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「分析できるようなデータは持っているし、さまざまなデータ分析や可視化をしているが、売上増加や生産性向上、コスト低減に寄与している感触がなかなか持てない…」
DX(※1)を推進していく中で、分析可能なデータの蓄積がある程度ある企業においても、データ分析の活用の現場でこのような実感をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
実際に筆者が企業様のデータ分析・活用のご支援を行っている中でも、冒頭のようなお悩みを持つ企業が多いことを実感として感じています。データ収集・活用を、「ビジネス活動の根幹」として最初から据えているデジタルネイティブなテック系の企業ではこのようなことは起きづらいですが、既存のビジネススキームが既にあり、そこにデータの活用を加えていこうとお考えの企業にはほぼ当てはまるお悩みではないでしょうか。
一方で、世の中には「データ活用を成功させるために必要なこと」に関する書籍やWEB上の記事などの情報が溢れています。データ活用を進めようとする部署の推進者の方でこれらの情報に触れないまま業務を進めていくことはほぼ無いでしょう。
データ活用のコツやノウハウ」という情報は溢れているのに、冒頭で記載したような「実際にはスムーズにいかない」感触が出るのはなぜなのでしょうか?
前項の質問に対しては「実際に推進してみないと【自社の】データ活用に何が足りないかが具体的にわからない」から、というのが1つの回答になるでしょう。言われてみれば当たり前の話かもしれませんが、WEBや書籍などで取得できる情報は一般化されており、「自社で」うまくいくコツは当然ながら記載されていません。
例えば「データの量や質が足りなかった」というデータ起因や、「企画側の部署でデータ分析や予測モデルを作ったのに、実務側の部署との意思疎通や調整が進まず、ビジネス適用の検証ができなかった」などの組織力学による要因が「うまくいかなかった」代表的なものです。具体的にどんなデータが足りないのか、自社の中でどの部署と関連して問題が起こるのかを完全に事前から予見するのは非常に難しいことです。実際にデータ活用を推進していくことで自社における問題が少しずつ判明し、それを改善する試行錯誤のサイクルを繰り返している、これがデータ活用の推進を進めている大多数の企業で起きている実態ではないかと思います。
一方、WEBなどの事例では成功事例の発表が多く、失敗例やそこから改善した事例を見ることはあまり多くありません。と言いますのは昨今出てくる情報にはいわゆる「生存バイアス(※2)」がかかっている結果、情報の受け手としては「成功している企業が多い」と捉えやすくなる傾向があると思います。 結果的に「なぜ他社はできるのに自社では時間がかかるのか?」という空気になり、経営幹部層の方から「なぜできないのか?」という指摘を頂く、という現象が多くの企業で発生していることは想像に難くありません。
筆者も全ての企業を見ているわけではありませんが、このようなお悩みを抱えている企業様には、「そのお悩みは貴社だけでなく、データ活用は試行錯誤が当たり前である」旨をお伝えさせて頂いています。
とはいえ、ただ単に「試行錯誤をしましょう」だけで本当にデータ活用が進んでいくものでしょうか?
前項のように試行錯誤を繰り返すのが半ば必然である一方で「失敗から学びがあるか」は非常に大きな要素です。
もちろん学びの大きさは色々な要素に依存しているものの、本稿では筆者が触れてきた様々な企業の現場の経験を元に「データ活用を推進する現場の考え方」という部分にフォーカスを絞り、試行錯誤から学びが大きい企業の考え方の特徴を3点ご紹介します。
前項で挙げたように、データ活用には色々な原因によって最終的な「活用」まで辿り着かないことが多くあります。そのように、なかなかうまくデータ活用が進まない際には、その原因を把握した上で「学べてよかった」とポジティブに評価できる文化があるかは非常に重要な要素です。「うまくいかなかった」「次は成功しないとまずい」というネガティブな評価をされるような文化がある場合は、次のチャレンジまでのハードルが高くなり、活用自体を諦める、次のデータ分析のテーマがなかなか決まらない、ということが発生しやすくなるという実感があります。
昨今、「データ分析を行う前に目的を定めましょう」ということは色々な書籍やWEB上の情報に掲載されていることから、データ分析を行う際に「分析目的」を何も設定しないまま分析を始める、ということは実際にはほぼ無いのでないかと思います。ただし、「分析結果をどう検証するか」「実際にはどの部署が何に使うのか」まではあまり検討せずに分析を始めるようなケースはいまだに多いという印象があります。これらを最初に考える癖がないと、分析が終わった後に結局検証ができない、現場に受け入れられないケースが増えてきます。
私がご支援させて頂いた中で、分析→活用までのサイクルが早い、と感じた企業は「検証・活用ありき」でした。データ分析の目的・設計を始め、検証が難しいようなケースはそもそも「検証できない環境であること」そのものを問題視し、その環境が改善されるまでは分析自体着手しない、という方針を貫いていました。
一方、「検証できるかは置いておいて、まずは分析しよう」「仮説検証のみで構わない」という分析を繰り返す場合、検証や導入まで辿り着く確率は低くなり、結果的に「なかなかビジネス上の活用までは辿り着かない」状態になりやすいと思います。
特に部署同士で独立してデータ分析の取り組みを行っているような組織においては、自部署が行った分析のプロセスや得られた結果を共有する文化は非常に重要です。
例えば今までご支援させて頂いたお客様は、各部署でデータ分析や新技術に関連する成果を共有する場を作ることで「各部署でどういうデータ分析の事例があり、それをどうビジネスに繋げたか」を共有する取り組みがありました。また、別の企業では部署単位で行っていた分析をその部署の部長が把握しており、分析内容やそこから得た学びを部長横断で共有する場を作る、などの工夫を行っておられました。これらの取り組みは横の情報の連携を高め、成功・失敗パターンを組織全体として学習するスピードを上げることに大きく寄与していると思われます。 逆に、分析したプロセスや結果を部署内部で留めておきたい、特に失敗事例なんてもっての外、という文化が存在する場合は企業全体としてデータ活用の取り組みにアクセルがかかりづらい状態になっていると推測されます。
前項で言及した分析に対する考え方は、その企業の文化などに大きく依存する部分であり、一朝一夕で変えることは難しいことは想像に難くありません。では、これらを変えていくためにはどういう取り組みが考えられるのでしょうか?一般的に考えられる方法を以下に記載します。
まず、社内への教育です。といっても、データ分析に関する実務的な教育、例えばpythonなどに代表されるプログラミング言語による実際のデータ分析に関する教育というより、データ分析の大きな流れや活用のために抑えておくべき内容などを広く啓蒙できるような教育が必要だと思われます。
また、外部からの人材登用という手段も考えられます。データ活用の経験が豊富なアドバイザーや分析官と一緒にデータ活用を進めていく方法です。これらの人材が自社ですぐに採用できるのがベストではありますが、データ分析・活用の経験が豊富な人材は人材市場では希少な存在であることから、確実性が高い選択肢ではないのが現実でしょう。
実際のところは、外部パートナーの人的アドバイザリを入れて、一緒にデータ活用を進めていくことが多いでしょう。この場合は、数理的な難易度が高い課題を解ける専門人材というより、分析結果をビジネスに活用する経験が豊富な人材や、分析内容や結果をビジネス側にもわかりやすく説明できるトランスレーターというべき人材など、DXの取り組みを多く推進してきた経験の豊富さを基準に選定するとよいでしょう。
DXによる組織変革のスピードを高めるとき、データ基盤の整備などハード面ももちろん重要なのですが、それだけではなく「データ分析・活用に関する企業そのものの考え方」、というソフト面によっても大きく変わることがこの記事で伝われば幸いです。
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※1 当記事内では、多義的なDXという言葉を「データ活用」、もう少し具体的に書くと「分析可能なデータは保有している前提で、それを元に売上増加・生産性向上・コスト低減に繋がる仕組み・サービスを作っていく活動」という意味に限定して使用します。
※2 生存バイアスとは、何らかの選択過程を通過した人・物・事のみを基準として判断を行うことを指します。今回の記事の例で言うと、巷に溢れる情報はDXの成功事例を取り上げやすい傾向があり、失敗事例を取り上げることは少ない結果「成功は当たり前」と認識してしまうことを「生存バイアスがかかった認識」と表現しています。
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