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AIエージェントとは何か?

執筆者
公開日
2024.11.29
更新日
2024.12.02
AIエージェントとは何か?

こんにちは、生成AIタスクフォースの辻です。 

最近、ニュースや海外のテック企業のプレスリリースを通して「自律型AIエージェント」や「AIエージェント」という言葉をよく耳にするようになってきましたよね。
「ChatGPTは知っているけど、AIエージェントって結局何なのか?」と思われている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、最近話題になっているAIエージェントをわかりやすく解説させていただきます。
 

【関連記事】生成AIとは?AI、ChatGPTとの違いや仕組み・種類・ビジネス活用事例

本記事の執筆者
  • データサイエンティスト
    辻 陽行
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    役職
    マネジャー
    機械学習を用いた需要予測や判別問題に関する事例を担当。プロジェクトの立ち上げから機械学習アルゴリズムの仕組み化の支援までを主に担当。

身の回りのAIエージェント 

実は、私たちの身の回りには、すでにAIエージェントの先駆けとなる存在が数多く存在します。例えば… 
「Hey Siri、今日の天気は?」  
「Alexa、リビングの電気つけて」 

…といった具合に、スマートフォンやスマートスピーカーに話しかけた経験がある方も多いと思います。これらも一種のAIエージェントに該当すると言えます。 
そして今、ChatGPTのような生成AIの登場により、AIエージェントは大きな進化を遂げようとしています。 

具体的な例を見ていきましょう。 
「週末のピクニックの準備を手伝って」という依頼に対して 

  • 天気予報を確認し、最適な時間帯を提案 
  • 行き先の混雑状況を調査し、ベストなスポットを推薦 
  • 持っていくと良い持ち物リストを作成 
  • 前日には準備すべき事項を自動でリマインド 

また、「今日は暑くなりそうだから快適に過ごせるようにして」という指示に対して

  • 気温予測を確認し、エアコンの設定を最適化 
  • 電気代を考慮しながら、カーテンの開け閉めをコントロール 
  • 熱中症予防のための適切なアドバイスを提供

このように、AIエージェントは単なる命令に応答するAIから、状況を理解して自律的に考え、行動するAIへと進化を遂げています。 


なぜ今AIエージェントが注目されているのか 

3つのブレークスルー 

AIエージェントが話題になり始めた背景には、いくつかの重要な技術的な転換点がありました。特に以下の3つの技術革新は、AIエージェントの能力を大きく押し上げ、私たちのビジネスや生活に実装できるレベルにまで進化させた重要な要素といえます。 

1. 言語理解の飛躍的進歩(LLM) 

従来のAIと比べて、ChatGPTやGeminiを代表とする生成AIモデルの言語理解能力は格段に向上しています。例えば、営業部門での在庫管理において、従来のAIはデータベースの情報からモデルを作成し在庫数の予測値を表示するにとどまっていました。しかし、AIエージェントならば過去の売上トレンドを分析し、季節要因を考慮しながら、取引先の発注予定まで確認した上で、「現在の在庫は十分ですが、来月の展示会に向けて追加発注を推奨します」といった高度な判断を提供できるようになってきています。 

このような進化を支えているのが大規模言語モデル(Large Language Model)です。LLMは文脈理解、暗黙知の活用、複数ステップにわたる論理的な推論を可能にし、より人間に近い判断能力を実現しています。 

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2. マルチモーダル処理の実現 

現代のAIエージェントは、GPT-4やGeminiなどのマルチモーダルAIを用いることでテキストだけでなく、画像、音声、動画など、多様な入力を同時に処理できるようになりました。製造現場での品質管理を例にとると、カメラ映像による外観検査、機械の振動データ分析、作業音の異常検知、温度センサーのモニタリングなど、複数のデータを統合した総合的な品質管理が今後実現する可能性があります。 

3. 生成AIモデルの高速化・低コスト化の実現 

2024年から特にAIエージェントが注目を集め出した大きな要因として、生成AIモデルの非機能面での劇的な進化があります。特筆すべきは、高度な推論能力を維持しながら、処理速度を大幅に向上させ、さらにコストを著しく低減させることに成功したところです。 

AIエージェントは、その特性上、以下のような高負荷な処理を頻繁に行います。 

  • 複雑な文脈を考慮した多段階の推論 
  • 画像や音声などの高次元データの同時処理 
  • 長時間の対話履歴の保持と参照 

2023年時点でこれらの処理を実行しようと思えば、膨大なコストと推論時間がかかっていましたが、2024年に入ってから生成AIモデルの利用料金は高い性能を維持しながら、劇的に安価になっています。比較的軽量な生成AIモデルであれば、100万トークンあたり$0.1以下で利用可能なモデルも出てきています。(2024年現在) 

生成AIモデルを開発している企業自身もAIエージェントの開発や利用の促進を行っていることを考えると、この推論速度の高速化と低コスト化の流れはしばらく継続することが考えられますので、AIエージェントの活用をさらに後押しすることになるでしょう。 


AIエージェントの基本的な特徴 

本記事で議論しているのは本来、「自律型AIエージェント」—つまり、自ら状況を理解し、判断し、行動できる高度なAI—についてですが、冗長な表現となるため本記事では「AIエージェント」と表記しています。以降の「AIエージェント」は、すべて自律型AIエージェントを指しています。

AIエージェントには、3つの基本的な能力があります。これらの能力が連携することで、真に自律的な行動が実現されています。それぞれの特徴について見ていきましょう。 

AIエージェントの基本的な特徴 

【Perception】環境を理解する能力 

AIエージェントの環境理解能力は、先ほどお話した通り、マルチモーダルな処理能力の獲得により大きく進化しています。従来の環境認識は、個々のセンサーやデータを独立して処理する方式が主流でしたが、現在のAIエージェントは、複数の環境認知能力を統合した総合的な環境認識が可能になっています。 

マルチモーダルな処理能力の向上ももちろんですが、やはり特筆すべきは、自然言語処理能力の飛躍的な向上です。最新のAIエージェントは、人間との会話を通じて指示を理解し、その文脈や意図を正確に把握できるようになりました。例えば、自然言語を理解するスマートホームが実用化され始めると「部屋が暑いので快適にして」という曖昧な指示に対して、現在の気温、湿度、時間帯、在室者の好み、エネルギー効率など、複数の要因を総合的に判断して適切な環境調整を行うことも可能となります。 

また、視覚情報と言語情報の統合的理解も実現しています。例えば、最新の作業支援ロボットは、カメラによる視覚的認識で作業対象物や工具を識別し、各種センサーで正確な位置や力加減を測定するだけでなく、音声による作業指示の言語的な理解も同時に行うことができるようになってきています。このような技術は工場の産業用ロボットから家庭用のアシスタントロボットまで、徐々に実用化が始まっています。 

【Reasoning】状況を判断する能力 

AIエージェントの判断能力は、生成AIの登場によって大きなパラダイムシフトを迎えました。従来のAIエージェントは、あらかじめプログラムされたルールに従って判断を行うか、強化学習(試行錯誤を通じて最適な行動を学習する手法)が主流でした。これらの手法は、明確なルールや報酬が定義できる場面では効果的でしたが、複雑な文脈理解や柔軟な判断が必要な状況では限界がありました。 

しかし、生成AIモデルが登場し判断を司る機能に置き換わったことで、最新のAIエージェントは、高度な推論能力を獲得し、人間の思考プロセスに近い判断が可能になっています。 

例えば、営業支援のAIエージェントは、単に過去データの統計的分析だけでなく、商談の文脈や顧客の微妙なニュアンス、市場環境の変化など、多様な要因を包括的に理解した上で判断を下すことができます。さらに、その判断の理由を人間が理解できる形で説明することも可能です。

この進化により、AIエージェントは「もしAならBを実行する」という単純な条件分岐から、「この状況では、過去の経験と現在の状況から判断すると、Xという選択が最適だと考えられる。なぜなら…」といった、より洗練された意思決定プロセスを実現しています。これこそが、真の意味での自律性の証といえるでしょう。  

【Action】実際に行動する能力 

判断を実行に移す能力は、AIエージェントを単なるツールから真の「自律型エージェント」へと進化させる重要な要素です。スマートホームを例にとると、AIエージェントは室温や照明の自動調整、家電の操作など、物理的な環境に直接働きかけることができます。また、居住者の生活パターンを学習し、起床時間に合わせた準備や外出時の施錠確認、エネルギー使用の最適化なども自律的に行います。 

3つの能力の連携による高度な支援 

これらの能力は個別に機能するのではなく、互いに連携することで真価を発揮します。例えば、業務効率化においては、AIエージェントはまず業務データやチームの稼働状況、リソースの可用性を正確に把握します。次に、生成AIの高度な推論能力を用いてタスクの優先順位付けやリソース配分の最適化を判断し、最後にタスクの自動割り当てやスケジュール調整といった具体的なアクションを実行します。 

このように、3つの基本能力が有機的に結合することで、AIエージェントは複雑なタスクを自律的にこなすことができます。特に、生成AIによる判断能力の飛躍的進歩は、より人間らしい柔軟な対応を可能にし、AIエージェントの活用範囲を大きく広げています。まさに、この自律的な判断と行動の能力こそが、次世代のAIエージェントの本質的な特徴なのです。 

AIエージェントの入出力インターフェイス 

AIエージェントの3つの能力を持つ具体的なインターフェイスは以下のようなものがあります。 

能力 種類 デバイス/インターフェース 用途例 
Perception
(知覚) 
視覚情報 ・Webカメラ 

・車載カメラ 

・深度カメラ 
・オンライン会議での表情認識 

・道路状況の認識 

・3D空間認識 
音声情報 ・マイクロフォン 

・指向性マイク 

・アレイマイク 
・音声命令の受付 

・特定方向の音声検出 

・ノイズ除去と音源定位 
センサー情報 ・LiDARセンサー 

・モーションセンサー
 
・温度・湿度センサー 
・距離と形状の測定 

・動きの検知 

・環境条件の測定 
自然言語 ・チャットインターフェース 

・テキスト入力フォーム 

・音声認識API 
・テキストによる指示入力 

・文書やメールの読解 

・会話による情報収集 
Reasoning
(思考) 
生成AI ・大規模言語モデル(LLM) 

・マルチモーダルAI 
・複雑な状況の推論 

・自然言語での対話 

・画像と文章の統合理解 
強化学習 ・方策勾配法
 
・Q学習 

・モンテカルロ法 
・ゲーム戦略の学習 

・ロボット制御最適化 

・経路計画 
ルールベース ・if-thenルール
 
・ビジネスルールエンジン 

・エキスパートシステム 
・明確な条件での判断 

・業務フローの自動化
 
・診断システム 
機械学習 ・教師あり学習 

・教師なし学習
 
・異常検知 
・パターン認識 

・データ分類 

・予測モデル 
Action
(行動) 
デジタル出力 ・Webインターフェース 

・アプリケーションAPI 

・データベース 
・ブラウザでの情報表示 

・システム間連携 

・データの保存/更新 
物理的出力 ・ロボットアーム 

・モーター制御 

・アクチュエーター 
・物体の操作 

・移動制御 

・機械的動作 
環境制御 ・スマートホームデバイス 

・セキュリティシステム 

・産業機器 
・照明 / 空調制御 

・施錠 / 監視 

・製造ライン制御 
コミュニケーション ・チャットボット 

・音声合成 

・メール送信 
・対話による応答 

・音声による情報提供 

・自動通知・レポート 

AIエージェントの機能連携の具体例 

システム Perception Reasoning Action 
スマートホーム ・カメラ 

・温湿度センサー
 
・人感センサー 

・音声入力 
・LLMによる状況理解 

・ルールベースの条件判定 

・機械学習による予測 
・照明制御空調制御 

・家電操作API 

・音声アシスタント 
自動運転 ・カメラ群

・LiDAR

・GPS

・各種センサー 
・ 深層強化学習

・ルールベースの安全制御

・画像認識AI 
・ステアリング制御

・アクセル・ブレーキ制御

・ナビゲーション表示

・緊急時対応 
医療診断支援 ・医療画像
(MRI、CT等)

・生体センサー

・電子カルテ

・問診データ 
・画像診断AI

・LLMによる症例分析

・機械学習による予測

・ルールベースの診断 
・診断レポート生成

・治療推奨提示

・アラート通知

・データ記録 
金融取引 ・マーケットデータ

・ニュースフィード

・SNSデータ- 取引履歴 
・生成AIによる市場分析

・機械学習による予測

・リスク評価AI

・異常検知 
・取引執行

・アラート発信

・レポート生成

・ポートフォリオ調整 
工場生産管理 ・生産ライン監視カメラ

・IoTセンサー群

・品質検査装置

・作業員位置追跡 
・強化学習による最適化

・異常検知AI

・予測保全モデル

・ルールベース制御 
・製造ライン制御

・ロボット制御

・品質管理システム

・作業指示表示 

このように、AIエージェントは様々な入力デバイスからの情報を受け取り、様々な手法を組み合わせて判断を行い、多様な出力デバイスを通じて行動を実行します。特に判断能力においては、従来のルールベースや強化学習に加えて、生成AIの登場により、より柔軟で人間に近い意思決定が可能になっています。各要素は単独で機能するのではなく、相互に連携することで、より高度な支援を実現しています。

従来の技術とどう違うのか  

AIエージェントの進化を理解するため、主要な従来技術と比較していきます。特に注目すべきは以下の技術です。 

  • AIエージェント(生成AIモデルベースの自律型AIエージェント) 
  • 生成AIモデル(GPT-4、Claude、Llamaなどの大規模言語モデル) 
  • チャットボット(既存の自動会話システム) 
  • RPA(業務自動化ツール) 

従来技術との能力比較 

従来技術との能力比較

生成AIモデルとの比較 

AIエージェントと生成AIモデルの最大の違いは、思考から実行までを完遂できる一貫性にあります。生成AIモデルは高度な思考能力を持ち、状況理解や解決策の提案を行うことはできますが、実際のアクションを取ることはできません。 

一方、AIエージェントは生成AIモデルの思考能力を継承しながら、実行力を兼ね備えています。これにより、問題の認識から解決策の立案、そして実際の解決行動までを一貫して行うことができます。 

例えば、データの分析が必要な場面では、自らデータベースにアクセスし、必要な情報を収集・分析した上で、その結果に基づいて具体的なアクションを実行することが可能です。 

チャットボットとの比較 

AIエージェントとチャットボットの根本的な違いは、判断の柔軟性と行動範囲です。チャットボットは事前に定義されたシナリオに従って応答を返すことしかできず、想定外の状況では必ず人間のサポートを必要とします。 

AIエージェントは、状況に応じた柔軟な判断が可能で、想定外のケースでも代替案を自律的に検討できます。さらに、単なる会話だけでなく、システムへのアクセスや情報の更新、他システムとの連携など、幅広い行動を取ることができます。これは、生成AIモデルの認識能力と、実践的な行動能力を組み合わせることで実現されています。 

RPAとの比較 

AIエージェントとRPA(Robotic Process Automation)の決定的な違いは、自律性と柔軟性にあります。RPAは事前にプログラムされた手順を正確に実行することはできますが、その手順から外れた状況では適切に対応することができません。 

AIエージェントは、状況を理解し、目的を達成するための最適な手順を自ら考え出すことができます。例外的な状況が発生しても、代替手段を自律的に検討し、実行することが可能です。また、その経験を学習し、次回からより効率的な対応を行うことができます。これは、生成AIモデルの思考能力を基盤としているからこそ実現できる特徴です。ちなみに、強化学習によっても同じように学習は実施できるのですが、特定の環境下でしか学習できず学習に必要な試行回数もある程度確保が必要があるため、開発コストがかかる割に汎用的な利用を期待できないという問題がありました。 

これまでの技術と自律性を持ったAIエージェントの大きな違いは、生成AIモデルの高度な思考能力実システムでの実行能力を組み合わせた点にあります。これにより、従来の技術では実現できなかった、真の意味での知的業務の自動化が可能になってきています。 

AIエージェントの分類 

AIエージェントとひとくちにいっても、その分類方法は色々と存在します。様々な分類方法がある中でも、今回は、AIエージェントのアーキテクチャ(システム構成)の面からの分類を詳しく見ていくこととします。AIエージェントをアーキテクチャ視点で捉えた時には、シングルエージェントシステムマルチエージェントシステムの2つの大きな枠組みで分類することができます。現在は、マルチエージェントシステムについて盛んに研究が進んでいますので、こちらについてはさらに踏み込んだ分類をご紹介します。 

AIエージェントとは_AIエージェントの分類

シングルエージェントシステム 

シングルエージェントシステムでは、単一のエージェントが環境と対話し、タスクを遂行します。このエージェントは、与えられた目標に向けて独立して行動し、他のエージェントとの直接的な協力や競争は行いません。 

シングルエージェントで設計することの利点として、設計と実装が容易であり、リソース消費が少なく、管理が簡単である点が挙げられます。一方、欠点として、複雑なタスクへの対応力が不足し、タスクの増加や複雑化に対する適応が難しいことが指摘されています。 

シングルエージェントの具体例としては、特定の質問に対して回答を生成するチャットボットや単純なタスクの自動化、特定のデータ分析やレポート作成などが挙げられます。

マルチエージェントシステム  

マルチエージェントシステムでは、複数のエージェントが相互に連携し、協力や競争を通じてタスクを達成します。各エージェントは独自の役割や専門性を持ち、情報を共有し合いながら、より複雑な問題の解決や意思決定を行います。 

例えば、あるエージェントが情報を収集し、別のエージェントがその情報を分析し、さらに別のエージェントが結果を報告する、といった協調的なプロセスが考えられます。 

コミュニケーションスタイル 

人間社会でのコミュニケーションと同様に、AIエージェント間のコミュニケーションにも様々なパターンが存在します。特に、目的や状況に応じて異なるコミュニケーションの形態が選択されます。Guo et al.(2024)1のサーベイ論文を参考にすると、コミュニケーションスタイルは3つに分類できますが、実際の応用では、これらが組み合わさって使用されることも多いと考えられます。 

1 T. Guo, X. Chen, Y. Wang et al., “Large Language Model based Multi-Agents: A Survey of Progress and Challenges,” arXiv preprint arXiv:2402.01680, 2024.

コミュニケーションスタイル 基本的な特徴 実務での活用方法 
協調型
(Cooperative) 
・共通目標の達成 

・積極的な情報共有 

・リソースの相互補完 
・チーム開発プロジェクト 

・複雑な問題解決 

・サービス連携 
討論型
(Debate) 
・多角的な視点提示 

・論理的な議論 

・合意形成重視 
・意思決定プロセス 

・品質改善 

・リスク分析 
競争型
(Competitive) 
・個別目標の追求 

・戦略的な判断 

・リソース競合 
・市場シミュレーション 

・ゲーム理論の検証 

・政策評価 

これらのコミュニケーションスタイルは、協調型が最も一般的に利用される一方で、質の向上や新しい発見を目指す場合は討論型が、市場シミュレーションなどでは競争型が効果的と考えられます。 

コミュニケーション構造 

AIエージェント同士がどのように情報をやり取りするか、その基本的な構造でも分類が可能であり、大きく特徴も異なります。コミュニケーション構造の違いは、日常生活で目にする組織や仕組みと似た特徴を持っており、Guoのサーベイ論文の分類を参考にすると、以下のようなコミュニケーション構造分類が考えられます。 

構造パターン アナロジー 特徴 適用シーン 
階層型
(Layered) 
会社の組織図 

部長→課長→一般社員のような階層的な情報伝達 
・明確な指揮命令系統 

・段階的な情報伝達 

・責任範囲の明確化 
・大規模開発プロジェクト 

・複雑なタスク管理
 
・プロセス管理が重要な場面 
分散型(Decentralized) SNS 

ユーザー同士が自由につながり合うネットワーク 
・自由な情報交換 

・エージェント間の直接対話 

・フラットな関係性 
・社会シミュレーション 

・創造的な問題解決
 
・柔軟な協力が必要な場面 
集中型
(Centralized) 
カスタマーサービス 

全ての問い合わせがセンターに集約 
・中央での一括管理一貫した判断基準
 
・情報の集中管理 
・重要な意思決定 

・セキュリティ管理 

・リソース最適化 
共有プール型
(Shared Pool) 
掲示板システム 

必要な情報を必要な人が取得できる仕組み 
・共通の情報スペース
 
・選択的な情報アクセス 

・効率的な情報共有 
・大規模な情報共有 

・チーム間連携 

・非同期での協力作業 

小規模なシステムでは管理のしやすい集中型が使われることが多く、規模が大きくなるにつれて分散型共有プール型が採用されます。最近は特に、MetaGPT(Hong et al., 2023)2などで採用されている共有プール型が注目されています。 

共有プール型の発展として特定のタスクを専門的に行うエージェントとタスクそのものを割り振りするエージェントがやりとりすることでタスクを達成するコミュニケーション構造も最近研究が盛んに行われています。具体的な研究として、CEO、編集者、翻訳者、校正者と役割をそれぞれ持ったマルチエージェントが小説の翻訳タスクを効率的に解決できたという研究(Wu et al., 2024)3も報告されています。

2 S. Hong et al., “MetaGPT: Meta Programming for A Multi-Agent Collaborative Framework,” arXiv:2308.00352, 2023.

3 M. Wu, Y. Yuan, G. Haffari, and L. Wang, “(Perhaps) Beyond Human Translation: Harnessing Multi-Agent Collaboration for Translating Ultra-Long Literary Texts,” arXiv:2405.11804, 2024. 

AIエージェントの活用が今後期待される領域 

ビジネス領域での活用 

カスタマーサービスにおける活用 

従来のルールベースのチャットボットとは異なり、文脈を理解し状況に応じた柔軟な対応が期待されます。特に、複雑な問い合わせや感情的な対応が必要なケースでの活用が見込まれます。 

活用領域 期待される機能 想定される効果 
問い合わせ対応 ・文脈を踏まえた会話の継続 

・複数の問題の関連性理解 
・複雑な案件の自動解決 

・解決までの時間短縮 
情報活用 ・関連情報の自律的な収集
 
・状況に応じた説明の最適化 
・回答精度の向上 

・顧客理解の深化 

・説明品質の向上 
プロアクティブ支援 ・潜在的な問題の予測 

・予防的なアドバイス提供 

・最適なタイミングでの介入 
・問題の未然防止 

・顧客体験の向上 

・信頼関係の構築 

営業活動支援 

営業プロセスにおいて、状況理解と戦略的な判断を自律的に行い、営業担当者の意思決定を支援することもAIエージェントの役割として期待されてくると考えられます。 

活用領域 期待される機能 想定される効果 
問い合わせ対応 ・文脈を踏まえた会話の継続 

・複数の問題の関連性理解 
・複雑な案件の自動解決 

・解決までの時間短縮 
情報活用 ・関連情報の自律的な収集 

・状況に応じた説明の最適化 
・回答精度の向上 

・顧客理解の深化 

・説明品質の向上 
プロアクティブ支援 ・潜在的な問題の予測 

・予防的なアドバイス提供 

・最適なタイミングでの介入 
・問題の未然防止 

・顧客体験の向上 

・信頼関係の構築 

バックオフィス業務の高度化 

定型業務の自動化を超えて、状況判断や例外処理を含む複雑な業務の遂行についてもAIエージェントの活躍が期待できます。この領域はすでに生成AIチャットボットにより、人間の最終確認を必要としながらも徐々に浸透してきている領域といえますね。 

業務分野 期待される機能 想定される効果 
文書処理 ・文脈を理解した内容把握 

・最適な処理方法の選択 
・高度な自動化の実現 

・判断精度の向上 
業務判断 ・複数情報源からの状況分析 

・リスクの事前検知 

・最適な対応策の提案 
・判断品質の向上 

・リスク低減 

・業務効率の向上 
プロセス改善 ・業務フローの自律的最適化 

・ボトルネックの特定 

・改善策の提案 
・継続的な効率化 

・生産性の向上 

・品質の安定化 

研究開発支援 

研究活動において、文献の理解と知見の統合、新たな仮説の生成を支援することが期待されていますし、一部の製薬企業では生成AIを積極的に取り入れた研究を進めているようです。 

支援領域 期待される機能 想定される効果 
知識統合 ・複数分野の知見統合 

・新規性の評価 
・研究効率の向上 

・革新的発見の支援 
仮説生成 ・データパターンからの仮説提示 

・検証方法の提案・実験計画の最適化 
・研究の加速 

・新しい視点の獲得 

個人利用領域での活用 

パーソナルアシスタント 

単なるタスク管理を超えて、個人の状況や目標を理解し、主体的な支援を行うアプリケーションが今後登場してくることも十分考えられます。 

支援領域 期待される機能 想定される効果 
意思決定支援 ・複合的な状況分析 

・個人の価値観を考慮した提案 
・より良い判断の実現 

・目標達成の促進 

・生活満足度の向上 
生活最適化・生活パターンの理解と予測 

・状況に応じた提案 

・予防的なアドバイス 
・生活の質の向上 

・ストレス軽減

・健康維持の支援 

まとめ 

ここまでAIエージェントについて様々な角度から解説してきましたが、その本質的な価値と将来性について最後に整理しておきます。 

技術観点での意義 

AIエージェントは、生成AIの進化により、大きな転換点を迎えており、RPAのような業務の単なる自動化から真の意味での業務の代行へという変化が始まっています。従来の自動化技術が定型的なタスクの効率化にとどまっていたのに対し、生成AIをベースとしたAIエージェントは高度な文脈理解と環境認識に基づいて、自律的な判断と実行を行うことができるためその応用範囲が飛躍的に拡大しています。 

ビジネス観点での意義 

生成AIおよびAIエージェントによる技術革新は、ビジネスの在り方そのものを変えつつあります。特に今後顕著な変化が訪れるであろう領域は、カスタマーサービスや業務プロセスの最適化の領域です。24時間365日の顧客対応多言語でのグローバルサービスが、人的リソースに依存せずに実現可能になってきています。これは単なる効率化ではなく、ビジネスモデル自体の変革を促す可能性があります。 

今後の展望と課題 

本記事では、AIエージェントの基本的な特徴やこれまでの技術との比較、活用の可能性に焦点を当ててきました。一方で、実用化に向けては信頼性の向上やセキュリティの確保、さらには倫理的な観点からの検討など、重要な課題も存在します。 

例えば、AIエージェントがWEBに表示された悪意のあるポップアップ画面を70%以上の確率でクリックしてしまったという研究(Zhang et al., 2024)4も報告されていましたので、AIエージェントが実行できる領域を制限したり、権限管理の強化を行ったりするなどの対応が喫緊の課題として浮かび上がってきています。これらの課題については、別途詳しくDOORSメディアやセミナーなどを通じて取り上げる機会を設けたいと思います。 


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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