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※本記事は、「日経ビジネス」に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/21/brainpad1210/vol1/
ビジネスにイノベーションを起こし、DXを加速するため必要なことは何か――。これを考え、組織を導くのが企業経営者の重要課題だ。「両利きの経営」を啓もうする、早稲田大学ビジネススクールの入山 章栄教授と、データを活用したDX支援企業、ブレインパッドの草野 隆史氏。「探索」と「深化」というキーワードを軸に、日本企業がグローバルな競争力を獲得するための方法論を語り合った。
※所属部署・役職は取材当時のものです。
――日本企業のDXはグローバルに大きく後れているといわれます。この状況を脱却し、競争力を高めるために、経営者にはどんなことが求められるのでしょうか。
入山 個人がスマートフォンを使いこなし、利便性を高める、創造性を拡張するという点については諸外国に比べ劣っているとは思いません。問題はそれ以外の領域で、特にBtoBや官公庁、行政サービスの領域は残念ながら相当後れています。
この状況を抜け出すには、経営者がDXを自社のビジョンと結びつけて考えることが重要です。テクノロジーを使うことを目的化せず、自社の強みや「何をしたいのか」をまず明確化する。何をどうすればもっと儲かるのかを徹底的に考え、その実現手段としてデジタルを活用すべきです。
草野 ご指摘の通りだと感じます。当社は2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに事業を展開してきました。様々なお客様のデータを分析し、価値を生むための活動を続けてきましたが、正直なところ、見える景色はあまり変わっていません。
そもそも、データ分析以前にITとの向き合い方が変化していない。海外ではビジネスにITを実装することでDXを加速していますが、日本企業ではオペレーション改善にとどまっているケースが多いのです。そこで大きな差が生まれていると感じます。
――入山先生は、企業・組織がイノベーションを起こすための方法論として「両利きの経営」を提唱しています。その内容についても教えてください。
入山 そもそもイノベーションは、異なる領域の「知」の組み合わせで生まれるといわれています。自社の既存の知と異業種の知を組み合わせることで、新たなビジネスモデルや商品・サービスを生み出す。この、異なる領域の知を探す行動を「知の探索」と呼びます。一方、自社内に存在する知を磨き、商品・サービスの改善につなげるのが「知の深化」。両方をバランスよく組み合わせるのが両利きの経営です(図1)。
日本企業の課題は「深化」に偏りがちなことです。深化の領域の取り組みは、ゆくゆくはAIなどに置き換えられてしまう可能性があり、市場差別化の要因になりにくい。日本企業の経営者の場合、「探索」を強く意識することが、イノベーションの創出とグローバルな競争力の獲得に向けて必須だと思います。
図1 両利きの経営
――またブレインパッドも、DXについて「探索」と「深化」という言葉を使って説明しています。その意図について教えてください。
草野 DXは「変革型」と「効率化・最適化型」に大別できると考えています(図2)。変革型はビジネスモデル自体の刷新を含むもの。効率化・最適化型は既存ビジネスモデルの枠の中でオペレーションを効率化させる取り組みです。
変革型は、「探索」的な行動が軸となり、すぐに効果が現れるものではありません。また全社にかかわる取り組みのため、経営者のコミットが不可欠です。一方、効率化・最適化型は既存ビジネスモデルの「深化」であり、事業部門単位で取り組める活動といえます。入山先生が指摘したように、我々も日本企業のDXは「深化」に偏りがちだと考えています。経営者は、いかにして変革型のDXを具現化するかを考えなくてはいけない。その意味で、両利きの経営と考え方の共通点は多いと思います。
図2 ブレインパッドが考えるDX
――「探索」を加速する上では、デジタル技術やデータ活用に精通したパートナーの存在が重要です。ブレインパッドのDX支援について、概要を教えてください。
草野 お客様のデータを預かって行うデータ分析、データ収集の仕組みをはじめとするシステムの構築、分析結果をアクションにつなげるデジタルマーケティング支援など、データを中心とした多様な事業を展開しています。
その中で感じるのは、日本の組織にはDXの本質を理解し、推進役を務める人材が圧倒的に不足していることです。ただ、社内で育てるといっても時間がかかります。そこで当社は、「DXをどう進めるか」を判断する上流のコンサルティングから、データ分析、データを活用するためのシステムの構築と運用、そして人材育成までをトータルに提供できる体制を整えています。
単に仕事を依頼する側/請け負う側という関係性を越え、お客様と共に問いを立てるところから課題解決までを伴走します。その中で、データの収集・分析に基づく提案により、お客様自身が気付いていない価値を共に創造していく。そんなパートナーでありたいという思いを込めて、「共創型(Co-Create型)」のDX支援を標榜しています。
入山 人材は重要ですね。特に、これからの時代に求められるのが「問いを見つける力」です。多くの日本企業は、与えられた問いを解く力は持っているのですが、自ら課題を立てるのが苦手です。ブレインパッドのようなパートナーとの共創でここが改善されれば、状況は変わるかもしれません。単発でデータ分析業務を請け負うのではなく、継続的な信頼関係を構築できれば、ブレインパッドにとってもメリットは大きいでしょう。「Win-Win」の理想的なDX推進体制ができる気がします。
草野 ありがとうございます。まさにそのような関係性を築ければと思います。
――後れが指摘される中でも、DXを加速する日本企業は徐々に登場しています。それらの企業は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
入山 例えば、ある地方銀行は、デジタル領域の新規事業を次々興して地域経済の活性化に貢献しています。また、優秀なCIO(最高情報責任者)人材を外部から招へいし、ビジネス変革を急加速した組織もあります。
さらには、中間管理職全員に、AIなどの開発に用いられるプログラミング言語「Python」を勉強させる企業もあります。共通するのは、いずれも経営トップがしっかりコミットしていることです。中には次の社長候補をCIOに据えることで、変革を持続的なものにしようとする企業も登場しています。このような事例が増え、世の中に知られてくれば、日本の経営者のDXに向けた意識は大きく変わるはずです。
草野 BtoBビジネスを生業とする当社は、生活者に直接、価値を届けることはできません。そこで、既に大きな影響力を持つ企業・組織のDXを支援することで、間接的に世の中に良いインパクトをもたらしたいと考えています。
製造、金融、流通・小売、旅行・航空・運輸、IT・情報・通信、電力・エネルギー・建設など、多種多様な業界の大手企業での実績があり、成果も生まれています。今後は、それらの事例も一層広く発信していきたいですね。
入山 確かに日本企業のDXにはネガティブな面も多いのですが、私は悲観していません。なぜなら今後、IoT(Internet of Things)であらゆるモノがネットワークにつながっていくと、モノの品質が改めて問われる時代になるからです。言うまでもなく、ものづくりは日本企業が最も得意とするところ。その強みを生かすためにも、経営トップはしっかりデジタルと向き合ってほしいと思います。
草野 データ活用に業種、業態の差はなく、あらゆる産業にかかわれるのが当社の強みです。これからも、共創型(Co-Create型)のDX支援で、より良い未来づくりに貢献していきます。
※DXについて詳しく知りたい方はこちらの記事をお読み下さい。
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