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デジタル技術やデータの活用によってビジネスモデル変革を実現するDXは、小売業界でも重要な経営トピックとなっています。しかしながら、「DX=ツール導入、データ集計」といった誤解もあって、なかなかDXを推進できない、あるいは成果を出せない事例も少なくありません。
そこで本記事では、小売業界の課題やDXの必要性を改めて挙げたうえで、「小売DX」の始め方や取り組み事例をご紹介します。小売業界でDXに関心のある方は、ぜひ参考にしてください。
DXとは「Digital Transformation」の略語です。デジタル技術やデータを活用してビジネスモデルの変革を起こすことがDXの目的とされます。
総務省の情報通信白書では、以下のようにDXを定義づけています。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
総務省|令和3年版 情報通信白書|デジタル・トランスフォーメーションの定義
単にAIやIoT、RPAなどのデジタル技術を導入すれば、DXが実現できたといえません。こうした技術やデータはあくまで手段であり、その目的は新たな製品/サービス/ビジネスモデルを通じて価値を創出し、競争の中で優位な立場を確立することが重要です。
この点を踏まえると、DXは一部の部署や担当者だけが関わるものではなく、経営層のリーダーシップのもと全社的に推進されるべきプロジェクトであることがわかります。
DXの本質や事例については、以下の記事をご参照ください。
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DXはIT業界のみならず、製造業や金融業などさまざまな業界で進められています。小売業界も例外ではありません。その背景には、以下のような要因が存在します。
言うまでもなく、消費者の購買プロセスが変化したことは小売業に大きな影響を及ぼしています。
かつては直接店舗に来店して購入するか、電話で商品・サービスを注文するかが主流でしたが、今ではパソコンやスマートフォンといったデバイスからECサイトにアクセスができ、さまざまな商品・サービスが購入可能です。
すなわち時と場所を選ばす購買行動を起こせるようになったことを意味します。
ECサイトを運営していると、流入経路や滞在時間、購入履歴、問い合わせ履歴など多種多様なデータが蓄積されます。こうしたデータを分析する人材、ツール、あるいはデータを管理するインフラなどがなければ、豊富なデータといれども宝の持ち腐れです。DXを推進してデータを活用する体制を整えるニーズが、こうして業界内で高まっていきました。
このようなデータ活用に向けた課題と解決ステップについて、以下の記事でブレインパッドの経験豊富なデータサイエンティストがわかりやすく説明していますので、ご参照ください。
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かつて導入したシステムやデータベースが古くなり、現在の業務に適していない可能性があります。細かな改修を重ねてきた結果、全体最適になっていなかったり、蓄積できるデータがきわめて少なかったりと、老朽化したシステムによって余計なコスト負担を強いられている企業は少なくありません。
こうした課題を解消するべく、システムのクラウド化や最新システムの導入などDXへのニーズが高まっていると考えられます。
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小売業に限らず、少子高齢化に伴う労働人口の減少によって人材が不足している状態が続いています。これまで人数をかけて力業でこなしていた業務がままならなくなり、サービスの品質を維持することも難しい店舗は少なくありません。
業務効率化は喫緊の課題であり、それを実現するためにもAIやRPAをはじめとしたデジタル技術の導入、データ分析などが必要とされています。
経営層の経験と勘ではなく、データを通じて客観的に意思決定(データドリブン経営)をする風潮は、現代のビジネス市場において強まっています。株主への説明責任を果たすためにも、客観的な根拠が必要とされているのです。
その一方で、経営判断に使えるようなデータをすぐに用意できる企業は少なくありません。データが社内に溜まっていても、それを統合・加工し、分析することで初めて使える状態になります。しかしながら、経営判断というゴールを見据えてデータを管理することは容易ではありません。
こうして、データ分析を可能とするDX推進の気運が高まったと考えられます。
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2021年に東京商工会議所が発表した「中堅・中小流通・サービス業の経営課題に関するアンケート調査結果概要」によると、コロナ禍を機にデジタル化・IT活用が増加したと回答した企業は全体の43.6%、小売業の場合、48.7%に達しました。
本調査は中小企業のみを対象としたものですが、小売業界でもDXを推進する企業が増えていると推測されます。その進行状況を「サプライチェーン領域」「マーケティング領域」「インフラ整備」の3領域に分けて見てみましょう。
参考:中堅・中小流通・サービス業の 経営課題に関するアンケート 調査結果概要
小売業に隣接に紐づく「サプライチェーン領域」は、DXなしにアップデートを図ることはできないでしょう。
サプライチェーンとは、原材料の調達から製造、物流、販売、消費に至る供給の流れであり、在庫管理コストの削減、トレーサビリティの実現など、DX推進がもたらすメリットは多岐にわたります。
DXを通じたサプライチェーンの全体最適化「サプライチェーンマネジメント」は非常に重要であり、データに基づいた運用が強く求められています。
サプライチェーンとDXについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
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ECサイトを通じた購買が主流となり、多種多様な顧客データを入手できるようになった昨今では、購入活動に紐づく大量のデータを分析し、顧客行動を可視化して最適な施策を推進することが当たり前になってきています。顧客を理解してパーソナライズされたマーケティングメッセージを届けることで、プロモーションの効果を高められるのです。
以下の関連記事では、マーケティングDXを活用したデータ分析の取り組み事例や実践方法について解説されていますので、あわせてご覧ください。
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サプライチェーンにしろマーケティングにしろ、製造・流通・販促(マーケティングを含む)など、さまざまな業務領域が連携して取り組む必要があります。その前提として、デジタル技術やデータがどのチームからも使える形で整備されていることが重要です。
縦割り組織の弊害はさまざま指摘されていますが、その一つとして「社内のデータが分散されていることが原因で他の部門(部署)との連携が取れない」という「データのサイロ化」が挙げられます。
例えば、顧客データ一つを取っても、メールの配信履歴やそれに対するユーザーの反応履歴と、実際の売上データが別々のデータベースに格納されており、メールというマーケティング施策の売上貢献を見るには分析者が自らデータをつなぎあわなければいけないようなことは、多くの企業で発生しています。
こうした課題を解決するために、データ統合を試みる企業は小売業界でも増加しています。ブレインパッドが支援させていただいたお客様の中では、株式会社そごう・西武様のデータ基盤構築プロジェクトを挙げることができます。詳細は以下の記事をご参照ください。
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【AI導入事例】百貨店のマーケティングデータ基盤を構築(株式会社そごう・西武)
小売業界でDXを進めるメリットとして、顧客満足度向上や人材配置の最適化、データドリブンな意思決定が考えられます。
適切なDXやデータ活用が伴うことで、適切な需要予測に基づいた生産管理・在庫管理が実現できます。特にモノを扱うことが多い小売業やECにおいて、生産過程におけるデータに基づいた意思決定は重要です。
補足として、需要の変動に応じた価格の自動調整「変動料金制(ダイナミックプライシング)」も、収益最大化を図る価格戦略のひとつとして挙げられます。
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データ分析を通じて顧客理解が深まれば、接客やマーケティング施策のレベルが上がり、顧客満足度が向上することも期待できます。ECと実店舗が同じ顧客データを参照できるようになれば、「ECサイトで参照した商品を実店舗来店時にレコメンドする」というような接客も可能です。
よりパーソナライズされたプロモーションを設計することで、ターゲットから外れる顧客へのプロモーションの押し売りを回避するなど、満足度を下げるアプローチの回避も容易になります。
店舗業務に加えてECサイトで取り扱う商品も準備するため、DXの一つとして業務効率化を達成できれば大きなアドバンテージとなります。逆にいえば、データを通じた人材配置の最適化が進まないと業務負担が大きくなり、人材不足による影響が深刻化することは避けられません。
サプライチェーンやマーケティング、インフラ整備、人材配置の最適化に加え、DX人材の育成や組織構築など、DX推進プロジェクトの対象範囲は多岐にわたります。経営層のリーダーシップ抜きに実現は困難であり、その意味でDX推進はデータドリブンな経営スタイルへの変革が最終ゴールといえるかもしれません。
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小売DXで取り組むべき領域は広範囲であり、どこから取り組めばいいのか途方に暮れてしまうかもしれません。ここではブレインパッドの関わった具体的な事例をご紹介しつつ、いくつかの領域の取り組み内容についてご説明します。
今の時代、多くの企業がECを実施しています。大手であれば自前のECサイトを運用しており、一からWebサイトを構築するリソースのない中小企業であってもAmazonや楽天市場をはじめとする多数のオンライン上のマーケットプレイスを活用して自社の商品・サービスを売ることができます。
小売DXの出発点もECサイトにあると考えられます。オンライン上に顧客接点を設けることでビジネスモデルが変わり、大量の顧客データが社内に溜まっていくことでデータ分析の必要性を高めます。データ分析による成功事例を積み重ねることで、社内のDXに対する期待値も変化するでしょう。
【EC×DX事例】
【マーケティングDX事例】ヒットメーカーと考える商品開発における消費者データ活用の最前線
【DX事例】ネスレ日本が実践する、真の顧客理解に基づいたマーケティング戦略と組織組成~DOORS -BrainPad DX Conference- 2023 テーマ別 企業DX対談~
これからの小売業は、デジタルの力で顧客に寄り沿い“絆”を築く「DOORS-BrainPad DX Conference-」レポート①前編
ECサイトの運用が定着して、オンラインにおける顧客接点が確立された次のステップとして、オンラインとオフラインのデータ統合・連携とそれを生かしたマーケティング施策を意味するOMO(Online Merges with Offline)が挙げられます。
オンラインとオフラインでデータが分断されていると、例えば「ECサイトでカートに入れただけで購入しなかった商品を実店舗で購入していたとしても、その商品の購入を促すメール・プッシュ通知などのメッセージが流れ続け、顧客満足度を下げてしまう」というような、思わしくない顧客体験を与えかねません。
顧客の購買行動は必ずしもオンラインとオフラインで完全に分断されているわけではありません。しかし企業側の都合で両者が分断されているがゆえに、顧客ニーズに寄り添わない販促メッセージや接客を行うリスクがあると言えます。
OMOについては、SNS投稿や商品レビューなどといったUGC(User Generated Content)を活用した接客やメールマーケティング、EC戦略などを野心的に手がけるバロックジャパンリミテッド様の事例が参考になります。以下の記事をご参照ください。
【OMO×DX事例】
バロックジャパンと考えるパーソナライズとUGC活用
OMOを通じて小売企業がビジネス変革を実現するには、顧客との関係構築のためのマーケティング施策にもDX推進が求められます。データが分断されているとMAやCMSなどといったマーケティングツールの個数も増え、その管理にリソースを割かざるを得ません。
マーケティングDXの手始めとして、ツールの一本化や運用体制の整備、あるいはパートナー選定の再考などが求められます。
【マーケティング×DX事例】
【DX事例】ヤフーが「Yahoo! Data Xross」でもたらすマーケティングDXの新時代~DOORS -BrainPad DX Conference- 2023 テーマ別 企業DX対談~
バロックジャパンリミテッドがブレインパッドと推進するマーケティングDXの軌跡とこれから
フェリシモ「クラスター&トライブ戦略」に学ぶ、マーケティングDXの取り組み方
営業の生産性向上を目的として、Salesforceを導入・運用しつつCRM(Customer Relationship Management)を推進している企業は、小売業界でも多いでしょう。企業の規模がある程度大きくなってくると、一人の管理者やExcelだけでは営業担当者全員をカバーできるものではありません。CRM活動の推進で全体管理を改善しつつ、特定の営業担当者の力量に依存しない組織としての営業を目指す必要が出てきます。
その一方で、商品・サービス・ブランド全体を俯瞰できる体制が整備されていなかったり、単にメールや電話で商品に関する情報を押しつけているだけだったりと、CRMに課題を抱える企業は極めて多いものです。
こうしたCRM活動を改善するためには、「データ資産化→データドリブンUX→全体診断」という3つの領域を整えていく必要があるとブレインパッドは考えています。こちらの詳細については、「CRMの見直し方」のシリーズでご説明していますので、ぜひご参照ください。
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【シリーズ】データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方 第1回 持続的な成長に向けたCRM全体像の描き直しとは?
【シリーズ】データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方 第2回 KGI達成に向けたKPIマネジメントの描き直しとは?
【シリーズ】データの専門家による差別化のためのCRMの見直し方 第3回 KPI達成に向けた施策改善PDCAの描き直しとは?
物流領域のDXも重要な課題です。働き方改革関連法によって、2024年4月1日から自動車運転が伴う業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されます。ドライバーの長時間労働に依存した業務遂行ができなくなります。この「2024年問題」解決に向けて、データ分析とデジタル技術によって人員配置や配送ルートなどを最適化し、生産性を向上させる必要があります。
【物流×DX事例】
【前編】未来を見据えた伊藤忠「流通DX」のリアル~BrainPad DX Conference 2022~テーマ別 企業DX対談
【前編】パナソニック流「サプライチェーンDX」の現在地と未来~BrainPad DX Conference 2022~実践セミナー_対談
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物流2024年問題とは?社会や運送業界への影響と対策法をわかりやすく解説
【スペシャリスト鼎談】サプライチェーンDXの未来(前編)
【前編】DXに必要なのはデータを「蒸留」させるプロセス~巨大流通企業の「サプライチェーンDX」を成功に導く勘所~
DXやデータ活用を推進するうえで、自社のケイパビリティや特性を把握しているメンバーがチームに属することは大きなパワーになります。すなわち「DXの内製化」は、実現難易度こそ高いものの、実現できた暁には濃密なデータ活用がなされることになります。
IT、物流、製造など、サプライチェーンの各領域で積極的に内製化を推進していることで知られているニトリホールディングス様は、次なる内製化のターゲットと定めたものがデータ活用でした。そんなニトリ様の掲げるビジョン、内製化にこだわる理由、およびデータ活用内製化の具体的な取り組み内容について以下の記事で紹介しています。
【内製化×DX事例】
ニトリのデータ活用内製化の取り組み ~「2032年・3,000店・売上高3兆円」への礎を築くプロジェクトを振り返る~
小売業がDXに取り組む場合、ECサイトや物流、人員配置など個別領域の改善にとどまらず、バリューチェーン全体を変革する必要があります。経営層のリーダーシップのもと、営業・設計/開発、情報システム、マーケティングなど、複数の業務領域が連携してプロジェクトを進めることになるのです。
こうしたDXプロジェクトを進めるには、高い業務理解度とデジタル技術への知識、そしてプロジェクトマネジメントスキルが求められます。社内関係者だけでは手詰ってしまうので、専門知識を持つパートナーを選定することをおすすめします。
ブレインパッドは長年小売・流通・卸売の分野で多くのお客様と協業し、DXやデータ活用を通じた事業支援に取り組んで成果を上げてきました。関係者の方は、ぜひブレインパッドまでお気軽にお問い合わせください。
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