メール経由の応募数が5倍!登録スタッフのココロに寄り添う
リクルートスタッフィングのメールコミュニケーション改革
大手人材派遣会社の株式会社リクルートスタッフィングは、2017年4月から登録スタッフ向けのメールコミュニケーションの改革に取り組みました。改革を主導したのは、デジタルコミュニケーション部のメールマーケティングチーム。改革の着手から1年で、メールからの求人応募数を5倍に向上させています。成功の背景には、「ご登録いただいているスタッフの方一人ひとりに、“自分らしい働き方”を実現してほしい」というチームの想いと、徹底的なデータ活用。そしてRtoasterの導入がありました。同社の改革が成功に至るプロセスをレポートします。
施策・導入のイメージ
導入後の成果・ポイント
- 改革プロジェクトから1年でメール経由の求人応募数は5倍。月間数千万円の営業利益創出に値する成果を実現。
- 新たなメール施策の1つとして「Rtoaster」と「Salesforce Marketing Cloud」の連携により、タイミングと求人内容の両面でパーソナライズをかけた「7日ループメール」を実現。
- 新たな施策を生み出すまでの過程で、3つの業務改革を断行。徹底的に “データドリブン”な手法で登録スタッフに向き合う。
1.改革プロジェクトのはじまり
Webサイト UX改善の成功を受け、
Webとメールの担当部署を統合。多くの課題があったメールの改革を推進
- リクルートスタッフィングは、全国に38の事業所を構え、登録スタッフは約107万人(2018年4月現在)の大手人材派遣会社です。
リクルートスタッフィング
(https://www.r-staffing.co.jp/)
登録スタッフとのコミュニケーションに力を入れてきた同社は、6年前にWebサイトのUX改善をミッションとする部署を設立しました。Webサイトのリニューアルや、登録スタッフ専用ページ「MyPage(マイページ)」の機能強化を行うことで、利用者がより見やすく、使いやすいWebサイトを目指してきました。
こうした活動が大きな成果を上げたことで、同部署はメールマーケティングを担当する部署と統合して2017年4月にデジタルコミュニケーション部と名称を変え、メール施策の改善に着手します。メール施策では、登録スタッフ向けにおすすめの派遣求人情報や、お役立ち情報をメールでお知らせすることで、最終的にはWebサイト「MyPage」に誘導し、求人に応募してもらうことを目的としていますが、当時の運用には多くの課題がありました。
2.業務改革-1
BIツールを用いて現状を可視化
「手段の目的化」を助長していた最大の問題を特定
2017年4月~6月の第1クォーターでは、現状のメール施策の課題を洗い出す作業が行われました。
BIツール「Tableau」を用いて、メールの施策別配信数、クリック率、応募数などの主要指標を日次で可視化することで見えてきた事実は、大量に配信されるメールが最終目的である「登録スタッフの求人応募」にほとんどつながっていないこと。毎月200万通近くのメールが配信されるものの、そのうち応募につながったのはごくわずかという状況でした。
その状況を生み出した最大の問題は、当時のメール施策のKPIが「MyPageへのログイン数」としていたこと。当時のメール施策は、高いログイン数目標を達成するために最適化されすぎた内容になっており、ログインするだけでインセンティブを付与するようなキャンペーンが企画されるなど「手段の目的化」が助長されていました。大量のメール施策により発生するオプトアウトも看過できない件数に達しており、こうしたメールが登録スタッフに支持されていないことも明らかでした。
こうした課題を受け、本来の使命である「登録スタッフに希望の仕事に就いていただくこと」に寄与するメールコミュニケーションにシフトすべく、まずはKPIの見直しから着手しました。派遣求人への応募を増やしながら、オプトアウトを減らしていく。この基本戦略を反映したKPIとして、ログイン数の代わりに「派遣求人への応募数」と「オプトアウト数」の2つが設定されました。
3.業務改革-2
大量配信への違和感。
新たなKPIに基づき、50種類におよぶメール施策の“仕分け”を実施
続く2017年7月~9月の第2クォーターから、メール施策の改善が本格的にスタートしました。まず行われたのは、当時50種類近くあったメール施策を、新たなKPI「派遣求人への応募数」「オプトアウト数」の観点に基づき“仕分け”する改革です。
仕分け対象は大きく2つ。1つは「求人応募数」が少なく「オプトアウト数」が多いメールです。これは新KPIの観点からはまったく効果のないメール群であるため、即座に中止が決まりました。
仕分け対象のもう1つは、「求人応募数」は多いが「オプトアウト数」も多いメールです。通常、「求人応募」と「オプトアウト」は同じスタッフが同時には行いません。つまり、このメールの配信対象者には、メールの情報を好意的に捉えてくれたスタッフと、不快に感じたスタッフが混在している状態ということです。ここに対して、データに基づいた改善を行いました。
改善のために取られた手法は、オプトアウトを行う可能性が高いスタッフを事前にデータから確率予測し、配信対象から除外することで応募数を維持しつつオプトアウトを減らすことを目指しました。
この作業を支援したのがブレインパッドです。リクルートスタッフィングにはブレインパッドのデータサイエンティストが常駐し、データ分析・活用に関するさまざまな業務を請け負っています。データサイエンティストが過去のメール配信データを分析することで、オプトアウトの行動確率が高いスタッフを抽出することに成功しました。
改善後のメール施策の効果測定には、「求人応募数÷オプトアウト数」で求められる「CV-OFFレシオ」という独自の指標が用いられました。これは、数値が高くなればなるほど、求人応募数が多くオプトアウト数が少ない、適切にターゲティングされたメール施策であることを示す指標です。
配信対象見直しの結果、CV-OFFレシオは毎月右肩上がりに上昇を続けていきました。メールの仕分けによって配信メール数は改革前の1/4となる月間50万通にまで抑えられましたが、応募数はこれまでと変わらぬ水準をキープ。登録スタッフから支持されていないメールだけを排除することに成功しました。
4.業務改革-3
向き合うべきはコンテンツではない。
徹底的なABテストで、スタッフの心情に向き合う
続く2017年10月~12月の第3クォーターでは、選別および改善されたメール施策をさらに効果的なものにするため、ABテストに基づくPDCAが行われました。
徹底していたのはその実施方法です。一般的にABテストは、コンテンツの優劣比較をすることで各種成果指標を向上させるために行われます。しかしリクルートスタッフィングでは、コンテンツの比較よりも、その背景にある登録スタッフのインサイトを理解することにフォーカスしました。
「この状況の登録スタッフの方は、今こんな情報を求めているのではないか」という仮説を立て、メールへの反応データから仮説が正しかったのかどうかを確かめることを徹底的に繰り返し、登録スタッフのインサイト理解を深めていきました。これを繰り返すことでチーム内に知見が貯まり、第3クォーターの後半には多くのABテストの結果が事前に予想できるほどになっていました。
結果として、メールの開封率、リンクのクリック率、CV-OFFレシオなど主要な指標は軒並み向上。そして何より、マーケティングを推進する上でもっとも重要なヒント、登録スタッフのインサイトをチーム内に豊富に蓄積することができました。
5.新たな施策
「いま必要な方にはたくさんの求人情報を。不要な方には最小限に」
Rtoaster ✕ MAで、登録スタッフのタイミングに合わせた施策を企画
続く第4クォーターの2018年1月~3月では、ABテストで得られた登録スタッフのインサイトに基づき、新たなメール施策の企画が進められました。
新たなメール施策の1つに、Rtoasterを活用した「7日ループメール」があります。これは、リクルートスタッフィングWebサイトで求人情報を閲覧したユーザーに、条件が近い別の派遣求人情報をメールでレコメンドするものです。「7日ループ」の名前の通り、最後にWebサイトを閲覧した日から、7日間だけデイリーでメール送信される点がポイントです。引き続き求人情報ページを見てくれている間は送り続け、見なくなったら7日経過後にストップします。
Webサイトを訪問し、求人情報を閲覧するユーザーは、今まさに「求人情報を見たい状態」にあります。しかし、やがて新たな仕事が決まれば「求人情報は不要」となります。この態度変容を捉えて、「いま求人情報を見たいスタッフの方にはたくさんの情報提供を行い、必要のなくなったスタッフの方には送信を控える」というコミュニケーションをデジタルに実現するための施策が、この「7日ループ」でした。
メール配信は以下の仕組みで行われます。
まず、リクルートスタッフィングWebサイトに設置されたRtoasterが、Webサイトを閲覧したユーザーのIDと閲覧された求人情報ナンバーを取得します。次にRtoasterは、閲覧された求人、応募した求人情報をもとに機械学習にかけ、条件の近い別求人情報をリストアップします。
この情報を受け取り、メール配信を実行するのがセールスフォースの「Salesforce Marketing Cloud」です。Marketing Cloudには、該当スタッフの就業状況や、派遣求人情報の契約開始日などのデータが蓄積されています。これらのデータとRtoasterから受け取るデータを突き合わせ、最終的な配信対象者とレコメンド求人情報を決定し、メール本文内にコンテンツを反映し、送信します。
Rtoaster ✕ Marketing Cloud により、タイミングと求人内容の両面でパーソナライズをかけたメールコミュニケーションを、半永久的に行い続けられる施策を実現することができました。
6.施策の成果
メール経由の求人応募数が5倍に!
月間数千万円におよぶ期待営業利益の創出に成功
「7日ループ」をはじめとして、登録スタッフに寄り添うさまざまなメール施策が生み出され、目覚ましい成果を生み出しました。
メール配信数は当初の月間200万通から、最終的には100万通へと半減したにもかかわらず、CV-OFFレシオは6倍、メール経由の派遣求人への応募数は5倍に上昇。メール配信数を減らしながら、応募率、応募数をともに向上させることに成功しました。
さらに、新たなメール施策はリクルートスタッフィングが独自で作った指標である「シミュレーション営業利益額」においても、素晴らしい成果を生み出しています。
シミュレーション営業利益額とは、各メール施策経由の求人応募がもたらす期待営業利益額から、同じメール経由のオプトアウトがもたらす逸失営業利益額を差し引いたもの。メール施策が生み出す価値を金額ベースで示したリクルートスタッフィング独自の指標です。以前は、求人応募と同時に多くのオプトアウトも発生していたため、シミュレーション営業利益額はほとんどプラスマイナスゼロの時期もありましたが、現在は月間数千万円近くの値を示しています。
メール施策の価値を金額ベースで示す独自指標は、自分たちが行った施策の効果を、他部門や経営層に対してわかりやすく共有することにも貢献しています。マーケターにしかわからない指標ではなく、誰にとってもわかりやすい指標で評価するこのやり方こそ、リクルート流と言えるかもしれません。
7.今後の展望
登録スタッフのココロに寄り添い続け、
「らしさ」の数だけ働き方のある社会を実現する
開始から1年で大きな成果を上げているリクルートスタッフィングのメールコミュニケーション改革。
今回の成功を糧に、今後はこれまで以上に登録スタッフの気持ち・ニーズに寄り添った情報提供を行っていく予定です。
例えば、現在行われている「7日ループ」は、登録スタッフの希望・興味に基づいたレコメンドメール。しかし、人気の求人には応募が殺到するため、登録スタッフによっては希望する仕事になかなか付けないケースも起こり得ます。このような時に、スタッフの希望・興味だけではなく、スタッフの経験・スキルに基づく「就業につながりやすい・活躍できる求人情報」をレコメンドできれば、早く仕事に就きたい登録スタッフにとって、真に喜んでもらえるコミュニケーションになるはずです。
PCモニター上に映る無機質なマーケティング指標ではなく、その指標を作り出した登録スタッフ一人ひとりの人生に向き合うリクルートスタッフィングのメールコミュニケーション。今後も同社は、登録スタッフ一人ひとりのココロに寄り添うコミュニケーションを通じて、企業のミッションである『「らしさ」の数だけ働き方のある社会』の実現を目指していきます。