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DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がビジネスの世界で定着しつつある一方、その実現には高い壁が立ちはだかっている事実も明らかになってきています。特に日本企業にとっては、既存システムの刷新や人材不足などが大きな経営課題であると指摘されています。
今回の記事では、DXについて簡単に説明するとともに、その実現のために何がハードルとなっているのか、企業は何をする必要があるのかをお伝えします。
DXと言っても、ただAIやRPAなどといったテクノロジーを導入するだけでよいわけではありません。DXで達成すべき点と、その難しさについてご説明します。
DXとは、Digital Transformationの略語です。Transformationとは「変革」「変容」といった意味を持っており、何かを根本から大きく変えるというニュアンスを持っています。
この点を踏まえると、既存のシステムや業務プロセス、ビジネスモデルを維持したまま、ただテクノロジーを導入するだけのことがDXを意味しないというのは明らかです。DXのゴールは「テクノロジーを活用したビジネスモデルの変革と優位性の確立」にあるというのが広く受け入れられた考え方となっています。
DXの定義に関する説明の詳細については、以下の記事をご参照ください。
「DX=IT活用」ではない!正しく理解したいDXとは?意義と推進のポイント
世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、デジタル変革に成功する企業の割合はわずか約16%にとどまります。デジタルに限らない企業変革の成功率が約30%であるのに対し、デジタル変革はその半分にすぎません。そして製造、エネルギー、インフラ、製薬といったトラディショナルな業界に限定すると、デジタル変革の成功率は4~11%とさらに下がるとされています。
この調査結果だけでも、DXのハードルがきわめて高いと分かります。マッキンゼーが企業経営者にインタビューしたところ、その課題は経営者のコミットメントや理解度、企業文化、デジタル人材の不足など、人や組織にまつわる要因が課題として挙がっています。ただIT投資を進めるだけでは、DXの成功につながらないことを示していると言えるでしょう。
マッキンゼーのレポートについては、以下のまとめ記事を参照してください。
DXは日本に根付くか?マッキンゼーの最新レポートから考える課題と未来
日本企業ならではの課題として、そもそもIT投資自体が低いこと、そして既存システムの老朽化が進んでいることがあります。
経済産業省によると、日本ではアメリカに比べて「攻めのIT投資」が進んでいません。ここで言う「攻めのIT投資」とは、ITによる製品・サービスの開発、ITを活用したビジネスモデルの変革など、価値を生むようなものを指します。その代わりに、業務効率化/コスト削減や業務プロセスのIT化など、「守りのIT投資」が多いのが日本のIT投資の特徴となっています。
その要因の一つが、既存システムの老朽化です。経済産業省のまとめでは約8割の企業が老朽化したシステムを抱えており、約7割の企業がそれをDXの足かせになっていると評価しています。
このように、DXを進めるにはIT投資以外、すなわち人材育成や組織整備を進める必要があるのに加え、日本企業においてはIT投資の質自体にも改善の余地があるのです。
ここまでの説明を踏まえて、経済産業省のレポートを参考に、DXを阻む日本企業ならではの課題を4点に整理します。
経済産業省は、DXを進めるために経営戦略が不可欠としています。新たなデジタル技術が次から次へ登場する中で、それらを活用してどのようにビジネスを変革していくかを検討する必要がある、というのです。
しかしながら現状では、単にDXの必要性が認識されるだけで、一歩踏み込んだ具体的な検討が欠けています。たとえば、ビジネスをどのように変えるか具体的な検討がないまま、単に「AIを使って何かできないか」といった指示だけが出されるといった事態が起きていると指摘されています。
前述の通り、既存システムが負担となってDXを妨げる傾向にあります。調査によると、「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」「レガシーシステムとのデータ連携が困難」「影響が多岐にわたるため試験に時間を要する」などの課題が列挙されています。DXを進めるためには、既存システムを見直すことが不可欠なのです。
このため「守りのIT投資」に資金や人材を割くことを余儀なくされており、DXを推進することが困難になっています。
経済産業省は、システムのユーザーである企業が外部ベンダーにシステムの開発や運用を丸投げする文化の存在を指摘します。こうした丸投げ文化が続いてきたことで、社内で高いITスキルを持つ人材の育成が進んできませんでした。
例えば、前述の通りDXの推進には既存システムを含めた見直しが欠かせません。しかし既存システムの開発・運用についての知識を持つ人材が社内に存在しないため、DX推進プロジェクトを進めることが難しいのです。
【関連】DXの担い手「CDO」とは?DX成功のカギは、デジタル化を推進する専門組織にあり
社内にIT人材がいないのであれば、外部から人材を集めるというのも一つの手です。しかし、日本では少子高齢化に伴う労働力人口の減少、そしてIT需要の高まりに伴い、社会全体で深刻なIT人材不足に陥ることが予想されています。
経済産業省の調査では、既に2018年段階で22万人の需給ギャップ(供給が不足している)が生じているとのことです。このギャップは時間経過とともに拡大していき、2030年段階では最大約79万人にも達します。
社会的にIT人材が不足するということは、その採用における企業間の競争が厳しさを増すことを意味します。特にAIやIoTなどといった先端テクノロジーを活用してDXを進められるような高スキル人材については、その採用がきわめて困難になることが容易に予測できます。
経済産業省は、ITの労働生産性を高めIT人材をDX推進など「攻めのIT投資」に回せるようにするために、老朽化した既存システム=「技術的負債」の見直しが不可欠であると主張しています。
既存システムの分析・評価の方法として、経済産業省は「頻繁に変更が発生する機能」「変更されたり新たに必要な機能」「肥大化システムの中で不要な機能」「あまり更新が発生しない機能」の4つのタイプを提示しています。この4つのタイプに沿って、既存のシステムの各種機能を区分けし、システム再構築をプランニングすればよいというわけです。
例えば、頻繁に変更が発生する機能の場合は、クラウド上での再構築を図り、そちらを活用することを推奨しています。また必要な機能は適宜クラウドへ追加し、不要な機能は機能縮小や廃棄を検討、あまり更新が発生しない機能は塩漬けします。
あくまで大まかな方針ではありますが、これに従うことで効率的なシステム再構築を図れます。うまく再構築できれば、「守りのIT投資」に割かれていた資金や人材をDXに充てることも可能です。DXに向けた人材育成も進めやすくなります。経済産業省は、こうした形で技術的な負債を解消し、DXにつなげることを推奨しているのです。
DXを実現することは、資金や人材の豊富な大企業であったとしても簡単ではありません。老朽化した既存システムの運用に資金や人材を割かれ、DXを進めにくい土壌ができてしまっているためです。経営戦略の不在や組織の未整備・人材不足といった課題もあります。
資金や人材を効果的に活用するためには、既存システムを含めた形でDXをプランニングすることが欠かせません。クラウド上での再構築や機能縮小・廃棄など、機能別に既存システムを評価する作業が、DX検討の前に必ず求められるのです。
【あわせて読みたい】DXレポート関連記事
・DX推進ガイドラインとは?経営戦略とITシステムの再構築で実現するビジネスモデル変革
・DXを推進するためのアクションプランは? 経産省「DX推進指標」を参考に
・経済産業省「DXレポート第2弾(2020年)」公表に見るコロナ禍での企業変革の重要性
(参考)
・経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」
・マッキンゼー・アンド・カンパニー「【マッキンゼー緊急提言】デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ」
・経済産業省「D Xデジタルトランスフォーメーションレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」
・経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」
・経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討~ ITシステムに関する課題を中心に ~」
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