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※本記事は、「日経ビジネス」に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/21/brainpad1210/vol4/
2020、2021年の2年連続で、「DX銘柄」に銀行業として唯一選出された、りそなホールディングス。名実ともに、業界他社に一歩先んじたデジタル化を進める同社だが、そこに伴走するのがデータ活用のプロフェッショナル集団、ブレインパッドである。両社は2022年2月に資本業務提携契約を締結し、「金融×データ」の領域における一層の取り組み拡大を計画している。現在までに得られた成果と、この先に描く未来図について聞いた。
※所属部署・役職は取材当時のものです。
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経済産業省のDX認定制度で銀行業初の認定を受けるなど、金融業界のDXのフロントランナーとして知られる、りそなホールディングス(以下、りそなHD)。「りそなグループアプリ」は2022年4月7日現在、500万ダウンロードを突破し、同社にとって欠かせないデジタルでの顧客接点を担っている。
2022年度は、現在の中期経営計画の最終年度となる。低金利環境の継続、資金循環構造の変化、テクノロジーの進化、コロナ禍での顧客ライフスタイルの多様化など、激しく移り変わる経営環境で着実に成果をあげてきた理由はどこにあるのか。同社 社長の南 昌宏氏は次のように語る。
「事業環境変化が急速に進むなかで、お客様のこまりごとや社会課題を起点に、今後のビジネスのあり方や業務プロセスの次世代化を急いでいます。まだまだ道半ばですが、そのための重要なアプローチの一つがデジタル・データの利活用であり、DX・SXという名の構造改革です。りそなグループは、本邦最大の信託併営リテール商業銀行グループとして、個人1600万人、法人50万社の厚い顧客基盤に支えられています。また、『地域に根差したリレーション力』『フルラインの信託・不動産機能』『年金運用で培ってきた運用力』などこれまでの強みをベースに、異業種の方々の優れた知見・ノウハウなどとも積極的につながることで、様々な分野で新たな化学反応を起こしたいと考えています」
外部との連携という点では、従来型の発注者/受注者という関係性を超え、志を共にするパートナーと深く連携することで、「小さな成功体験」を一つひとつ積み重ねてきたことが、ここまでの成功要因なのだという。
例えば、先のアプリにしても、非対面型の顧客接点であるがゆえ、ユーザーインタフェースの使いやすさが顧客体験(UX)を高めるカギになる。これは一朝一夕に実現できるものではなく、ユーザーの声やデータを基に愚直に修正・改善を続けてきた結果である。パートナー企業との強い絆を基に、アジャイルでの開発を推し進めながら、少しずつ組織能力を高めることで、DXを力強く推進してきたのである。
また近年は、サステナビリティを意識した取り組みにも注力している。2021年に「サステナビリティ長期目標」を定め、持続可能性を重視した経営への転換(サステナビリティトランスフォーメーション:SX)に向けた基本姿勢を公表。同時に、顧客のSXに最も貢献する金融グループを目指すことを明確化した。
「『サステナビリティ』という価値観の変化が、これからの社会・産業構造やゲームのルールを変えていく時代です。こうしたなかで、お客様に寄り添い、それぞれの現在地から機会やリスクを共有しつつ、競争力の維持・向上へのサポートを継続していくことが、結果として、当社グループの持続的な成長につながるものと考えています。DXとSXという2つの大きな潮流を見失うことなく、これからも、お客様と未来志向の対話を行っていきたいと思います」と南氏は言う。
これらを支える一連のデジタル戦略で、司令塔の役割を担うのが2019年に設置されたデータサイエンス室(現データサイエンス部)だ。同室の設置段階からデータ活用パートナーとして共に歩んできたのがブレインパッドである。設置の経緯や狙いについて、りそなHDの伊佐 真一郎氏は次のように語る。
「2019年当時の当社には、データに強い人材がほとんどいませんでした。しかし、データ活用を外部委託するスタイルで、ビジネスの俊敏性を高めることはできません。銀行業務の旧来の常識にとらわれず、発想を広げる狙いも込めて、外部の専門家と共にデータ活用の内製化を目指したのです」
データを活用したDX支援企業であるブレインパッドは、組織立ち上げのマネジメントから環境整備、スキルトランスファー、人材育成まで、顧客企業のデータ活用の自走化をトータルに支援する。また、高度なデータの分析については請け負うこともできる。これらの点が、DXを共に目指すパートナーとしてふさわしいと判断した。
当初3人だったデータサイエンス室の人員体制は現在50名になり、個々の経験値とスキルも上がっている。りそなグループの内製化体制は着実に強化されているといえるだろう。
「『初めての取り組みなので、まずは試してみて、少しずつ経験値を積み上げたい』という伊佐様の言葉が印象に残っています。初めから難しいことをやって頓挫するよりも、簡単なことを数多く成功させて前に進める。これは、新しいデジタルの取り組みをスタートする上で、非常に重要な視点だと我々も考えています」とブレインパッドの関口 朋宏氏は話す。
りそなHDとブレインパッドは2022年2月に資本業務提携契約を締結し、さらに一歩踏み込んだ取り組みを推進することにした。
大きな狙いの1つが地域経済への貢献である。具体的には、りそなグループアプリなどの様々な金融デジタルサービスを、地方銀行などの外部金融機関が自社サービスとして提供できるようにすることがその例だ。将来的には金融機関同士のデータ共有も視野に入れ、業務効率化や一層の顧客理解、UX向上につなげる。りそなHDは、この仕組みを「金融デジタルプラットフォーム」と名付け、地域経済に貢献する上でのカギになるものと位置付けている(図)。
「データ基盤を共有できれば、外部の金融機関様にも当社にも多くのメリットがあります」と伊佐氏。例えば、データ活用の前段となる整理・加工にはこれまで多くの手間と時間がかかっていたが、その作業が1度で済み、簡略化できる。また、ある銀行で成功した施策を横展開することも容易になるので、ビジネス成果を早期に得られるようになるだろう。これまで単独で進めるしかなかったDXの取り組みを、複数社のエコシステムで推進できるようになるわけだ。その意味で、これまで存在していた地域間/金融機関間の分断を解消する仕組みともいえる。
「これまで地域金融機関の皆さんとの連携は、『資本提携』か『システム提携』が中心でした。一方、金融デジタルプラットフォームは、より柔軟な戦略的連携が可能です。強みのさらなる強化や弱点の補完といった、各社の状況に応じた部分的な連携が可能であり、地域金融機関の皆さんの自由度も格段に増していくと思います。その際、我々自身がかつて直面した課題を共有することで、問題解決の迅速化につながることもあると思いますし。同時に、当社グループも地域金融機関の方々から多くのことを学べるものと考えています。これがデジタル時代における連携のあり方であり、我々が目指す新たな挑戦の1つです」と南氏は強調する。
既に2021年3月から常陽銀行、足利銀行の2行が、りそなグループアプリ同様の使いやすいインタフェースのバンキングアプリを展開している。また、アプリ関連以外でも、この仕組みをベースとした外部金融機関との連携を推進。横浜銀行によるファンドラップの販売といった外部連携がスタートしているという。
「現在の企業の間にはデジタル化の格差があります。これは金融業界も同様で、進んでいる銀行があれば遅れている銀行もある。この差を埋めるための取り組みを各社がそれぞれ進めてしまうと、全体の学習コストの重複が大きくなってしまいます。りそなHD様の金融デジタルプラットフォームは、このような非効率を解消し、業界全体のDXを促進する役目を果たすと考えています」(関口氏)
さらに、両社の資本業務提携で忘れてはいけないのがSXの視点である。
変化する社会要請やビジネス環境に素早く対応し、環境負荷低減を含めた持続的な成長を実現する。このような体制を具現化するには、まず現状を正しく把握してあるべき姿を描くことが欠かせない。その際に、デジタル技術とデータが役に立つからだ。
「ブレインパッドは、『データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる』を創業以来のミッションに掲げています。今後、金融デジタルプラットフォームに蓄積・共有化されたデータが増えれば増えるほど、その分析・活用に当社の知見・ノウハウが生かせます。その意味で、りそなHD様との成功ケースをどれだけその先に広げていけるかが1つのカギになるでしょう。データサイエンスの力でSXを加速し、地域経済、ひいては日本全国を元気にする。そのための絶好のチャンスをいただいたと考えています」とブレインパッド代表の草野 隆史氏は述べる。
りそなHD側もブレインパッドに大きな期待を寄せている。例えば、かつてリアルの顧客接点しか持たなかった時代は、全体の1割以下の顧客の情報しか得られない状態だったという。そのため、営業活動や顧客提案に際しては、担当者が勘や経験を基にアプローチを考える必要があった。
一方、現在はデジタルによって顧客接点が拡大し、得られるデータの種類や質、量が大きく変化している。それにより、残り9割の顧客の実像が、少しずつ予測できるようになってきているという。「今後は、リアルとデジタル双方で得たデータを掛け合わせ、予測の精度をさらに引き上げることで、お客様の実像や真のニーズに迫りたい。これを我々だけで実現することは困難であり、だからこそ、データ領域で国内トップクラスの知見・スキルを有するブレインパッドさんと二人三脚で、進めていければと考えています」と南氏は言う。
また伊佐氏は次のように続ける。「UXを大きく変えるには、まず我々自身が変わる必要があります。ブレインパッドの力を借りて、既存の銀行のイメージを払拭する。『銀行ってこんなことができたんだ』とお客様に言われるような企業へと進化し続けていきたいですね」。
長い歴史で培ったリテール基盤と、データを中核に据えた取り組みの両輪でDX、そしてSXを推進するりそなHD。プレインパッドという強力なパートナーと共に、これからもその取り組みを一層加速させていく。
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