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世界の先進国に比べて日本ではテクノロジーの導入や活用が遅れており、DXがなかなか進んでいないという議論が少なくありません。
そこで今回は、世界を代表するコンサルティングファームの一つマッキンゼー・アンド・カンパニー(以下「マッキンゼー」)が本年9月に公開したレポート【デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ】を参照しながら、日本におけるDXの現状と課題について考えてみます。マッキンゼーのレポートは、企業経営者を始めとするビジネスパーソンから、リリースのたびに注目されていますので、いち早く内容を理解して自社の施策に取り入れていただければと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの人が自宅にとどまる時間を大きく増やすことになりました。その結果として世界的にはデジタルサービスや非接触型サービスの利用が拡大したとされています。日本でも、ビジネスにおけるDXが進んでいったのでしょうか。
新型コロナウイルスが世界的に流行したことで、多くの人が活動スタイルの変更を余儀なくされました。自宅で仕事をしたり、自宅でプライベートの時間を過ごしたりすることになったのです。
自宅で仕事やプライベートを充実させるためには、様々なテクノロジーやサービスが必要です。オフィスのようにちょっとした相談・話し合いができないため、その代わりにチャットツールが必要です。外出ができないので、その代わりにオンラインゲームや飲食店の宅配サービスを利用することになります。
このように、新型コロナウイルスは人々のサービス利用の傾向を大きく変えることになりました。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、「2ヵ月で2年分のDXを私たちは目にしたことになる」と発言して注目を浴びました。
マッキンゼーのレポートでも、世界各国で非接触型のデジタルサービスに対する需要が一気に高まったとの調査結果が示されています。
世界で様々なサービスのデジタル化が進んだのに対し、日本ではそこまで大きな変化が見られなかったとレポートでは指摘されています。
日本を除くほぼ全ての国では、エンターテイメント・出前/宅配・飲食・コミュニケーション・ウェルネス(フィットネス・エクササイズなど)の各分野において半数以上、デジタルサービスないし非接触型サービスの利用が10%以上の利用割合の増加や新規ユーザーの増加が見られます。しかしながら、日本だけが10%未満の増加にとどまっているということです。
この傾向はビジネス分野に限定しても同様です。テレビ会議の導入が進んだとされてはいますが、日本では10%未満の増加にとどまるのに対し、他の国では10%以上、インドでは30~39%の増加を見せています。
以上を踏まえると、新型コロナウイルスのパンデミック下においても日本のDXは緩やかにしか進まなかったことが分かります。
それでは、なぜ日本ではこの状況でもDXが進みにくいのでしょうか。DXを妨げるハードルとして、マッキンゼーのレポートでは「社内のデジタル人材不足」「社長の年齢と在任期間」「外部の人材が活躍しにくい組織文化」の3点が挙げられています。
社内のデジタル人材不足とは、IT業務を外部のベンダーに依存してきたため、DXを進められるようなデジタル分野に造詣の深い人材がいないことを示しています。DXのためにデータサイエンティストやエンジニアを集めようにも、社内にはこうした人材がいないのです。
社長の年齢と在任期間とは、日本企業における社長の高齢化を示しています。日本の社長の平均年齢は2020年段階で59.9歳、内部昇進するCEOの平均在任期間は5.1年に過ぎません。そのためデジタルのことを全力で学び、強い覚悟を持ってDXを進めようと考えるCEOが少なくなりがちです。
3つ目の外部の人材が活躍しにくい組織文化とは、未だに人材の流動性が低く、年功序列の傾向が企業に残っているため、外部からデジタル分野のエキスパートが採用されたとしても、思うようにDXを進められないということです。組織トップの強いコミットメントが無い限りは、外部のエキスパートだけでDXを進めようとしても限度があるのです。
以上の3つの理由が、マッキンゼーの考える日本企業のハードルとされています。
ハードルを乗り越えてDXを実現するためには、DXによって何を達成したいのかというゴールを定めることが欠かせません。マッキンゼーがDXのゴールや効果についてどう考えているのか、実例とともに見ていきましょう。
DXはDigital Transformation(デジタル変革)の略語です。「変革」と呼ぶからには、単なる改善以上の大きな変化が期待されます。
マッキンゼーは、DX(デジタル変革)を「データおよびデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革」と位置づけ、目指す姿として「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立」と述べています。
一方で「従前のビジネスモデルや運用プロセスを維持したまま、チャネルや一部のオペレーションの自動化・デジタル化を実施」は「デジタル改善」と称しており、明らかにDXと別のものとして捉えています。
DXは、単なるテクノロジーの導入による既存業務の効率改善ではありません。ビジネスモデルや製品・サービスを変革することこそがDXのゴールであり、テクノロジーの導入やデータの活用はその手段に過ぎません。
そのため、投資すべき資金や時間も大きくなります。マッキンゼーは、必要投資額を数十億~数百億円、必要年数を最低2~3年と見積もっています。このコストの大きさから見ても、経営トップのコミットメントと覚悟が求められるというのが理解できます。
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マッキンゼーは、DXの効果として端的に「収益率に与えるインパクト:~数十パーセント」と記述しています。投資すべき資金と時間が大きいので、それに見合うだけの効果を見込むのも当然のことです。
またR&D、生産、マーケティング、セールス、サービスなどの部門横断で取り組むことで、5~10%の売り上げ向上につながるとも指摘しています。それだけでなく、25~50%のコスト削減・生産性向上、顧客の離反阻止率を10%改善、創出するイノベーションの数40倍などの劇的な効果が期待できるとまとめています。
その結果として、DXに成功した企業とそうでない企業との差は極めて大きなものとなります。マッキンゼーはDXを「Winner Takes All(勝者独り勝ち)の競争」としており、DXのリーダーとそれ以外の企業との間で会社のパフォーマンスに3~4倍の差が生じるとまで述べているのです。
DXの定量的な効果だけではなく、質的な効果を成功事例から見てみましょう。レポートでは、ある日本企業の事例がプロセスとして取り上げられています。その企業は、3年前までDXに手をつけておらず、従来型の合議制の3カ年計画でIT 予算を決め、主に運用保守にほぼすべての投資を使っていました。3年前に外部からCDO(Chief Data Officer:最高データ責任者)を採用し、CIOを兼務する形でDXをスタートしました。
まず、従来のITとDXの違いを認識し、戦略・ガバナンスを検討して変革プランを幹部10名の間で共有するようにしました。そしてシステムやデータの統合、新技術の発掘などIT部門を「御用聞き型」から「提案型」へ進化させ、会議・紙資料・メール・固定席を禁止とするなど大胆な施策を打って社員の意識改革を進めました。
また人材育成にも手をつけました。事業部門が求めるインサイトを創出できるデータサイエンティスト、新技術の目利きをしてシステムを設計・構築するアーキテクト、顧客との接点をデザインできるデザイナーなどの業務を内製化して社内で育成するように方針を策定しました。それとともに、デジタルを知らない社員にも研修を実施しました。
この結果として、幹部の一枚岩化と投資ガバナンス、システム統合、働き方改革による生産性向上、スター人材の育成が進んだとされています。
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マッキンゼーは、DXの成功率が従来型の企業変革よりも低いと明言しています。そのような中で、日本企業がDXを成功させるために何が必要となるか、いくつかのポイントとしてまとめられています。
マッキンゼーは、DXを成功させる要素として「戦略」「組織能力」「実行管理」という3つの要素を挙げています。
戦略とは、トップ経営層(CEO、CFO、CSOとビジネスのヘッド)が一枚岩となり、DXビジョンを作ることです。「なぜ実施するのか(Why)」「何をどの順番でやるのか(What)」「いかにしてその年度のリソースを集中させるのか(How)」を見極めながら戦略を立案することが有効であるとレポートでは述べられています。
組織能力とは、人材の育成や配置、テクノロジー、データといった各種施策の実行能力を指しています。IT業務の内製化と研修強化によって、DXを進められる人材を内部で育成するとともに、全社的にテクノロジーやデータに対するリテラシーを強化する施策を打ち出すことが求められます。
実行管理とは、マネジメント体制の強化のことです。事業モデルやビジネスモデルの変革、組織形態・組織能力・組織文化の変革はもちろん、計画したビジネス効果のモニタリングまで含まれます。
こうした要素が、DX実現の基本的な要素としてまとめられています。特に強調されているのは、経営層のコミットメントです。IT関係者だけではなく、トップ経営層が覚悟をもって取り組まなければDXを実現できない、というのが一貫したマッキンゼーのメッセージとなっています。
以上を踏まえたうえで、マッキンゼーは日本企業に必要なポイントとして「経営トップを巻き込む」「DXのインパクトの大きさについて仮説を立てる」「デジタル人材を育成する」「ファーストステップを絶対に成功させる」の4点を挙げています。
経営トップを巻き込むというのは、これまで述べてきた通りDXには経営層のコミットメントが必要であるということです。社内外に様々なステークホルダーがいる中で、変革を始めて持続性のある取り組みにできるかどうかは経営層にかかっています。ビジョンを言語化し、DX実行責任者へ大胆に予算や権限を委譲することが求められます。
DXのインパクトの大きさについて仮説を立てるというのは、どういった事業インパクトを狙ってどの領域にリソースを集中させるのか決めるということです。事業のあり方を大きく変えるのがDXであることから、ある事業における利益改善の効果や売り上げ向上の効果など、具体的なインパクトについて仮説を立てて可視化することが欠かせません。
デジタル人材の育成については、外部ベンダーへの「丸投げ」をやめ、内製化を進めることに他なりません。どの程度の人材が必要か、現状でどの程度の能力があるのか、目指す姿と比較してギャップがどれくらいあるかなどを明確にして、リーダー層・プロダクトオーナー層など各層に合わせたスキルプログラムを構築することが必要です。
【関連】ベンダーとのワンチームで“トランスフォーメーションの壁”を突破する
最後に、DXを進めるからには「ファーストステップ」を絶対に成功させることが大切です。大きな変革を開始すると、どうしても組織の抵抗や「自分には関係ない」という評論家的な意見を受けてしまいがちです。したがって、変革の1年目に皆が納得する成功を示し、関係者の協力の得やすい環境を醸成できるかどうかが成否のカギを握ります。第一弾施策の決め方や人選、成功の定義については十分に議論し、万全の体制で臨むべきとマッキンゼーは強調しています。
以上の4点が、マッキンゼーの考える日本企業におけるDXの成功のポイントとなっています。
日本のみならず世界を代表する戦略コンサルティングカンパニーであるマッキンゼーによるDXレポートの内容についてご説明しました。
「頭では分かっている」と思える内容であっても、実践するのは容易なことではありません。成功率が低いということは、そうした内容を愚直にアクションプランに落とし込み、地道に進める企業の少なさを示しています。まずはマッキンゼーが繰り返しレポートで強調していたように、経営層トップの間でDXの戦略やゴールを議論し、あるべき姿を共有することから始める必要があるでしょう。
経営層のコミットに関しては、下記をぜひご覧ください。
【前編】DXの成果は「課題の自分ゴト化」と「トップのコミット」で決まる~全社一丸となって取り組む合意形成・協力体制の作り方~
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(参考)
・マッキンゼー・アンド・カンパニー「【マッキンゼー緊急提言】デジタル革命の本質: 日本のリーダーへの メッセージ」
・Microsoft『 2 years of digital transformation in 2 months』
・経済産業省「産業界におけるデジタルトランスフォーメーションの推進」
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