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りそなホールディングスの「データ分析組織」の現在地

公開日
2022.11.29
更新日
2024.03.08

2020年、2021年に銀行業で唯一「DX銘柄」に選定されたりそなホールディングス。業界に先駆けた取り組みが評価された背景には、データ分析組織「データサイエンス部」の存在があった。組織立ち上げの背景とデータ活用を社内に根付かせていく努力、発足3年半で到達した現在地と、「金融デジタルプラットフォーム」で目指す将来の展望までを、データサイエンス部長として組織を引っ張る那須知也氏をはじめ、銀行DXの最前線で奮闘する皆さんに聞いた。

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りそなグループアプリとデータ分析組織立ち上げ

DOORS編集部(以下、DOORS) りそなホールディングスは大手銀行の中でも、DXの取り組みが進んでいることで知られています。とくに「りそなグループアプリ」の評判は傑出していて、リリースから4年で500万ダウンロードを達成したと伺いました。なぜ、りそなホールディングスは同業他社に先んじてDXを進めることができたのでしょうか?

りそなホールディングス・那須知也氏(以下、那須氏) 私たちは長らく店舗を拠点として、地域密着でお客さまにサービスをご提供してきました。ところが調査してみると、毎月店舗窓口にいらっしゃるお客さまは全体の1割程度でした。つまり私たちは9割のお客さまと接点を持てていませんでした。

そこで、2015年にお客さまとの接点を増やすべく「オムニチャネル戦略」をスタートしたのです。店舗の営業時間を拡大したほか、電話/WEB/メール/チャットなど非対面のサービス提供機会も強化しました。

株式会社りそなホールディングス
データサイエンス部長 那須 知也氏

その3年後の2018年に満を持してローンチしたのが「りそなグループアプリ」です。UI/UXに徹底的にこだわり、スマホで銀行サービスを利用できるようにしました。またお客さまの声をとことん反映して改善を重ねています。2022年4月には計画を1年前倒しして500万ダウンロードを突破しました。

お客さまがアプリを使われると、私たちのところにはどんどんデータが集まってきます。店舗ではお客さまと対話をしながらコミュニケーションが図れますが、非対面のアプリではお客さまの顔が見えにくいため、データを分析することでニーズを探り、よりよいサービスに結びつけていく必要があります

そこで2019年4月に当時のオムニチャネル戦略部の中に「データサイエンス室」が設置されることとなったのです。


内製化/自走化するためのパートナリング

DOORS 当初からデータ分析を前提にアプリが開発されたわけではなかったのですか?

那須氏 データ分析の必要性は理解していましたが、お客さまとの接点を増やすことが最重要課題であり、リリース前後は使っていただけるアプリとすることに全力を注いでいました。しかし、実際にデータがどんどん集まってくるのを目の当たりにして「これを活かさなければ」と考えたのが正直なところです。

とはいえ当初の専任スタッフはわずか3人で、分析専用のパソコンも数台しか用意できていませんでした。データ分析に精通したスタッフはおらず、何から手を付ければいいのかもわからない。そこで外部の力を借りることになったのですが、私たちにはどうしても「ここだけにはこだわりたい」と思うところがありました。

それはデータ分析を外部に丸投げするのではなく、ゆくゆくは内製化/自走化したいというものでした。私たちの目的はデータ分析ではなく、それを活かしてお客さまによりご満足いただけるサービスを提供することです。

実際にお客さまのいちばん近くにいて、社内のいろいろな部署とやり取りができ、提供する商品やサービスを熟知しているのは私たちです。データ分析がどのように行われ、実際のビジネスにどう活かせるか――私たち自身が理解できなければ目的は達成されません。

ですから、データ分析をまるごとお願いして終わるのではなく、内製化/自走化できるまで伴走していただけるパートナーを探していました。
ブレインパッド様の提案をお聞きしたときに、「データ活用スキルのトランスファー」「人材育成の支援」といったお話がありましたので、ぜひ一緒にとなりました。

DOORS ところで、ブレインパッドでは、内製化/自走化を実現したいという要望にはどのように応えているのでしょうか?

ブレインパッド・三邊達也(以下、三邊) ここ数年、金融機関からのご相談が非常に増えていて「分析をしたいが何から手を付けていいかわからない」「データ分析を自社でやりたいがノウハウがない」といったお悩みをよくお聞きします。その場合にはお客さまの課題や目標、事業計画などをお聞きしながら、どういった進め方が最適なのか、ブレインパッド自身が創業来、自社でデータ分析組織を立ち上げてきた知見や他行様での実績、経験を元にご提案します。

株式会社ブレインパッド
ビジネス統括本部 アカウントマネジメント2部
チーフ・アカウントマネジャー 三邉 達也

ありがちなのは「分析の基盤さえ作れば、あとは何とかなるのではないか」「分析ツールを導入したら自分たちで運用できるのではないか」とお考えになっているケースです。ただ、那須様が仰ったように大事なのは分析結果を活用しどうビジネスで成果を出すかということです。

もちろん分析を進める中で基盤やツールが必要になってきますが、スモールスタートによる環境構築も視野に最適な拡張プランを提案させていただきます。最初に大きな投資をして環境やデータを準備万端に整えてからスタートするよりも、今ある環境でできる範囲からスタートしてPDCAを回していくほうが、投資を抑えつつもクイックに成果を出しやすいため、社内での理解も得やすくデータ活用が組織全体に根付いていくと思います。りそな様がまさにそのモデルケースといえます。

DOORS データ分析をビジネスに活かすところまでを重視されていたとのことでしたが、具体的にはどんなところから実現しましたか?

那須氏 例えば、りそなグループアプリには「アドバイス配信」を通じてお客さまとコミュニケーションをとる機能がありますが、ログを分析してこの「アドバイス配信」をパーソナライズしました。

私たちのアプリはお客さま1人あたりの平均利用回数が10回程度/月であり、かなりの高頻度だと自負しています。なぜそれが実現できているかと言うと、お客さま一人一人にパーソナライズした「アドバイス」を配信しているからです。例えば、為替が大きく動いたときは、外貨建て商品への関心が高まる傾向にありますが、そもそもそういったリスク商品に興味がない方にとっては「いらない情報」です。

いらない情報をたくさん通知してくるアプリは、お客さまにとっては煩わしいので、通知をオフにされてしまうでしょう。そうするとお客さまに有益な情報があっても読んでいただけなくなってしまいます。そこでデータ分析を進めることで、お客さまが望まれる情報を選んで最適なタイミングで配信するようにしました。

私たちが実感として得ているのは1配信につき数万円~数十万円の収益増加など、小さな数字の積み重ねです。ですが、それが積もりに積もって全体としては大きな成果になっています。

また、先にお話したように「お客さまとの接点を増やしたい」というのが出発点だったわけですが、アプリを利用されるお客さまは実店舗への来店回数も増えていることがわかりました。接点が増えたことによって貯蓄や運用に対する関心が高まり、銀行とお客さまの距離が近くなったのは大変嬉しい成果でした。

DOORS 神野さんに質問です。りそな様の成功を見て、銀行業界のDXも進んでいくのではないでしょうか?

ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) そう思います。ブレインパッドとしてもりそな様との協力関係で得た成功体験を横展開していけたらと考えています。例えば、那須様が評価してくださった「自走化の支援」ですが、今後は「内製化支援オファリングモデル」として多くの企業様に提供していく計画です。

具体的には、①データドリブンおよび活用の状況評価、②データサイエンティストの育成および分析伴走、③組織変革/組織組成、④データガバナンスの確立、⑤プロダクト導入、⑥データ分析基盤の提供、これらをパッケージングした支援になります。

今、いろいろな業界で内製化のニーズが高まっています。よくあるのはこれまでアウトソーシングしていたシステム開発をIT部門で行い、内製化を実現しようというケースです。ただIT部門の内製化をゴールとすると、その先がなかなか広がっていきません。

IT部門が立ち上がり、システム開発やデータ分析ができるようになった。でもそこから何を生み出すのか、ビジネスにどう繋げていくのかが描けていないからです。真の自走化を実現するには、1つの部門を作って済む話ではないのです。人材の採用・育成、予算の確保、部署を横断した組織全体の変革が必要になってくるでしょう。

りそな様のDXが成功したのは「何を実現したいのか」が明確だったからです。

株式会社ブレインパッド
執行役員 内製化サービス推進
神野 雅彦

三邊 そうですね。金融業界を見回しますと、IT部門やシステム部門が主体となってデータ分析に乗り出したところは多くありますが、ビジネスの知識や経験が不足しているためビジネス部門までデータ利活用が広がらないケースが多くあるように見受けられます。

りそな様の場合はまず、経営トップがDXを進めていくのだという方針を打ち出したこと、それとビジネス部門から起こったムーブメントだったので、経営層も分析チームも相互に意思統一がなされ社内展開が非常にスピーディでした。そこが、りそな様が大きく先行された理由であり、これから分析組織を立ち上げ成功させる際の大きなポイントだと思っています。


社内で小さな成功体験を積み重ねる

DOORS りそな様の内部では、データの活用はどのように進んでいきましたか?他の部門・部署との関係性や協力体制なども含めて教えてください。

那須氏 データサイエンス室を立ち上げた当初は「あそこは何をやっている部署なのか?」と遠巻きに見られているようでした。データサイエンスと聞くと「AIや機械学習で何やらすごいことをやる」というイメージがありますので。

何をやっている部署かわからないのですから、誰も「こんな分析をしてほしい」とは言ってきません。ブレインパッド様にご支援いただきながら、こちらから「こんなことができます」と社内に提案して回りました。

距離が縮んでいったのは「小さな成功体験」が積み重なった結果です。データ分析をしたら何かすごいことが起きて、ある日業務が一変するわけではありません。今の仕事が少しずつ便利になったりラクになったり、確度が高まることだと思うのです。

銀行の仕事はKKD(勘・経験・度胸)が関与している部分が多いのですが、それを否定するのではなく「KKDがデータで裏付けられたら最高」というアプローチで提案することが多かったです。

「データの裏付けがあったから試してみたけど、良い結果が出たね」という成功体験が生まれると、当然ながら「次も活用してみよう」「頼りになるものだ」となりますよね。そうやって社内に認知が浸透していったと思います。

また、これは大前提の話になるのですが、私たちが社内でデータ活用を提案していくうえでいちばんの後押しとなったのは、経営層の強いコミットがあったことです。
中期経営計画でもデータ活用は明確に打ち出されていましたし、方向性としてブレる心配がなかったのは、現場としても非常にやりやすかったです。

まずはデータ分析に触れることから。データサイエンス部の働きかけ

DOORS 末松さんは、那須さんと同じデータサイエンス部におられますが、どのような「小さな成功体験」を感じてきましたか?

りそなホールディングス・末松由利絵氏(以下、末松氏) 私はデータサイエンス部に配属になる前は、店舗窓口にご来店されるお客さまからさまざまなご要望をお伺いし、ご提案する仕事をしていました。この部署にきてデータから抽出されたレポートを見ると、店舗での経験に照らして、なるほどと腑に落ちるものばかりだったのが印象的でした。

また、データサイエンス部に異動して最初のテーマが、法人・個人事業主さま向けに提供しているキャッシュレス決済端末の実績管理を、BIツールである「Tableau」を使って見える化しようというものでした。単にキャッシュレス端末の利用件数や利用に伴う収益の見える化ではなく、契約していただいたお客さまに対し稼働状況のフォローをすることができるものを作成しました。こうした分析をするうえで、店舗での経験がとても役に立っています。

株式会社りそなホールディングス
データサイエンス部
末松 由利絵氏

那須氏 ちなみに末松さんは、社内で「Tableauの第一人者」と言われていますね。

神野 データ分析には、どういう切り口から分析にかけるかの着眼点が必要で、良い着眼点というのはその分野を知っていないとなかなか出ないので、素晴らしいことですよね。

DOORS すごいですね。末松さんは元々、そうしたバックボーンがあったのでしょうか?

末松氏 大学時代に統計学を少し学んだ程度ですが、先ほどもお話ししたように店舗での経験がデータ分析に本当に生きているとは思います。

DOORS 同席いただいている、山田さんはIT企画部でTableauを使っていると伺いました。

りそなホールディングス・山田葵氏 はい。私はIT企画部の所属なのですが、部として必要以上の費用がかかっているところを見つけてコスト削減につなげたいという課題がありました。IT企画部ではアウトソーサー(外部業者)を活用してシステムを運用しているのですが、必要が生じてアウトソーサーに電話で照会をかけると1件につきいくらという費用が発生します。

これまでは担当者が個別に電話をかけていたのですが、その内容が共有されることはなく、回数・内容・費用が検証されていませんでした。照会内容が重複しているなど、タイミング的にまとめられるものがあればコスト削減になるだろうと思い、データの可視化に取り組みました。

最初は大量のデータをコツコツとエクセルに打ち込んで集計するしかないのかなと思い、データサイエンス部に相談しました。エクセルで大量のデータを集計するのは、❝乗り越えなければならない作業❞という感じがしますが、単にツールを使ってOKではなく、データ分析は「こんな角度から分析してみたらどうだろうか?」「こういうフローを試してみよう」といった創造性を発揮する余地があって楽しいです。これも、データサイエンス部の末松さんのサポートのおかげです!

株式会社りそなホールディングス
IT企画部
山田 葵氏

DOORS データサイエンス部が必要とされている印象的なお話ですね。可部谷さんは、DX企画部に所属されているお立場で、データサイエンス部とどう関わられていますか?

りそなホールディングス・可部谷和希氏 DX企画部戦略企画グループでは、DX3部(DX企画部・カスタマーサクセス部・データサイエンス部)の統括的な立場から、役員層に報告・説明をする機会が多くあります。その際の一つ一つの判断に常に数字の裏付けをとるよう意識しています。

ビジネスの常識としてエビデンスをもって報告・説明をしなければならないのは当然ですが、丁寧にエビデンスを用意して報告・説明、交渉しようとすると、データの取得や加工にかかる時間を含めてそれこそ何時間もエクセルと向き合わないといけなくなります。

ところがTableauをうまく使えると、圧倒的短時間でそれが可能になります。こうしたBIツールを通して、データ活用のリテラシーが全社的に向上していくと、ビジネスの精度・確度は飛躍的に高まると感じています。

株式会社りそなホールディングス
DX企画部
可部谷 和希氏

内製化/自走化の行く先と「金融デジタルプラットフォーム」

DOORS りそなホールディングスとブレインパッドは2022年2月に資本業務提携契約を締結しました。りそな様は当初から「内製化/自走化」を志していたわけですが、今後両社はどのような協力関係を進めていくのでしょうか?

那須氏 ブレインパッド様のご支援を得て、着実に自分たちでできることは増えてきています。一方でデータサイエンスの分野は日進月歩で進化していますので常に最新の知識を得たいですし、より高度なことに挑戦したいとも思います。ですから「ここまで自分達でできるようになったから協力関係は終了」というのはないと思います。

ブレインパッド様は、志を同じくするパートナーだと思っています。私たちには地域経済を支援していきたいという思いがあり、ブレインパッド様には企業のデータ活用を促進していきたいという思いがある。私たちはそれぞれの思いを実現するうえで補完しあえる関係であると考えています。

神野 そうですね。テクノロジーも分析手法も進化していきます。一方で入って来るデータが増えるほどビジネスの質を高め、幅を広げていくことができます。

ブレインパッドとしては今後、データ活用の機運を全国の地銀に広げていきたいという構想を持っています。りそな様は「金融デジタルプラットフォーム」構想で地銀との連携、さらには事業会社や自治体とのネットワークを広めて考えておられますので、そこに我々も入っていって金融業界や地域経済にデータドリブンイノベーションを起こしていきたいと思います。

DOORS 壮大でワクワクするようなお話です。「金融デジタルプラットフォーム」についてもう少し詳しく教えていただけますか?

那須氏 はい。従来、金融機関同士の連携と言いますと、資本提携かシステム統合が基本でした。「金融デジタルプラットフォーム」ではそうした繋がりがなくても、戦略的かつ柔軟な連携を可能にしようというものです。

例えば、このプラットフォームを活用頂くことにより、それぞれの金融機関が現在の勘定系システムを使いながら我々のアプリ基盤を共利用することが出来、各金融機関が独自アプリを効率よく開発・提供することが可能となります。ビジネスには競争領域と非競争領域がありますが、後者で削り合うのは生産的ではありません。

データ活用における非競争領域でいえば、前工程(データを揃えてきれいにする作業)で、大変な時間と労力がかかります。ですが、このプラットフォームを活用してもらえれば、データがきれいな形で出てきて、すぐに必要な分析まで進めることができます。

どの銀行にも「エクセル職人」のような人がいて、ひたすら数字を打ち込んで、計算して、報告書を作ることに終始していたりするのです。それは大変高度なスキルではあるのですが、そこで消耗してしまって肝心のビジネスに結びついていないケースが多々あります。

このプラットフォームを活用いただくことで省力化ができれば、優秀な人材や限りある予算を、新商品の開発やきめ細かなサービスを展開する方向に振り向けることができるでしょう。そうすることでより生産的で健全な競争が生まれますし、地域経済および日本経済の活性化に資することになるはずです。

まだまだやりたいこと、やらなければならないことはたくさんあります。そうしたこれからを、ブレインパッド様とともに作っていきたいですね。


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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