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近藤 先進的な企業はMAをどう活用しているのでしょうか?
政岡 様々な課題が見えてきたため、SaaSとして提供されてきたMAツールを、自社の目的実現に最適化するために内製する会社が出てきました。いっけん時代に逆行するように見えますが、それができるようになった理由が、柔軟にスケールできるクラウドがあるからなのです。
課題解決・目的実現のためには、機械学習によるデータ分析が必要になりますが、その際には瞬間的にデータが増えたり、CPU・GPUが使われたりします。そのような環境をオンプレミスに用意するのは現実的ではありません。クラウドがあってこそ可能なのです。
リソースが柔軟に増減できるだけでなく、クラウドネイティブなAPIサービスが充実してきたことで、システム開発も容易になりました。そこでMAだけでなく、CRMなどもクラウド上に内製する会社が増えています。
クラウドによりスケーラビリティだけでなく、ビジネスのスピードも速くなりました。昔は販売した翌日や翌々日にDWHに反映され、週次バッチで顧客にDMが送られるといったスピード感でした。今ではクラウドの進化で、販売した直後にメールやLINEメッセージを送るといったことも可能になり、ほぼリアルタイムなコミュニケーションが取れるようになっています。
そうなると、最適なコミュニケーションタイミングで最適なメッセージを自動配信するという「MAらしい」使い方が、改めて追究されるようになってきました。それはMAを内製しなくても可能なことなので、内製を選ばない企業が、私たちのような「MAらしい」使い方について一緒に考えてくれる会社に相談することが増えているのです。
近藤 ブレインパッドに声をかける理由はなんですか?
西村 MAらしい使い方をするには、シナリオを細かく設定する必要がありますが、それにはデータをどう取り扱うかが関係してきます。つまりデータ視点でMAを考えなければならないのですが、それができる国内のベンダー企業は、私たちの認識では、ブレインパッドともう数社ぐらいしか見当たりません。それで相談が集中しているのだと思います。
近藤 なるほど。では、「MAらしい」使い方とはどのような使い方なのでしょうか?
政岡 まず品種と販売量で、そもそもMAが向いているどうかがわかります。多品種でそれぞれを少量ずつ販売している業態では、顧客とのきめ細かいコミュニケーションが売上向上に繋がりますが、それは人間では物理的に無理があります。そこでMAの出番ということになります。逆に少品種でそれぞれを大量販売している業態ではMAよりもマス広告等に力を入れるほうが費用対効果は高いでしょう。MAらしい使い方もできますが、それほど効果は期待できません。
近藤 MAらしさの本質とはきめ細かさのことと捉えていいですか。
西村 その通りですが、たぶん「きめ細かさ」のイメージがわかりにくいのではないかと思います。そこで「MAらしい」事例を説明します。
某百貨店のECサイトでは、1つ1つの購入に対して自分用なのかギフト用なのかフラグを付けています。配信先が自分の住所と違っていたり、熨斗(のし)を付けるように指定していたりすれば、ギフト用だとわかります。フラグを付けることで、学習データを分けることができ、本人用とギフト用でそれぞれ別の商品をレコメンドできるようになります。もちろん本人用とギフト用のシナリオも別のものを用意します。
このような面倒なことをする理由は、一般に同じ商品でもギフト用のほうが同じ商品でも高価なものが選ばれる傾向があるからです。普段は1,000円~2,000円ぐらいのワインを買う人も、ギフト用では5,000円~10,000円ぐらいのワインを贈ったりするものです。その人に普段用に7,000円もするワインをレコメンドしても買ってはくれないでしょう。しかし2,000円ぐらいなら買ってもらえる可能性は高い。だから本人用では1,000円~2,000円ぐらいのワインをレコメンドし、お中元やお歳暮用では、5,000円~10,000円ぐらいのものをレコメンドするようにシナリオを分けるのです。こういったことを「きめ細かさ」と言っています。
近藤 MAをMAらしく使うためのポイントはありますか?
政岡 まずはデータですね。データセットの事前準備がとても重要です。どの会社も「うちにはデータはある」と言うのですが、7割以上のデータがそのままでは使えません。それを使えるようにするために、私たちのようなデータの取り扱いにセンスとノウハウを持つ会社が必要とされています。
データをクレンジングするだけであれば、できる会社は多いのですが、目的達成のために加工するとなると限られてきます。ERPの業務データと個人情報データ、そしてMAやCRMで利用するデータは、それぞれ目的が違うので、目的に合うように変換することが必要です。
例えば、某チケット販売サイトが持つ業務データは、元々興行用のデータであり、興業主によってフォーマットや内容が違いますが、基本的には「興業・日時・シート」といった項目がキーになります。これを学習データとして利用するためには、例えば興業別、あるいはアーティスト別に集約しなければなりません。もちろん顧客を軸にして集約する必要もあります。
アパレルであれば、販売データは、品番の他、色、サイズなど細かい属性があります。これをレコメンドで使用する場合には、品番単位に集約します。しかし在庫調整でも使うのであれば、もっと細かい属性で集約する必要が出てきます。様々な目的で使用できるようにデータ集約の粒度調整が必要なわけです。こういったデータセット準備の一手間がMAらしい使い方に繋がるのです。
1つ目は、シナリオの具体性があるかどうかです。いつ・誰に・何を・どのようにといったレベルまでマーケターが意識すれば、MAの導入効果は高いでしょう。ただ「何を・どのように」まで落とし込める人はまだまだ少ないので、現時点では「いつ・誰に」まででも意識できればいいのかなと思います。
2つ目は、先ほど述べた事業間の連携による制約と関わる話で、社内ステークホルダー間の業務分担をMA導入の目的に合わせて見直すことです。これができれば、MAがDXのツールの1つとして機能していると評価していいでしょう。
3つ目は、それぞれの担当者がMA導入の目的を理解し、同意することです。MAはけっして魔法の箱ではなく、結果からのフィードバックによる地道な改善を必要とするツールです。効果が出るかどうかは、最終的には担当者のグリッド(目的達成までやり抜く力)にかかっています。
近藤 MAらしさを引き出すために提案段階で、どのように課題を解きほぐしていくかを教えてください。
西村 これまでユーザーに提出してきた提案書を改めて並べて見ると、ずっと試行錯誤してきたことを思い出します。ようやく最近になって形になってきて、いわゆる「標準提案書」に近いものとなってきました。ただ一貫してあったのは、機能を提案するのではなく、ユーザー企業の課題感をどう見せるか、その見せ方に苦心してきたということです。
その意味では、初めてMAを導入するユーザーとリプレイス・ユーザーではまったく提案の仕方が違ってきます。初めてのユーザーは、ほぼ例外なく何がしたいのかが曖昧です。公開されている導入事例などから一般的な施策を抽出しているだけのことが多いのです。「うちも何かやれば成果が出るだろうから、とりあえずやってみたい」というケースがほとんどです。
私たちからは、「もちろん成果は出ます」というのが最初の回答になります。ですが、「御社の業界では、具体的にこのような課題があって、それに対してこのような取り組みをしています。御社の課題はこれと同じですか?」といった問いかけをしていくことで、課題を具体化していきます。そのため業界別のユースケースが既に蓄積されていることは大きな強みになっています。
一方でリプレイス・ユーザーには具体的な不満や課題があるはずですから、それを丁寧にヒアリングして、言語化していきます。
どちらのユーザーでも、導入成功事例が大好きなことに変わりありません。ただ公開されている事例には良いことばかりが書いてあることが多い。導入の苦労話などはありますが、できないことやデメリットなどには触れません。私たちは、悪い点についてもハッキリと伝えるようにしています。特にデータに関することは、悪い話が多いので、実際に起こっていることを話して、リアルな導入イメージや運用イメージを持ってもらいます。そうすることでユーザーの頭の中も具体的になり、現実の課題が言語化されるようになるのです。
近藤 では最後にここまでのポイントをまとめて、対談を締めくくりたいと思います。大きく4つのポイントがありました。
MAという存在が当たり前になっているからこそ、今一度、「MAらしい使い方」とは何かを考える機会なのかもしれませんね。
西村さん、政岡さん、ありがとうございました。
※DXについて詳しく知りたい方はこちらの記事をお読み下さい。
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