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※本記事は、2022年11月24日に行われたITイノベーターズサミット(日経クロステック主催)での講演を元に記事化しています。記事化にあたっては日経BPの許可を得て掲載しております。
■登場者
昨今、日本企業の重要テーマになっているリスキリングにおいて「データ解析・データ分析」が注目されています。そのため、経営層・マネジメント層においては、高いスキルを持つデータサイエンティストを採用したいと感じている企業も多いのではないでしょうか。
しかし、企業内のデータ人材育成が全く進んでいないケースも見られます。今回は、「間違いだらけのデータ人材育成術」と題して、ブレインパッドと私のこれまでの知見から得られた人材育成の課題と解決策についてお話ししていきます。
他の人材育成企業事例や、DX人材が求められる背景を知りたい方は、あわせてお読みください。
DX人材とは?必要な役割やスキル・適正、育成事例を解説
※所属部署・役職は取材当時のものです。
経営者やマネジメントの方々は、働き方や考え方の変化、革新的な業務に対応するために新しいスキルや知識を学ぶリスキリングという言葉を最近ではよく聞くかと思います。そして、学びたい・学習してほしいスキルとして「データ分析」が本丸となっています。データ分析のスキルは企業が身につけて欲しいスキルでもあり、個人が身につけたいスキルでもあります。回答者の50~60パーセントの方々が、リスキリングにおいてデータ分析が重要と感じています。
ブレインパッドも10年に渡りデータ活用人材の育成サービスを事業として展開してきました。 大企業におけるデータ分析組織の構築・立ち上げを伴走支援するケースもあれば、当社で開発したデータ分析の研修コンテンツは7万人の方に受講いただいております。当社も日本のデータ活用人材の育成に少しは貢献できているのではと自負しております。
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今回のお話ですが「データ人材育成、迷子になっていませんか?」ということで皆さんに問いかけていきたいと思います。「データ人材の確保」に対して、企業規模に関わらず焦燥感があるものの、具体的な方策についてはまだ光が見えない状況が多く見受けられます。
データ人材育成がうまくいかない要因はさまざまあると思いますが、今回は2つに絞ってお話をしていきます。
まず1つ目の原因は、経営陣やマネジメント層の方々が「当社にもデータサイエンティストが必要だ」と無邪気に指示してしまうことにあります。
何が良くないのでしょうか?実は、AIまたは機械学習の普及にともなって「データサイエンス」の言葉の使われ方が本来の定義から微妙に変わってきてしまっており、「データサイエンティスト」が事業において求めているデータ人材を正しく表現できてないことが起きています。
2015年のAI/機械学習ブームを経て、近年ではデータサイエンスという言葉がよりAIやアルゴリズムを開発する意味合いに狭まってきており、従来からあるアドホックな分析(アナリティクス)を含まないケースが増えてきました。例えば、近年日本でも増えてきた大学のデータサイエンス学部の研究がAI・機械学習のアルゴリズムの研究が中心になっているケースも少なくありません。
その場合、ビジネスで有用性の高い統計学等のビジネスアナリティクスの部分をカバーしていない可能性もあり、「データサインティストが必要だ」という発言は人材獲得や育成をミスリードしてしまうことがあると考えています。
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なお、ブレインパッドではデータ人材に必要な力を次の3つに分けています。
1つ目は「ビジネス課題を見つける力」、2つ目は「分析問題を解く力」、3つ目は「分析結果を使わせる力」です。
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先ほど述べた昨今のデータサイエンティストの定義では、2つ目の数理解析のスキルと3つ目の力のうちアルゴリズム開発(つくること)に偏っている可能性が増してきました。
しかし、経営陣やマネジメント層が求めているのは、1つ目のビジネス課題を見つけるスキルと2つ目のデータによる課題分析ができるスキルを持つ人材です。そのため、実際には(狭義の)データサイエンティストではなく、ビジネスアナリスト寄りの人材が欲しいということになります。
ですので、データサイエンティストという言葉にとらわれすぎることなく、自社が求める人材のスキルが何なのかを解像度高く検討する必要があります。
データ分析人材が必要な背景として、多くの経営者が「データドリブンな経営に変革したい」とおっしゃっています。これは意思決定をデータに基づいて行うことですから、言わば経営陣やマネジメント層の日々の判断プロセスのDXとなります。そうすると非定型な業務プロセスをDXしなければなりません。そのため、業務が効率化されたか以上に、判断の質とスピードが上がったかどうかでROIを見極めることが重要になります。
もともとデータ単体は意味を持たない記号ですが、それを整理と意味付けをし、意思決定の判断材料へと進化させ、意思決定そのものに活用することで価値に転換されます(DIKWモデル)。先ほどお話しした狭い意味でのデータサインティストはどちらかというと、意思決定のアルゴリズム開発を実施する人材なので、「ものづくり」にフォーカスしてしまいます。ものづくり人材の課題としては、汚いデータ(入力ミスや欠損など)を取り扱うのが苦手です。
一方で、企業が求めているのは「意思決定を行うための判断になり得るデータ・知見」、つまり知識のレイヤーなはずであるため、仮に汚いデータでもある程度のビジネス課題を特定できるスキルを持つ人材が必要です。「Garbage In, Garbage Out(ガーベッジ・イン、ガーベッジ・アウト)」、汚いデータを使ったら汚いアウトプットしか出ないという言葉もありますが、これも一定量許容しないとプロジェクトが止まってしまうことがあります。つまり、何の意味を持たないデータを知識及び判断する材料に変える「参謀」の役割をデータ活用人材に求めていく、そのような教育を考えていく必要があるのではと思っています。
データ人材育成が進まない2つめの原因として、データ人材を育成する場となる分析プロジェクトが途中で頓挫してしまうケースが多いという実状もあります。
よくデータ活用・分析の推進には目的の明確化が重要と言われますが、多くのケースにおいては目的の不明確さよりも、目標設定の解像度の低さが課題となっています。
通常データ分析プロジェクトは、分析企画からプロジェクトの立ち上げ、というフローで実施していきます。そして次のステップである「組み込み後の業務設計」、ここの部分の解像度が低いケースがあると感じています。データ分析に限らず、プロジェクトであれば実行の前段階である程度、結果を想定したうえで「何がどうなれば、オッケーとなるのか」の基準を明確化しておきたいといえるでしょう。
しかし、止まってしまうプロジェクトにおいては、プロジェクト後の業務設計が曖昧なケースが多い。また、「今どうなのか」が明確でないために「どこまで改善して良いのか」も定量的に言語化できないこともあります。
データ活用が意思決定・マネジメントのDXであると仮定した場合、意思決定の質や判断のスピードが向上したという”結果”がポイントです。費用対効果・ROIを業務・コストの効率性の改善で評価するだけでは、データ分析プロジェクトは継続が難しくなります。
意思決定を行う経営層やマネジメント層が 「意思決定の質や判断のスピードが向上した」と感じた場合、その成果を「価値」として捉えていくという発想の転換が必要だと感じています。
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データ分析においては次のようなテーマを扱うことがあります。
優良な顧客をデータから見つける、優秀な社員の共通的な行動をデータから見つける、人員・在庫を最適化したいなどが代表的です。
しかし、ここでいう優良や優秀の定義とか、何をもって最適なのかが曖昧で言語化されないといった課題がよく起きます。言語化を諦めてしまったことで、プロジェクトが止まることがしばしば起こります。データは0/1のデジタルな世界であるため、曖昧なものは許容できません。データで定義できるレベルまで具体的に言語化する必要があります。
この課題を解決するのに重要なのは、マネジメント層や経営が暗黙知や経験値によって決めている意思決定プロセスの言語化です。この部分を紐解くにはものすごい時間がかかるとともに、経営陣・マネジメント層がこの営みに積極的に関わらなければなりません。
一見手間のかかる作業ではありますが、考え方を変えると、データ活用によって今まで曖昧だった意思決定の流れを言語化・明瞭にできるため、この「暗黙知の言語化」はデータ活用の1つの効能だといえます。
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なぜ、前述のような課題が発生するのでしょうか。そこにはデータ人材の育成モデルの対象範囲にも大きな原因がありそうです。例えば、一般的にデータ活用人材の育成モデルを検討する際には、分析を学び始めた段階から高度なデータ活用人材といった範囲を決め、人材育成を進めた場合、技術的な専門家を頂点としたピラミッドを描きがちです。
しかし、総合的に考えれば、高度なスキルを持つ人材を上手に活用していくのは経営層やマネジメント層のはずです。そのため、データ活用を含む人材育成は「高度なスキルを持たない人々も含め、社内でデータリテラシーをどのようにあげるのか」まで検討しなければなりません。 人材育成におけるピラミッドの頂点は「経営層・マネジメント層」として、人材育成のモデルを見直していく必要があると考えています。
私たちも皆さんもデータ活用のDXを進めているわけなのですが、 もしかするとこの取組みに盛り上がっているのは推進している私たちだけかもしれません。社内をふと振り返ってみると、データ活用はマーケティングで言えばキャズムを超えておらず、一部の人たちだけの営みになっている可能性があります。データ活用において重要な役割を担うべき経営層やマネジメント層も深く理解していない多数派(マジョリティ) に分類されていると思います。
キャズムを超えるためにはマジョリティにアプローチする必要があります。つまり、データ人材の育成は、一部の専門人材の強化ではなく、全社的なデータ活用の普及という観点で推進していく事が必要になります。いわば、データ活用の推進者はマーケター的な視点が大切になるといえるでしょう。
企業としてキャズムを超えるための方法としては、マーケティングの一般論を私たちの世界に置き換え、やはりユーザービリティにこだわり、使いやすくデータ活用するための環境を構築したり、相談や依頼しやすい環境づくりを行う。また同様に「アンバサダー/インフルエンサーを活用した」というところがとても重要なのですが、先進的な、先行している企業の皆さんのお話を聞くと、社内でのプロモーション活動にいそしんでいらっしゃいます。社内で啓蒙活動していくために、マジョリティに響く言葉でベネフィットを伝えていくっていうことを徹底していくのが大事だと思っています。
今日は具体的な事例はあまり紹介しませんでしたが、私たちがご支援させていただいた事例や社員によるDXに関する記事がDOORSメディアに掲載されていますので是非ご覧いただきつつ、私たちは本当に日本のデータ活用、データ人材育成を心から応援しておりますので、今後も一緒に頑張っていければと思います。
本日はご清聴ありがとうございました。
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