- 1 小学館の新データビジネス『コトバDMP』でのRtoaster活用読者と広告主の新しいエンゲージメントを生んだ仕組みを公開
- 2 施策・導入のイメージ
- 3 導入後の成果・ポイント
- 4 1.総合出版社として数十ものWebメディアを運営する小学館が、メディアを横断してデータ統合する『コトバDMP』を開発。
- 5 2.コトバDMP開始の背景
- 6 3.コトバDMP構築前の課題
- 7 4.システムとしてのコトバDMP
- 8 5.広告主にとってのコトバDMP
- 9 6.コトバDMPの導入効果
- 10 7.『コトバDMP』の立ち上げは連携パートナー各社の支援があってこそ。前例のないビジネスだから「ツール」よりも「人」を重視した。
小学館の新データビジネス『コトバDMP』でのRtoaster活用
読者と広告主の新しいエンゲージメントを生んだ仕組みを公開
株式会社小学館は、2017年6月に新サービス『コトバDMP』をリリースしました。歴史ある小学館が手がけるデータビジネスとして業界内外の注目を集めているこのサービスは、ブレインパッドのレコメンドエンジン搭載プライベートDMP「Rtoaster」をはじめ、既存のデータソリューション3つを組み合わせることで構成されています。『コトバDMP』の開発経緯や、実現するメリットについて、小学館 デジタル事業局の青木様にお話をうかがいました。
施策・導入のイメージ
導入後の成果・ポイント
- 多数の関係者を巻き込んだ組織間連携を経て、メディアを横断するDMPを構築
- 完成した『コトバDMP』は、「Rtoaster」の自然言語処理技術を活用し、読者の興味関心を「コトバ」単位で可視化する独自のデータマーケティング基盤
- 先行導入の広告主は、読者の興味キーワードに基づいたキャンペーン企画により、タイアップコンテンツのPVが従来の3.5倍に。
1.総合出版社として数十ものWebメディアを運営する小学館が、メディアを横断してデータ統合する『コトバDMP』を開発。
総合出版社の小学館様は、豊富なWebメディアを持つデジタルメディア企業でもあります。小学館様のデジタルメディア事業の強みを教えてください。
小学館は「CanCam.jp」「Oggi.jp」といった主要Webメディア以外に、キャンペーンサイトも含めると合計100近くのWebメディアを運営しています。おかげさまで小学館全体では月間2.2億PV、5,000万UUという規模にまで成長しました。
デジタルメディア企業としての強みは3つあります。1つは「多様な読者層」、2つ目は書籍・雑誌編集で培ってきた「編集力」、3つ目は90年以上にわたる企業活動で培ってきた「著者・クリエーターとのパートナーシップ」です。小学館のデジタルメディア事業はこれら独自の資産を活かして、読者と広告主の双方にご満足いただける情報発信、コンテンツ制作を心がけています。
2017年6月にリリースされた『コトバDMP』は、小学館という歴史ある出版社が始めたデータビジネスとして大きな注目を集めています。サービスについてご紹介いただけますか。
データマーケティング基盤『コトバDMP』の導入により、小学館のメディアに来訪した読者の一人ひとり──例えば、働き盛りの男性、ファッション好きの女性、趣味を楽しむシニア──がどんな記事を好み、記事中のどんな言葉に反応しているかを「キーワード」レベルで把握することができるようになりました。その興味関心データに基づいた記事広告コンテンツを制作し、小学館のメディアを横断して展開できるのがこのサービスです。
データに基づいた独自のインサイトと、このインサイトを小学館の編集力によってオリジナリティーあるコンテンツに昇華させることで、広告主と読者の関係づくりを提案します。具体例があるとよりイメージしやすいと思いますので、後ほどテストマーケティングの事例をご紹介させていただきます。
2.コトバDMP開始の背景
多様で豊富な読者という資産を活かし、
複数のWebメディアをさらにマネタイズさせたい。
『コトバDMP』を始めるに至った背景や課題を教えてください
これだけ多様なメディアを持ち、豊富な読者に支えられながらも、各メディアをうまく連携させてマネタイズできていないことが課題でした。収益のあがるメディアがある一方で、思うようにマネタイズできていないメディアもある。そこで、各メディアの「点」ではなく、小学館全体の「面」でうまくマネタイズできないかと考えていました。
デジタル事業局 デジタルメディア室 課長代理
青木 岳様
3.コトバDMP構築前の課題
組織間連携と開発方針の課題に対し、
関係者との丁寧な意識合わせを重ねて乗り越える。
『コトバDMP』プロジェクトを開始する際に、どのような課題がありましたか。
まず組織間連携の課題がありました。コンテンツ会社では比較的よく耳にする話かと思いますがメディアごとに独立した組織体制でしたので、『コトバDMP』のようなメディア横断的な取り組みを進めても、各メディアの編集方針や利害がぶつかってうまくいかないことが予想されました。
当時、上司からプロジェクトの指示を受けた時にも開口一番に「プロジェクトを推進するための横断部署を作らなければ取り組みは絶対に失敗します」と強く進言しました。そこは当初の課題意識と『コトバDMP』の構想を他部署の上層部に上司たちが地道な調整をしてくれて、各メディアを横断する部署の構築からスタートしました。
プロジェクトが始まった後は、関係する各メディアの担当者にも個別に『コトバDMP』で得られるメリットを説いていきました。良質なコンテンツ制作に注力する編集部には、『コトバDMP』によって、いかに読者のことを詳しく理解でき、興味にあったコンテンツを提供できるようになるかを説明し、広告主への販売に注力する営業には、広告主に提案できる企画の幅が広がることを説明するなど、回数を重ねながら、プロジェクトに関わる皆で少しずつ社内の空気を醸成していきました。
組織間連携の調整以外にも課題はありましたか。
開発の進め方でも課題がありました。『コトバDMP』は当初スクラッチ開発で進めようとしていましたが、進捗が思うように進まず1年かかっても形が見えませんでした。我々自身が、どんな開発手法で行うと早く確実にやりたいことが実現できるか見えていなかったのです。ある時、そんな事情をブレインパッド社やインティメート・マージャー社の方に相談していたところ、ツールを組み合わせることで実現できそうだとわかり、開発方針を大きく切り替え、サービス化ができました。
4.システムとしてのコトバDMP
メディアを横断してデータを蓄積する
基本機能に加え、読者の興味関心を「コトバ」で可視化する点が特徴。
『コトバDMP』とは、具体的にどのようなことができるシステムなのでしょうか。
『コトバDMP』は、まず小学館のコンテンツデータと読者のCookieデータを「TREASURE CDP(トレジャーデータ株式会社)」に蓄積することから始まります。
このデータベースに「IntimateMerger DMP(株式会社インティメート・マージャー)」の約4億におよぶ外部オーディエンスデータをCookieシンクさせることで、小学館の読者情報が拡張され、性別や職業、興味のあるジャンル・カテゴリなどの推定情報が付加されます。
加えて、「Rtoaster」の「興味キーワード解析」機能により、小学館の記事ひとつひとつに含まれる「キーワード」データと、読者の閲覧履歴を掛け合わせることで、読者の方が実際にどういった「コトバ」を含む記事を好んで読んでいるかを『コトバDMP』に蓄積していきます。
こうして把握した読者の興味関心に沿って、適したコンテンツを「Rtoaster」のコンテンツレコメンド機能でメディアを横断して表示していきます。こういった一連のデータ蓄積、解析、パーソナライズを行うのが『コトバDMP』です。
興味関心セグメントだけでなく、読者が興味のある『コトバ』の可視化という点に特徴があるのでしょうか。
そうですね。もしキーワード解析というピースが揃わなければ、『コトバDMP』はいわゆるパブリックDMPに似た一般的な仕組みになっていたかもしれません。『コトバDMP』がここまで反響のある新しいデータビジネスとして成立した背景には「Rtoaster」が大きく貢献しています。
例えば、「コスメ」タグのついた記事でも、中身を読むと「乾燥肌」「くすみ肌」などの「肌悩み」がテーマになっていることがあります。これらページごとのキーワード情報と、読者のページ閲覧履歴を組み合わせれば、読者の興味関心を大枠の「タグ」ではなく、詳細な「キーワード」単位で推測できるようになるのです。
小学館の強みは「豊富な読者層」と「編集力」ですので、読者の興味関心をキーワード単位で把握できるということは大きな意味を持ちます。広告主がリーチしたい読者層がどういった「コトバ」に興味があるのかをデータを基に把握することができ、そのブランドや商品が伝えたいメッセージを、ターゲット読者の興味キーワードに関連するコンテンツに編集して届けることで、小学館の強みを最大限に活かすことができます。
5.広告主にとってのコトバDMP
データを踏まえた企画で、取り逃していた潜在顧客を発見し、
興味を捉えたクリエイティブによるキャンペーンを設計できる。
広告主から見て、『コトバDMP』で具体的にどのようなことが実現できるのか事例を教えてください。
化粧品会社様と行ったテストマーケティング事例をご紹介します。先方の取り扱う商品は広く20代から30代女性をターゲットにしたメイク商品です。まだ商品を認知していない潜在顧客に向けて、商品を知ってもらうためのブランディング系広告をWebで実施したい、というのが先方のニーズでした。
取り組みは、化粧品会社様の商品サイトに訪れた人の属性を『コトバDMP』で分析することから始まりました。その結果、商品サイトには「主婦層」の来訪は多いものの、「OL層」の来訪は想定より少ないことがわかりました。
先方はライフスタイルを軸に顧客ターゲットを考えていましたが、職業という軸では分析をしていませんでした。ですから、Webマーケティングにおいて「OL層」を取りこぼしているかもしれないというデータは先方にとっても新鮮な気づきだったようです。こうしてキャンペーンのターゲットは「OL層」に決まりました。
データを用いてターゲットを絞り込んだということですね。コンテンツはどのように設計したのでしょうか。
コンテンツ企画に向けて、次は主婦とOLの興味キーワード分析です。商品サイトへの訪問履歴があり、なおかつ小学館メディア群にも来訪したことのある主婦、OL読者が、小学館メディアでどのような「コトバ」を含む記事に接したかを分析しました。
その結果、主婦・OLで明らかな違いを発見できました。主婦は「ヘアスタイル」「スキンケア」「ファッション」系のキーワードに多く接し、OLは「料理」「旅」「ライフスタイル」系のキーワードに多く接していたのです。
この結果から、OLに向けたタイアップ記事を「料理」「旅」「ライフスタイル」をテーマに制作することが決まりました。普通こういったタイアップは「どのメディアに掲載するか?」から決まるのですが、『コトバDMP』ではターゲットの興味関心から出発するため、メディアの選定が後になるのです。
「コトバ」を基にコンテンツを企画したということですね。掲載先はどのように決めたのでしょうか。
掲載メディアは、『コトバDMP』のデータからOL層の閲覧が多い「美的.com」が選ばれ、「美的.com」編集部に「料理」「旅」「ライフスタイル」をテーマにした化粧品のタイアップ記事制作の依頼をすることになりました。化粧品のタイアップがこういったテーマになることは珍しいのですが、『コトバDMP』ではデータの裏付けがあるので、化粧品会社様も、「美的.com」編集部も、納得感を持って施策に取り組むことができました。
また、コンテンツを届けたいOL層の読者は他のメディアにも訪れていますので、例えばアウトドア情報誌「BE-PAL」にOL層が訪れた時にも、おすすめコンテンツとして「美的.com」の該当記事へのリンクをレコメンドするなど、メディアを横断した「ターゲット読者全体」へリーチするように展開しました。
ちなみに実際に制作したコンテンツは、「彼氏とのデート」「友達との女子会・ヨガ」「仲間との週末BBQ」といったレジャーを楽しむにはどんなファッションとメイクの組み合わせが良いか?という提案型のコンテンツとなりました。タイアップ記事では商品名や機能紹介が冒頭に来ることが多いのですが、今回はターゲットであるOL層へのライフスタイル提案から始まり、最後にようやく商品が登場する構成にしています。
6.コトバDMPの導入効果
通常のタイアップ記事と比較してPVは3.5倍に増加。
キャンペーン後の提案にも変化が。
『コトバDMP』によるタイアップ記事は、どのような定量効果が得られましたか。
通常のタイアップ記事と比較してPVは2.5倍になりました。さらに、小学館の他のメディアからRtoasterを使いコンテンツへの誘導をかけた分を含めると、PVは通常の3.5倍にまでなりました。
興味深いのはページ滞在時間データです。美的.comの読者は美容への関心が一際高いはずなので、タイアップ記事の滞在時間が一番高そうにも思えますが、実際には他メディアに設けた誘導枠でタイアップ記事を発見した読者が、美的.comの読者より滞在時間が長い場合がありました。これは他メディアにも、本来はタイアップ記事を届けるべきいいユーザーが眠っていた、ということです。メディアを横断したコンテンツレコメンドが、ターゲットへの訴求に効果があることを裏付ける結果になったのではないかと思います。
キャンペーン終了後の対応も普段とは異なりました。記事公開後に来訪者へのネットアンケート調査も実施したところ、OL層の商品認知を高められた一方で、商品の特徴理解はあまり進まなかったことがわかりました。こういったデータを広告主に報告する中で、次回はもう少し商品特徴を訴求するコンテンツにしようかなど、広告主と一緒に企画を進めることができ、PDCAを回せる持続的な取り組みとしてキャンペーンを提供できるのも『コトバDMP』ならではだと思います。
改めて、『コトバDMP』が広告主に提供する価値は、どのような点でしょうか。
2つあります。1つはお客様の理解。従来のマーケティングではリーチできていなかった層を発見することができたり、そのターゲット層が実際によく接しているコトバを事前に把握することができたりと、広告主のお客様をより深く知り、新たな発見をご提供できることです。ここにはデータという裏付けがあるので、これまで試せなかった新しい施策にも思い切って取り組むことができると思います。
2つ目は、深く広い読者接点。興味キーワードと小学館の編集力を活かしたコンテンツ制作と、メディアを横断することで通常では届けられなかった読者にもリーチを広げることで、通常のタイアップ広告だけでは提供できなかった、深く広い読者接点を提供できるのではないかと思います。
今回のテストマーケティングを経て、データを用いた『コトバDMP』では思いもよらなかった新たな気づきや発見が生まれうることを実感しました。
7.『コトバDMP』の立ち上げは連携パートナー各社の支援があってこそ。前例のないビジネスだから「ツール」よりも「人」を重視した。
最後に、ツールとしての「Rtoaster」をご評価いただけますでしょうか。
プロジェクトを通していろいろなベンダーの方に話を聞きましたが、言語解析を行うだけのツールならRtoaster以外にもいくつかあるように思います。また、コンテンツのレコメンドエンジンでも同様です。ただ今回の我々の取り組みには、この両方を兼ね備えているRtoasterが最適だと考えました。『コトバDMP』のコア部分を担うツールとして、重要な役割を果たしてくれたと思います。
『コトバDMP』プロジェクトにおける、ベンダーとしてのブレインパッドのサポートをご評価ください。
『コトバDMP』をリリースしてから、いろんな方に「どうやってツールを選定しましたか?」と聞かれるのですが、私の場合ツールと同じくらい、当社を担当してくださる「人」を重視しました。『コトバDMP』のように前例のないビジネスを進める場合、ベンダーさんの社内も巻き込んで柔軟に動いてくれる担当者さんがいることがとても重要だと思ったからです。
今回のプロジェクトが成功したのは、連携パートナー各社にそういった方がいたことが大きかったと思います。これは、データビジネスに強い方、好きな方が集まっているブレインパッドさんと、そのブレインパッドさんが密に連携している各社だからこそ実現できた価値だと思います。今後も事業を一緒に作り上げていくパートナーとして、『コトバDMP』の発展にご協力いただきたいと思います。