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営業組織力向上とハイパフォーマー育成による顧客満足度向上に焦点をあてて、一般的に難しいとされる人事データ活用にいち早く取り組んでいる東海東京証券株式会社。同社の代表取締役社長・北川尚子氏と、同社の人事データ活用に関する取り組み(営業生産性向上Project)を支援したHRD株式会社の代表取締役・韮原祐介氏、株式会社ブレインパッドの代表取締役社長・関口朋宏の3人に人材・組織データ活用の重要性や可能性について語ってもらいました。
DOORS編集部(以下、DOORS) 東海東京フィナンシャル・グループでは、2022年4月から5カ年の中期経営計画に取り組んでおられます。グループの中核企業である東海東京証券株式会社の代表取締役社長という立場にある北川様から、この経営計画の要点を教えていただけますか。
東海東京証券株式会社・北川 尚子氏(以下、北川氏) 東海東京フィナンシャル・グループは2022年4月、5カ年の新たな中期経営計画をスタートさせました。「『誇り』と『憧れ』を感じる企業グループ」となることを目指しており、「“Social Value & Justice”comes first」を行動指針として掲げております。「Powerful Partners」と呼ぶ新しい仲間と手を携えることにより中期経営計画最終年度である2027年には今までとはまったく違う「異次元の世界」に到達しよう――というのが経営計画の要点になります。
また、 “Beyond Our Limits”、「限界を超えていこう」というスローガンを掲げております。これは、“Our Limits”現在の自分たちの持てる限界に、“New Bonanza”新しい機能を加えることにより、まだ見ぬ「新しい世界」、「異次元の世界」に挑戦しようという強いメッセージを込めております。
私たちは元々「わくわく」、「凡事徹底」、「学び続ける」あるいは「イノベーティブ」といった言葉を大切にしてきました。
DOORS 「わくわく」と「凡事徹底」が行動指針の大きなキーワードということですが、この2つの両立は難しいと思うのですが。
北川氏 同じことを当たり前のようにきちんと繰り返していくことが凡事徹底であり、その中にも「わくわく」を感じていきたいと考えております。
もしかしたら、業務自体は朝同じ時間に出勤して、同じ仕事をするという単調なものなのかもしれませんが、証券会社の仕事はマーケットの動き、株式、金利、為替等日々の変化、経済のダイナミズムを強く感じるものです。お客様にそのような今起きている市況の変化、今後の見通しなどを話す中で、「わくわく」することは多くありました。
DOORS 東海東京証券の中期経営計画を拝見していると、「人的資本経営」を強く推進されている印象を受けます。本記事では、「人事DX」や「人材データ活用」が大きなテーマになっていますので、そのテーマに大きく関係する「人的資本経営」について、北川様のご意見をいただきたいのですが。
北川氏 「人的資本経営」という言葉は最近よく耳にしますし、「有価証券報告書」への記載も義務付けられております。私たちとしてもしっかり取り組んでいることの1つです。実は、証券業界で当社の1人当たり研修費は最も高い水準にあります。社員は「人財」であり、大切な経営資源、できるだけ様々な経験をし、自らの適正を生かしてほしいと考えています。そのためには、人事情報の可視化や社員一人ひとりのスペックなどをデータ化し活用することが必須になります。今回ご提案いただいた「営業生産性向上プロジェクト」(詳細は後述)についても少しお話しさせてもらえればと思います。私も営業に従事しておりましたが、営業手法にマニュアルはなく、各人に帰属する「暗黙知の世界」、「暗黙知からの実績評価」でした。
たとえば「彼はよくできる」や「彼はお客様から非常に愛されている」といった評価において、「彼がなぜ愛されているのか?」「お客様は彼のどこに安心感を覚えるのか?」、上司はそれがわからない。それを形式知にしてもらったのが今回のプロジェクトだったと認識しています。
人事データの形式知化は非常に効果的なものと考えます。しっかりと取り組んで、異動や評価等より実践的な活用に取組めないかと考えています。
【関連記事】人的資本経営とは?定義や注目される背景、先進的な取り組みを解説
DOORS ここからは、韮原さん、関口さんにも色々とお聞きしたいのですがお二人のバックボーン、関係性を先にお聞かせください。
株式会社ブレインパッド・関口 朋宏(以下、関口) 私はブレインパッドに入る前に16年間、外資系コンサルティング会社でコンサルタントをやっておりました。韮原さんも当時の同僚だったのですが、彼が先にブレインパッドに転職していて、その後の2017年に私もジョインしました。
HRD株式会社・韮原 祐介氏(以下、韮原氏) 私は外資系コンサルティング会社に新卒で10年近く在籍し、人材・組織のコンサルグループに所属していました。
2015年に、データとアナリティクスの経営活用に希望を感じてブレインパッドに転職しました。会社を移る前に、人材データの活用の仕方や、今の北川様のお話で言えば「暗黙知」によらない人事のあり方などをずいぶん提案したり講演したりしたのですが、反応が鈍くて、時期尚早だと感じたことを覚えています。ビッグデータなどという言葉が普及し始めたばかりのころで、「人事は数字で測れる世界ではない」という意見が多かったのです。
今はHRD株式会社という人材・組織に関するコンサルティングと企業研修、人材アセスメントに関わる会社で代表取締役を務めています。
DOORS 深い関係性ですね。10年以上前から、人事データ活用の可能性を感じていたということも興味深いです。
関口 私もコンサル時代の10年前に、とある金融機関の営業部門に営業人材のアセスメントとデータを起点とした育成モデルの抜本的な転換のような提案をしたときも、「10年早い」と言われて進みませんでした。その金融機関と御社とは別の会社ではありますが、同じ金融業の御社で10年後にその考え方を受け入れていただいたと感じています。
はたして、この10年間にどういう変化があったと感じていますか?
北川氏 先ほども話しましたように、成果が営業パーソン個人に依存している面が証券会社にはあります。
以前、私は2年間、親会社である東海東京フィナンシャル・ホールディングスの人事担当役員の任についておりました。当社グループでは、ホールディングスの人事企画部が、全グループ社員の評価や異動に関与しています。グループ全体の社員数は3,000人を超え、ある程度の定量的な情報はあるものの、定性的な情報は少なかったと思います。そこでタレントマネジメントシステムの導入等を検討したこともありました。またコロナ禍の影響は非常に大きく、リモートワークが拡大する中で、真面目、優秀と見えていた人材が実は・・・といったことも見えました。
以前、ハイパフォーマー分析をやったこともあったのですが、結果的にそれが使いこなせないまま終わってしまった苦い経験があります。今回のような本質的な部分に至らなかったからでしょう。
韮原氏 営業生産性向上Projectは「業績」という目に見える比較可能なものがあって、その業績をもたらす具体的な「行動」があって、さらにその行動をドライブする「資質」、すなわち心理的特性がある―この3層で紐付けできているところが、おそらくみなさまの納得感につながっているのでしょう。そして3層で紐付けられたからこそ、業績に結びつけるための施策も考えられるわけで、以前のハイパフォーマー分析との差はそこにあると考えられます。ハイパフォーマーがどういう人なのかわかったけれど、ハイパフォーマーを育てるためのアクションにつながらないのでは分析のための分析になってしまいます。
関口 行動の裏付けがパーソナリティだと思うのです。人的資本経営ではダイバーシティ&インクルージョンが大きなテーマになっていますが、今回御社で実施した人材アセスメントはインクルージョン推進に使えると思いました。「なぜこの人はこのような行動を取るのか」と許せないことがあったとしても、「その人のパーソナリティだからしょうがない」といった理解ができることで、インクルージョンが飛躍的に進むと考えるからです。
北川氏 会社の中には様々な人がいますし、よくダイバーシティといえば女性活用といった話になりがちです。私たち東海東京フィナンシャル・グループにはたくさんの業務があり、例えば、営業分野ではなかなか特性を発揮できなかった人材が、デジタル分野では可能性を感じさせる人材となるかもしれない――こういった可能性をきちんと理解し、適材適所に人員を配置していくことが高い生産性につながると思いますし、本人も周りも幸せになると考えます。更に、上司と部下のマッチング、行動経済学的思考を加えると、今までの上下の関係とは変化が感じられるのではないかと考えています。
DOORS 東海東京フィナンシャル・ホールディングスは、3年連続でDX銘柄に選定されています。ここ数年の御社のDX推進のポイントをお話しいただけますでしょうか
北川氏 いわゆる、「他社もやっているようなこと」は普通にやってきました。DXと言えるかわかりませんがペーパーレスにも取り組んできましたし、コロナ禍に入ってからも様々な取り組みを進めてきたと思うのですが、東海東京証券としては「データベースマーケティングの活用」に期待しています。
「データベースマーケティング」をマルチチャネルカンパニーという「非対面」を中心とした組織で推進しました。顧客とコンタクトを取るうえで、先入観なくデータに忠実に、お客様に接したことで、パフォーマンスが著しく向上しました。
グループ会社の西日本シティTT証券でも、弊社のカスタマーサポートセンターの手法を導入した結果、相当なパフォーマンス向上につながったと聞いています。「腕に覚えあり」という営業パーソンがいなくても、確率をベースに労働集約型で進めていく、たとえば休眠客の掘り起こしといったビジネスでは、このデータベースマーケティングは非常に適用しやすいようです。
グループ会社におけるデジタル事業では、スマホでワンコインから投資できるCHEER証券があります。また、スマホでの資産管理や地域創生を支援するTTデジタル・プラットフォーム(TTDP)は、2023年7月13日にゆうちょ銀行と共同でプレスリリースを発表しました。TTDPが持つ「地方創生プラットフォーム」等を活用し、ゆうちょ銀行と共同で「プレミアム付きデジタル商品券事業」を進めていくことが発表されています。
また国内不動産を裏付けとしたセキュリティ・トークンも既に複数本取り扱った実績があります。ブロックチェーン技術の活用により、投資家・発行体の皆さまに、多彩でより魅力的な投資商品、資金調達を提供する取り組みだったと思っています。
DOORS 韮原さん、関口さんのお二人は、様々な業界のDX推進に関わられてきましたが、東海東京証券および東海東京フィナンシャル・グループの取り組みについてどのような印象を受けているのでしょうか。
韮原氏 東海東京証券の佐藤昌孝会長に、プロジェクトが始まる前に何度かお話を伺って感じていたことですが、データを活用してビジネスや人を成長させる成功体験が既にあったことが大きいように思います。
よくあるのは、まずPoCをやろうということで、ある支店の20人ぐらいで試しにプロジェクトをやってみて、うまくいけば全社に本格展開しようというパターンです。今回のようなテーマであれば人事部主導でPoCをやってみて、その後事業部門側にお伺いを立てて進めてもらう形になります。しかし東海東京証券では、事業部門でデータやデジタルを活用することによる成功体験が既にあったので、最初から営業部門という事業部門主体で進められました。
関口 DXの話になると必ず議論になるのは、トップダウン型とボトムアップ型のどちらでやっていくべきなのかということです。私の答えとしては、その両方のハイブリッドでないとうまくいかないと思うのですが、この件に関して意識されていることはありますか。
北川氏 DXは、CHEER証券、TTDPなどは東海東京フィナンシャル・ホールディングス他、グループ会社が推進しています。
一方でデータベースマーケティングや今回のハイパフォーマー分析など証券ビジネスフレンドリーなサービスは、まずは東海東京証券でTryし、そこからグループ会社への展開の検討に入ります。マルチチャネルカンパニーの例に見られるように、先入観を持たずにTryし、結果に満足できるものであれば、横展開していく文化が私たちにはあります。
関口 小さな成功体験があれば、良いものはみんなでどんどん使ってみようというカルチャーがあるのがいいですよね。他社も同じように「うちの会社はそういうのが得意だ」と仰るのですが、実際に横展開している会社はなかなかありません。地域だったり特性による違いだったり横展開できない理由を挙げて、結局できていない会社が多いです。御社では良いものはどんどん使っていこうという文化が育まれていたからこそ、これだけのスピード感で実施できるのだと改めて感じました。
DXをことさらがんばってやろうというよりも、時代の流れの中で変革をしていかなければならない、コロナ禍も含めていろいろあったので変わらなければいけない、といったことをピュアにやっておられると思います。昨今、DX自体が目的化することが大きな問題になっているのですが、御社の場合それをまったく感じません。
社員がパフォーマンスを上げていく中で、社員がハッピーになったり、良い仕事をしたりするためにはどうしたらいいのかが中心的なテーマで、データやデジタルはそれを支えるための道具に過ぎないという印象を受けました。
北川氏 「変わらないといけない」という企業文化は他の証券会社よりも当社は強いと思います。例えば富裕層ビジネス、色々な会社がこのところ取組みを始めていますが、富裕層メンバーシップである「オルクドール」というブランドを10年近く前に立ち上げております。また、地銀とのジョイント・ベンチャーで証券会社を立ち上げるといった、独立系だからこそ可能なこともあります。変化していくことが一番の強さだということが、たぶんDNAとしてあるのではないかと思います。
DOORS 「顧客満足度向上と営業組織力向上の関連性」について質問させてください。今回の営業生産性向上プロジェクトでは、営業組織力向上とハイパフォーマーの育成による顧客満足度向上に焦点をあて、「どのような営業担当者の資質と行動が顧客満足につながり、業績を押し上げるのか」などをテーマに、人材アセスメントにより取得した営業担当者の資質と行動のデータを分析し、ハイパフォーマーに共通する資質や行動の特徴抽出を行う―というものでした。
一方、北川様はこれまで長らく「リテール営業に従事」されていました。そこで、できればご自身の営業経験もふまえて、営業組織力向上が顧客満足度向上に直結すると考える理由をお話しいただけますでしょうか。
北川氏 中期経営計画のKGIにNPS(NPS®は製品やサービスに対する顧客ロイヤルティ(忠誠度)の度合いを把握する指標)の20ポイントアップを掲げており、これを強力に推進していこうと考えています。証券ビジネスは変動商品、元本不確定商品を取り扱っており、例えば買っていただいた株式の価値が下がらない保証はどこにもありません。そうするといかにその営業パーソンと一緒に取引したいと思ってもらえるかに尽きますが、東海東京証券の半田支店ではNPSが半期で20ポイントも上昇したのです。リテール店では驚異的な数値です。
半田支店では、お客様が保有する商品をいくつか抽出して毎月レポートを送り、愚直にフォロー連絡を繰り返しました。次第にお客様からの信頼が高まり、当社との取引商品以外に関する情報までお話しいただけるようになりました。そこで他社商品についてのフォローも開始したところNPSが20ポイント上がったというものです。
この半田支店モデルを全社的に横展開することでNPSポイントを向上させたいと思っています。奇策はなく、まさに「凡事徹底」です。当たり前のことを当たり前に継続できるかです。続けていれば、お客様の心に届くと確信しています。これは私の長いリテール営業の経験から感じております。
DOORS 韮原さん、東海東京証券のように、人材アセスメントで取得した様々なデータから、ハイパフォーマーに共通する資質や行動の特徴を抽出することは一般的なことなのでしょうか。
韮原氏 もちろん弊社では10年以上の実績があるのですが、世の中でまだ広く一般化しているとは言えないでしょう。しかし、これからの時代の要請にとてもマッチしたソリューションであると考えていまして、これからより一層世の中に求められていくとことを確信しています。
ようやく世の中で人的資本経営と言われるようになってきて、それが追い風になるとは思いますが、私たちも人材アセスメントを売りたいわけではなく、個性が輝き出したときの社員の方々の顔が見たいとか個々のお客様の人生に寄り添いたいという気持ちのほうが強いのです。
北川氏 ちなみに、導入した企業の業績が向上した実績はあるのですか。
韮原氏 例えば比較的最近ですと、ハイブランド企業で人材アセスメントと弊社の研修を通じて、店長・副店長クラスが自身の強み・弱みを認識した結果、店舗全体のチームワークがよくなり、コロナ禍においても過去最高の売上を記録したというご報告をいただきました。今回東海東京証券様ではABテストのような形で効果検証をしていただいていますが、これまで実際に導入した企業では、感覚としてはすごく役に立ったという感想をいただいているのですが、今回のように具体的な業績にどう結びついているかを実データで科学的に検証するような取り組みは稀だと思います。
御社のようにすでにデータベースマーケティングの中で具体的な効果検証をする感性や文化をお持ちの会社とご一緒できるのは画期的なことだと感じています。伝統的な人事部主体のプロジェクトでは、人事施策で実験して効果を検証するというようなマーケターのような発想の取り組みになりづらいのです。
実感として、人材アセスメントを通した体験の効果を感じている方がほとんどなのですが、それをエビデンスで証明するとなると、まさにKGIをどこに設定するのかが問題になります。最終的な業績なのか、顧客満足度なのか、社員のエンゲージメントなのか、上司と部下の関係性のスコアなのか。人材や組織のデータと業績の関連を科学していく取り組みは、まだまだこれからだと思います。組織のエンゲージメントや心理的安全性が高いと、業績が高いといった研究はありますが、それを個々の人材の個性や資質まで含めて解き明かしていく今回の取り組みは新奇性が高いと思います。
関口 「ずばり誰が優秀ですか?」と聞かれることがあるのですが、優秀さは1つのパターンでは決められないということです。今回の人材アセスメントには2つのメリットがあったと私は思っていて、1つはハイパフォーマーになり得るポテンシャル人材が見つかったこと。もう1つは営業ではローパフォーマーかもしれませんが、もっと向いている別の仕事に配置転換すれば本人も会社もお互いハッピーになれる可能性があるという2つのゾーンが見えたことだと思います。
ポテンシャル人材をハイパフォーマーにするときに、その差分を埋めていくプロセスを科学しないといけないことが次のひと手間になると思っています。トライ&エラーが必要ですが、育成はどうしても時間がかかることなので、仮説検証の1つ1つのサイクルが長くなってしまいます。そこを耐え忍ぶことができるかどうかが大きなポイントだと思います。
ハイパフォーマーがどうやってポテンシャル人材から脱却したかはインタビューをしてもよくわからないです。「あのときあの上司と出会ったから」とか、「あの仕事がきっかけだった」ということは聞けたとしても、分析のためのデータにはならないからです。これが1つ大きな課題でして、すごく抽象的だったり定性的だったりするものを、分析可能な類似データから何とか探し出してくるアクションを取り続けないといけません。そして長時間かかる仮説検証をやり続けることでしか、ポテンシャル人材をハイパフォーマーにする成功確率が上がりません。このプロセスをもっときちっと分解することが次のステップなのですが、それこそ人事ってデータがないんですよね。
北川氏 まさにその通りですね。
関口 実はブレインパッドの採用の一場面で、HRD社のソリューションを使っています。誰と誰がマッチするのかが見えない中で、いったん4名ぐらいをハイパフォーマーに設定して、それを元にモデルを作って、マッチ率が85%を下回ったら採らないと決めていたのです。
私が採用に関わっていなかった当時、部下が選考を進めていた人材がいました。最終面接後、私は違和感を覚え、プロファイルを見たのですが、70%ぐらいのマッチ率でした。もちろん先入観を持って物事に臨むのは良くない面もあります。しかしファクトはファクトとして把握して臨むことはとても重要だと思うので、まずデータを見る癖をつける。一応自分なりに客観データを理解した上でアプローチするのと、まったく見ずに勘で臨むのとは大違いです。
北川氏 私も経営者として数字から読み取ることがとても多いので、今おっしゃったことは非常に納得できます。人と人との組み合わせについては、私たちの世代ですと「あのとき人に恵まれた」「私は運が良かった」という話になってしまいがちですが、今のお話の通りにデータを把握していくことで必然に近づいていきます。必然性を持ってやっていけば、それが社員の幸せにもつながり、社員が幸せになれば組織力が向上して、会社の業績も向上するはずです。
関口 仮説検証のスピードが上がるんですよね。データの使い方は、どちらがいいかはわかりませんが、成功確率を上げるのか、失敗確率を下げるのか、そのどちらかです。仮説を立てる際、データに基づくとあまりにも的外れな仮説にはなりません。データが1回取れれば、実施したあとの結果も見える仕組みになり、仮説検証のスピードが上がります。仮説検証のスピードが上がると成功確率も圧倒的に上がります。そのスピード感を文化として根付かせながら進めていくことです。金融機関は数字を見ることに関してはネイチャーがありますので、その能力を活かせれば、どんどん仮説検証のサイクルを回せるのではと思いました。
韮原氏 データ活用も人材アセスメントも確率のマネジメントだと思っています。気をつけていることは、一度作ったモデルが一人歩きしないようにすることです。マッチングモデルは主に過去データに基づいて作るわけですから、当然過去の成功について説明するものになっています。そうなると御社のように、「異次元の世界」を目指すとなると、その世界の成功者は過去の成功者とは資質が違う可能性があるわけです。そういったところをマネジメントしていく必要があるということで、マッチングモデルも戦略や様々な状況に応じたメンテナンスをしていかなければなりません。
関口 まずは統計的に確率の高いところを見極めてしっかりやるのがセオリーですが、そうすると今度はズラしが欲しくなるのですね。マーケティングの世界もそうですが、統計的に確率が高いことをやり続けると同質化してくる怖さがあります。やはりバリエーションが必要で、マーケティングで言うと、「確率重視」だとみんなが買っているものをお勧めすることになってしまうのですよね。それでは飽きてしまうので、あえて外れ値を提案してほしいと思うわけです。
要するに「セレンディピティ」が欲しいということです。しかし何が本質かがわかっていないと何がセレンディピティかもわかりません。結局何が真ん中かがわかる統計的な感覚をいかに持てるかどうかが確率のマネジメントになります。
韮原氏 組織も均質化するとつまらなくなるので、外れ値となる人も必要です。
北川氏 そうですね。いい意味で、突き抜けた人がいないと何も生まれないですね。
関口 長期的な成長を考えたときには、均質な人材ばかりでは次の成長材料が見つけられなくなって、どこかでサチュレーション(飽和)を起こすということだと思うんですね。ここは怖いところだと思いますので、人材の底上げは常にしながらも、次の成長材料を埋め込んでいくようなことを、データを見ながらやっていくのは、1つ新しいやり方だと思います。
DOORS ここからは、今回実施した人材アセスメントに話を移したいと思います。資質と行動の関係がいろいろと明らかになったということで、一例として事業開発精神があふれる態度とか見込み客のニーズ明確化といった資質が行動に結びつくということがわかったとありました。
韮原氏 トップパフォーマーで特徴的だったのが、「数的推理」です。株価もやはり全部数字ですしお客様の成果も数字なので、数字からどれほどのことを読み取り、推理ができるかから始まって、それを結局お客様との関係構築のためのコミュニケーションにうまく役立てているということです。また数値から読み取れる示唆から、お客様に「こういう提案をしてみよう」といったことができるのが、御社のトップパフォーマーの特徴的なところだと感じます。
北川氏 お客様がお持ちの資産の中からどれぐらいを動かす可能性があるかといったことを優秀な営業員はたぶん数的推理はできるのですよね。そして嗅覚も優れていて、どのタイミングでお客様に提案をしに行ったらいいかもわかります。
関口 提案において根拠や納得感が重要ですが、いかに数字でロジカルに話せるかが鍵になります。
北川氏 数字もそうですし、お客様が好みそうなストーリー展開をくみ取るセンスもありますね。結論から聞きたい人もいれば、詳細から聞きたい人もいます。それも、数的推理が高ければセンスが研ぎ澄まされると思います。
韮原氏 ❝業績ポイントに寄与する「資質」と「行動」の特徴抽出❞という項目がありまして、そこに「寄与度トップ3」があります。業績ポイントにどんな行動と資質が最も関係があるのかということです。資質としては「高い主張性」が一番に上がっていて、これは会話の際に、傾聴するよりも主張する欲求が高い人のほうがパフォーマンスが高いということです。資質にドライブされて発揮している行動が「事業開発精神あふれる態度」ということになります。あと「効果的な目標設定」というのもあります。以上の3つが揃っていると、高い業績につながりやすいということがわかったということです。
関口 主張性、つまり意見を発することを好んだり、事業開発精神が高い、つまり自ら導きたい達成思考が強かったりと、東海東京証券のハイパフォーマーはなかなかアグレッシブなタイプですね。
韮原氏 これは純粋に正規分布に従って、1~10のスコアとして表現しています(図)。
関口 そうなると強度9や10の人は仮に欲しいと思っても、それほど世の中には存在しないということですね。
韮原氏 はい、ただスコアの高低は人材の優劣を表すものではありません。使い方としては、例えばある指標の自分のスコアが10であった場合、会社としては7ぐらいを求めているということをまず知って、さらにあの人が7であの人が3とわかれば、このぐらいまで意識して自分の行動を変えないといけないとわかります。スコアは個性について他人との違いを示すためのものであって、それは高いからよいとか低いから悪いといったことでは全くないのです。
DOORS こういうキャラクター分析を見て、北川社長から見て、「東海東京証券らしい」という印象を受けますか。ハイパフォーマーの行動の特徴は出ていますか。
北川氏 そうですね。たとえばリテールカンパニーでは高い主張性が生かせる場面が多いかもしれませんが、ウェルスマネジメントカンパニーではもっと傾聴するほうがいいかもしれません。また地域によっても違うかもしれません。画一的には言えないと思います。
韮原氏 そうですね。リテール、ウェルス、マルチという各カンパニー別のパフォーマンスモデルも出していまして、ウェルスのハイパフォーマーの主張性は4~6あたりで落ち着いていて、しっかりと話を聞きやすい方がハイパフォーマーであるという傾向が反映されています。
北川氏 今のビジネスモデルだとそうだけれど、モデルチェンジしたらまた変わるかもしれないということでしょうか。
韮原氏 その通りです。ビジネスモデルや市場環境が大きく変化すれば、パフォーマンスモデルも追随して変化させる必要が出てきます。
関口 経営者の世界でも0を1にするのが得意な人間と10を100や1,000に大きくスケールアップさせるのが得意な人間と、事業再生を得意とする人間がいると思うんですね。だからどういうフェーズでとか、どういうシチュエーションで活躍できるとかで様々なモデルがあってよいはずです。
北川氏 おっしゃる通りです。
関口 企業の中にはデジタル人材やデータ分析人材がなかなかいないので、私たちのような外部の専門家を使うのが最初の一手になります。そこからずっと外部人材を使い続ける会社もあれば、そのほうが速いので内製化を志向する会社もあります。ただ内製化を志向する会社でもトレーニングを含めて投資を伴うので、内製化は大事だと口を揃えて言うのですが、実施のスタンスは会社ごとに違います。御社のスタンスについてお考えがあれば教えていただきたいです。
【関連記事】DXの「内製化」とは?ビジネス価値の創造をもたらす真の内製化
北川氏 内製化は、私はぜひ進めたいと思っています。内製化を進めるのはいいのですが、弊社の中で埋没する形で進んでも困ります。定期的に外部からのフィードバックや意見交換の機会があると、適切に軌道修正しながら進められるのではないかと思います。
内製化したい理由は、今は変革している時期なので、社内の事情や会社の求める人材像が目まぐるしく変わる可能性があるからです。ハイパフォーマーの定義も変わると思います。そのような時期に、外部に頼り切っているとスピード感がありません。
関口 今のお話は非常に重要で、ビジネスを理解していることはデジタル技術を知っていることと同じぐらい、いやむしろそちらのほうが重要だと思うことがあるからです。ビジネスに関しては外部の人間には補いきれない部分がたくさんありますし、仮説検証のスピードの話もしましたが、やはりすぐ横でやってくれる人がいないとスピードも上がりません。
韮原氏 内製化に関連したことですが、人材アセスメントを受けた方へのフィードバック研修を東海東京アカデミーにご担当いただきましたが、グループ全体で進めていくことが御社の文化の一端であり、その文化を経営トップが作ってこられたのだと感じています。
関口 デジタルやDXについて様々な取り組みをされていますが、進めていく上で人材的な課題感はあるのでしょうか。技術面の人材がいないという話はよく聞くのですが、御社ではいかがですか。
北川氏 確かにDXに関わる人材は不足しています。デジタルで主体的にいろいろなことを変えていこうと思ったときに、DX人材を確保することは大変です。外部からの採用もまた社内の素養のある人材を育成していくことも重要と思います。DX人材を中心に人材・人員戦略を考えていくことも非常に重要だと思う一方、さきほどお話したようにビジネスモデルを転換しているときでもあるので、それに伴う人材定義の変更とも歩調を合わせて考えないといけません。もう少し社内で揉まないとわからないというのが実感です。
関口 日本ではずっとIT人材・デジタル人材が不足していると言われてきて、2030年には、不足していると言われる人材をすべて補うと10人に1人はデジタル人材とIT人材でなければならないという状況です。それはそれで違和感がありまして、ITやデジタルにものすごく強い社員が10%いればいいというよりも、むしろ社員の誰もがITやデジタルに対して拒否感がなく、自然にデータを見たりアプリを使うと言い出してみたりすることのほうが大事だと思っています。人数を増やすというよりは、個人の中で占める「デジタル割合」を増やすほうがいいという意見です。もちろんITやデジタルの専門家も必要ではありますが。
北川氏 DXに関する社内スクールなど、今一度内製化に伴うDX人材育成の強化が必要かもしれません。
関口 技術は日々進化しているので、便利なものはどんどん使うのがよいと思っています。
北川氏 今まさにそうなっていまして、証券業界では取引ごとに手数料を受け取るコミッション型から、資産残高に応じて一定額のフィーをいただくフィー型に移行する流れにあります。コミッション型ですと、先ほどの強度で言えば7~10の営業パーソンが強みを発揮することになりますが、フィー型になるとお客様のライフプランを傾聴することが重要になります。弊社ではライフプラン支援ツールを使って、お客様からヒアリングしているのですが、こうしたツールを使うのは若い人のほうが上手です。まさにツールを着込んで営業に行くという感じですね。
DOORS 最後の質問になります。北川社長は今回の取り組みを今後どのように発展させていこうとお考えでしょうか。
北川氏 人材アセスメントから、いろいろな気づきをいただいたと思っています。人を見る上での要件定義のような考え方や、様々なパラメーターがあるという話もありました。東海東京証券にはおよそ2,300人、グループ全体では3,000人の人員がいますが、一人ひとりのその資質がすべてわかっているわけではありません。その中でスモールスタートから始めて、どのような形で横展開できるのか、内製化も含めて考えていきたいと改めて思いました。
とはいえやはり迷うところがいくらか出てくるでしょうから、その点についてはぜひまた示唆をいただきたいと思います。
韮原氏 ここまで取り組みをご一緒させていただいて、御社のいろいろな事情も見えてきました。たとえばこの業績ポイントをどれほど信じていいでしょうかと質問した際に、「まあ、とりあえずそれでやってみてください」で終わる会社もあります。御社の場合は、「この業績ポイントでこういう方法で分析すると、こういう人が優秀な人ということになるのですが、実際どうなんでしょう」と尋ねると、「実は、私もこの業績ポイントはちょっとどうかなあと思っていたんですよ」となかなか外部の人間とはしづらい議論も、腹を割ってさせていただけました。
元々そのような文化だとおっしゃると思うのですが、今回良い人材アセスメントができたのだとしたら、それがすごく大きな要因だったのではないかと思います。みなさんがとても前向きに、人材アセスメントを試すという姿勢ではなく、また業績を上げるためというレベルでもなく、異次元に行くのだという強い意志で参加してくださいました。そこが首尾一貫していましたし、それこそまさに凡事徹底の精神に貫かれていたと感じます。
関口 データ分析を通じて様々な企業の支援する立場から見て、最後の壁が実は人事データなのです。業界は違っても、こと顧客情報に関してはどの会社もどんな手を使っても収集しようとするのですが、これが社員の行動や資質といった情報はまだまだ手付かずになっています。一番大きなポイントは、人を見るということは主観がほとんどなので、人事データは、物差しのないデータが転がっている状態なのですね。
今回、人材アセスメントを実施した結果、客観的な物差しが持てたことは、とても大きな第一歩だと思います。そのような取り組みをする会社が出てきたことは、長年人事データ活用を追いかけてきた私たちにとっては非常に嬉しいことです。
人的資本経営の話も出ましたが、企業が成長し続けることはそれ自体重要なミッションでありますから、成長を求めるのは当然ですし、上場企業であればなおさらです。成長するためにはお客様に喜んでいただくことが前提としてあるわけですが、その手前で、東海東京証券に集まっている方々がハッピーに働けているかどうかがあるのだと改めて感じました。
DOORS 今日はみなさまお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
この記事の続きはこちら
東海東京証券における営業生産性向上Projectの全貌~拡張分析と内製化~
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