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DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようにも、どこからどのように手をつければ良いか分からないという担当者・経営者は少なくありません。具体的なゴールや方法論もないまま、新しいテクノロジーを導入するだけで終わってしまうケースもよくあります。
そこで今回は、経済産業省の「DX推進ガイドライン」を参考に、DXを実現するための道筋について見ていきたいと思います。
(まずは、DX[デジタルトランスフォーメーション]の意味・基礎を知りたい方は下記をご覧ください。)
今回紹介するガイドラインは、DX推進のために企業が行うべきアクションプランをまとめたものです。まずはガイドラインの内容の大枠をご説明します。
DX推進ガイドラインは、これに先立って取りまとめられたレポート(「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」)に基づいて作られたものです。このレポートでは、DXが進まなかった場合に将来生じうる経済的な損失の大きさを「2025年の崖」と称し、早急なITシステムの刷新の必要性を主張した内容となっています。
【関連】DXを実現できないと転落する「2025年の崖」とは?政府の恐れる巨額の経済損失
レポートの中で、企業によるDX推進を政府として促すために、そのためのアプローチや必要なアクションプランについて認識を共有させるべく、ガイドラインを策定するべきだとの提言がなされました。今回ご紹介するガイドラインは、この提言を受けた形で作成されています。
ガイドラインは、「DX 推進のための経営のあり方、仕組み」および「DX を実現する上で基盤となる IT システムの構築」の2つのポイントから構成されています。
この構成からは、政府のDXに対する見方を読み取ることができます。単にITシステムを刷新したり新しいテクノロジー(AI、RPAなど)を導入したりすればDXを実現できるのではなく、経営戦略および経営層のコミット(本気で改革を推進するという意思表示)が必要だということです。
以下、この2つのポイントについて見ていきます。
ガイドラインのうち「DX推進のための経営のあり方、仕組み」について整理します。5つの項目がありますが、「経営層による経営戦略の設定」「DXを推進できる組織の整備」という2点から理解するとよいでしょう。
DX推進のための経営のあり方とは、すなわち「経営層のとるべき責任」を指しています。DX推進には全社的な取り組みが求められることから、社内の各関係者を統率して一つの方向に向かわせるイニシアティブが必要で、それを経営層に求められています。
まず、データとデジタル技術の活用によってどんな価値を創出するのか、そのためにどのようなビジネスモデルを構築すべきかについて、経営戦略やビジョンとして提示します。経営者に明確なビジョンがないのに、部下に「AIを使って何かやれ」などと丸投げして考えさせても、問いのない解を追わせることとなり、組織を疲弊させ、取り組みの失敗にしかならないと述べています。
次に、経営戦略やビジョンを組織に浸透させてDXを実現するために、経営トップ自身がリーダーシップをもって取り組むことです。ビジネスモデルはもちろん、業務プロセスや組織・人事の仕組み、企業文化・風土の変革が不可欠であり、社内での抵抗が大きいことも考えられます。トップがDXに覚悟をもってコミットしなければいけません。
経営戦略やビジョンを実現するためには、DXによって新たなビジネスモデルを構築するような取り組みを促す環境作りが必要です。
ガイドラインでは、組織整備を「マインドセット」「推進・サポート体制」「人材」の3点から解説しています。マインドセットとは、新たな挑戦を促すような仮説設定と検証・評価のプロセスのこと、推進・サポート体制とは各事業部門におけるDX推進部門の設置、人材とはDX推進に必要な人材育成・確保に向けた取り組みのことをそれぞれ指しています。
これら3点のどれかが欠けていたら、DXの実現は困難でしょう。十分な体制がなければ取り組みの実行と継続は不可能ですし、人材がいなければ取り組みの質も低いままです。そしてマインドセットがなければ、有能な組織・人材をもってしても全社へ変革を浸透させることはできません。
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次に、ガイドラインのうち「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」について見ていきましょう。ITシステムを構築するための体制、その実行プロセスの2点から説明されています。
ITシステムの整備においても、やはり体制や人材の確保が必要です。加えて、IT部門のみならず、事業部門が主体的に要件定義へ関与しなければいけません。
データやデジタル技術を主に活用するのは「事業部門」であると考えられます。データやデジタル技術の積極的な活用を進めるためのIT基盤、また各事業部門のシステムが相互に連携できるような全社的なシステムを構築することになります。適宜社外と連携してプロジェクト推進や人材育成を行うことも、ガイドラインには記載されています。
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経営戦略の説明でも人材について言及しましたが、DXの推進には「戦略策定という上流工程に関わる人材」「それを設計に落とし込んで開発へつなげる人材」「実際に開発を取り仕切る人材」など、多様な職種の人材が関わることになります。以下の記事でDX推進における人材の種類とその育成について説明しているので、ぜひご参照ください。
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DX推進に際しては、これまでのように外部のベンダー企業へ開発を委託することとなった際も、組織の整備や人材育成という観点から鑑みて、ベンダー企業へ「丸投げ」をしないということが重要です。事業部門がオーナーシップを持って、実現したい事業企画や業務企画を明確にするとともに、ベンダー企業からの提案を取りまとめ、自ら要件定義を行って完成責任まで担うということです。
DXがビジネスモデル変革を志向する以上、現在の業務プロセスに基づく既存のITシステムの再構築を必要とする可能性が高くなります。つまり、既存の業務プロセスを支えるプログラムの一部をクラウド上で刷新したり、必要でなければ勇気をもって廃棄したりと、機能別に既存のITシステムを根本から見直す作業が発生します。
まずは既存のIT資産の現状を分析・評価し、どのようなITシステムへ移行させるか(あるいはさせないか)を検討することになります。ガイドラインに挙げられた例によると、「半分以上が業務上止めても問題のない、利用されていない IT システムであり、これらについては、廃棄する決断をした」「費用対効果等を考慮し、今後、更新があまり発生しないと見込まれる機能は、その範囲を明らかにした上で、現状維持とすることもあるが、その場合でもデータ活用を阻害しないよう、他のシステムとの連携等に留意している」などがあります。
このように、頻繁に使う機能であればクラウド上で再構築、不要であれば廃棄・現状維持など、機能別に移行方針を考えることが求められます。
DX推進ガイドラインは、資料のボリュームとしては決して膨大な内容を盛り込んだものではありませんが、DX推進のために必要な作業やシチュエーションをコンパクトにまとめています。IT基盤の刷新だけではなく、経営戦略の策定や経営層のコミットメントの必要性に言及している点が極めて重要です。「DXをやろう」ではなく、「DXで”何を”変えたいのか、”どう”変えたいのか」を経営者が示さなければいけません。
ガイドラインの内容は、前述の通り先に公表されたレポートの内容を基にしています。レポートの内容については以下の記事が参考になりますので、別途ご参照いただければと思います。
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また、経済産業省がアクションプランへの落とし込みを支援する目的で2019年に作成した「DX推進指標」については下記をぜひご覧ください。
【関連】DXを推進するためのアクションプランは?経産省「DX推進指標」を参考に」
経済産業省「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜」
経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
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