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近年、メタバースやデジタルツインといったワードがメディアに頻繁に登場しています。これらの技術の根幹には、3Dデータがあります。3Dデータ活用は、ゲームなどのエンターテインメントの世界だけでなく、DXという観点でビジネスにおいても活用が広がりつつあります。本記事ではデジタルツインを中心に、3Dデータ活用の最前線を俯瞰し、今後について展望していきます。
近年取り上げられることの多い3Dに関するワードとして、メタバースがあります。
メタバースの定義はいくつか考えられますが、まずは仮想空間上に存在する世界そのものを指す概念と捉えればよいでしょう。活用方法としては、VR技術などを用いて仮想世界に入り、その世界で誰かとコミュニケーションをしたり、ゲームをしたり、といったことを思い浮かべる方も多いと思います。
メタバースが話題になった要因のひとつとして、Facebookがメタバースに注力するために社名をMetaに変更したことがあるのはご存じのとおりでしょう( *1)。Metaだけでなく、Epic GamesやRobloxといった企業がメタバース的な世界観を持つゲームやSNSをリリースしており、Microsoftもゲーム会社のActivision Blizzardを買収してそこに追随する構えを見せています(*2)。さらに、米国だけでなく、中国でもBaiduのような企業がメタバースに参入しています(*3)。
メタバースと類似する概念として、デジタルツインというワードを耳にしたことがある方も多いでしょう。現実世界とそっくりの仮想世界を構築し、仮想世界上で様々なシミュレーションや可視化などを行い、そこから得られた知見を現実世界にフィードバックする基盤を指します。デジタルツインを導入することで、今まで現実世界で行ってきた検証作業の一部を仮想世界に移すことができ、業務工数やコストを削減できたり、現実世界では実施できなかった施策を実行できる可能性も出てきます。
デジタルツインという観点で今最も注目されるプレイヤーのひとつがnVidiaです。nVidiaは、GTC2021という開発者カンファレンスで「Omniverse」というメタバース基盤を発表しました(*4)。Omniverse上で仮想空間にプラントや自動車工場を再現させて、その上でシミュレーションを行ったデモの動画が公開されており、事例の多くがビジネス活用を志向したものでした。このような観点から、デジタルツインは「エンジニアのためのメタバース」と呼ばれることもあるようです。AWSも、直近のイベントでIoT Twin Makerというデジタルツイン環境を発表しており(*5)、大手テック企業を中心にこの領域に多くの関心が払われていることが分かります。
このように、3Dデータ活用をデジタルツインという観点で整理すると、製造業などを中心に、非常にビジネスと親和性の高い領域であるし、実際にすでに活用されていることが見えてくると思います。このあと、実際にどのように3Dデータが活用されているのか、トレンドと流れを整理しながら、順を追ってご説明していきたいと思います。
遅くなりましたが、私の自己紹介をしておきます。私はブレインパッドでデータサイエンティストをしております八登浩紀と申します。ブレインパッドでは、今まで需要予測や数理最適化といった技術領域で、データを活用したお客様の支援や提案をしております。
私は元々は大学で物理を専攻し、流体シミュレーションに関する研究を行ってきました。その後、流体シミュレーションのソフトウェアを開発するベンダーに就職し、主に製造業などのお客様をターゲットに研究開発を行ってきました。実用的な流体シミュレーションは、ほとんどが3Dデータを用いて行われます。この業務の中で、3DCADモデルや3Dデータを用いたシミュレーション手法などを学んできました。
その後AI関連のサービスを提供するベンダーに移りますが、ここでも業務の一部として3Dデータを扱っており、3Dセンサーや3DデータとAIの連携などに関して調査や研究開発を実施してきました。
このような経験から、3Dデータ活用の現状をお伝えできれば価値のある情報をお伝えできるかもと考え、筆を取らせていただきました。
なぜ近年になってメタバースやデジタルツインといった概念が、現実味のあるものとして語られるようになったのでしょうか。その最も大きな要因は、3D処理に関わる技術の進展だと考えています。ここでは、3Dデータ活用が近年注目される技術的背景について記しておきたいと思います。
技術の進展とは、端的に言えばコンピューティング性能の向上ということです。これはハードウェアとソフトウェアの両面での向上を指します。言うまでもなく、仮想世界はコンピュータを用いて実現されます。3次元の演算を現実的な速度で実行できなければ、文字通り絵に描いた餅となります。今までもその時々のコンピュータ性能を最大限に活用して、3D活用は行われてきました。3Dを用いたゲームは90年代のプレイステーションの登場あたりから世に広く知られるようになりましたし、同じ頃に3DCADによる製造設計などの形でビジネス活用も徐々に進んできました。ただ、処理できる演算量に限りがあったため、それは現実世界を模倣した仮想世界と呼べるものではありませんでした。
では、どのような点でコンピューティング性能が向上したのか。私は特に以下のような点が大きく進歩した点であると考えています。
いずれも重要なポイントなので、ひとつひとつ俯瞰してみましょう。
まず、すべての土台になるのが半導体性能の向上です。半導体の微細化の限界は以前より叫ばれてきましたが、その都度新たな工夫により、ムーアの法則に従った性能向上が現状は維持されている状況です(*6)。 特に、GPUの性能向上は非常に重要なポイントです。GPU専用のチップやボードは、従来よりグラフィック処理で用いられてきました。GPUはCPUとは処理の方法が異なり、3D処理により強みを発揮できるアーキテクチャになっています。ゲームなどでは従来より使われてきましたが、より注目を浴びるようになった要因が、GPGPUと呼ばれる、GPUを用いた汎用演算の実行です。CUDAなどのライブラリを用いて、3D演算処理だけでなく、より広範な計算にGPUが用いられるようになってきました。 このGPGPUの実例として最も注目を浴び、かつ実用化されているのがGPU上でのディープラーニングです。ディープラーニングの学習/推論はGPUのアーキテクチャで並列性能を出しやすい演算処理になっており、GPUの発展がAIの技術を下支えする形となっています。加えて、ディープラーニングを用いることで、画像や3Dデータといった非構造データに対しても、機械学習技術を適用することが可能になりました。3Dに関連するAI技術としては、姿勢推定、物体認識、形状生成などがあります(*7)。CVPRやICCVといった世界最先端のAI関連の学会においても、3D関連の論文数が近年目に見えて増えているという印象があります。大手テック企業を中心に、この領域が優先度の高い取り組みとなっていることが見て取れます(*8)。 再度、ハードウェアに目を向けてみましょう。3Dセンサーの性能向上、低価格化も非常に重要なポイントです。3Dデータを取得可能なセンサーとしてはLiDARやステレオカメラなどがよく使われますが、低価格のものでは現在は数万円台から購入できます(*9)。これにより、3Dセンサーを用いた実証実験や本番適用が圧倒的に行いやすくなり、技術の進展に大きく貢献しています。
また、エッジでのコンピューティング性能の向上も大きなポイントです。3Dデータは基本的にサイズが大きくなるため、そのデータをすべてサーバに転送して処理するというのは現実的ではなく、ある程度デバイス側で処理することが必要になってきます。特に、センサーで取得した情報をリアルタイムに処理したい場合は、高い応答性は必須の条件になります。ディープラーニングの推論といった負荷のかかる処理は、今のところエッジでは画像処理をメインに行われていると思いますが、3Dデータに対する推論をエッジで実行できる日がくれば、さらに活用は広がるでしょう。
上記のエッジの議論とも関連しますが、ネットワーク技術の発展も重要なポイントです。特に、ローカル5Gは注目すべき技術です。エッジで行った処理を、ローカルの範囲で高速に伝送できれば、工場内でのロボット間の処理の連携など、幅広い活用方法が見えてきます。
最後に、VR/ARデバイスの発展にも触れておきましょう。近年、GAFAMといった巨大テック企業がこぞってVR/ARデバイスを開発しています。Metaは2014年にVRデバイス開発のOculusを買収し、技術を進展させています。MicrosoftはHoloLensというARデバイスを開発していますし、GoogleもARヘッドセットの開発を計画しています(*10)。AppleもAR/VRデバイスを開発していますが、開発に遅れが出ているという報道もあります(*11)。デバイス開発での覇権競争も激しくなっています。
後編では、3Dデータは各事例でどう必要とされ、活用されているのかについて解説します。
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