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3月23日に開催した「DOORS-BrainPad DX Conference2022」。
3000人を超える視聴申し込みをいただいた本イベントの内容をお届けいたします。
今回は、
株式会ブレインパッド アナリティクス本部 AIプラクティス部 日吉 久礎
による、『意思決定を支援する技術「数理最適化」の最前線』と題したテーマについて解説していきます。
数理最適化には、基礎的な考え方も含めて様々な計算方法あるといえます。担当者の暗黙知を形式知に変えて行く場合も数理最適化を用いなければなりません。今回は、数理最適化の概要や考え方、実践の現場での活用方法、最新の使い方について詳しくみていきましょう。
ここからは、数理最適化とは何かからお話ししていきます。下記の図は、数理最適化で教科書的な問題として扱われる「ナップサック問題」です。遠足を題材にして、喜びの総和が最も高くなるものを持っていきたいという条件と予算を超えてはならないという条件をクリアすることが目的となります。
また、数理最適化では、意思決定の際に守らなければならない状況のことを「制約」と呼びます。例えば、塩飴とポテトチップスであれば320円であるため、予算を超えることはありません。 しかし、この計算にバター飴を足すと520円となり、制約を守れなくなります。
では、多くの組み合わせから何を持っていけばいいのでしょうか。この場合は、喜びの総和に着目します。数理最適化では、この事例における喜びの総和は「目的関数」に該当します。
おやつの予算制約を満たしつつ、喜びの総和を最大化するというのがおやつの意思決定問題であり、数理最適化ではナップサック問題となります。実際に意思決定は、数式に当てはめることができるだけでなく、現実社会でも知らない間に数理最適化の教育を受けていたといえるでしょう。
【関連記事】数理最適化とは?機械学習・AIとの違いやビジネス活用事例をわかりやすく解説
前項でもふれた数理最適化は、施設配置・シフト最適化・生産計画など古くからビジネスに活用されています。ここからは、ナップサック問題のビジネス活用をみていきましょう。 この事例では、新規事業の候補がいくつか与えられており、制約を満たす条件の中から利益を最大化したいということを考えていきます。
上記の図表では、新規事業の選択肢はテレビ・スマホ・冷蔵庫・バッテリーのどれかとなり、それぞれ利益・予算・人員・土地がそれぞれ試算されています。しかし、各リソースには上限が決まっている点に注意が必要です。
例えば、 テレビ以外の全ての事業を新規で立ち上げたとしましょう。その場合であってもそれぞれのリソースの上限に届いていなければ、問題はありせん。そのうえで、新規事業による利益の総和を最大化するための数理最適化を行いたいということです。
制約条件が予算・人員・土地となっており、ナップサック問題よりも複雑化しているものの基本的には考え方は同じだといえるでしょう。
数理最適化とは、意思決定のためのツールです。ここでは戦略・戦術・作戦の段階に分けて、 数理最適化をどのように活用していけばいいのかを解説していきます。
まずは戦略レベルの問題例からみていきましょう。
製造業において工場を新設する場合、既存の工場の位置や製造能力、材料の調達・倉庫の位置・需要・供給、ロジスティクスなどが意思決定の要素となります。数理的に考える場合、 生産能力や複数の候補の中から位置を決定するというケースは実際に多いといえるでしょう。
次に戦術レベルの問題をみていきましょう。
市場が変化する中で、各消費に対する需要を細かく予想し、十分な供給を行いたいと仮定します。しかし、原料の調達・在庫・輸送費用、人件費などの要因が絡んできます。このような要素を数理的に表現し、各倉庫の製造量や輸送量の計画を立てるなどの問題も現実でよく現れるものです。
最後に作戦レベルの問題例をみていきます。
工場には、複数の製造ラインや設備があることから、複数の製品を順番通りに製造している状態です。上層部から生産計画が与えられた場合、各倉庫に遅延なく移送するために段取り変えのコストを検討し、日々の製造計画を立て実施していきます。こういったものも典型的な数理最適化の問題です。
ここからは、数理最適化はなぜ、DXの出口と言えるのかという点について詳細にみていきましょう。
数理最適化は数理的な意思決定のツールです。 ビッグデータ時代と呼ばれていたときから、蓄積されたデータを活用するという意味で数理最適化を意思決定・計画策定に活用するという流れがありました。
戦略的・戦術的なレベルでは、前項でもふれたように工場の配置や能力の策定などで数理最適化は以前から使用されていました。しかし、近年では作戦レベルの数理最適化を実行することが多く、とくに現場の日常的なオペレーションの計画策定の自動化に対して行われるケースが増加しつつあります。
数理最適化が作戦レベルに利用される主な理由は2つあります。1つは多数のデータや制約が絡む計画策定の工数が大きいこと、 もう1つは計画策定のためのノウハウが暗黙知になりやすく、計画作成者の育成・後任への引継ぎが簡単ではないことが挙げられます。
また技術的な面からは、汎用的最適化ソルバーの発展によって、実用的な時間で良い計画を策定し、制約条件を満たすモデル作成が容易になったことも背景にあるといえるでしょう。
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ここでは、数理最適化によってもたらされるDXのための2ステップについて、ふれていきましょう。まずはstep1です。ここでは従来のワークフローを踏襲して計画策定の支援ツールを作成します。計画策定の一部をツールに担ってもらうことが目的です。
その結果、計画策定に影響を与える要因の一部を、目的関数及び制約として可視化することが可能となります。 ここでは、すべての要因を洗い出す必要はありません。ツールとして、計画策定の従事者が計画に落とし込むことで、属人性を緩和し、工数を削減することができるようになります。結果として、従来のワークフローを変えずにコスト削減を目指します。
次にstep2をみていきましょう。この段階では、ワークフローを刷新し、計画策定の自動化を目指すことになります。ここがDXのポイントです。
計画策定に影響を与えるすべての要因を目的関数および制約として可視化しなければ、自動化できません。結果として自動化が進めば属人性を解消できます。この際は、大きな変革が起きるパターンもあります。例えば、「 従来のワークフローをそのまま実施するのか」「ある程度社内のワークフローを新しいものに合わせて標準化していくのか」といった決断を行う必要もあるでしょう。
最終的には、機械に任せられるところは機械に任せ、人が担わなければならない業務は人が担うといった人材の再配置や活用も可能となります。この一連の流れが数理最適化を用いたDXです。
計画策定の支援ツールを作成する段階では、前項でも触れたようにあくまでも既存のワークフローを踏襲し、コストカットを行うことが目的です。 そして、step1のキーファクターは計画策定者の暗黙知を形式知に変えていくことになります。簡単なヒアリングでは終わらず、次のような流れで暗黙知から形式知に変えて行くことが大切だと思っています。
まずは、ヒアリングやデータの精査を実施したうえで、初期の最適化モデルを実装。プロトタイプを作成します。この際は、計画作成者の全プロセスにおける知識をツール化するのでなく、あくまで一部の機能をツール化することを意識することが大切です。次の段階では計画作成者にプロトタイプを使用してもらいます。
その後、現在のオペレーションに対してツールをはめ込み、試用・評価を繰り返します。大きなフィードバックやギャップがあった場合は、プロトタイプを新たに作らなければならないケースもあるのが実状です。この流れを繰り返すことで、計画策定者の知識が暗黙知から形式知になっていきます。
暗黙知を形式知化するためのプラクティスを解説していきます。流れとしては、全ての制約を取り組む必要はなく重要なものから取り込んでいくことが大切です。 その後、制約に合わせたプロトタイプを作り、現場で試すことになります。
図表のように選定した制約を自由に選べるようにしておき、肌感にあう制約を同定することがポイントです。多くのケースでは、肌感に合わない部分が出現することから、その部分を言語化しフィードバックしていく必要があります。そして、フィードバックをプロトタイプが取り入れていくという流れを繰り返します。
ここからは計画作成の自動化についてみていきましょう。 ステップ1でもコストの削減には成功しています。しかし、コスト削減という成果のみの追求はDXではありません。 あくまでも次の変革のスタート地点であり、step2ではコスト削減の向こう側を目指すことがポイントとなります。
これまでのお話しからstep2では、業務フローが大きく変わります。 目的はビジネスプロセスの変革です。 そのうえで、今回のケースでは、機械にできることは機械に任せ、人間が担当するべき業務は人間に任せてコスト削減にとどまらない価値の創出を目指します。
では、ゴールに対して何を行っていけばいいのか、流れから解説していきます 。step2でも最小単位からスタートし、徐々に範囲を広げていくという考え方は変わりません。新しい試みとなるため、組織への影響をみつつ、ケアを行いながら変革を進めて行く必要があります。
まずは概念実証(PoC) を行い、どの程度の効果が見込まれるのか図ります。この際のポイントは、計画策定者の青木中を取り出す工夫を行うことです。 その後、実地で検証するためにモデルケースを導入し、「どういった効果があるのか」・「オペレーションをどのように変更するのか」を見極めなければなりません。
次に、適用する範囲を広げていくことになるものの、ワークフローを刷新するかどうかという決断を行う必要があります。 計画を立てるという観点からすると、現場によってオペレーションが異なるため、計画策定が難しくなるというマイナス面があります。そのため、ある現場のオペレーションをそのまま計画として取り込むのかはよく考える必要があるといえるでしょう。
そのオペレーションは、本当に効果があるのかを考えなければなりません。一般的にシステムにオペレーションを合わせる場合、システムの肥大化につながり、将来的な環境変化に追いつけなくなっていく可能性が高まります。
対して、作業の標準化を検討した場合、システムにオペレーションを合わせていきます。 大きな拒否反応を受ける可能性も少なくありません。ポイントは、「 変革によって未来がどうなるのかを示す」・「最終的な落としどころを見つける」ことです。これが、ビジネスプロセスを変革するための覚悟が必要になる部分といえます。
ここまでは数理最適化によるDX推進の方法について詳しく見てきました。必ずしも数理最適化が最適解ではないものの、ビジネスプロセスの変革を起こすための1つの方法として、皆様の参考になれば幸いです。
ここからはブレインパッドにおける最適化実装に向けたアプローチ方法について解説していきます。流れを簡単に説明するとクライアントの課題やデータ整備状況を把握するコンサルから始めて、PoCを実施し、必要十分な規模のシステムに落とし込むことからスタートします。
今回、図表で示したパターンは大企業で多いアプローチの流れです。詳しくみていきましょう。ブレインパッドの場合、コンサルテーション・PoC・システム開発と段階ごとに分かれており、それぞれのエキスパートがサポートする仕組みです。
コンサルテーションでは、データ整備に必要な作業の抽出・ワークフローの見直し・課題の抽出から選択までを行います。PoCでは、暗黙知の抽出を行い、プロトタイプに落とし込むまでをサポートし、クライアントの課題を解決できていることを実証できた場合にシステム開発まで進むという流れです。
システム開発に進んだ際のシステムの規模は、案件によって大きく異なる点も特徴的です。例えば、Excel ファイルを出力する小規模システムから、クラウド上にシステムを構築する大規模なものまで要件に合わせて開発しています。その際は、業務やスキルを引き継ぐスキルトランスファーも実施していくことになります。
また、step2で解説した計画策定の自動化は、様々な要素を俯瞰して進める必要があるため、大規模な案件でよく使用される方法です。
最後に、ブレインパッドにおける最新の数理最適化のトピックについてみていきます。近年ではブラックボックス最適化のビジネス活用に注目が集まってきていると感じています。
従来の数理最適化ソルバー(数式)では、使用できる制約や目的関数の型がある程度決まっていた状況でした。 しかし、実践的な案件では型に合わせるだけでは困難な問題に出会うこともあることから、ブラックボックス最適化を用いることも増加しました。
ブラックボックス最適化は、そもそも形に合わせることが困難な部分をブラックボックス関数として切り出すものです。さまざまな入力に対して、ブラックボックス関数を用いて計算し、得られたペアから最適化を行っていく流れになります。
シミュレーションモデルや機械学習モデルでは、既にブラックボックス関数が用いられており、最適化の新しい可能性を示しています。
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