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DXは全社的な変革であり、単にITシステムを導入したり刷新したりすればよいわけではありません。経営者が担当部署に要件を丸投げするのではなく、強力なリーダーシップでプロジェクトを引っ張っていく必要があります。
今回は、経済産業省の最新資料(「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 ワーキンググループ1 報告書」)から、DXの推進のためにどのようにITシステム企画を行うべきかをお伝えします。DX推進におけるITシステム企画の「勘所」を理解しましょう。
まず DXの本質について知りたい方は、こちらの記事をぜひご一読ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?今さら聞けない意味・定義・事例をわかりやすく解説【2024年最新版】
資料では、第一に、ビジネス起点でDX推進について検討することの重要性が強調されています。有用な技術・考え方も含めて、IT戦略の検討方法をご紹介します。
ITシステム企画といっても、デジタル技術ありきで検討するべきではありません。「AIを使って新しいことができないか」といったようにIT起点で検討すると、業務改善や効率化のレベルで終わってしまい、ビジネス変革につながらないと資料では指摘しています。
「製品ユーザーに新しい価値を提供したい」といったように、ビジネス戦略を起点としてデジタル技術の活用を検討するのが正しいあり方です。加えて、既存システムを前提とすることなく、ゼロベースで理想像を描くようにしましょう。既存システムを前提とすると、それが制約となって既存システムの見直しをはじめアイデアの膨らみがなくなってしまうからです。
資料では、DXの概念と相性のよい技術としてAPI、マイクロサービス、クラウドが挙げられています。
APIは、顧客接点の変化に追従できる技術です。変化のたびに基幹システムへ手を加えるのではなく、API連携によって多様なデバイスからデータや機能を共通的に利用できるようになります。さまざまなデバイスに対応したシステムを迅速に構築するためには、APIの活用が欠かせません。
マイクロサービスは、「疎結合」とも呼ばれる技術です。システムが密結合していると、新たな要求が発生した際にシステム全体の影響を検証すべく、全てをテストし直さなければなりません。迅速な対応が困難であるため、機会損失につながる可能性があります。
一方、マイクロサービスは、システムが小さなサービスに分割されることで、新たに開発した箇所に対する影響箇所を局所化できます。開発・テストの期間が短縮され、結果として新たなサービスを提供するまでの期間が短縮されるのです。
クラウドは、素早いビジネス変化に反応するために欠かせないインターネット上のプラットフォームのことです。ビジネスの立ち上げや改善の際に、素早く必要なシステムを調達・増減できるため、DXの実現可能性を大幅に高めてくれます。
DXといっても、必ずしもシステム全体を作り直すわけではありません。単に作り直すのではなく、既存システムから高頻度の変更が求められる競争領域だけを切り出し、別システムとして管理することも有効です。
多くの企業では、長年にわたって業務の基幹部分を支えるシステムを活用してきました。こうした既存システムは、肥大化・複雑化して運用や保守を困難にしがちです。既存システムの見直し方法についてお伝えします。
運用費や保守費の高騰した既存システムを、経済産業省はかねてから「技術的負債」と呼び、問題視してきました。既存システムの運用・保守に人材もコストも取られて、新規ビジネスに投資できない事例も少なくありません。技術的負債を解消して、DXに振り向けられるだけの投資を確保する必要があります。
既存システムの見直しを開始するにあたっては、関係者間の認識をそろえるためにもシステム全体像の把握が欠かせません。資料では、「全てのシステムを俯瞰できるシステム全体俯瞰図を作成することが有効」と説明しています。
全体像を把握できたら、課題を明らかにするためにも各システムの調査を行います。コスト構造を浮き彫りにするとともに、コストを増大させている要因を突き止めて対策の検討につなげます。
既存システムの見直しを進める際には、システムの仕分けを実施して、検討対象を明確にしながら分析を加えることが有効です。
たとえば、「ビジネス変化」と「エンドユーザーとの距離」の2軸で各システムの位置づけを可視化できます。顧客の要求の変化が激しい業務システムを競争領域、顧客の要求に影響されない業務システムを非競争領域として既存システムの仕分けを行い、システム刷新の方針を見極めます。
競争領域であれば、CX(カスタマーエクスペリエンス)を重視して最新技術を活用します。非競争領域は、機能の切り捨てやクラウドの活用などによってコスト削減策を検討できるでしょう。エンドユーザーとは距離があるものの、ビジネス変化の速い領域にある業務システムは、CXを重視する必要はありませんが、速やかな改善を目指すべきです。
場合によっては、システムを廃棄しなければならない可能性もあるでしょう。その場合、ビジネス価値に対してコスト高となっているシステムや機能を検討し、廃棄対象を決めます。
ここでも、既存システムを2軸で仕分けすることが有効です。仕分けの軸自体はビジネスやシステムの状況によってさまざまに考えられます。たとえば、運用コストとシステムの利用頻度で既存システムをマッピングできるでしょう。運用コストが高いのに利用頻度が低い業務システムは、廃棄の検討をおすすめします。
最後に、よくあるビジネス戦略テーマごとにITシステム企画をどう考えればよいのか、ケーススタディを紹介します。自社が検討を行う際の参考にしてください。
資料では、典型事例として、コールセンター業務が取り上げられています。9時から17時までで電話対応のみという昔ながらのやり方では、生活スタイルが多様化した現代の顧客ニーズには合わなくなってきています。
これを24時間対応、電話以外の多様なデバイスで問い合わせ可能に変えるのであれば、チャットボットや専用アプリの活用が考えられるでしょう。これらは24時間対応可能で、必要であれば一部業務だけ有人対応とすることで効率化を図れます。
また、顧客との関係を見直すのであれば、チャットボットや専用アプリによる対応から吸い上げたデータが活用できます。こうしたデータは、問い合わせた顧客の趣向を示しているからです。データをマーケティングシステムや顧客管理システムと連携させることで、マーケティングやサービス開発に活かせるでしょう。
業界や業種を問わず、「現在のビジネスモデルを見直し、新たな顧客層を取り込みたい」という課題を持つ企業は多いです。
この課題を解決するには、販売関連のシステムを切り出して、従来型の販売方法に加えてサブスクリプションやネット販売など、新たな販売チャネルを設ける方法が考えられます。ビジネス拡大に柔軟に対応でき、グローバルで多様な市場ニーズをつかむ販売方法となる可能性もあるでしょう。
この場合、ネット販売の拡大に応じてシステムを段階的に成長させていく方法が現実的です。販売システムを切り出して対面販売システムとWeb販売システムに分割。その後にネット販売がさらに拡大していけば、Web販売システムをモバイルアプリとWebアプリの2つに分けることも考えられます。
技術的負債の解消に向けた第一歩としては、既存システムの段階的なスリム化が考えられます。事業部門と連携して、優先度の低いシステム・プログラムを廃棄するのが現実的な方法です。
たとえば、まずは既存システムの中でも未稼働資産を廃棄します。その後、「数名が年に数回しか利用していない」というような利用頻度の低いシステムに対して、ビジネス部門と代替手段を協議し、新規システムに置き換えられるようであれば既存システムを廃棄します。
既存システムがスリム化されて運用費や保守費が削減できれば、その分を新規ビジネスへの投資にシフトできるでしょう。
DX推進におけるITシステム企画は、常にビジネス戦略と方向性をそろえて進める必要があります。新規システムを構築するにしろ、不要な既存システムを廃棄するにしろ、将来のあるべきビジネス像から逆算する形で検討することが重要です。あらためて自社のIT戦略を見直し、ビジネス戦略と適合しているかを確認してはいかがでしょうか。
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