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IT、物流、製造など、サプライチェーンの各領域で積極的に内製化を推進していることで知られているニトリホールディングス(以下、ニトリ)が、次なる内製化のターゲットと定めたのがデータ活用だった。ニトリが掲げるビジョン、内製化にこだわる理由、およびデータ活用内製化の具体的な取り組み内容について、同社のプロジェクトチームおよびそれを支援するブレインパッドの代表メンバーを集めて話を聞いた。その中で浮き彫りになったニトリの内製化へのこだわりと人材育成哲学とは?
■プロジェクト概要
■登場者
※所属部署・役職は取材当時のものです。
DOORS編集部(以下、DOORS) 最初に家原様が担当されているIT戦略チームのミッションを教えてください。
株式会社ニトリホールディングス、家原淳氏(以下、家原氏) 主に3つの仕事があります。1つは、CIO、室長の補佐としてITに関する中長期計画を立てること。2つ目は、戦略的なITプロジェクトを推進すること。もう1つが、データ分析のテーマを選定し、その実践を通じてデータ活用人材を育成することです。
DOORS ニトリグループでは、「住まいの豊かさを、世界の人々に提供する。」というロマンを実現するために、中長期ビジョンとして「2032年に3,000店舗、売上高3兆円を実現して『世界の暮らし』提案企業になる」を掲げておられます。
そのロマンとビジョンへの道筋をIT側からの視点で見た図があり、今回取材対象としているプロジェクトでは、「社内外データ活用、AI」の部分を強化しようとしていると認識しています。そこに至るまでの背景について教えてください。
家原氏 ニトリでは、ITに関する内製化を実現していることを強みの1つと考えています。ただアメリカの先進リテール企業の調査、国内のデータ活用先進企業のお話を伺う中で、弊社はデータ活用がまだまだ弱いと感じました。そこで、分析IT基盤構築、分析人材の育成、具体的なテーマによる成果出しの3つをテーマに掲げて進める計画としました。
その中で、ニトリでご購入頂くお客様を増やしてゆくことをテーマとし、テーマの実践を通じて分析人材を育成することが、今回のプロジェクトの大きな方針になっています。
DOORS プロジェクトの中で「内製化」がキーワードの1つになっていると思うのですが、その意図は何なのでしょうか。
家原氏 そもそもニトリではITだけではなく、全般的かつ継続的に内製化に取り組んできました。その一環として、今回はデータ分析の内製化に着手したということです。その意図は、自社のビジネスや業務がわかっている人間が分析することで、分析のための分析に留まらない高度な分析を可能にしたいということです。そうすることによって、会社はもちろん、その先にいるお客様にもデータ分析による価値を提供できると考えているのです。
DOORS 内製化の支援パートナーとしてブレインパッドが関わるようになった経緯を聞かせてください。
株式会社ニトリホールディングス、小林桂氏(以下、小林氏) 現状がどうなっているかを把握するためのアドホックなデータ分析は、福井・小倉を中心に2018年頃から行っていました。ただデータを整備しているのは情報システム改革室で、それに対して各事業部署が必要なデータを要求して出してもらう形になっていたため必要最小限な分析しかできなかったのです。
せっかく多様なデータを持っているので、部署をまたがって活用できれば、様々な価値が生み出せると考えたのと、既存のデータ基盤が古くなったので作り直すことにしたのが契機でした。
データ基盤を整備するのなら、それを使いこなす技術の習得も必要だということになり、システム部門のエンジニアや営業企画のマーケティング施策担当者、さらに、各事業部門の異なる様々な役割のメンバーに参画してもらい、既にある程度できる人はより専門的にできるように、できない人はできるようになるという目標も同時に掲げました。
ブレインパッドに提案を依頼したのは、このうちの「ある程度できる人をより専門的にする」という部分でした。言い換えると、ニトリが大事にしているビジネスの構造の深い理解をデータから導き出せる人材をどうすれば育てられるのかを提案してほしいとお願いしたのです。
DOORS ビジネスの構造とは?
小林氏 たとえばニトリのお客様は年何回店舗に訪れるものなのか、少ない回数でも1回にたくさん買っていただけるのがいいのか、足繁く通っていただけるほうがいいのかといったことです。そういうことがわかった上で、その理解をもとに継続的に成長していくにはどうしたらいいかを考えるところが、ブレインパッドと一緒にやらせてもらっていることです。
家原氏 いくつもの会社の中からブレインパッドを選んだ理由は、大きく2つありました。今、小林の話にもあった、ビジネスの構造全体をきちんと分析するという提案をもらったことと、内製化の先生役として参加してもらえるという提案をもらったことです。それが昨年の夏頃でした。
DOORS 内製化で目指している定量的・定性的目標を教えてください。
家原氏 データ分析に関するベーシックなスキルは全社員に身につけてもらい、そこから2025年までに専門的な分析知識を持った人材を1,000名規模で育成しようという目標を掲げています。
DOORS ベーシックなスキルと専門的なスキルの違いは何なのでしょうか。
家原氏 ニトリでは観察・分析・判断の3つを「観・分・判」と称しています。観・分・判に基づいて、全社員が数字で会話する文化を定着させようとしてきました。
小林氏 分析に関して言えば、高校や大学で学ぶような基礎的な統計を使えることと、それが業務とどう結びつくかという基本的な理解ができていることがベーシックなスキルの目標レベルです。ニトリでは週ごとの売上といった様々な数値データを現場に出しているのですが、そういう数字がどう解釈できるのか、変な数字が混ざっていなかったか、その数字は良いのか悪いのか、次はどうアクションすればいいのか――そういう理解ができることが最初の目標です。
ビジネスを変えていくには、どういうデータが必要で、それはどこにあるのか、どのデータで説明すればより伝わるかがわかるのが、さらに上のレベルです。せっかく良い分析ができても、それがわかりやすく伝わらないのでは意味がないという考えに基づくもので、まさにそこが、今回ブレインパッドや社内から多くの指摘をもらいながら、何とか磨き上げていった部分になります。
DOORS その中でニトリ様としてこだわってきたのはどのようなことだったのでしょうか。
株式会社ニトリホールディングス、小倉拓也氏(以下、小倉氏) 「現場感覚」でしょうか。数字を見て現場で何が起こっているか推察する力が大事だと白井社長も常に言っており、私もまったく同感するところです。私自身は、店舗経験が7年ぐらいあり、従業員の業務内容や考え方はもちろん、お客様がどういうことを考えて買い物をされているのかをずっと見てきました。出てきた数字を見て、その意味を<お客様の言葉>としてどう解釈するかは、現場にいた人間でないとわからないところですので、そこにはかなりこだわっています。
DOORS たとえばどんな数字を見て、どんなことが考えられるのでしょうか。
小倉氏 いわゆる「商品の併売」ということが、数字から読み取れることがあるのですが、それは本当にお客様にとっていいことなのだろうか。我々売る側の立場だと、例えば家具を選ぶ際にできるだけ多くの関連商品も一緒に買ってもらうことを目指しがちなのですが、お客様と向き合ってきた現場感覚として、特に家具のような耐久消費財を選ぶ際にはじっくり時間をかけて検討し、大きな労力がかかることを知っています。ゆえに、当日にまとめ買いではなく、後日またゆっくり検討するという行動が相当数あると想像できる。ならば、お客様の視点で「家具の関連品」を見るうえでは、ある程度期間を取って見ていくほうがいいのではないか――質問への答えになっていないかもしれませんが、こういう発想ができるかどうかが、現場感覚があるかないかに関わってくると思っています。
株式会社ブレインパッド、川島浩誉(以下、川島) 同じ買い物で何を買っているかはデータを見れば、ブレインパッドの私たちにもわかることなのですが、小倉さんや福井さんが同じデータを見たら、お客様が店舗の中の物理的な棚をどう移動しているかをイメージしながらデータを解釈できるのです。それは店舗経験のない私たちにはまず不可能なことで、これこそが小倉さんの言う「現場感覚」なのでしょう。
株式会社ニトリホールディングス、福井裕也氏(以下、福井氏) 分析しかできない分析人材を育てたくないという気持ちがあります。ニトリの社内では分析だけできても褒められることはありません。分析の結果が伝わって初めて意味があるという考え方なので、資料のまとめ方が良く、わかりやすい報告ができる人を育てることを目指しています。もしかしたら他社では、この人は分析する人、この人は文書にまとめて報告する人といった役割分担もあるのかもしれませんが、ニトリでは両方できる人が必要とされるのです。
DOORS 本日は「ニトリデジタルベース」で取材させていただいております。ニトリデジタルベースの設立目的と今回のプロジェクトとで関連することがあれば教えてほしいのですが。
家原氏 「我々ニトリはデジタルに本気で取り組んでいる」ことが外部に伝わりやすくなり、採用を強化しているデータサイエンティストの方の応募が増えている状況になっています 。実際に採用したメンバーの何名かは既に今回のプロジェクトで活躍してもらっています。
DOORS 今回のプロジェクトの概要を教えてください。
家原氏 最大の目的は、将来にわたってお客様の数を増やし続けるということです。大きく3つのフェーズに区切っていて、フェーズ1と2で分析をして、3で施策を実行するという計画で始めました。現在はフェーズ3に入っていまして、5月末にプロジェクトはいったん終わる予定です。開始したのは2022年9月で、各フェーズの期間は3カ月ずつです。
フェーズ1と2は私がプロジェクトマネージャーをしていました。フェーズ1は、顧客の構造を理解するということで、顧客数や顧客属性などを大きく理解しました。営業企画室のトップとも相談しながら、何を見るか、どのように進めていくかという方針も立てていきました。データだけ見ていてもだめだということで、どのような視点で見ていくのかを彼とプロジェクトのメンバーでとことん議論しました。
さらに顧客構造を深掘りしながら、お客様の行動の因果関係を分析したのがフェーズ2です。アプリとECサイト上の行動データから、お客様は購買するまえにどういう行動をしているのかを探りました。
小林氏 フェーズ1と2の違いを、私が取り組んでいた事例で補足します。売上を増やす場合にはお客様の1回の購入単価を上げる方法と、平均単価よりも購入回数を増やす方法の大きく2通りが考えられると思います。そのうち購入単価を上げる方法は、どちらかと言うと商品そのものの価値に依存する部分が大きいので、データ活用のターゲットとしては、購入回数を増やすにはどうすればよいかに焦点を当てることにしました。そこでお客様の購入回数を調べて、多い人はどんな行動をしているのかを分析したのです。たとえば購入回数の多い人の1回の購入点数や購入した複数の商品から何らかのストーリーが組み立てられるのか、といった構造を把握したのがフェーズ1です。
フェーズ2では、購入回数が増えている人たちと増えていない人たちに分けて、増えている人たちの行動を詳しく分析して、増えていない人たちにどんな行動を取ってももらえば購入回数が増えるか、その行動を変える起点はどこかに着目して分析しました。分析してみてわかったことは、スーパーの買い物は今週の献立はどうするか、といった買い合わせに明確なストーリー性がありますが、それとは違って、ニトリで取り扱う衣食住の住に関する買い物は、あまり順序性がなく、都度必要なものを買っていることでした。価値のある発見でした。
家原氏 フェーズ2の分析結果を踏まえて、実際の施策を実行しながらPDCAを回すのがフェーズ3で、今まさに取り組んでいるところです。フェーズ3からは福井にプロジェクトマネージャーを引き継ぎました。
DOORS プロジェクトを通じて実現したいことは何でしょうか。(データ活用プロジェクトには、いくつものサブ・プロジェクトのようなものがあるのでしょうか。)
福井氏 プロジェクトは5月でいったん終わりますが、最終的な目的はここまでやってきたことを活かして、データ活用人材を拡大していくことで、その目標は先ほど家原から申し上げた通りです。データ活用人材を拡大する目的は、これも既に申し上げたことですが、具体的に入ってしまえば売上などビジネス価値を出すことで、そこにブレはありません。
DOORS ブレインパッド側のメンバーに質問します。今回ブレインパッドはプロジェクトにどのように関わったのでしょうか。またプロジェクト進行について留意している点などがあれば教えてください。
株式会社ブレインパッド、八木理恵子(以下、八木) 最初のご提案のときには、私たちが分析をして施策も実行し、報告を通じて分析のやり方を伝授するという形だったのです。それがニトリ様からのご要望で、分析の仕方を私たちが家庭教師的に教えて、ニトリ様が実際に手を動かすという形にシフトしていきました。実際自分たちで手を動かすことでかなりスキル的な成長があったと思います。
川島 実際にプロジェクトが始まってからは、ニトリ様には内製化志向や現場主義のカルチャーがあることから、店舗経験を積んだ方が自ら分析をするという前提で支援を進めました。また先ほど福井さんからもありましたように、我々との契約は5月でいったん終了しますが、ニトリ様内部ではその後も続くことを踏まえて、ニトリ様側でどこまでできるようになっていればいいか、また我々としてはどんな成果物を残していけばいいかに心を砕きました。
伴走と言っても、我々が代わりにやってしまうと身につきませんので、なぜこういうことをするのか考え方も伝えながら、極力自分たちでやってもらうことに留意しました。これは我々だけでなく、ニトリ様側も意識していたと感じています。
DOORS そのように意識すると、成果物はどう変わるのでしょうか。
川島 ニトリ様側のプロジェクトメンバーがこのプロジェクトで背負う使命は、大きく2つあります。1つは自分自身が分析人材として高度化し、施策を立案・実行できるようになるということで、もう1つは、その施策で売上を上げるなど、実際に効果を上げるということです。そうなるとフェーズ3の範囲内で効果を上げる必要もあるわけですが、それに集中しすぎてしまうと、プロジェクトが終わったあとに、今度はニトリ社内の分析人材を育成するという使命もありますし、一方で施策による効果を上げないといけないのも続いていくわけです。したがって今後どうしていくべきかということを考える上で必要なものを残すことに留意して成果物を作るようにしています。
DOORS 今後人材を育てていくためのマニュアルを作るといったことを想像していました。
川島 マニュアルを作ることも1つの方法ですが、自前で人材を育成していくのに何が必要かというリストがあれば、自分で書籍などから調べることができますので、そういったリストを作るようにしています。
DOORS プロジェクトを通して苦労したこと、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
株式会社ブレインパッド、村田忠久(以下、村田) 今まで私が多く関わってきた受託分析では伝える必要のなかったことも、内製化支援となると細かく丁寧にお伝えする必要があります。そういう進め方の違いによる苦労はありました。ただ今回のプロジェクトではニトリ様とブレインパッドのメンバーごちゃまぜでチームを組み、分析を行っていくというやり方を取りましたので、先ほど小倉さんの説明にもありました分析結果として出てくる数値の裏にある顧客の思いなどは受託分析ではわかりづらいところなので、そういったことをコミュニケーションとりながら把握し進められたことで、私たちが得たものも大きかったと思います。
DOORS これは大変だと思ったことはありましたか。
村田 受託分析だと手法についての具体的な説明をしなくてもいいことが多かったのですが、内製化支援だと突っ込んでお話しする必要も出てきます。そこを専門用語に頼らずに噛み砕いて伝えるのはなかなか大変でした。
DOORS 支援を受ける側の苦労はありましたか。
家原氏 このプロジェクトは、経営トップに報告するプロジェクトに指定されていました。ニトリの基本的な経営理念に対して、データ分析がどこまで価値があるのかをトップに納得していただきながら進める必要があったからです。そのため経営者の立場からはどのような問題意識があり、それに対して今回のプロジェクトがどう応えてられるかを意識する必要がありました。そのためのストーリー、報告資料は非常に苦労しました。
小林氏 内容を振り返るとデータ分析と示唆の発見ができるエンジニア向け技術習得ではなく、現状を把握し、ビジネスを変える説得を行うビジネスコンサルタントの育成講座という面があったと思うのですが、私自身はそのような能力開発もプロジェクトの目標にしていると認識できておらず、目標を誤認していました。また、そのようなキャリア形成を意識していなかったのです。会社からもそのような方向を目指せとは言われていなかったと思っていました。自分への期待をしっかり認識していた他のメンバーがどんどん成長していくのに対して、認識の足りなかった私は何でこんなことをしているのか自問自答しているうちに出遅れてしまいました。
八木 データ分析を教えるのがメインでありつつも、今回はロジカルシンキングやプレゼンテーション、報告書の書き方等々も教える内容に含まれていました。そこはどう伝えればうまく伝わるのか、ブレインパッドとしても難しかった部分です。
小林氏 そのように世間一般のビジネスコンサルタントに求められているスキルをフェーズ2までの6カ月で一気に獲得せよと言われたので、そんなつもりのなかった私は面食らったわけです。それでもようやく12月頃になって自分に求められていることを理解し、キャッチアップできるようになりました。
家原氏 出自の違いはありますね。小林はエンジニア出身なので抵抗があったようですが 、福井と小倉は営業企画出身でしたので抵抗なく入れたようです。
DOORS エンジニア出身者よりも企画部門出身者のほうが内製化人材としては早く育ちやすい面もあるということですね。やや意外も聞こえますが、他社からも同じような話を聞いたことがありますので、わかる気がします。
DOORS ニトリ様としての内製化の取り組みという視点だと、今どのぐらいの地点まで来ているのでしょうか。
家原氏 2025年の目標をいったんのゴールとすると、まだ2合目から3合目といったところでしょうか。まだまだ先が長いという感覚です。
DOORS プロジェクトにおける人材育成の進捗状況はいかがですか。
川島 育成対象としては、出席している3名様だけではありません。彼らはリーダー格で他に何人もの若いメンバーがいます。先ほど小林さんから出遅れたといった発言もありましたが、自分に求められていることを理解してからは瞬く間にキャッチアップしました。ここにおられる方々は、当初想定していた以上に早い成長をされたと思います。しかしそれ以外の方々の中には残された時間の中でてこ入れが必要な方もいるのが事実です。そこをどうするかが現時点での課題で、対策としては、最終的に間に合わなかったとしても、その後他の方が育成できるようにすることを考えています。
DOORS ニトリ様に伺います。今回のプロジェクトを通じて、できるようになったことや意識の変化などがあれば教えてください。
小倉氏 一言で言うと総合力が身につきました。テーマに対して、分析の設計をして、実際に分析して、結果を読み取って、文書にまとめて、言葉で伝える――という一連のスキルが全て鍛えられたと思います。特にストーリーの組み立てにはずっと苦労してきて、フェーズ1、2ではフィードバックの「千本ノック」で当たって砕け続けてきました。どうしても目先の材料で話を組み立ててしまうという癖が抜けずうまくいかなかったのですが、繰り返し試行錯誤するうちに、ある日突然目の前がバッと開けたタイミングがあり、一段成長した実感が得られたのです。
DOORS そういうタイミングは、教える側もわかるものなのですか。
川島 そうですね。定期的に分析結果の報告プレゼンテーションがあるのですが、それを見ていると顕著に成長があったときははっきりわかります。小倉さんについても思い当たることがあります。
福井氏 私の場合は、無駄がなくなって、一つひとつのことが速くできるようになりました。ゴールから逆算ができるようになったからだと思います。
川島 福井さんは、元々器用な方だなと思っていました。なのでコツをつかむのも早く、すぐに速くできるようになりました。そもそもやるべきことを絞り込むのが上手な方なのですが、その能力がさらに深まったのではないかと思います。
家原氏 福井は、課題の設定が本質を突いていると思います。それはやはり現場の経験が長いからでしょう。
DOORS 小林さんは、コンサルティング能力が身についた、というお話でしたが……。
小林氏 はい。まだまだ中途半端と自覚していますが、それはそれで実はプラスになっていることがあります。先ほどデジタルベースを作ったおかげでデータサイエンティストが採用できたという話がありました。専門性の高い優秀な人で、いわゆるKaggler なのですが、そのような人たちを採用してもニトリのビジネス、生産性をより良くするために必要な業務プロセス、成果物の出し方といった価値観とは合わないことも多いのです。
入社して半年ぐらい、ニトリの価値観と自身の価値観の間で葛藤する人が多いのです。しかし私自身にニトリの現状や目標を分かり易く、正しく理解してもらえる「伝える力」
とデータサイエンティストの価値観を理解する力の両方が身についたおかげで、会社と専門人材の架け橋ができるようになりました。この2カ月で採用した人たちも、そのせいかすんなりニトリに溶け込んでいるようです。
DOORS カルチャーがしっかりしている会社が専門性の高い人を採用すると受け入れが難しい――言われてみればそうなのかもしれません。
小林氏 多様性を大切にすると言うのは簡単なのですが、いざ採用してみたら会社の文化と合わないで苦労する人が多いのです。今回のプロジェクトを通じて、そういうことが減らせていけるのではないかと考えるようになりました。
DOORS デジタル人材を採用しようとしている全ての会社の参考になる知見をいただいたと思います。
家原さんがリーダーとして成長を感じるようなことはありましたか。
家原氏 データ分析プロジェクトの進め方の理解だけではなく、構造を捉える大切さがよくわかったことで、IT戦略を考える上でもより構造を意識するようになりました。それが私としては大きな成長だと思っています。
DOORS 今後は分析結果をマーケティング施策などに落とし込んでPDCAサイクルを回していくことになりますが、その際には社内の様々な部署を巻き込んでいくことになると思います。具体的にはどのような部署とどのような連携をしていくことになるのでしょうか。
福井氏 すぐに連携を考えている部署としては、営業、EC、アプリ、広告、営業企画などが考えられます。
DOORS 顧客分析が活きる領域ですね。取り急ぎ着手しようと考えている施策を差し支えない範囲で教えていただけますか。
福井氏 まずは小さなことからになりますが、引っ越しするお客様にメールで販促をするとか、分析結果に基づくECアプリのUI/UXの改善などがすぐに取り組もうとしているテーマです。また詳細は言えませんがプロジェクトとは別途行ってきた分析の結果がありますので、それを店舗の売り場に反映することを提案しようと思っています。
DOORS 分析に基づくUI/UXの改善というのは具体的にどういうことが考えられるのでしょうか。
福井氏 お客様にいろいろと商品を見ていただきたいので、一覧性を高めて比較しやすくするとか、導線を工夫するとか、そういう基本的な改善がデータ分析で効果的に行えるようになると考えています。ここをこう変えれば売上がこれだけ増えるとまでは言えないのですが、ここを変えるとチャンスが広がるはずだという提言はできます。
DOORS 今回のプロジェクトを通じてわかった、ブレインパッドから見たニトリ様の強みは何でしょうか。
八木 実は、コンサルタント向け研修のケーススタディで学んだことがあったので、ニトリ様の教育制度についてある程度知っていたのです。配転教育と呼ばれるジョブローテーションにより様々な部署を経験して、全社最適で物事を考えられるようになろう、その上で自分のプロフェッショナルな領域を築いていこう――といった教育をされていると理解しました。現場感覚をダイレクトにデータ分析に活かせるのは、そのような教育の成果による強みではないかと思います。
この教育制度のおかげで、サプライチェーンの上流・下流のそれぞれに広げていくこと容易にできるでしょうし、それぞれの専門性を持った方々がその領域でデータを活かしていくこともすぐに可能になると思います。
DOORS 家原さんに伺います。そのような教育制度の背景には、何らかのフィロソフィーがあると思うのですが、紹介していただけませんか。
家原氏 ニトリには、「教育こそ最大の福利厚生である」 という言葉があります。
川島 ニトリ様が教育に熱心であるというのはまったく異論ありません。制度以外の話をしますと、報告相手の方々が大変厳しい意見を述べられるのですが、厳しさの中にも教育指導を意識しているのがわかりますし、受け取る側も非常に熱心にメモを取るなど吸収しようとする姿勢を顕著に感じます。指摘されたことはみなさん、次に反映するようにしていますし、指摘した側も指摘したことはしっかり覚えていて、「よくやった」という労いの言葉を忘れません。教育が文化として根付いているのでしょう。
家原氏 確かに厳しい指摘をもらうことは多いのですが、本気でお客様のお役に立ちたいとか、人を育てたいという気持ちも同時に伝わってくるので、厳しい言葉も受け入れることも出来たと思います。
川島 外から見て客観的に思うのは、たとえば家原さんがいろいろと相談していた営業企画室のトップの方は大変お忙しいはずなのに、週に何時間もこのプロジェクトのために時間を確保しておられました。どこにそんな時間があるのだろうと思います。厳しいことも言われますが、言いっぱなしではなくケアも十分しておられ、だから厳しい言葉も受け入れられるのだと思います。
DOORS 方針等はしっかり伝えた上で指示される感じなのでしょうか。
家原氏 そこは教育的意図があって、本人の中にはあるのでしょうけれどあえて伝えず、まず私たちに考えさせるようにしているようです。
川島 プロジェクトの節目で経営チップへの報告会があるのですが、様々な点でフォローする様子も見かけました。終わってからも労いの言葉をかけておられました。
DOORS なるほど。データ活用プロジェクトにおいてはトップ層の関与の仕方がとても重要だと取材のたびに思うのですが、どの役職の方も理想的な関わり方をされていると感じました。
ブレインパッドから見た、今回のプロジェクトを通じてのみなさんの成長ぶりを総括してください。
八木 分析のスキルが高まったことももちろんあるのですが、営業企画室のトップとのやり取りを通じて、みなさん説明の能力が見違えるように向上したと思います。ここにおられる4名以外の若手の方々もそのやり取りの場に参加できたことで、報告の仕方がわかったり、報告の能力を身につけないといけないと実感できたりしたことは、大きな財産になったのではないでしょうか。
川島 経営指標を向上させるために分析をしているのだという当事者意識の強さと、その背景としてしっかりした教育制度があるというニトリ様側の要因が、メンバーの成長を大きく促したと思っています。
DOORS プロジェクトももうすぐ終了しますが、その後の展望について聞かせてください。
川島 2032年の数値目標を達成するために、社内で粛々と進めていくというのが今後の展望になります。そのためには、自社のビジネス・業務を知っている人間がデータを活用していくのが基本になります。
家原氏 活用分野としては、営業系・顧客系だけでなく、サプライチェーンなど様々な分野があります。その中でブレインパッドとまた一緒に仕事ができることがあればいいなと、個人的には思っています。
今回のプロジェクトでは私たちも苦労はありましたが、ブレインパッド様にもまた苦労があったと思うのです。実際、かなりの時間を割いてもらいました。川島さんに何度か夜遅くに来てもらって、打ち合わせをしたことがあります。データ分析の話だけでなく、分析結果をビジネスに活かすにはどういう視点で整理すべきなのか、どう言えば関係者に伝わるのかといったことも相談させてもらいました。
プロジェクトをここまで続けるにはいくつかの関門があったのですが、それを突破できたのもそうした指導のおかげであり、私たちだけではここまで来られなかったと思っています。このプロジェクトの成果によって今後のデータ活用人材育成の道が開けたわけで、その点について本当に感謝しています。
DOORS データ活用人材育成や内製化を推進する上で多くのヒントをいただいたと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
※ブレインパッドが支援した他企業様のDX事例26選はこちら
▶【DX事例26選】成功事例から学ぶビジネス革新の方法論
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