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DOORSでは、これまでDXについて、人材育成や組織作り、スキルセット、マインドセットなど、さまざまな視点から説明してきました。これらはDXの実現を一企業のスケールでとらえていましたが、政府や国際機関のように、日本社会やグローバルなスケールでDXをとらえなおすと、DXは一企業の成長を超えて、より良い社会を実現するための手段であることがわかります。
今回は、Society5.0、SDGs、ESG投資の3つのキーワードをもとに、「Beyond DX(DXを超えて)」の概念を解説し、DXの本質的なゴールについて考えていきます。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
日本政府が「あるべき未来の社会」の姿として提唱しているSociety5.0とは、どのような概念なのか。また、その中でDXがどういった役割・位置づけにあるのかを整理します。
Society5.0は、内閣府が2016年に閣議決定した第5期科学技術基本計画の中で提唱された概念です。その定義について、内閣府のホームページには以下のような記載があります。
Society5.0とは
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、キーとなる概念は「融合」です。
これまでの情報社会(4.0)では、知識や情報の共有が十分に行き届かず、年齢や障害による制約、少子高齢化や地方の過疎化などの社会問題が拡大し、分野横断的な連携が課題とされてきました。Society5.0では、こうした課題を克服するために、デジタル技術の力で誰もが取り残されない、持続可能な社会を実現することを目標として掲げています。
デジタル技術が進歩し、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスのみならず、あらゆるモノがインターネットによってつながる社会が実現しつつあります。このDXの進展は、Society5.0を実現する「メガトレンド」のひとつとして位置づけられています。
DXは単なる個別技術の普及にとどまらず、人間の能力を拡張し、社会の姿を大きく変化するきっかけになると考えられています。新たな道具や手法によって人間が能力を拡張できるようになった結果、どのような新しい価値を追求するのか、またどういった社会を目指すことができるのか。経団連・東京大学・GPIFの共同研究報告書では、この議論すべき内容を「Society 5.0 for SDGs」としてコンセプト化しています。DXは、デジタル技術による企業や社会に変革をもたらすと同時に、私たちの未来において目指したい社会を具現化する、ひとつの手法としてとらえられるのです。
Society5.0は、経済発展に付随する負の影響や社会的課題を解決し、メガトレンドをチャンスに変えるためのコンセプトであるとされています。
経済発展によって富の集中や地域間・社会階層間の不平等が表面化し、環境問題や少子高齢化を始めとした社会的課題は山積みです。またデジタル技術の進展に伴い、データ活用におけるプライバシーガバナンスやセキュリティ対策、デジタルデバイドなど、リスクも顕在化しつつあります。
政府は、これらの課題をDXの先にある「Society5.0」を実現することで、解決されると考えているのです。
Society5.0は、さまざまな社会課題を解決し持続可能な社会を描いた、日本政府が提唱した概念ですが、SDGsやESG投資は日本にとどまらず、世界的な潮流として定着しつつあります。ここでは、両者の関係とDXについて解説します。
SDGsは、Sustainable Development Goalsの略語であり、「持続可能な開発目標」と訳されます。2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを理念に掲げています。
すべての人の人権の確保、ジェンダー間の平等、貧困・飢餓の解消、環境問題の解決など、より良い社会を目指す非営利的な目標である一方で、SDGsは膨大なビジネスチャンスにもつながることが期待されています。
ESG投資は、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)が中長期的な企業価値に影響を与える要素として、財務情報に加えてこれらを考慮した投資のことを指しています。欧州を中心に拡大を続けており、2018年時点でESG投資に振り分けられている資産額は約30兆円に達しているとされています。日本でもGPIFがESGを投資原則に盛り込むなど、ESG投資への関心が高まっています。
ESG投資は、SDGsとも深く関連しています。ESG投資は投資家が社会的課題の解決にコミットをするための手段のひとつであり、企業の取り組みがグローバルな課題解決につながることで持続可能な社会の実現を目指すものです。こうしたSDGsの思想とも連動したESG投資による資金を原動力として企業の持続的な活動を支援し、SDGsの達成を目指すための投資が今、トレンドとなっているのです。
共同研究報告書では、Society5.0を「Society 5.0 for SDGs」と称しています。Society5.0もSDGsも、経済成長と社会的な課題解決の両立を目指すものであり、Society5.0が実現した社会はSDGsを達成した社会と軌を一にします。
また、ESG投資にもSociety5.0との共通点があるとされています。報告書によると、どちらも「未来志向である(将来性)」、「経済成長・リターン向上を図る(経済性)」、「SDGs達成を目指す(持続可能性)」点が同じであり、両者が相互に結びついてSDGsの達成へつながることが期待されています。
Society5.0やSDGs・ESG投資を理解したうえで、あらためてDXの意義を考えてみましょう。
Society5.0やSDGs、ESG投資といった社会的なトレンドを踏まえると、DX推進の最終的なゴールは「より良い社会の実現」にあることがうかがえます。言い換えれば、DXの実現自体が最終目的ではないと言うことができます。
企業レベルで考えれば、DXの実現によって生産性は向上し利益を増大させ、企業や株主、従業員を始めとするステークホルダーを満足させることができます。しかし、社会レベルで見ると各企業のDX実現を超えて、行政や市民を含む社会の発展につながることが最終的なゴールであると考えられます。その意味で「Beyond DX(DXを超えて)」の視点が、DXを考える際には重要なテーマになってきます。
DXやESG投資の普及は、利益の増大を目指すビジネスの世界に、社会的な課題の解決という概念を持ち込むと考えられます。つまり、生産性の向上や資金の投下といったビジネスにおけるアクションと、社会的課題解決が両立するととらえた点に、DXやESG投資の意義があるとも言えるでしょう。
DXやESG投資、そしてSDGsの達成は一朝一夕ではなく、長く大きな視野で評価する必要があります。企業の視座を一段上へ引き上げるきっかけがDXの推進であり、SDGs・ESG投資なのです。
DXの先を考えるのであれば、DXの社会的意義の理解は欠かせません。DXは、デジタル技術によって企業のビジネスモデルや製品・サービスを変革する試みであり、デジタル技術の持つインパクトを理解して「より良い社会」の実現を目指す試みであるとも言えます。
たとえば、Society5.0で期待される技術革新のひとつとして、次世代ヘルスケアが挙げられています。介護ロボットの生産拡大による労働者の負担軽減や、データヘルスケアによる早期発見・早期治療の普及などは、ヘルスケア産業の市場規模拡大のみならず、労働者・消費者の幸福度向上や、健康寿命の延伸など、社会的意義が大きいものです。
ヘルスケアのみならず、あらゆる産業でDXによる生産性向上や市場規模拡大が社会的課題を解決し、労働者・消費者の幸福につながる可能性を秘めています。企業にとってもビジネスパーソンにとっても、DXを実現するためには長期的な視野を持ち、「Beyond DX」に位置づけられるDXの社会的な意義を理解する必要があるのです。
DXの本質について改めて知りたい方は、こちらの記事もぜひご一読ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義・事例をわかりやすく解説【2024年最新版】
DXは一企業の成長手段にとどまらず、未来のより良い社会を実現する手段でもあります。DX推進にあたって、その実現をゴールとするのではなく、デジタル技術や自社のサービス・製品による社会的課題の解決をゴールとすることが、これからの企業に求められる見識であると言えるでしょう。
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