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DX推進に際しては、単にAIやIoTなどの最新ITツール・システムを導入すればよいのではなく、自社の変革後のあるべき姿を明確にすることが欠かせません。
こうした観点から、経済産業省ではDX推進の課題や方向性をいくつかレポートにまとめて公表してきました。今回は、『DXレポート2.1』と題されたものを取り上げ、経産省の考える「企業のあるべき姿」について整理します。
▼DXの定義や意味をより深く知りたい方はこちらもご覧ください
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは?意義と推進のポイント
経産省は、これまで二度にわたってDXレポートを公表してきました。今回のDXレポート2.1は、この2本のレポートの結果を受けたうえで課題をユーザー企業・ベンダー企業の企業のあり方に絞っています。まずはレポートのなかから、企業間の連携について分析した箇所をご紹介します。
2018年のDXレポートでは、ユーザー企業とベンダー企業の請負契約や準委任契約が問題視されました。
ユーザー企業がシステム開発を内製で賄いきれないために、ベンダー企業に業務委託するケースが多くなっています。しかし、ユーザー企業自身が現行システムの仕様や機能を理解できておらず、また情報システム部門と事業部門、経営企画部門との連携が不十分であるために、必要十分な要件を明確化できないまま「丸投げ」に近い形で発注することもあると指摘されているのです。
その結果、開発されたシステムがユーザー企業の意図とは異なり、テスト工程で手戻りが発生するために開発費用が大幅に超過したり納期が遅延したりと、損失やトラブルを発生させてしまいます。さらに、こうした損失やトラブルの責任が両企業間で不明確であるため、責任の押し付け合いから紛争・訴訟へ発展するケースも増えているというのです。
こうしたユーザー企業とベンダー企業の関係について、DXレポート2.1ではさらなる深掘りが行われています。ここでは、両者の現状を批判的に「低位安定」であると指摘し、以下のような問題点があるとしています。
IT をコストと捉え、ベンダー企業を競わせることでコスト削減を実現。その一方で、
労働量に対する値付けを行うことで、低リスクのビジネスを実現。その一方で、
このように、かつてコスト削減やリスク低減・長期契約獲得のために確立されたビジネスモデルが、DXを阻害する構造的な課題に転化しているのが現状なのです。一見するとWin-Winの関係でありながら、DX実現に必要な能力を獲得できない構造になってしまっています。
今回のDXレポート2.1では、ユーザー企業とベンダー企業に存在する「ジレンマ」が3点挙げられています。
先に挙げた「Win-Win」に見える関係のもとで、短期的には好調な業績をあげることができます。そのため、本来であれば投資体力が残っているうちにDXを進めていくべきなのに、好調な間は変革へのモチベーションを持たず、課題が意識され危機感が醸成されたときには既にDXに必要なだけの投資体力を失っています。
DXでは、常に人材育成が課題となります。デジタル技術の進化スピードが従業員の学習スピードを上回る結果、時間をかけて新たな技術を習得したときには、もはやその技術が陳腐化することすら考えられます。即座に新技術を習得し使いこなせる従業員がいたとしても、非常に価値の高い人材であるがゆえに他社からの引き抜き対象となる可能性が高いのです。
従来のような受託型ビジネスを現業とするベンダー企業が、危機感を持ってユーザー企業のDXを伴走支援できるビジネスへモデルチェンジを図ったとすると、何が起きるのでしょうか。皮肉なことに、ユーザー企業が内製化を志向するため売上規模の縮小へつながることになります。「おんぶにだっこ」の状態であれば長期に安定的な契約を獲得できたはずなのに、DX支援によって自分たちベンダーを不要とする状態を実現することになりうるのです。
こうした構造的な課題・ジレンマがあるからこそ、DXの実現は容易には進みません。ユーザー企業経営者のビジョンとコミットメントによって、構造的・組織的な反発を突破することが欠かせません。
また、ベンダー企業が取り組んできたIT技術やシステム開発の能力も、決して無駄にはならないとレポートでは主張されています。最新技術が普及してコモディティ化したとしても、こうした能力は継続的に求められます。これらの能力を維持しつつ、最新技術に精通し続けることが企業変革にとって重要です。
(後編に続く)
この記事の続きはこちら
【後編】DXレポート2.1を解説。DXで企業が目指す「デジタル産業」とは?経産省が描く企業の経営課題と将来像
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