“新規ユーザー”にもぴったりの求人を。
行動ログを活用したレコメンド最適化プロジェクト
パーソルキャリア様が運営するアルバイト求人情報サービス「an」は、PC・スマートフォンなどで、全国のアルバイト求人情報を提供しています。より多くの人と組織の最適なマッチングを目指して、ブレインパッドのレコメンドエンジン搭載型プライベートDMP「Rtoaster」やMAツール「Probance」を活用し、検索条件や閲覧傾向など、ユーザーの行動情報から最適なバイトをおすすめしています。そんなパーソナライズを、“新規ユーザー”のような行動情報があまり得られていないユーザーにも、より希望に合った求人をおすすめすべく、「Rtoaster」の蓄積している「行動ログ」を活用したレコメンド最適化のプロジェクトを開始。この取り組みについて、同社Works事業部 CRMグループマネージャーの西澤様と、アナリティクスグループ佐藤様に伺いました。
施策・導入のイメージ
導入後の成果・ポイント
- サイト行動ログを活用した、レコメンド最適化プロジェクトを開始
- ユーザーの行動量でレコメンドロジックを使い分け、CVが2.23倍に
- プロジェクト成功の秘訣は、PDCAで生み出す小さな良化の積み重ね
1.事業内容
約50年の歴史、アルバイト求人媒体の老舗「an」
パーソルキャリア様の「an」について教えていただけますか?
- <西澤様>
- 1967年に「アルバイトニュース速報」という名前で、学生向けアルバイト情報を発信する雑誌として創刊されました。アルバイト情報誌としては日本初の媒体です。その後、誌名が「an」に変わりました。
2006年頃からWebにシフトし始め、モバイル版がスタート。2017年に完全にWebに移行しました。現在は、Webサイトの他にスマホアプリもあります。メインターゲットは学生ですが、主婦層も多くいます。
2.カバーしきれていなかった“新規ユーザー”にも十分なパーソナライズを
レコメンド最適化プロジェクト
パーソナライズの取り組み状況を教えていただけますか?
- <西澤様>
- まず弊社の特徴として、検索エンジンから流入するユーザーは、基本的にはサイトトップではなくアルバイト一覧のページに行きます。そこで気に入った求人があれば詳細ページを見に行くし、なければそのまま離脱してしまいます。そのため、一覧ページはできるだけユーザーの関心のある求人を表示する必要があるため、パーソナライズを行っています。これはWebだけでなくアプリでも行っています。
- 一般的に、レコメンドで使われているアルゴリズムは”協調フィルタリング”のようなものが多く、ユーザーのサイト行動が多いほど情報がたまっていき、マッチングの精度が上がっていくというものです。
そのため、頻繁にサイトに訪れるなど行動量の多いユーザーには十分にパーソナライズが効いた求人を表示できますが、データがほとんどない初訪ユーザーや行動量の少ないユーザーなどには、パーソナライズが効きにくいといった課題がありました。
このようなユーザーへも、パーソナライズが十分に効いたサイト表示にできないか?ということで、今回レコメンド最適化プロジェクトを開始しています。「Rtoaster」で蓄積している行動ログ活用しながら、[Step1]で行動量が少ないユーザーに適したアルゴリズムの開発、そして[Step2]でユーザーの進度に応じたレコメンドの切り替えに取り組みました。
3.行動量が少ないユーザーに合ったアルゴリズム開発
ABテストを繰り返し、最適化を模索
まず「行動量が少ないユーザー」に適したアルゴリズム開発からお聞かせください。
- <西澤様>
- いくつかツールを検討した結果、行動量ではなく接触した求人の“特徴”に応じた“タグマッチ”という方式を取っているブレインパッドの「Conomi」を採用しました。
あらかじめ求人情報などに[勤務地][職種][時給]といった変数タグを付与しておき、ユーザーが求人情報の検索や閲覧をした時に、ユーザーに閲覧または検索した求人情報のタグを紐づけます。その情報を「Conomi」が蓄積し、ユーザーに紐づいたタグにマッチする求人情報を抽出するというものです。この方法であれば、行動量が少ないユーザーにもマッチするレコメンドが出せるのではないかと思いました。
Works事業部プロダクト&マーケティング企画統括部
マーケティング企画部 CRMグループマネジャー
西澤 知典 様
- <西澤様>
- ここでは、[勤務地][職種][時給]のうち、どの変数を重視したアルゴリズムにするかの設計に特に力を入れています。
具体的に、どのように進められたのでしょうか?
- <西澤様>
- 「Rtoaster」から行動ログを出してきて、統計解析のようなことをしながらいくつかパターンを出していきました。パターンについては、[職種][勤務地][時給]のうち、どの要素をそれぞれどれくらいの比重をつけて計算するのか、といったものです。変数自体は少ないですが、その中で細かく比重を分けています。
まずは、それらのパターンのうちどれが一番CVRが高そうか、といったところの机上テストを行い、よさそうなものをまた数パターン用意したうえで本番環境でABテストを行いました。
ABテストを行った結果を教えていただけますか?
- <西澤様>
- テストの結果、職種を重視するパターンが残りました。アルバイトだから時給だったり場所が重視されているのかなと思っていたのですが、この結果にはちょっと斬新さを感じています。
- <佐藤様>
- 職種を重視するパターンがよさそうだと分かったあとも、半年ほどチューニングを繰り返しました。単純に職種を強くしてしまうとあまり人気のない職種なども出てきてしまったりということがあったので、最適なレコメンドが出るようPDCAを回して少しずつ実績を上げてきました。
次に、Step2のレコメンドロジックの切り替えについて教えていただけますか?
- <西澤様>
- 前提として、「Rtoaster」と「Conomi」を別物とは考えていませんでした。比較してどちらかいい方だけを残すのではなく、ユーザー一人ひとりの活動進度によって「Conomi」と「Rtoaster」どちらか相性がいい方でパーソナライズをしようと考えました。
- ここでも生データを使った分析とABテストを繰り返しています。
ある一定の行動量までのユーザーは「Conomi」のマッチング精度が、それ以上の行動量のユーザーには従来の「Rtoaster」の方がマッチング精度が高そうだというところまで見極めることができました。それを今、トップページと求人の一覧ページで展開しているところです。
4.プロジェクトの成果
「Conomi」を使った施策を回して、CV数が2.23倍
「Conomi」導入から半年以上たちましたが、成果はどうですか?
- <西澤様>
- まだ実験中ではありますが、「Rtoaster」のレコメンドのみだった時と比較して、「Conomi」導入後は当該箇所でのCV数が2.23倍になりました。
- これらの試行錯誤で結果としてわかったのは、トップページでは「Conomi」でレコメンドが表示されるユーザーが明らかに多いということです。トップページに来るのは、使い慣れていないユーザーや、数は少ないけれど「an」で検索して流入したユーザーで行動履歴が多いユーザーはあまり来ないのではないかと。そうだろうなとは思っていましたが、それがデータで明らかになったことは重要だと思っています。
5.レコメンド最適化成功の秘訣
データに基づいたPDCAでつくりだす、小さな良化の積み重ね
今回のレコメンドの最適化プロジェクトの成功の秘訣を教えていただけますか?
- <西澤様>
- データを分析して仮説を立て、施策に落とし込み、その結果を受けてまた改良していくという、データに基づいたPDCAだと思います。指標の改善のためにサイトを大きく変えて、だめだったらまた別のバージョンアップをするというのではなく、短い期間でPDCAを回して少しずつ良化していく。組織としてはなかなか根付きにくいことだとは思いますが、データを活用したPDCAを回すことで、One to Oneのパーソナライズが実現できると、組織内でもじんわりと伝わり始めました。
データ分析をしていく中で、何か発見などはありましたか?
- <佐藤様>
- データが生ログのまま蓄積され続けていたのは、僕にしてみれば「宝の山が眠っていた」という印象で、仮説になり得そうなものがいくつか出てきたと思います。データを見ることができたからこそ、一人ひとりがどのような動きをしているのか、今まで分からなかったことを知ることができました。
- 例えばLTV分析では、「どういうチャネルから来た人が、将来的にはどれくらい応募しているのか」や、「3カ月後までに戻ってきたのは、どういう属性・行動をした人か」といったことを見ていきます。それによって、「そもそもアルバイト求職者は一人当たりどのくらい応募しているのか」や、「同じ学生でも、短期のアルバイトを探している人と長期を探している人でクラスタが分かれる」といった知見を得ることができました。
ユーザーによってタイプが違うということは、Webでの接客も変わってくるのではないかという仮説になります。ユーザーを長期間捉えることができるのは、非常によかったと思っています。
データビジネス部 アナリティクスグループ アナリティクスチーム
佐藤 貴則 様
最後に、今後の展望についてお聞かせください。
- <西澤様>
- 組織の垣根を超えて、データを横串で見て、戦略を練るようにしていきたいと思っています。組織では、認知・獲得・Web・CRM・コンテンツのように、グループが分かれていて、各々のグループで各々の指標を最適化していくということは多いと思います。ですが、ユーザーはそのように別れているわけではありません。だから、きちんとWeb・CRM・コンテンツのデータを、組織を跨いで分析し、戦略が練れるようになりたいと思っています。
また、これらの取り組みで得られたデータは、Webサイトだけでなく、アプリやLINEなどの施策に活かしたり、またもっと上流の戦略にも活かしていきたいと考えています。
部門間で、分析したデータを共有して使えるようにしたいということですね。
- <西澤様>
- だから、音頭を取る人間が必要だと思います。横串で戦略を考える人間がいて、そこに佐藤のようなアナリストがいてデータを共有できるようにするという構図かなと思います。
本日はありがとうございました。