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データ分析プロジェクトの案件は、以前は一括委託型の統計的な解析とレポーティング業務が主でしたが、最近ではAIやDXの進化に伴い、プロジェクトへの参加型、共に課題を解決する伴走支援型が大きな割合を占めるようになってきました。
それに伴いブレインパッドのデータ分析プロジェクトのマネージャー(PM)も従来のQCD(Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期))管理はもちろんのこと、それ以上に「お客様にとっての価値を導き出すためにプロジェクトを円滑に遂行する」ことに重点を置くようになっています。
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そのような業務を支援会社に依頼する際、お客様にとって重要となる成功要因は、データ分析プロジェクトに参加するデータサイエンティスト・プロジェクトマネージャー(PM)といかにコミュニケーションをとり、上手に活用するかということです。
そこで今回は、同じ企業のプロジェクトの案件に関わったブレインパッドの新旧PMに、それぞれのプロジェクト経験を基にした、お客様から見たPMとの上手な付き合い方について、話を聞きました。
※所属部署・役職は取材当時のものです。
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DOORS編集部(以下、DOORS) まず松下さんから簡単に経歴を教えてください。
株式会社ブレインパッド・松下芽以(以下、松下) 2016年の4月に新卒でブレインパッドに入社して、今年で8年目になります。2018年に大手企業(以下、A社)のある受託分析の案件にメンバーとして参加し、2019年の秋にPMになりました。
その後、高柳さんへPMを引き継ぐことになり、2022年2月から開始して、2023年3月に私は完全に案件から離れました。5年という長い期間、A案件に携わっていたことになります。
DOORS 学校ではどんな研究をしていたのですか。
松下 大学院では数理最適化研究室に所属し、津波の避難シミュレーションに関する研究をしていました。データ分析に近い領域だったので、研究で得たスキル・ノウハウを活かせそうなブレインパッドに入社しました。
DOORS では高柳さんの経歴をお願いします。
株式会社ブレインパッド・高柳哲也(以下、高柳) 私は、2021年11月にブレインパッドに中途入社しました。前職はある大手企業のR&D部門で研究者をしていました。ブレインパッドに入社してすぐに、大手小売業の従業員データ分析に関わるプロジェクトに参加しました。そのプロジェクトでは、データの前処理工程やパイプライン作成を主に担当し、コンサルタントチームと連携しながら分析にも携わりました。
その後、そのプロジェクトからは離れ、2022年の2月下旬から現在のプロジェクトであるA社の案件に参加しております。
松下さんからPMを引き継ぐという前提で最初はメンバーとして参加しました。その間、ドメイン知識のキャッチアップをしながら、並行して松下さんのプロジェクトの進め方を勉強させてもらいました。松下さんが案件から離れた2023年の4月からは1人でPMを担当しています。後々私から誰かへ引き継ぎがある場合には、今回と同じく2人体制に移行すると思います。
DOORS A社案件のプロジェクトメンバーはどういう役割分担だったのでしょうか。
松下 A社の案件ではA社のデータサイエンティストの方々がプロジェクトに参加していて、基本的には我々ブレインパッドも同じ立場で関わっていました。ただし、プロパー社員ほどのドメイン知識はない反面、彼らには固定観念化した知識もありました。その部分を指摘するアドバイザリー的役割も果たしていました。
DOORS 契約形態は委託でも、仕事の進行形態は、実質的にはA社に常駐していたということですか。
松下 はい。コロナ禍前はA社社内に常駐し、コロナ禍以降はリモートワークが主になりました。A社にも据えられているPMの下で働き、ブレインパッドのメンバーについては、以前は私、現在は高柳さんがマネジメントしています。
DOORS 続いて、プロジェクトで大変だったことを教えてください。
高柳 最初に挙げられるのは、膨大なドメイン知識のキャッチアップでした。歴史のあるプロダクトで、アルゴリズムは常に進化しており、当初の状態と比べるとかなり複雑化していました。
過去の経緯がわからない状態で、様々なロジックの違いや連携の仕方を把握しないといけないのですが、情報量が膨大でなかなか全貌がつかめません。これらを理解した上で分析に臨まないといけないのですが、さらに大変なことにデータベースのテーブルも数多く、カラムもたくさんあり、それらを参照・操作するためのSQL文もたくさんあるなど、とにかく理解しないといけないことの膨大さが圧倒的でした。
松下 また、私たちブレインパッドには、より効果的な分析や新機能の提案が求められました。そのため、A社の業界のドメイン知識やビジネス知識が必要となりました。
高柳 まさにその通りで、A社の業界のビジネスは変化が激しく、最近ではプライバシー関連の問題が話題となったことで、以前使えていたテーブルが使えなくなるなどの問題が発生しました。したがって、ロジックを理解するだけでなく、現在の規制や動向を把握する必要がありました。
DOORS テーブルやアルゴリズムが継ぎ足しで増えていくという話でしたが、ドキュメントについてはどうなのでしょうか。あまり残っていないのか、残っていても正しくないのか、そうではなくきっちり保守されているのでしょうか。
高柳 ドキュメントも継ぎ足しで追加されていて、量がとても多いです。デジタル文書であるため検索は可能ですが、膨大な関連キーワードが一覧表示されます。新しいものと古いものを判断する必要があります。結局、日頃から集計したデータを確認し、各カラムの内容を理解していれば、中身がNULL(空っぽ)になるという異変があった際、仕様変更があったのかなと推測できます。
プロジェクトで使っているSlackのスレッドを調べれば、特定のテーブルやカラムが廃止されたという情報が見つかることもあります。そのような方法で情報を手探りしながら、集計に慣れてくると何か異常があった際に違和感が働くようになります。
DOORS 松下さんから「提案を求められている」という話がありました。提案する上で難しいこと、考慮しないといけないことはありますか。
高柳 確かに新しい提案を求められてはいますが、一方でA社からは既に事業計画や技術ロードマップが示されており、それに対する人員配置などの計画も存在します。それを理解しながら提案しないと、「その提案は良いが、人員や資金はどうするのか?」と問われてしまいます。
しかし、あまりにもその事を考慮しすぎると既存の計画と重複する提案になりがちなので、A社の計画に合うと同時に新たな領域を探る必要があります。もちろん、あまりにも違いすぎると範囲外となってしまうため、バランス感覚が求められます。
松下 ブレインパッドにとってのビジネスの話になりますが、ただ待っているだけで案件がもらえるわけではないので、こちらから案件を作るために提案していかないといけないということもあります。
DOORS 松下さんがそのことに気づいたのはいつ頃のことでしたか。
松下 私の前のPMがそう話していたので、私も自然とその視点を持つようになりました。A社のPMにとっては、自社のメンバーの方が依頼しやすいでしょうし、自社の人材を育てたいという意志もあるでしょう。ただ待っていれば、仕事は自社メンバーに流れるのが当然と考えています。
高柳 とはいえ、それぞれが得意とする領域があります。A社はエンジニアリング力が高く、ロジックの実装やしっかりと動くようにすることが得意です。我々はビジネスと繋がるアナリティクスが強みです。データを精密に分析し、それを活用したインパクトを予測して提案することに我々は長けていると思うのです。
A社は、経験に基づいて素早く集計し、結果から大局的に判断します。我々はその結果を深掘りして考えます。その点が違いであり、我々はその部分で求められていると思います。アナリティクスは時間と労力が必要なので、「本当に労力をかけて分析してくれたんだね」と認知されるような仕事が必要です。
DOORS では次に、お客様とのコミュニケーションについて教えてください。特に、A社のプロジェクトメンバーがデータサイエンティストであることを考慮に入れた上でのお話をお願いします。
松下 我々はプロジェクトメンバーとして参画しているので、進捗報告の方法がコミュニケーションの重要な要素となります。プロジェクトでは週次の定例ミーティングで進捗を報告していましたが、コロナ禍でリモートワークが一般化すると稼働状況が見えにくいという問題が出てきました。それを解決するために、我々のタスクの可視化や会議の改善など、様々な工夫を行いました。
高柳 具体的には、月に一度タスクの棚卸しミーティングを開催し、A社の各部門からリーダー層を集めて、「現在、ブレインパッドが持っているタスクはこれで、それぞれの進捗状況はこうです」と報告しました。また、その場でA社側から問題点や悩みを共有してもらうようにしました。
DOORS ブレインパッド内部のメンバーマネジメントについて教えてください。基本的にはどの程度の人数で運用されていますか?
松下 プロジェクトマネージャーが1人と、メンバーが2人の、合計3人が基本的なフォーメーションになります。必要に応じて、一時的に1人追加することもあります。毎日、ブレインパッドのメンバーだけで朝会を開き、進捗を報告してもらっています。
高柳 新入社員や新メンバーなど、特別なサポートが必要なメンバーに対しては、朝会以外にも1on1のミーティングを設けるなど、適宜対応を行っています。
DOORS 特別な苦労はありますか?
高柳 私自身を含め、各メンバーがそれぞれ独立した専門分野を担当しているため、他のメンバーが困難な課題に直面している際、それを解決するために深くまで理解しなければならないことがあります。使用しているデータテーブルが違うだけでなく、ビジネスドメインも異なるため、専門用語が理解できないことさえあります。
メンバーが使用しているデータテーブルを共有してもらい、問題を理解するために実際にデータ分析を手掛けることもありますが、これにはかなりの時間がかかります。そこで、メンバー間での問題理解のスピードを上げるために、月に1回ほど、お互いが何をしているのかを共有する時間を設けています。
DOORS 次にお二人それぞれがPMを務めて経験したことや、特に印象的だったことなどを教えてください。
松下 自分が提案したアイデアが採用され、実際にプロジェクトで使われ、最終的には商業的な成功に繋がったとき、それはとてもやりがいを感じる瞬間です。
具体的なエピソードとしてはA社のクライアントからあるクレームがあり、その点を調査した結果、確かにその部分を改善すべきだと判断し、その改善案を実際に実施しました。その結果、A社のクライアントからのフィードバックも良く、非常に充実感を感じた経験があります。
DOORS 高柳さんはいかがですか。
高柳 先ほども話したように、プロジェクト内では縦割りで各メンバーがそれぞれ異なる課題に取り組んでいます。全体的に見ると、我々はロジックの開発や評価という共通の目標がありますが、その一部を切り出した各サブプロジェクトで並行して動いています。
記憶が正しければ昨年の8月頃だったと思いますが、サブプロジェクトAとBでそれぞれ開発されたロジックを統合する新たなサブプロジェクトが立ち上がりました。その結果、各サブプロジェクトのメンバーが相手の進捗や成果を理解する必要が出てきました。それぞれのデータテーブルの内容を理解し、実際に分析に取り組む等、情報共有の重要性が高まりました。これがきっかけで、先ほど申し上げた月に1回の情報共有の場を設け、各メンバーがお互いの進捗をキャッチアップする気運が生まれた――というのが私にとっては大きなトピックです。
それまで各サブプロジェクトが個別に最適化されていたのが、新たなロジックの導入により、全体最適に少し近づいたと感じています。これにより、各メンバーが関与する範囲が広がり、全体を通じてのプロジェクトが進み、私たちもそれに順応していくようになったのです。
DOORS それによって高柳さんが得たものは何でしたか?
高柳 垣根を超えることによって、私たちは通常見過ごされる可能性があった新しい視点を持てるようになりました。各メンバーがどのような分析を行っているのか、全体としてどのような流れになっているのかを理解できるようになったのは大きな進歩だと思います。
例えば、毎日の朝会では、メンバーの理解度が明らかに向上しているのがわかります。私自身も、メンバーがどの程度進捗しているのか、また、どの部分で困っているのかをより具体的に理解できるようになりました。それにより、私が提供できるアドバイスも一般的なものから、より具体的で深いものに変わったと思います。
DOORS 次にPMの引き継ぎを見据えた取り組みについて説明してもらえますか。
高柳 冒頭にお伝えした通りですが、2022年2月にアサインされた際、PMを引き継ぐという前提で案件に入りました。ドメイン知識を少しずつキャッチアップしながら、松下さんが関わる部署やプロジェクト、それぞれの課題を理解、感覚として身に着けることができたと思います。情報量は膨大でしたが、メンバーとして仕事を進めながら理解を深め、特に大きな問題はありませんでした。
松下さんがプロジェクトを離れた4月以降も、頻繁に相談に行くこともないので、無事に引き継ぎが終わったと思っています。
DOORS 引き継ぎの取り組みとして他に重要なことがありましたか。
高柳 お客様との信頼関係の維持が重要ですね。A社の業務委託先は我々だけではなく、長期プロジェクトには多くの会社が参加しています。ただ、1年以上もの期間を設けて引き継ぎを行っている会社は少ないと思います。
お客様は、「PMの引き継ぎは会社の事情だが、それに伴って業務の品質も保証してほしい」と期待してくださっているはずです。1年以上の引き継ぎ期間を見て、その期待に応えていると感じていただけると思います。
DOORS 自社の事情がよくわかっているPMをいきなり交替することに不満を感じる会社が多いと聞きます。十分な引き継ぎ期間を設けるということはとても重要なことだと思います。
DOORS 続いて、ブレインパッドのデータサイエンティストを使う側のお客様に対して「このような使い方をしてもらうと、我々もより一層力を発揮できます」という提言をしてください。
高柳 ドメイン知識に関しては、我々はお客様には敵いません。もちろん我々もお客様と会話できるだけのドメイン知識を身につけることは絶対必要であり、そのための努力を怠るわけではありませんが、もっと我々の得意分野に期待する形での役割分担をお願いしたいと思っています。
例えば、お客様が自社の業務ロジックを詳しく知っていて、システム化に強いなら、統計的な分析と評価は我々に任せてほしいです。システム設計は分析設計を考慮した方がより深いアナリティクスが可能になるので、分析設計は我々に任せてほしいと思います。
また自社の内部事情に詳しすぎることが正しい施策を実行する上でかえって邪魔になることもあります。社内事情を理解しすぎると、どういう発言がどこに波及して、どんなことが起こるかまで想像がつくのでその視点に囚われてしまいます。
しかしどんなお客様も自社だけで成り立っているわけではなく、取引先もあれば、商品を買ってくれる消費者もいます。それを踏まえた上でのTo Beがあり、As Isとのギャップを埋めていく必要がありますが、自社の視点に囚われていると叶いません。
自社としての本当のTo Beを客観的な立場で提言する者も必要であり、その部分を我々に期待してもらいたいと思います。
松下 プロジェクトメンバーのローテーションはお客様にとってもブレインパッド内部にとっても必然です。我々はPMの引き継ぎにも時間をかけていますので、もし、お客様側で引き継ぎがうまくいかなかった場合、ブレインパッドを頼りにしてほしいと思います。
高柳 お客様側のPMからの具体的な作業依頼だけでなく、問題意識や課題発見の段階から共有してもらえると、分析設計のアイデアが生まれると思います。最上流からの共有があると、こちらからも様々な提言が可能です。
松下 そうすることで手戻りが減り、より高度な分析が可能になるというメリットもあります。
DOORS 「分析設計」という言葉が出てきました。その中身を少し具体的に説明してください。
高柳 想定していたよりコンバージョンが獲得できたという成功要因を分析するケースを考えてみましょう。お客様側では簡単な集計でコンバージョンの状況は把握できます。しかし、なぜ成功したのかを分析する際には、こういうターゲットに配信したから良かったのだとか、こういう時間帯に配信したから良かったのだといった様々な観点や仮説が必要になります。
その仮説の中から確率的にもっとも確からしいものを選び出すために必要なデータと分析手順を決定するのが分析設計です。
DOORS 最後に、本日の対談を踏まえて、それぞれメッセージをいただけますか。
松下 私はA社のプロジェクトからは離れましたが、私たちはお客様の課題を解決するパートナーであり、課題発見の段階から支援を行いたいと考えています。また、お客様との信頼関係を構築することも重要であり、データサイエンティストとして適切な意見を提供できる関係性を築きたいです。
高柳 A社のプロジェクトは長い歴史を持っており、前任の松下さんが5年もの長い期間関与してきた非常に重要なプロジェクトです。私の任期中に縮小させてはならず、維持どころかさらに拡大させるつもりでいます。これを達成するためには、ブレインパッドとして、お客様が見ていないレベルのデータを緻密に分析することが重要だと思っています。
ビジネスの観点から見ると、我々の目的は案件に関わる全ての人々の立場に立って最善の結果を追求することです。これを達成するためには、全ての人々にとってより良い世界を実現できるような提案を行うことが必要だと考えています。その結果、最終的にはブレインパッドを選んで良かったとお客様に感じてもらえることでしょう。私たちはこの信念を持ちつつ、日々メンバーと一緒に学び、成長し続けていきます。
DOORS 今日のお2人のお話から、特に印象深かったポイントをまとめますと、まずアナリティクスについては、お客様よりもブレインパッドの方が絶対に緻密に、精度高く分析するという前提があるということした。そしてビジネスドメインについては、お客様よりも詳しく理解するのは無理だとしても、お客様が持っていないような第三者的な広い視点を持つことの重要性が語られました。この視点を保つために全てを俯瞰的に見渡すことが、ブレインパッドのPMには求められるということでしょう。
ブレインパッドのPMは、このような視座・視点を持つように若いうちから訓練されているので、詳細なタスクを定義して与えるだけではなく、まだ明確でない問題を一緒に明確化するステージから参画できるパートナーとして考えて頂ければ、より効果的な働きができるのではないでしょうか。
松下さん、高柳さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
松下・高柳 ありがとうございました。
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