧にコミュニケーションを続けた結果、前向きな現状があるのだと感じています。
東 そうですね。安定性や規定を重んじるキリンビール様と、スピード感を追い求めるブレインパッドが共にお仕事を進める中でもがいた瞬間はたくさんあったように思います。
PoCが最初の大きな山場と感じていた中で、PoC直前に一度立ち止まり、どんなやり方がベストかを深く議論させていただき、十分にコミュニケーションを取れたのが、PoCを乗り越えられた成功要因の一つだったと考えています。そこで一度立ち止まり、「どのようなやり方がベストなのだろうか?」と深く議論させていただき、十分にコミュニケーションを取れたのが成功要因の一つだったのかなと私も考えています。
東 ちなみに当プロジェクトを進めるにあたり、キリンビール様の「社内連携」は上手くいっていましたか?
丹羽氏 はい。丁寧なコミュニケーションによって歩み寄りを続けてきたことから、現在はシステム開発においてもIT部門との連携体制は取れており、コミュニケーションも本当に円滑に取れるように変化しています。
また私が所属しているSCM部では、MJプロジェクトの検討が進むにつれて、DXへの意識的なハードルが低くなってきたことも感じました。DXそのものへのハードルではなく、あくまで「自分たちの業務を変えることができる」という「意識」のハードルが下がってきたように思えたんですよね。
そこから今回の成功体験を経た結果、プロジェクトや現場のメンバーそれぞれが「自分たちは変われるんだ・変わって良いんだ」と実感できるようになったと思います。
東 確かに、キリンビール様の現場の方々と対話させていただく中で、その意思は強く感じます!「こういうことはできないか?」「こうしたいがどうしたらいいか?」といった、様々なご意見やご質問をいただくようになりましたから。
MJプロジェクトの成功要因について、林さんはどうお考えでしょうか?
林氏 「うまくいっている」というお言葉をいただきましたが、実際は「もがきながら」というところが正直な感想です。
思い起こせば、プロジェクト開始当初、ブレインパッドとキリンビールが集まった会議では、こう、何とも言えない空気がありましたよね(笑)。お互いの文化の違いを、お互いが節々で感じていたようなお時間だったといいますか。ただ、こういう時こそ「何のためにこのプロジェクトを推進するのか」というビジョンの原点に立ち返ってお互いに意思疎通を図ることが大切だと思いましたし、実際にそうやってコミュニケーションを取ってきました。
次第にキリンビールとブレインパッドの連携がスムーズに取れるようになってきたと思います。
もうブレインパッドとは1年半ぐらいのお付き合いとなりますが、両者の関係は飛躍的に良くなっているように見えていますね。関係。
また、需給業務はどのメーカーでも企業の「中核」となる非常に重要な業務です。しかしキリンビール内では、需給業務の内容や需給メンバーの頑張りや苦労がボードメンバーにあまり伝わっていない課題感もありました。。そういった背景がある中、MJプロジェクトの報告を通じて需給業務の重要性やメンバーの取り組みに対する理解が深まるようになってきています。それによって需給業務メンバーのモチベーションが上がり、さらにプロジェクトの推進が加速するようになっているんじゃないかと思います。
東 現場の意義や重要性を経営陣が把握するのは大切ですし、「把握されている」という認識が現場を活気づける側面もありますよね。それがプロジェクトの成功要因にも繋がっていると思いました。
では、丹羽さんに質問です。「サプライチェーンDX」自体の成功要因としては、どんなものが挙げられますか?
丹羽氏 繰り返しになりますが、このプロジェクトで最も大事にしているのは、ビジョンの部分です。
単純に効率化・省力化だけを追い求めるのではなく、ビジョンを落とし込んだ上でキリンビールとブレインパッドそしてプロジェクトに関わっているメンバー全員が「MJプロジェクトの意義や大義」を理解し、推進することが成功要因に大きく影響を与えていると思います。
また、materioという早期に成功体験の創出ができたことも非常に重要なポイントでした最初から大きな成果を狙うのではなくて、スモールサクセスによって変革実感を持った上でより大きな領域にチャレンジする、という進め方も「うまくいっている」要素ですね。
東 では、逆にうまくいっていない点や試行錯誤している部分をお聞きしてもよろしいでしょうか?
丹羽氏 別々の企業同士がコラボレーションしながらプロジェクトを進めているので、常に「調整」は発生し続けています。ただこちらは「うまくいっていない」というよりは、「調整は当然発生するもので、これはこれからもずっと続いていくもの」として受け入れています。
むしろ、調整があってこそプロジェクトが上手く進行している感覚さえあります。
今のプロジェクトメンバーも同じような感覚を持ってくれているので、その点ではメンバーの成長を感じて非常に心強く感じている状況です。
東 メンバーの成長を感じる出来事は最近何かありましたか?
丹羽氏 「業務相談」をされる際に、「常にビジョンを意識しながら相談してくれる」ようになりましたね。メンバー一人ひとりが、足元のことに追われるだけでなく「先々を見据えながらこうしていくべきだ・自分はこうしたい」というような意思を示せるようになったと思います。これは非常に嬉しいです。
東 メンバー一人ひとりが、プロジェクトの原動力になっているということですね。サプライチェーンの問題は、非常に難易度が高いと思っています。キリンビール様などの大企業では、単純な自動化や効率化はある程度自動化されている状態です。しかしそれだけでは解決されない「調整」とか「判断」「意思決定」といった、より難易度の高い問題が残り続けることがあり、またそれらは100点の解が出ないという前提でプロジェクトを推進していかなければなりません。これはお客様も、データやAIを活用するブレインパッドも同じだと思います。
このような背景がありますから、業務とデータ活用・AI活用をどのように組み合わせるかを考えなければならないのですが、これはブレインパッドだけでは考えられません。現場の方といかに連携し、業務設計を行っていくかを考え抜かなければならないため、現場の方々の存在は本当に重要だと思います。この点、MJプロジェクトではうまくいっており、まさにそういった連携がなされていると思います。
東 今回のプロジェクトでは、初期中核メンバーとしてブレインパッドのデータサイエンティスト「岡崎」さんが業務メンバーと対峙しながら、実際の製造計画のアルゴリズムを作り、自動化にチャレンジするということを行ってきました。MJプロジェクトに対する所感はいかがですか?
ブレインパッド・岡崎 祥太(以下、岡崎) 一言で表すと「非常にチャレンジングでやりがいがある仕事」ですね。チャレンジングだと思う所は、ビジョンに掲げられていた「未来の業務を作る」という点です。取り組むテーマの選定から、ビジョンを意識したものになっていました。
当初は「需要予測のモデルを改善しよう」といったデータサイエンスの問題として、アプローチしやすい問題に着手するという案もありました。しかし、仮に需給予測の精度が上がった時に既存の業務が変わるか・未来の業務が作れるかと考えた時既存業務の延長しか描けない」と考えました。
そのためブレインパッドとしては、未来の業務を作るという観点から、「人手がかかり過ぎていて、属人的な職人技になっている製造計画」に関して最適化の支援を行う取り組みを行っています。
【関連】数理最適化とは?機械学習・AIとの違いやビジネス活用事例をわかりやすく解説
製造計画が難しい理由は「業務が非常に複雑だから」です。需給業務に携わる従業員は複数人存在しており、複数の方が連携しながら一つの計画を立てています。
完全に全体像を把握できる従業員はいないと言っても過言ではないほど、製造計画は複雑な業務になっており、自動化する・最適化する対象が複雑であるため、最適化のアプローチも難易度が高いのです。
製造計画は「どの工場で何の製品をどれくらい作るかということを決めるもの」です。これを数理最適化の問題として解くことは、技術の観点ではものすごくチャレンジングなのですが、今も頑張っています。
東 既存のソリューションでは解決が難しいため、岡崎さんもいつも以上に試行錯誤を行っている状況が伝わりました。では、取り組みの中で工夫した点や気を付けた点があれば教えていただけますでしょうか?
岡崎 ブレインパッドとして取り組めることには限りがあることを踏まえ、キリンビール様とワンチームで取り組むということを非常に意識しています。
例えば、プロジェクトの最初期には2週間ほど膝を突き合わせて集中的に取り組みのディスカッションを行いました。ディスカッションの内容は、「業務が非常に複雑であることから、どういう業務を行っているのかヒアリング」や「使っている関連システムはどういったものなのか」など多岐に渡り、ブレインパッドからも多くの要望やお願いを出させていただきました。
そうしていくうちに、共に気兼ねなくディスカッションできるようなフラットな関係を作ることができました。
ブレインパッドから技術を提供した際も、「これはなぜですか?」「こうした方がいいんじゃないですか?」といった貪欲な姿勢や本気さが伝わってきたのも嬉しかったです。ただブレインパッドに依頼していただくのではなく「キリンビールが目指す姿に向かって、一緒に仕事を進めていく」という心意気をひしひしと感じました。
東 最適化をビジネス適用するという取り組みは製造計画に限らず、様々な領域で技術的な難しさはあるかと思います。
今回のプロジェクトに関して、難しさや取り組みのポイントなどはどういったところにありますか?
岡崎 最適化の問題を解くことよりも、実は「問題を作ること」がブレインパッドとして最も難しいと思っています。一般論にはなりますが、数理最適化という技術は、何かしらのビジネスの問題を目的・制約に分けて表現し、制約の枠内でどういった条件によって目的に最も近くなるかという内容を考える枠組みです。
最適化でよく論じられるテーマは、「問題に対してどう解くか」という解き方のアプローチです。品質に影響する重要なポイントであるため、ここはブレインパッドも非常にこだわっているポイントです。しかし、実は「そもそも何を解くか?」という点がより重要です。本に書いてあることは、「与えられた問題をどう解くかというパターン」でしかありません。その上で、ブレインパッドの仕事は「何を」解くかを考えるところにも集約されます。
東 その際のコツや重要なポイントはありますか?
岡崎 「制約」についてなのですが、制約は「慣例的な制約」と「物理的あるいはビジネス上で変えられない制約」を区別することが非常に重要です。
仮に、プロジェクト内で最適化を考える際に何が制約なのか、業務上必要なことは何か、現場の方にヒアリングするとしましょう。
そうした場合は、「こういう機能を追加してほしい」「こういう要件をこうしてほしい」といったご要望をいただくことになります。しかし、それは往々にして「慣例的な考え」に基づいたものです。
そのため、それらのご要望を全て要件として受けてしまった場合「既存の計画を再現するようなもの」だと言えます。MJプロジェクトで言えば「未来に対する業務を作りたい」という目的であるにもかかわらず、結果的には「今の業務を自動化・省力化する取り組み」になってしまうような。
そういった懸念があったことから、担当者の方と一緒に「この要望は果たして制約なのか」「それともただの慣例なのか」を徹底的に議論していただきました。結果としてその議論が今振り返ると重要な取り組みでした。
もう一つポイントだったと思うのは、「実際に使える仕組みを作る」という点です。技術としての最適化は「与えられた問題に対して、良い答えを求めること」になります。しかし、現実の状況は日々変わるものです。
そのため与えられた条件は、最適な解を見た後に「実は工場の稼働時間を変更しないと時間内に終わらない」「倉庫を拡張しましょう」などといった当初前提としていた条件を状況によって柔軟に変更する必要があります。
ただ与えられた設定で答えが出るというだけではなくて、与えられたり貰ったりした問題設定で最適化を行い、その結果を分かりやすく見てもらい、その結果に応じて実は当たり前と思っていた条件を変えなければなりません。そして、変えてまた解くといった人間が最適化のプロセスの中に介在する「ヒューマンインザループな取り組み」になっており、最適化問題だけが解ければいいという視点では、サイクルという観点が抜けてしまいます。
MJプロジェクトとしても、大きなシステム開発に進む前にデータサイエンティスト側で簡易的なデモツールを作り、サイクルを回す検証を行い、使うために必要な機能の洗い出しを実施いたしました。
東 岡崎さんがお話ししていた「使える仕組みを作っていく」という視点は本当に重要です。どのようなシステムも使用するのは現場なので、ブレインパッドは現場の方の作業の様子、基幹システムをPCで触っている様子なども含めて見させていただいたりしながら、プロジェクトを推進していきました。
岡崎さんの提案があったとしても、そのまま実装するわけにはいかないため、本当に徹底的な議論ができた点は成功の要素として大きかったと感じています。AIやシステムを作るのではなく、あくまで「未来の業務を作る」ことを意識できました。
東 これまでのお話にあったように、本プロジェクトには様々な関係者が絡んでいます。そうすると「マネジメント」も重要なポイントになりますが、林さんは日頃どのような点を心がけてマネジメントされているのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?
林氏 常にオープンでいることを心がけていますね。
MJプロジェクトのビジョンやブレインパッドと共に取り組んでいる・目指している姿は絶対に正しいと自分自身で思っています。その思いをメンバーや社長を含めたボードメンバーに、正々堂々と熱く発信しています。
キリンビールのSCM需給担当のメンバーは非常に緻密な仕事をしているので、その「緻密さを需給業務のオペレーションに特化させるのではなく、専門性を発揮しながらより付加価値を出してほしい」と思います。そのため、私のこの思いや期待をメンバーが理解・共感してもらえていれば嬉しいですね。
東 現場の方が活発な意見交換が行えるのは、オープンな姿勢を関係者に見せているからなんですね。
丹羽さんの視点からはどんなことを心がけていらっしゃいますか?
丹羽氏 まず各メンバーは本当にみんな頑張っていると感じています。ただ、メンバーに全てを任せきりにするのではなく、リーダーとメンバーが双方で共通のビジョンに基づき、それぞれの役割を果たすことが非常に重要です。
例えば、マネジメントのレイヤーで処理すべき事案があれば林さんと私で受け止めていますし、マネジメントのレイヤーでしか果たせないMJプロジェクトへの貢献はあるのではないかと感じています。プロジェクトをしっかりと成功させるためには、我々のようなリーダー陣のコミットメントは不可欠ですね。今でも心がけています。
東 やはり、リーダーのコミットメントがあってこそ、現場が活躍できるということですね。現場が主役になるために、林さんや丹羽さんが環境づくりや経営層へのコミュニケーションを取っているという動きもプロジェクト成功要因の一つと言えそうです。
さて、ここまでは「成功要因」についてお話ししてきました。
最後のトークテーマは、「キリンビールとブレインパッドのこれから」ということで、今後のMJプロジェクトのロードマップや今後の世界観について、改めて林さんの方からお話しいただけますでしょうか?
林氏 SCM支援部長として私が思っている世界観をお伝えしますと、このMJプロジェクトを通じて、この組織を「強いチーム」にしたいと思っています。SCMチームのメンバーには常々「強いチームにしたい」と言い続けておりまして。
私が考える強いチームとは3つで、
この3つが掛け合わされているチームを理想としています。
MJプロジェクトの成功を通じて、強いチームの実現に繋がるでしょう。これはブレインパッドと共に取り組むことで必ず成し遂げられると、私自身は確信しています。
東 ブレインパッドとしても、チームとして動くという意識も今回の成功に貢献できたかなと思います。ブレインパッドの専門性として、データサイエンスに強みを持つメンバーや、私のようなビジネスコンサル・サプライチェーンの業務理解や課題に対して知見を持つメンバー。そしてそれぞれ強い専門性を持った「個」がチームとなって動ける点は、ブレインパッドの一つの強みだと思っています。
ただ、強いチームと呼ぶためにはもう一つ重要な要素として「本質を追求する」という姿勢も大切ですよね。
立場や専門性は違っていても「未来の需給のためにどのような業務になったらいいのか、どんなシステムがあったら役に立つのか」を追求していくことが強いチームに対して貢献できているところかなと思いました。
岡崎さんは「強いチーム」について、データサイエンティストとしてどのような所感をお持ちですか?
岡崎 私はプロジェクトマネージャーという立場で動いていますが、私自身もプロジェクトメンバーも、そういう「役割」は気にせず、純粋に「いかに良いものを作れるか」「ビジョン達成に繋がるのか」を全員でフラットに考えられるチームが強いチームだと思っています。
東 垣根や聖域といった境界線を、顧客とブレインパッドでそれぞれ設けないといった継続的な取り組みは、丹羽さんが最初から言われている「対等な関係で行う協力や提携」というイコールパートナーシップに該当しますよね。ここが本当に強いチーム・ワンチームのベースになっているかなと思っています。
丹羽氏 もともと「MJプロジェクトはキリンビールだけでは実現できない」ことを理解していたので、一緒にお仕事させていただく企業様は当然大切なパートナーであり、対等な立場でプロジェクトを推進していこうと思っておりました。この、「イコールパートナーシップ」の意識は今も変わっておりません。
東 ありがとうございます。ブレインパッドは引き続きMJプロジェクトを伴走させていただくことになりますが、丹羽さんから改めてブレインパッドに期待しているポイントをいただいてもよろしいでしょうか?
丹羽氏 繰り返しになりますが、私はブレインパッドをイコールパートナーだと本気で思っています。プロジェクト全員もそう思っているでしょう。
ブレインパッドと連携し始めた当初から、「キリンビールの今の業務プロセスを否定していただいて構わない」という点はずっと伝えてきました。その思いやスタンスは今でも一切変わっていません。むしろ、ブレインパッドへの信頼感が増しているからこそ強く感じている部分です。
キリンビールは、プロジェクトの成功実現に徹底的にこだわるつもりです。ただ、自分たちだけだとどうしてもこう頭が凝り固まってしまったり、柔軟性にかけてしまったり、するところが出てくるのかなと想定しています。
そのため、ブレインパッドにはキリンビールの思い込みや常識に対して、遠慮なく切り込んでいただきたいですね。
東 MJプロジェクトを振り返ると、丹羽さんのおっしゃる「イコールパートナーシップ」と「未来の需給を作る」という強いビジョンがあったからこそ、需給の未来に対する課題を「自分ごと化」できると感じました。これは需給担当の方だけでなく、私たちブレインパッドも含めてです。
そのおかげで様々な壁や課題を乗り越えられたかなと思っています。イコールパートナーとして、ブレインパッドは今後も伴走させていただきたいなと思っています。
またプロジェクトを通して、ブレインパッドとしても、答えのない問題・取り組みではあるものの、現場の方と共に「より良いものを」というポイントを追求していくことが重要だと改めて気付かされました。現場が主役になるためのリーダー層のコミットメントであったり、経営層への積極的な情報発信・報告であったり、そういった様々な働きかけから刺激を受けることも多々ありました。
最後になりましたが、こうやってMJプロジェクト全体を振り返ると様々な成功ポイントがあったと思います。「技術的なこと」「組織的なこと・マネジメント」「ビジョン・姿勢」。こういった「一見すると形だけになってしまうもの」も含めて、強く意識しながらプロジェクトを進めてきたからこそ、今回のような成功に繋がっているのかなと思っています。
短いお時間ではありましたが、これらのお話が視聴者様にとって何かしらの資産やヒントになったとも思います。ありがとうございました!
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