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DXからデータドリブンへと、データ活用は新たなステージに向かおうとしている。データ活用の進展具合は、個々の企業ごとはもちろんだが、業界によっても差がある。その中でも様々な規制があることから、なかなかデータ活用が進まないと言われているのが金融業界だ。その状況を打開すべく、金融業界全体のデータ活用水準を引き上げる横断組織として2022年月6月に発足したのがFDUA(一般社団法人金融データ活用推進協会)である。FDUA理事でSBIグループ横断のデータ活用推進リーダーである佐藤市雄氏を招き、金融業界に詳しい弊社執行役員の神野雅彦とディスカッションした。
ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) 金融業界の大きなテーマとして、データドリブンやデータ活用をどうやって進めていくべきなのかというのがあると思うのです。そこでFDUAの中心メンバーの一人である佐藤さんと、FDUAが今後どういう取り組みをしていくのかなどを含めて、金融業界のデータ活用について議論していければと思っています。
FDUA・佐藤市雄氏(以下、佐藤氏) 金融業界に限らない話かもしれませんが、データドリブンの実現については、個別の企業・企業グループごとにかなり性格というか、ゴールが違うように思います。例えば銀行でいえば、この20~30年間構造不況により金利収益が確保できなくなっているので、今は金融機関としての存在意義を問われるようになってきていることがあります。地銀であれば、地域の活性化がミッションの一つになりえますし、メガバンクや私たちSBIグループの場合は金融プラットフォーマーを目指していくというのが金融機関の大きな存在意義の変化なのではないかと思います。
神野 私は金融業界だけではなく他の業種/業態にもコンサルタントとして長く関わってきました。その経験から言うと、金融業界に限った話ではないのですが、特に金融に関してはデジタル化の進展が遅く、その結果データ活用も遅れています。さらにその中でも、銀行・証券・保険のそれぞれの業界で進み方が違う。そして、さらに銀行の中でもメガバンクと地銀では大きく差があります。
ただ、進めたい意欲はどこも持っているのですが、結果として物理的に進められていないのは規模に関わらず同じだと感じています。
進まない理由は何かと考えると、おそらく1つは監督省庁が求める縛り、すなわちガバナンスやルールやガイドラインを重視することは正しいのですが、重視しすぎていることが課題なのかもしれません。
通常の理解と対応では守りの話ばかりになってしまうので、そこから攻めに転じた動き方/考え方をしていかなければならないのに、取り組むことができていないのではないかと考えられます。
我々も攻めに転じる支援をしており、その中でうまくいっている銀行もあります。その理由としては、経営層のリーダーシップが強いからだと感じています。
神野 金融業界でデータドリブンの浸透具合や理解度にかなり乖離があり、それがピラミッド構造になっているように見受けられます。「データドリブンができています」と言ったときに、分析行為ができていればいいという会社もあれば、いわゆる会社全体のビジネスをデータドリブンでしっかり回すことができている状態になっている、あるいはその状態を目指しているといった風にいくつかのレベルがあるわけです。
佐藤氏 データドリブンやデジタルという文脈で言うと、まさに今神野さんが言ったように、会社によって全然状況が違います。銀行でも、たとえば役員が「DXを買ってこい」と言ったとして、買ってこられるものではありません。それぞれの銀行によって向かう先が違うので、それは当然です。
見方を変えると、データ戦略と一言で言っても、経営レベル、事業レベル、業務レベル、機能レベルといろいろレイヤーがあります。役員が「DX」と言っても、頭の中で思い描いているレイヤーが担当者が思い描いているものと大きく異なり共有できていないことが、今の状況を複雑化させている原因かと思っています。
FDUAの理事としての私の視点では、やはりこのデジタル化、データドリブン、データ活用、あるいはDX(最近ではデジタル戦略と言い換えることも多いようですが)と言われるものは、自社がどこに向かおうとしているのか、すなわち経営戦略を見定めてから、それを実現するためのフォーマットや手段を議論しないと困ったことになると思うのです。
神野 「DX買ってこい」と聞くと、インターネットバブルの頃に「インターネットを買ってこい」と言っていた経営者がいたことを思い出します。「ならば30兆円出してくれますか?」という笑い話がありましたよね。とはいえ、ただの笑い話ではなくそこに問題の本質があるような気がしています。つまり、「DX」「データ活用」の意味/意義/定義を理解できていない。金融機関に限らず、大勢の方々が、やはりDXやデータ活用の本質をよくわかっていないことが問題だと感じます。
神野 少し視座を変えてみますが、日本の他の産業と金融業界のデータ活用のギャップを考える上で、経産省の「DX銘柄」を取得している企業、あるいはそれを目指している企業と比較して考えてみましょう。それらの企業は、やはりDXやデジタル、データをどう活用するべきかという視点をしっかり持っています。ただ視点はあっても実際にどこまで取り組めているかといえば、全てできているわけではありません。それでも視点があるというのが、まず大きな差なのだと思います。もちろん金融業界でもDX銘柄の会社はあるのですが、他業種に比べるとその数が少ないのが現状です。
他の業界を見ると、ライフサイエンスやヘルスケア業界はそもそもデータがないと管理・監督ができないため、小売・流通も動向を見るためにデータが命だったので、DX銘柄であるかどうか関係なくデータ活用との親和性が高かったわけです。
一方、銀行の方々は「データなんて使っていません」、「データ活用なんかできていません」と言うのですが、実は口座間の取引データはしっかり見ているのですよ。まさしく、それはデータを活用して、ビジネスの状況を理解し、次のアクションをずっと取ってきていたということなのです。つまり自分の頭の中でデータ活用のPDCAをきっちり回しているのですが、それがデータ活用だということをそもそも理解していないわけです。その意識をまず変えていかないといけないかなと思うのです。
佐藤氏 金融業界が、自分たちがデータ活用を既にやっていることに気づくのが遅れた原因は、価値を創出する源泉が大きく変わったことに対する危機感が少ないことだと思います。コロナ禍で非接触が推奨されて、オンライン化、リモート化が一気に進んだ結果、世の中は強制的にデジタル社会へと変わりました。ならば価値創出の源泉も大きく変わるはずなのに、金融機関の経営層にはその危機感があまりないように見受けられるのです。
神野さんの指摘通り、金融機関は実はデータを元に価値を生み出してきたし、今もそれに変わりはないのですが、やはりこれまでは、例えば金利1つ取ってもルールに則っていればやってこられました。つまり日本という国の規制の枠組み自体が金融機関にとっては価値を創出する源泉だったわけです。
ところがそれが大きく変わってしまい、これまでのルールを守っていても、立ち行かなくなりました。だから利益の源泉を変えなければいけないのです。それが他の業界に比べてデータ活用やデータドリブンが浸透しない一番の原因だと考えています。
神野 コンプライアンスやガバナンスが他の業種業態と比べると、金融業界は圧倒的に厳しいのでなかなか攻めのデータ活用に至らない感覚があります。しかし一方でお金の情報がそもそもデータなので、コンピューターの黎明期からデータを活用してビジネスをしてきた業種でもあります。また業務そのものでも事業継承でもライフシミュレーションでも手数料計算でも証券のシミュレーションでも同じで、数理的な計算が常に求められる業種が金融業なのです。
それなのにデータドリブンやデジタル、DXなどと聞くと、アレルギーみたいな反応になるのですよね。過剰に及び腰になっているように見えます。それは佐藤さんが所属するSBIグループも例外ではないと思うのですが、一方で攻めのスタイルを持つグループでもあるじゃないですか。それでもやはり…、と思わせるところに根本的な課題感があるように感じます。
我々はコンサルタントなので、財務諸表を見たときに違和感を検知する能力を持っています。しかしそれに関しては銀行員の方々のほうが断然上で、それはデータ分析のベースラインができているということなのですね。それなのにノートパソコンを持ち出して、「こんなことをやりたいのですが…」と言うと物怖じする。経験と勘が磨かれている分、データによるファクトが示されることで、その経験と勘を否定されるのではないかと怖れているのかと感じます。
佐藤さんは、金融業界のデータ活用における課題のどのあたりが根深いと思いますか?
佐藤氏 SBIのような新興の金融機関に関しては、小売業など金融系以外の出身者が多いので、今神野さんが指摘したような感覚に陥ることは比較的少ないのかなと思います。ただFDUAの活動を含めて、様々な取り組みの中で金融機関を回っていると、いろいろな場面に出会います。その経験で言うと、「データは誰のものですか?」といった質問をすると、「データは我々のもので、システムも我々のもの。そしてお客様の貴重な資産でもあります。そういう貴重なデータを守るのが我々の仕事で、そのために厳しいルールを守っているのです」という答えを聞くわけです。もちろんそれは正しいのですが、でもそれだけではないと私などは思います。
ですが、このような考え方が経験として身につまされてしまっているのでしょう。だから私が「このデータをオープンに活用しましょう」と提案しても、「データは守るべきで、使うべきではないのです」といったやり取りになりがちです。
データドリブンとかデータサイエンスなどという以前に、金融業界の閉じた文化を開かれたものにしないといけません。デジタルの背景にある技術というよりも文化、思想をオープンに取り入れていかないことには、データが使えないかと思う次第です。
神野 我々はクライアントの戦略課題、企業課題、業務課題などから、データによって解決できるだろうという観点で、打ち手を発見するということに取り組んでいるわけです。
銀行の方々は商品知識も業務知識もお金の流れも、あるいは業界ルールなどもよくわかっているから、本来データ活用が最も進みやすいはずなのです。しかし言い方は悪いのですが、巨大な足枷をつけられている感じがします。重い鉄の玉をぶら下げられていて、こんなに良い情報やデータがあるのに、しかもものすごく頭を使って仕事をされているのに、大きなチャンスを自ら失っているように見えるのですね。
やりたい人がいてやろうとしても、上長や上司に理解されず止められるといった文化があって、金融業界でデータドリブンを進めるのは大きなハードルがあると歯がゆい思いをするのです。
たとえばある金融機関で「データを見るのではなく視ましょうとか、データを使うのではなく使いこなすのがデータドリブンの本質です」という話をしたら、「そのとおりです。うちはデータサイエンティストが100人います。データの民主化もできています」とおっしゃるのですね。「それはすごいじゃないですか。どういうことをされているんですか?」と尋ねると、「全員Tableauが使えます」と言うのですよ。多くのTableau使いが存在することはよいことでありつつも、それって「データドリブンなのか?」、「データの民主化なのか?」という大きな疑問が残ってしまいました。
この疑問を考えていたときに、先ほどデータドリブンの実現レベルがピラミッド構造になっていることを思い出したのです。つまり企業によってデータドリブンのレベル感や到達地点が違うことが最近すごくよくわかってきて、大手の金融機関は組織一丸となって何かを成し遂げるのがゴールなのだろうけど、地銀であればもっと小さく、たとえば個人ペースでもいいからデータドリブン的な活動ができればそのほうがハッピーなのかもしれない――と思うようになったのです。松・竹・梅的な支援の仕方、その企業が求める恩恵の大きさに合わせたやり方があると今は思っています。
我々ももっとフレキシブルにならないと、専門家が来て小難しいことを言って帰っていったとなるだけです。そういう反省を踏まえた上で、もっと日本企業に合ったデータドリブンの文化を発信していかないといけないと考えるようになりました。専門家という地位はキープしながらも、よりクライアントに近しい存在になれたらいいなということです。
この記事の続きはこちら
データドリブンがもたらす金融業界の未来(後編)
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