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データサイエンティストPM対談CASE3:牧野崇司×恒川充~上手なベンダーの使い方やコミュニケーションの取り方~

公開日
2024.04.22
更新日
2024.07.25
【シリーズ】データサイエンティストPM対談CASE3:牧野崇司×恒川充~上手なベンダーの使い方やコミュニケーションの取り方~

以前のデータ分析案件は、一括委託型の統計計算やレポーティング業務が一般的でした。しかしAIの進化やDXの進展に伴って、お客様のプロジェクトに参画する「共創型の伴走支援業務」が大きな割合を占めるようになっています。

それに伴いブレインパッドのプロジェクトマネージャー(以下、PM)も「お客様にとっての価値を導き出すためにプロジェクトを円滑に遂行する」ことに重点を置くようになりました。ブレインパッドのお客様にとってプロジェクトの重要成功要因は、ブレインパッド側のPMをいかに上手に活用するか、に大きく依存すると言ってよいでしょう。

そこで今回は、キャリアも年齢も違いながら、同じお客様のプロジェクトをそれぞれに担当しているブレインパッドPMのお2人に、上手なベンダーの使い方やコミュニケーションの取り方などについて聞きました。

本記事の登場人物
  • データサイエンティスト
    牧野 崇司
    TAKASHI MAKINO
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    2017年にブレインパッドに中途で入社。研修サービスを提供する部署で教材作成や講師などを担当したのち、受託分析の部署に異動。その後、ネット広告企業の分析支援などを経て、現プロジェクトに従事している。
  • データサイエンティスト
    恒川 充
    MITSURU TSUNEKAWA
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    アナリティクスコンサルティングユニット
    2021年にブレインパッドに新卒で入社。インターネット企業において、各種エンドクライアントのCV最適化から効果検証までを行うシステムの保守改善に従事。その後はCRMに関する分析プロジェクトに長く携わっている。

小売業者を運営する会社のCRM戦略策定に関わるデータ分析を担当

DOORS編集部(以下、DOORS) 最初にお二人の自己紹介をお願いします。

株式会社ブレインパッド・牧野崇司(以下、牧野) 2017年にブレインパッドに入社した牧野です。入社までは11年間、研究員としていくつかの大学を渡り歩いてきました。研究テーマは“花と虫の関係”です。

入社後3年ほどは、研修サービスを担当する部署で教材を作ったり、講師をしたりしていました。分析の部署に移って、デジタル広告関連のプロジェクトにアサインされ、広告の効果検証を行うようになりました。その後現在の案件にアサインされて1年半が経過したところです。

株式会社ブレインパッド・恒川充(以下、恒川) 情報工学の修士を卒業し、2021年にブレインパッドに新卒で入社した恒川です。大学院では、健康診断データから生活習慣病の発症を予測するというテーマで、企業と共同研究をした経験があります。複数の部署の方々と一緒にデータ分析をするおもしろさを実感し、データサイエンティストを志しました。

入社してから最初の半年間はデジタルマーケティング会社のデータ分析支援で、広告のコンバージョン率を予測するモデルを作っていました。その後牧野さんと同じお客様の案件にアサインされて、ちょうど2年経ちました。

DOORS どのようなお客様のどのような案件に携わっているのでしょうか。

恒川 いくつかの小売業者を束ねる運営会社(以下、A社)がお客様です。CRMの戦略策定に関わるデータ分析を行うという大きなプロジェクトがあり、その下にいくつかの子プロジェクトがあるという形になっています。

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DOORS 牧野さんと恒川さんの関係はどうなっているのでしょう。

牧野 プロジェクトに関して言うと、恒川さんが先輩です。一方会社の先輩・後輩で言えば私が先輩になります。しかしいずれにしても上下関係があるわけではなく、肩を並べて仕事をさせてもらっている仲間だと私は思っています。実際、それぞれが別の子プロジェクトのPMを担当していて、プロジェクトの階層の中でも横並びになっています。

DOORS いくつかの子プロジェクトがあるプロジェクトということですが、プロジェクト全体はどのようなやり方でまとめているのでしょうか。

牧野 お客様のデータ分析部がプロジェクトを主管して全体を取りまとめています。プロジェクトの全体会議が週1回あって、その中で子プロジェクトの活動状況を共有しています。

DOORS ブレインパッド内部のコミュニケーションはどうなっていますか。

牧野 週3回、朝会をやっていて、密に連絡しあいながら連携を取っています。したがって別々のテーマに関わってはいますが、お互いに何をしているか、どのような状況なのかは把握しあっています。

DOORS プロジェクト全体の目的は「CRMの戦略策定に関わるデータ分析を行う」ということでした。プロジェクトの進め方について概要を教えてください。

恒川 私たちはデータ分析部と直接やり取りをしていますが、その向こうにエンドクライアント的な立ち位置としてCRMを推進するマーケティング部があり、施策推進をリードしています。私たちは分析から得られた示唆をデータ分析部内で揉んだ上で、データ分析部とマーケティング部がコミュニケーションを取りながら施策を推進するという形になっています。

DOORS CRM戦略全体をより効率化するという大きな目的があり、中期計画や年間計画に沿って分析テーマが立ち上がってきて、そのテーマに対して子プロジェクトが立ち上がるというイメージでしょうか。

恒川 はい。その理解で問題ありません。


番外的なプロジェクトも含めて5つの子プロジェクトが並行して走っている

DOORS ブレインパッド側の支援体制や関与範囲について教えてください。

牧野 私はPMとして子プロジェクトを1つ担当し、ブレインパッドのメンバー1名と先方のデータサイエンティスト2名がそのメンバーです。先方の2名のうち1名は、入社してから半年ぐらいの方です。またブレインパッドのメンバーは兼務で、別の子プロジェクトに軸足を置いています。

A社が運営している小売業者B社に会員カードがあり、そこから会員の性別や年代および購買履歴を取得しています。こうしたデータを分析して、たとえば「ある商品を買った人はすぐに再来店する傾向がありますよ」とか、「この商品をリピート買いする人は定期的に来店しやすいですよ」といった、顧客育成のための示唆出しをしています。

私自身も手を動かして分析をしながらも、プロジェクト計画の全体像を設計し、進捗管理や問題管理をするというプレイングマネージャー的な仕事の進め方をしています。

恒川 私のほうの子プロジェクトは、先方のデータサイエンティスト3名とブレインパッドの新卒1年目1名がメンバーです。B社の会員向けスマホアプリで決済ができる仕組みがあり、それを使って決済してもらうことを「自社決済」と呼んでいます。B社の顧客が自社決済をどれぐらい使ってくれているのか、どういうときに自社決済をしてくれるのか分析し、自社決済を促進してLTVを伸ばしていくのがプロジェクトのテーマです。ただ自社決済のデータを利用するのが初めてでしたので、どこにどのようなデータが入っているのかの理解から始めました。

私は牧野さんと比べると自分で分析する機会は少ないです。先方のデータサイエンティストにタスクを振り分けながら、分析結果を取りまとめてデータ分析部の部長に報告を上げるという橋渡し的な役割を担っています。

DOORS データから見えた意外な傾向はあったのでしょうか。

恒川 先にチャージしてその中から支払いをする仕組みなのですが、1,000円以下の買い物だとなかなかチャージをしてくれないことがわかりました。このように購買金額に応じて自社決済の利用状況が異なっていることが明らかになったので、どの購買タイミングでチャージや自社決済を促せばいいかという整理や深掘りを現在行っています。

DOORS 現状把握がようやく進んで、アクションはこれからということですね

恒川 はい。実際の施策は今年(2024年)の3月もしくは4月から走らせようという状況です。

DOORS 以上が、恒川さんと牧野さんが担当されている子プロジェクトの状況ですね。他の子プロジェクトはどうなっているのでしょうか。

恒川 他に2つ子プロジェクトがあって、先方のデータサイエンティストがそれぞれPMを担当されています。またその2つの他に定常的に継続している番外的なプロジェクトがありまして、トータルで5つの子プロジェクトが走っている状況です。

先方のデータサイエンティストが担当している子プロジェクトの1つは、他社から購入しているデータと会員情報を突き合わせて、会員を説明するための因子や変数をよりリッチにしようというものです。他社から購入しているデータは顧客の志向性の情報でして、たとえば節約志向であるとか、健康重視であるとか、社交性が高いといったことがわかります。アンケートを採って、個人の志向をデータ化している会社があるのです。「健康重視の人はカップラーメンをお薦めしても買わないと思われるので、そのようなキャンペーンからは外す」といった使い方をします。

牧野 もう1つは、A社の子会社のC社が提供しているクレジットカードの利用データとA社が運営する小売グループ内での購買情報を連携させるプロジェクトです。分析の幅を広げることがねらいで、現時点ではクレジットカードのデータを整理し、A社の持つ顧客データとひもづけるといったデータ整備の段階です。

番外的プロジェクトというのは、マーケティング部で定常的に行っているキャンペーンの効果検証データの集計や検定を行って、示唆出しをするものです。データ分析部が分析設計や報告書作成を担当していて、ブレインパッドのメンバーが持ち回りで設計書や報告書のレビューを担当しています。報告書に関しては、先方データサイエンティストのスキルに応じて、資料の体裁や適切なグラフの選び方など、基礎的な部分をレビューすることもあります。

DOORS 子プロジェクト同士の横の連携については先ほど、週に1回プロジェクト全体会議があってお互いに状況を把握しあっているという話がありました。もう少し詳しく教えてもらえますか。

恒川 牧野さんのプロジェクトでは、顧客ロイヤリティーのステップごとの特徴をつまびらかにする取り組みをしています。一方私のプロジェクトでは自社決済を誰がいつしてくれるのかを明らかにしていく取り組みなので、顧客ロイヤルティーとももちろん関係があります。そこでお互いにプロジェクトの知見を仮説出しに使えないかとか、相手の分析結果をこちらの分析要素に取り込めないかといった議論を一緒にしながら進めています。

牧野 それぞれが担当している子プロジェクトの中だけでも多くのことが進んでいますので、相手の子プロジェクトの状況を、微に入り細に入りキャッチアップするのは大変です。大変ではありますが、毎週の会議の中で、それぞれの子プロジェクトが何をしているのか常にアンテナを張ることを心がけてきました。

先ほどの「会員を説明するための因子や変数をよりリッチ」にする子プロジェクトから導き出された変数を、私のプロジェクトですぐに使うといったこともありました。別の子プロジェクトで間もなく成果が出ることを把握していたからこそ、即座に取り組めたと言えます。

DOORS 具体的にはどんな成果をどのように使ったのでしょうか。

牧野 たとえばですが、子プロジェクトで産まれた変数を用いて、お客様を「節約志向」や「新しもの好き」などのセグメントに分解し、それぞれに適した育成プランの策定に使用しています。


プロジェクトの成果を出すことと人材を育成することのバランスが難しい

DOORS プロジェクトを通じた人材育成も求められていると思うのですが、実際にどのようなことをしているのでしょうか。

牧野 先方のデータ分析部のメンバーは、中途採用の方が多いのですが、前職では他部門から依頼された集計業務などを主に担当してきた方がいるなど、バックグラウンドは様々です。したがってプロジェクトの目的を整理したり、プロジェクトを回したりするケイパビリティが不足しがちです。その部分を私たちが支援しつつ、そうしたスキルも身に付けていただくような育成も担う形になっています。

プロジェクトをきっちり進行すると同時に、メンバーの育成に関しても期待されているわけですが、この2つは基本的にトレードオフの関係です。プロジェクトを遅滞なく進めるためには、それぞれのスキルに応じて具体的なタスクを割り振り、一直線に結果を出せるようにするのが一番ですが、試行錯誤する余裕がなくなるため成長が遅くなります。かといって育成に力を入れすぎて、ストレッチの幅の大きなタスクを振ってしまうと、結果が出るのに時間がかかってしまいます。

プロジェクトとして結果を出さなければいけないという制約がある中で、スキルアップにつながるタスクやテーマを設定しながらスケジュール調整をするのは大変です。恒川さんも同じような苦労をしたのではないでしょうか。

恒川 その通りです。牧野さんが言うように、先方のメンバーの考える余地を広めにしてあげたいのですが、それをするとスケジュールが遅れたり、間違った方向に走っていったりしがちです。結局軌道修正するための時間がかかってしまいます。

私なりに育成に関して工夫したことは、タスクを配分する前に、次はどういう観点の分析をすればいいかを本人に考えてもらうようにしたことです。

DOORS プロジェクトの成果目標はもちろんあると思うのですが、育成に関する目標はあるのですか。

恒川 育成に関する明確な目標はありません。

データ分析部の部長と、「今のフェーズではメンバーに経験を積んでもらうのがいいと思うので、アウトプットを出すのを少しあとにできませんか」といったコミュニケーションを取ることが理想だと思います。しかし育成の明確な目標がなく、プロジェクトの成果が優先される中、育成に踏み込んだコミュニケーションができていませんでした。その点は反省しています。

牧野 恒川さんは反省していますが、恒川さんのもとで大きく育ったメンバーも実際にいます。私のプロジェクトのメンバーだった方が恒川さんの配下に入って、その2、3カ月後にその方の作った報告書を私がレビューする機会があったのです。

わずか数カ月の間に、資料の質が大きく向上していました。フォーマットがきれいになっただけでなく、グラフも文章も見違えるようになって、恒川さんはもちろんうれしかったと思うのですが、私のほうがそれ以上にうれしかったかもしれません。

恒川 そのような成長が見られると大きなやりがいになります。「資料の体裁はこうしましょう」「グラフにちゃんとラベルやタイトルをつけましょう」といった細かな部分までいちいち泥臭くコメントしたのがよかったのでしょう。また「この作業の目的は何でしたっけ?」「今日の目標は何ですか?」「この分析によって何が達成されることを目指して、今週は作業するんでしたっけ?」といったことを口が酸っぱくなるまで言い続けました。その結果、少しずつ習慣化していき、わずか2、3カ月でも目に見える形での成長があったのだと思っています。

「関連部署のデータ活用リテラシー」と「分析プロジェクトの規模」で苦労があった

DOORS こちらは、紺谷さん(株式会社ブレインパッド 執行役員 ソリューションユニット副統括 紺谷幸弘)が「大規模・複合型プロジェクトが難しいワケ~コミュニケーションコストの大きさと「重視される実コウ性」のシフト~」というコラムのためにまとめてくれた表です。

プロジェクトの進め方をテーマに、この表をベースに語れる観点があれば語ってほしいのですが。

牧野 では、4の「関連部署のデータ活用リテラシー」に関して。恒川さんがプロジェクトに入ったころに「対照群を置かなければいけない」とあらゆる場面でメッセージングした結果、次第に定着して当たり前のように運用されるようになったと思っています。

DOORS 対照群とは何ですか。

牧野 たとえばポイントを付与する施策が有効かどうかを知るためには、一方でポイントを付与しないグループを用意しないと比較できません。このように比較のために別途用意するグループを対照群と言い、ポイントを付与したグループのほうを介入群と言います。

恒川 私がプロジェクトに入った当初の2年前は、施策を検証しないといけないのはわかっているが、その方法がよくわからないという状況でした。私が参画する前からを含めてブレインパッドが3年ほど支援を続けてきたことで、施策の設計時に介入群と対照群をそれぞれ用意しないといけないという認識があたりまえになりました。

牧野 私が入り始めたころは、まだ定着する途中かな?と感じることもたまにあったのですが、今はまったくそういうことはなくなって、「対照群を置かないと因果関係がわからないよね」といった会話が普通になりました。そこはやはり積み重ねなのでしょうね。

リテラシーという観点では他に、プロジェクトに先方から新しいメンバーがジョインしたときにその人の持つリテラシーの見極めが難しいということがあります。たとえば集計を依頼する際に、どの程度の粒度で指示を出せば正しくデータ抽出ができるのかなどは気になる部分です。そこで実際にやってもらって、ブレインパッド内部の朝会で「新メンバーの方は○○が得意な様子です。一方で、△△は苦手なようなので、厚めのサポートが必要そうです」などと報告しあって、共有することを意識しました。

恒川 ブレインパッド内で先方メンバーのリテラシーの情報を共有して、それぞれのメンバーに応じたサポートについて話し合うことは結構重要だと思います。

DOORS 他の観点はいかかでしょうか。

恒川 6の「分析プロジェクトの規模」では、私の配下のメンバーが3人から5人に増えたことがあります。そのときに管理コストの増大による難しさを実感しました。タスクの振り分けについても人数分考えないといけません。それぞれのアウトプットの関連性が幾何級数的に増えるの整理するのが大変な上、整理したことをメンバーにしっかり伝える必要もあります。そうやって連携を取りながら、うまく進められるようにアドバイスや議論を進めるのがかなり難しかったですが、良い経験になったと思っています。

DOORS 体感としてはどのぐらい大変になった感じでしたか。

恒川 マネジメントに使う時間が1.5倍になったという印象です。私も慣れていくうちにいろいろ先んじて考えられるようになりました。またメンバーのリテラシーも向上して考えてもらえる範囲が増えていき、それにつれて楽になっていきました。また会議体を別途設定するなど、進め方を工夫することでもかなり解消されました。

牧野 少し外れるかもしれませんが、規模が小さくても兼任メンバーがいるとそれに応じた進め方も必要になってきます。先ほども言いましたが、私のプロジェクトにはブレインパッドのメンバーが1人で、その方が別のプロジェクトも担当していたこともあり、そうすると、別プロジェクトで余裕が生まれたときにパッとタスクを振る必要が出てきます。なのでタスクを常にストックするようにしていました。

DOORS 他の子プロジェクトの作業状況だとか全体のタスクにどういうのがあるかとか、そういうところを全部頭に入れておかないといけないということですか。

牧野 全てを頭に入れておくのは難しいところですが、全体会議やブレインパッドの朝会で、大事なポイントはきっちり把握するようにしています。またいざとなれば本人に聞けるという関係性はもちろん作ってありますし、本当に困ったときは恒川さんをはじめとして関連している社員全員に相談できる環境も整っています。そこは助かりますね。

プロジェクト内・外のコミュニケーションでそれぞれ気をつけていること

DOORS 次のテーマに移ります。お客様とのコミュニケーションで気をつけていることは何でしょうか。

恒川 メンバーのリテラシーも考え方も十人十色なので、それぞれの背景、スキルセット、性格などを把握した上で、対応の仕方を変えることがけっこう重要ではないかと思います。特に中途入社の多い会社ではより重要ではないかと個人的には思っています。

DOORS 今のはデータ分析部内の方々とのコミュニケーションですよね。マーケティング部など他の部の関係者についてはどうでしょう。

恒川 昨年の半年間で言うと、牧野さんと私の上にブレインパッド内のPMがいて、その人たちが他の部の関係者とのコミュニケーションの役割を担っていました。そのためマーケティング部の人たちとのコミュニケーションについては、私たちはそれほど多くの機会があったわけではありません。しかしその中でも、マーケティング部が意識しているKGIなどの大前提になる指標を取り違えないことに注意しました。

またデータ分析部には主体的に分析の目的を考え、それをマーケティング部と共有するミッションがあります。その際に考えるべきポイントをデータ分析部にどこまで・どうやってインプットするかのあんばいは難しく、以前は私たちの上位のPMが担ってくれていました。今は私がその役割を担当しています。

DOORS オープンな議論ができる雰囲気を作ることも大事だと思います。

牧野 はい。やはりとても重要なポイントです。コロナ禍もあって基本的にリモート環境で仕事をしているのですが、そうした環境であっても気軽に声をかけてもらえるように常に心がけています。

たとえば困ったことがあればすぐにチャットで相談してくださいと常に言うようにし、チャットが来たら、すぐに返すように心がけています。ほかにも、朝イチの定例などでは、まだ頭がしゃきっとしていない可能性などもありますし、冒頭で「今日は何の日」といった話をしてアイスブレークの時間を設けていました。

リモートで反応がわかりにくいのですが、対面で話をすると「結構笑いが起きていましたよ」とのことで安心しました。実際相談のチャットもよくいただけますし、「楽しい仲間でやっているんだよ」という雰囲気作りができているのかなと思います。

恒川 私もだいたい同じようなことをしています。リモートでも気軽にコミュニケーションを取ってもらうためには、信頼してもらうことがまず大事なので、牧野さんと同様に相談されたらすぐ返すといったアクションを私も取ってきました。

あとは打ち合わせのときに意見や質問が出やすい雰囲気作りも意識しています。実際には自分で考えてほしい細かな質問や的外れかなと思う意見もあります。それでも発言があることのほうが大事なので、絶対に否定をせず、そこから話を広げていくなど軌道修正するようにしています。

DOORS いわゆる「心理的安全性」の醸成ですね。

恒川 はい。そうです。

DOORS プロジェクト内部でオープンな議論ができる雰囲気作りや仕組み作りは、本来はデータ分析部のリーダーのマターだと思うのです。もちろんされていると思うのですが、さらによくするためにブレインパッド側からも働きかけていくことが必要なケースもあるかと思うのですが。

恒川 それについては私たちも課題感を持っていて、昨年から牧野さんとも話し合いながら、現在進行形ですが、少しずつ動いているところです。たとえばリモートではやりにくい部分も多いので、もう少し対面の機会を増やしていきたいと私たちのほうから申し入れをしました。現在では週1回ですが、ブレインパッドのメンバーが入れ替わり立ち替わり先方のオフィスにお邪魔して、先方のメンバーと肩を並べて仕事する機会を作ってもらいました。それによって子プロジェクト内部だけではなく、データ分析部の他のメンバーとも議論しやすくなってきています。

育成に関する相談とエンドクライアントと直接議論する機会が欲しい

DOORS 従来の分析して結果を報告すれば終わりという業務委託型の案件は減っており、お客様と一緒に課題解決に取り組む共創型の案件が主流になりつつあります。そうなるとお客様がいかに上手にベンダー側のデータサイエンティストを使うががプロジェクトの重要成功要因になると思うのです。

そこでお客様にこういうふうに使ってもらうともっと成果が出るのではないかという提言をしてほしいのですが。

牧野 先ほどの話とつながりますが、プロジェクトにおける育成目標を明確にし、その達成において私たちに期待することを相談していただければと思っています。

そうしていただけると、それに合わせて分析テーマを考えることができます。またリーダーを育てたいということであれば、先方メンバーをサブリーダーや参謀的ポジションに置いて、私たちが後方支援するという形を取ることができます。そういった社内人材育成に関して私たちに求める役割を明確にしてもらえるとうれしいですね。

これも先ほど話にありましたが、長い目で見ると先方メンバーが早く育ったほうがビジネス価値も早く出るようになります。どの会社でも管理職は短期的な成果を求められますので、成果と育成のバランスを取るのは難しいと思うのですが、そのあたりも含めて相談していただければ、いろいろと知恵も出せるのではないかと思うのです。

恒川 人材育成に関しては、私も同じ思いです。別の観点では、マーケティング部、すなわちエンドクライアントと何に困っていて何ができるとうれしいのかを直接やり取りしたいと思っています。お客様側だけで完全に言語化するのは難しいので、それを聞き出していくことも私たちデータサイエンティストの役割のうちです。エンドクライアントと腹を割って議論できればその役割が果たせて今以上に成果が出て、ビジネス価値を最大化することにつながると思うのです。

ブレインパッドがそのような形で参画しているプロジェクトも多いので、社内にナレッジが蓄積されています。そのナレッジも活用できます。

DOORS 最後の質問になります。「このデータサイエンティストと一緒に仕事がしたい」と思ってもらうために心がけていることはありますか。

牧野 なるべく話しやすい雰囲気を醸し出すことが一番と思っています。「この人とは話ができる」と思ってもらうことが第一歩ということですね。

恒川 私は大きく2つあると思っています。1つは、牧野さんとほぼ同じだと思うのですが、共創型の案件においては、メンバーからの信頼を勝ち取ることがまず大事です。そのために、メンバーの性格やスキルセットによって対応を変えたり、困っている様子を先に察知してこちらから助けるようにしたりといった小さなところから始めるようにしています。小さなことの積み重ねで信頼を獲得することが、プロジェクトで価値を生み出す土台になるからです。

もう1つは、信頼獲得ができた上で、ビジネス価値につながる分析をするためのコミュニケーションが取れているかが重要だと考えます。分析がどういうアクションにつながるのか、そのアクションでどんなビジネス価値を目指すのかといった視点が分析現場では抜けてしまいがち。そこに第三者であるブレインパッドのメンバーが入ることで、軌道修正できると思うのですね。その軌道修正をするためにも、データ分析部の部長ともっとコミュニケーションを取ったり、エンドクライアントと直接腹を割って議論する場を持ったりすることが重要だと考えています。

DOORS 今日の話をまとめると以下のようになるかと思います。

まずお二人は、CRMの戦略策定に関わるデータ分析を行うプロジェクトに参画していて、そのプロジェクトは番外的なプロジェクトも含めた5つの子プロジェクトで構成されています。そして牧野さんと恒川さんのそれぞれが別々の子プロジェクトのPMを務めています。

子プロジェクト同士はプロジェクト全体会議を通じて、お互い何をしているか把握しています。その中で、他の子プロジェクトの成果を自分の子プロジェクトで役立てられないかといった高度な把握にも努めています。

プロジェクトの結果を出すことを強く求められながら、一方で人材育成についての暗黙の期待がある中、この2つはトレードオフの関係なので最適なバランスを取るために苦労しています。そんな中でメンバーの成長がやりがいにつながってもいます。

プロジェクトを進める上で考慮すべきさまざまなポイントの中で、お二人の担当案件では、「関連部署のデータ活用リテラシー」と「分析プロジェクトの規模」に関して、特に苦労しました。「関連部署のデータ活用リテラシー」に関しては、言い続けることとメンバーのリテラシー情報を共有することが大切とのこと。また「分析プロジェクトの規模」に関しては、PMの慣れとコミュニケーションの工夫も大切だが、メンバーのリテラシー向上で解消される部分もあるとのことでした。兼務のメンバーがいる場合にはプロジェクト全体の進行状況を把握することと、兼務メンバーとの信頼関係を作っておくことが大事という話もありました。

お客様とのコミュニケーションについて心がけていることもいくつか挙げてもらいました。メンバーの背景、スキルセット、性格などに応じた対応をすること。エンドクライアントが重視している指標をしっかり把握すること。オープンな議論ができる雰囲気作りや心理的安全性を確保すること。リモート作業が主体の場合は対面の機会を意識して設けることなどでした。

ブレインパッドのデータサイエンティストをもっと上手に活用するための提言もありました。人材育成に関してブレインパッドに求める役割について相談してほしいということと、エンドクライアントと直接話をする機会をもっと作ってほしいという2つです。

最後に選ばれるデータサイエンティストになるために努力していることとして、まずは話しかけやすい雰囲気を作ること。その上でお客様と信頼関係を作ること。そしてビジネス価値につながる分析をするためのコミュニケーションをこころがけることが挙がりました。

本日はお忙しい中、貴重な経験を共有していただき、ありがとうございました。


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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