ECサイトの成功には欠かせないデータ。ECサイトを運営している皆さんは、日々の業務でShopifyのようなECプラットフォームとGoogle Analyticsのレポートで細かい数字が違うことに気づいたことはありませんか?
この記事では、ECプラットフォームとGAの数字が合わない理由や、その解決策に焦点を当て、ECに関わる皆さんがデータを正しく活用する方法について探っていきます。数字のずれに振り回されず、ECサイトの成功に向けて確かな一歩を踏み出しましょう。
目次
- 正しいのはECプラットフォームやERP。ただし取れるデータは限定的
- なぜ数字がずれるのか?
- 「気にしない」が解決策
- それでも気になる人のためのデータ補正テクニック
- ウェブのデータを分析以外に使うならリスク対策をしよう
- CDPはデータ活用のリスクコントロールでも有用
- まとめ:数字のずれとうまく付き合おう
1. 正しいのはECプラットフォームやERP。ただし取れるデータは限定的
一般的に、ECプラットフォームやERP (Enterprise resource planning) のような受注管理に関わるシステムで集計されたレポートは、取引実績に基づく信頼性の高い数字を提供しています。これはECサイトの売上や在庫などの情報を正確に把握する上で非常に重要です。一方で、Google Analytics(GA)などのアクセス解析ツールが収集するデータには多くのノイズが含まれており(理由は次の章で説明します)、売上のような共通の指標であっても、ECプラットフォームのレポートと違う値になることが普通です。
しかし、ECプラットフォームのレポートだけでは得られない情報もあります。ユーザーの興味関心やECサイトのボトルネックを知るためには、アクセス解析ツールの活用が不可欠です。ユーザーがどのような経路を辿り、どんな商品に興味を示しているかなど、より詳細な情報を得ることで、マーケティング戦略の改善やECサイトの最適化が可能となります。
2. なぜ数字がずれるのか?
GAの数字がずれる原因はさまざまですが、以下に代表的なケースを挙げてみましょう。
重複トラッキング
重複トラッキングは最もよくある原因の一つです。例えば、
- 通信やブラウザの問題により、ページが途中まで読み込まれた後に再読み込みされた
- 注文完了ページから別のページへ遷移してから、ブラウザバックでもう一度注文完了ページが表示された
- ページを開いたままブラウザを閉じて(あるいは「バックグラウンド」状態にして)、再度ブラウザを開いた時(あるいは「フォアグラウンド」状態にした時)に最後に見ていたページが開かれた
こういった場合にもGAのタグはイベントを計測する可能性があります(GAを導入した時のECサイトの実装やタグマネージャーの設定に依存します。)そうすると、本来は一度だけカウントすべき購入やページビューといったイベントが、複数回カウントされます。一方で、一般的なECプラットフォームは一意なIDによって購入を管理します。また、利用しているECプラットフォームによっては、ブラウザにキャッシュされたページの再読み込みはカウントされません。
トラッキングの欠損
トラッキングデータの欠損も、数値の違いを引き起こします。ブラウザの設定や広告ブロッカーの影響でトラッキングコードが動作していないケースや、一部のページでタグが正しく実装されておらず、トラッキング対象外になっている場合などが考えられます。また、当局の規制や自社のプライバシーポリシーでクッキーの利用が制限され、合意を得られたトラッキングデータのみを収集している場合もあります。これにより、一部のページビューや購入がGAに反映されず、実際の値よりも小さくなります。
データの連携不備
データの連携不備には様々なケースがありますが、ここでは「eコマースイベント」で連携される「eコマースデータ」の問題を取り上げます。GAでは閲覧された商品の情報や注文の明細を「eコマースデータ」として収集しますが、この情報に漏れや誤りがあると、集計結果に影響します。例えば、ラッピングや送料などの商品以外の情報が連携されていない場合や、セールやクーポン利用による価格の変動が正しく反映されずに連携された場合が考えられます。
また、ここで挙げた原因について、ユーザーの環境によって影響の大きさが変わる点にも注意してください。例えば、スマートフォンとデスクトップPCでは通信の安定性に違いがありますし、モバイルOSではウェブブラウザ(興味深い例として「アプリ内ブラウザ」を含みます)の再起動やクッキーのリセットはよくあることです。
3. 「気にしない」が解決策
GAのようなアクセス解析ツールで厳密な集計を実行するのは一般的に難しく、技術的に不可能なことさえあります。数字のずれが生じても、あまり深刻に捉えず、そういうものと割り切るのも一つの解決策です。これは単なる無関心ではなく、慎重かつ戦略的なアプローチです。なぜなら、数字のずれがあっても、データに基づいた判断はできるからです。
絶対値ではなく数字の傾向を捉える
まず、数字のずれがどの程度の範囲で発生しているかを把握しましょう。ウェブのトラッキングのように大規模なデータでは、一部のデータ不備が全体に与える影響は限定的かもしれません。広告キャンペーンの評価やABテストの結果を分析するには、数字のおおまかな大小を把握できれば十分ということもあり得ます。もし、わずかな違いで結論が逆転してしまうような場合には、差は無かったと解釈しても良いでしょう。大切なのは、結果をそのまま受け入れるのではなく、伝えたい主張をきちんと言語化して、それをデータ全体の傾向から示すことです。
バイアスの考慮
数字のずれに特定のパターンがある場合は、それをバイアスとして捉えましょう。バイアスは統計学で使われる用語で、観測可能なサンプル(例えばGAのタグによってトラッキングできたeコマースイベント)が真のデータ(例えばユーザーが実際にECサイトで商品を購入した事実)とは異なるパターンを示すことで生じる偏りのことです。具体例を一つ挙げると、重複トラッキングに起因するCV数や収益のずれは、数字を実際より大きくする方向に働きます。このようなケースでは、データの特性を把握し、バイアスを加味して結果を解釈することが重要です。もしもGAが報告した先月の収益が10%過剰だったなら、今月の収益も同じくらいには過剰と思って良いでしょう。
「気にしない」アプローチは、無関心ではなく、データの特性に応じた適切な戦略を展開する柔軟性を持った解決策です。数字のずれに振り回されず、戦略的な視点で不安定なデータと付き合うことがECサイトの成功に繋がります。
4. それでも気になる人のためのデータ補正テクニック
まず最初にお伝えしたいことは、数字の補正が必要なケースは限定的という点です。大体のケースでは、ECプラットフォームの信頼性の高い数字とGAの多岐にわたるデータとを組み合わせることで、適切なマーケティング戦略や意思決定を行うことが可能です。
ただし、特定の状況では数字のずれが誤った意思決定に繋がる可能性もあります。例えば、特定のユーザーセグメントでCVRや売上に特徴的なパターンが見られた時に、それが実際にユーザーの特徴を表しているのか、それともデータの問題に起因するバイアスなのかを見極める必要があるかもしれません。そのような状況で数字のずれを抑えるには、以下のテクニックが役立ちます。
カスタムイベントの活用
まず一つ目のテクニックとして、カスタムイベントの活用が挙げられます。ページ遷移といった標準イベントに加えてカスタムイベントを設定することで、GAのトラッキングがより詳細になり、数字の正確性を高めることができます。例えば、特定のUI操作や重要なページ要素の閲覧に対してカスタムイベントを設けることで、ユーザーの行動パターンをより正確に把握できます。注文における「トランザクションID」のように、重複トラッキングがあってもイベントを一意に識別する値をカスタムイベントに含めるのも、正確性向上に繋がる実用的なテクニックです。
データクレンジングの実践
データにはノイズが付きものですが、これを適切にクレンジングすることで、より実際の数字に近しい集計を実行できます。GAをデータ収集のツールとして特化して、可視化や分析にはBIなど専用のツールを使っているのであれば、データクレンジングによりデータの品質を高めることも検討できます。具体的には、重複するトラッキングをデータセットから取り除いたり、外部のデータソースとの突合によってデータの欠損や誤りを検出・補正することができます。さらに、一部の値が欠損したり誤っているレコードを、他のレコードや外部のデータソースから推定した値で補完する手法もあります。
正確さと速報性のトレードオフ
カスタムイベントやデータクレンジングによって数字の正確性を上げられることを説明しましたが、これらのテクニックは、分析したい期間外のデータを必要とする場合があります。月末の深夜にカートに入れられた商品は、日付が変わった後で注文されるかもしれませんし、3月にボールペンを購入したゲストと6月に替芯を購入したゲストが、9月に実施した懸賞キャンペーンへの応募で同一のユーザーと判明するかもしれません。重要なのは、データを補正できる理論的な上限が、時間経過によって変化することです。これは、あるユーザーセグメントでの売上推移を限界まで補正した時、直近の数字ほどノイズの影響が大きいことを意味します。分析の目的によっては、ある時点における「点」の正しさを突き詰めるのではなく、速報性の要件に応じて「線」の正しさをコントロールする発想も大事になってきます。
数字のずれに対処するためのテクニックを紹介しましたが、中にはウェブのデータに関する深い理解と経験が求められるものもあります。数字の補正が不十分であったり、テクニックが誤って適用されると、却って深刻な問題を引き起こします。データの扱いに不安がある時は、専門家への相談も考えてみてください。経験豊富なデータエンジニアやアナリストと協力することで、正確なデータの取得や適切な分析が実現します。
5. ウェブのデータを分析以外に使うならリスク対策をしよう
ウェブのデータ分析はECサイトの成功において不可欠な要素ですが、分析結果を具体的な行動に繋げることも同様に重要です。しかし一方で、ウェブのデータ品質の低さが、ユーザーからのクレームや想定外のコストを招く可能性があります。
「気にしない」アプローチの限界
データ分析で得られた洞察をECサイト上のコンテンツ管理やユーザーとのコミュニケーションへ結びつけることで、ユーザーエクスペリエンスの向上やパーソナライゼーションが可能となります。その基礎技術が、ウェブのデータを用いたユーザーのプロファイリングです。ところが、プロファイリングにおいては先に述べた「気にしない」アプローチは通用しません。データ品質の低さによる誤ったプロファイリングが引き起こす問題は、単なる数字のずれ以上のものになり得ます。
例として、ウェブのデータを用いたプライベートオファーには、以下のリスクが潜んでいます。
- 不正確なデータに基づくターゲティングが行われると、元々想定していた対象ユーザーにオファーが届かない、または、対象でないユーザーにオファーの情報が漏洩し、いずれもユーザーからのクレームにつながります。
- オファー対象のセグメントの大きさやオファーへの反応率に関するシミュレーションと実態が乖離し、マーケティング予算の無駄遣いや効果の低下を招きます。
- プライベートオファーには個人情報が絡むことがあり、データの不備は企業のプライバシーポリシー違反に発展する可能性があります。
リスクを抑えるための取り組み
リスクを最小限に抑えるためには、データの統合が不可欠です。異なるデータソースを一元管理し、一貫性のあるデータを確保することで、プロファイリングにおけるデータ品質の向上が期待できます。同時に、データ品質の評価を行い、信頼性に応じた用途でデータを利用できる環境が整えられます。
特に、ユーザーエクスペリエンスやパーソナライゼーションの分野では、同意管理も重要です。適切な同意を得たデータのみを目的の範囲でのみ利用することで、法令遵守を担保し、顧客から信頼されるマーケティング活動が可能となります。
データの活用範囲を分析だけでなくパーソナライゼーションへと拡げる際には、品質とポリシーの両方の観点から十分なリスク対策を行いましょう。
6. CDPはデータ活用のリスクコントロールでも有用
データの活用に伴うリスクを抑え、信頼性の高いマーケティングを実現するためには、顧客データプラットフォーム(CDP)の導入が強力な手段となります。CDPの導入によって、IDの統合、データ品質の向上、Single Source of Truth(SSoT)の確立が可能となります。
1. IDの統合
CDPは、複数のデータソースから得られる顧客情報を一元管理し、IDを統合します。これにより、異なるデバイスやプラットフォームを利用する顧客に対しても、一貫性のあるデータを提供できます。例えば、ECサイト上での購買履歴と、メールマーケティングでのクリック履歴が統合され、より正確なプロファイリングが可能となります。
2. データ品質の向上
CDPはデータを統合し、クレンジングするプロセスを経て、重複や不正確な情報を排除します。これにより、プライベートオファーなどのマーケティング活動が誤ったデータに基づいて実行されるリスクを低減します。
3. Single Source of Truth(SSoT)
CDPが提供するSSoTは、同意管理ステータスを含む顧客の様々な情報を企業全体で共有し、異なる部門やプロジェクト間での認識の齟齬を解消します。これにより、ポリシーに準拠した意思決定が容易になり、リスクを未然に防ぐことができます。
7. まとめ:数字のずれとうまく付き合おう
本記事を通じて、ECプラットフォームとGAのレポートで生じるずれの原因と、その対処法について詳しく見てきました。ECサイトを運営する上でデータの活用は不可欠ですが、必ずしもすべてのデータが完璧に収集できるわけではありません。大切なのは、データの理解を深め、分析やその他の目的に合わせてデータの扱い方を調整することです。
この記事が皆さんや、もしくは皆さんの上司の疑問を晴らし、前向きに議論を深める手助けとなることを願っています。
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