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ビジネスを取り巻くAI・DXの現状と未来~第1回 現状と課題

公開日
2024.10.30
更新日
2024.10.30
ビジネスを取り巻くAI・DXの現状と未来~第1回 現状と課題 上席執行役 山崎 清仁 フェロー 兼 事業・管理ユニット副統括

近年、生成AIの開発競争が激化し、新たなビジネスモデルが生まれつつあります。目まぐるしく進化するテクノロジーは、私たちの社会をどのように変えようとしているのでしょうか?

この記事では、ブレインパッドの技術系執行役と同社フェローが、それぞれが注目する技術の最新動向を語り合い、AIやDXの現状や将来性を深掘りし、私たちの生活やビジネスにどのような影響を与えるのかを考察していきます。

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本記事の執筆者
  • 経営
    山崎 清仁
    KIYOHITO YAMAZAKI
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    XaaSユニット
    役職
    上席執行役 XaaS担当 兼 統括ディレクター
    名古屋大学理学部卒業。株式会社PFU、株式会社サイバード、フリービット株式会社を経て、OSSを活用した事業で創業を経験。通信、モバイルアプリの開発やITサービスの運用に数多く携わり、IPA未踏ターゲット事業の採択経験を有する。2019年よりブレインパッドに参画し、サービスインフラのクラウド化を促進。プロダクト開発部門、SRE部門を統括し、自社プロダクトの拡大と品質保持、安定稼働を担いつつ、技術戦略、エンジニア組織の強化を推進する。2023年7月より現職。
  • データサイエンティスト
    角谷 督
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    事業・管理ユニット
    役職
    フェロー 兼 事業・管理ユニット副統括
    東京理科大学理工学部情報科学、同工学研究科経営工学専攻、博士(工学)。日米金融機関でのクォンツ実務経験や、金融機関向けコンサルティング会社でのコンサルタント経験を経て、2012年にブレインパッドに参画。卓越したデータマイニング、機械学習、モデリング技術を有し、人数・スキルレベルともに国内有数の当社データサイエンティスト組織を統括した経験があり、現在はプロジェクト等の品質管理やリサーチに従事。論文に「日本株式市場における投資家の取引行動とコスト構造の分析」(経営財務研究、25(1))等がある。 2023年7月より現職。

AI関連ビジネスの収益化は困難か?

株式会社ブレインパッド・山崎 清仁(以下、山崎)XaaSユニットを統括しております上席執行役の山崎です。私の担当する領域は、Rtoaster(アールトースター)を中核にしたプロダクト事業を技術面から支え、サービスの開発や安定した運営を担っております。今回は、フェローである角谷さんとともに、我々ブレンパッドが注目している技術動向について話していきたいと思います。角谷さん、よろしくお願いします。

株式会社ブレインパッド・角谷 督(以下、角谷)よろしくお願いします。私はブレインパッドのフェローとして、最新技術の動向や研究領域の社内外の情報流通を主に担っております角谷です。本シリーズがお客様への技術情報提供の一助となれば幸いです。

山崎 さて、まず始めに、広くAI関連ビジネスに関してお話ししていきたいと思います。実際に、AIはどのような役割を担うべきで、企業や社会にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

角谷さんはブレインパッドの技術戦略に関わる技術調査をご担当されていますので、AIのような一般的な用語の話題はかえって難しいかもしれませんが、極力平易な表現でご説明いただけますでしょうか。

角谷 AIの発展プロセスを考えるには、人類の知能の発展プロセスが手掛かりになります。
ホモ・サピエンスが繫栄してきたのは「認知革命」が関係しているとの説があります。以下に述べるようなプロセスに従って認知革命があり、その結果、人類は共通のルールを定め、お互いの協力関係を作り上げ、複雑な社会を構築することができるようになったと言われています。

認知革命が起きた社会ではフィクション(虚構)を想像し、それを信じてその情報を他者と共有します。共有した目的や価値観をもって協調して行動できるようになります。一方で、行動するだけではなく、思考実験により経験していないことを想像して様々なシミュレーションを行うこともでき、そして多様なパターンから実際に実行することで、試行錯誤がなされます。その結果をフィードバックして仲間に共有することで、社会が豊かになりました。

旧来型のAIから生成AI、さらには今後実現されるかもしれないAIにおける発展のプロセスはこのような人間の知能の発展プロセスに従っていくものと考えています。

AIの一分野である『強化学習』では、様々なポリシーを試行し、その結果に対して報酬を与えるということで環境に最も適したポリシーは何かを探索します。近年では、このような学習を大量に、かつ高速に実行することが可能となっています。

また、生成AIではインコンテクストラーニング(プロンプトによる例示の学習)を通じて新たなデータを取り込んで自ら学習し、新たな知識を得ることができるようになります。そして、新たなフィクションが創造されるでしょう。

AIを活用することで個々の人間の能力を超えて、複雑な数学の問題を解くために、どのような戦略で数式を解くべきかを創造するなど、人間の認知を広げる役割を果たす革命的な進歩が起きる可能性があります。

AIが言葉の解釈をできていると考えることができるかどうかは、まだ何とも言えませんが、これからAIが至る所で活用され、社会は大きく変わると思われます。ただし、活用という点では、まだまだ試行錯誤が続いていくと考えられます。

山崎 誰もがAIにより社会は大きく変わるとはいうものの、一方で、批判的な意見もあります。生成AIを提供する事業者はその性能を強化するための大規模な設備投資を行っていますが、まだ十分な収益には結びついていないという批判です。その理由はどこにあると考えられますか。

角谷 AIやDXの活用を成功させるうえで、重要となるのは次の3つの観点だとみています。

  1. 生成AIの問題点をカバーする技術
  2. AIやDXを活用した業務設計
  3. AIやDXを扱う人材に求められるスキル
AI・DX活用における課題と解決策

生成AIの問題点をカバーする技術

山崎 それでは挙げていただいた観点について、ひとつずつ取り上げていきましょう。まずひとつめの生成AIの問題点です。生成AIでは質問の記述の仕方によっては、全く有用ではない答えを出すケースがあります。そこで『プロンプトエンジニアリング』が重要だといわれています。そのような不完全性に課題が多いのでしょうか。

角谷 先ほど挙げた「認知革命」のプロセスにおけるフィクションの生成ができるのは良いのですが、明らかにあり得ないフィクション「ハルシネーション(幻覚)」が作成されたりします。それを見て人が判断するときに、明らかにあり得ないと思えるのはなぜでしょうか?

山崎 人間は獲得している経験により判断しており、その経験が何かしらAIとは異なるということが影響しているのでしょうか?

角谷 はい。我々人間には「常識」が存在します。その常識に照らして、フィクションが成り立つかどうかを簡単に判断できます。

現在のAIでは、様々な分野・領域で常識と考えられるものが完全に学習されているわけではありません。例えば、倫理的な問題を含んだ回答などは、社会問題と成り兼ねません。

今後はAIに汎用性を持たせ、多様かつ複雑なタスクを解く基盤を与える世界モデルが必要となってきます。さらに、ハルシネーションをコントロールするためには、情報の中に含まれる矛盾した状況や内容も表現して学習させるための『論理型AI』(演繹的推論によるAI)と呼ばれるものが重要になってきます。

※外部(=世界)から得られる観測情報に基づいて、世界の構造を学習によって獲得するAIモデルのこと

山崎 倫理的な問題を含んだケースは、弊社でも注力するべき領域として議論されていますので、次の機会に取り上げるようにしましょう。

確かに、行動経済学がこの分野に盛んに入るようになっており、様々な認知バイアス(先入観、固定概念、思い込みなどにより合理的な思考ができない心理現象)を取り扱うこともAIには求められております。

SNSが浸透している現在では、自分の見たい・信じたい情報に多く触れること(エコーチャンバー効果・フィルターバブル)となるために生じてしまう確証バイアス(認知バイアスの一種)をきちんと認識できるようになると、より合理的な判断には役立ちますよね。

また、感情のような曖昧とみられている情報もAIの判断に役立てられると、より人間的になるのかもしれません。ただし、そのような機構がはいったAIは、むしろ不完全性が許容される用途を与える必要がありますね。

【関連記事】生成AIをビジネス活用する上で押さえるべき8つの評価観点


AIやDXを活用した業務設計

山崎 それではふたつめの観点に移りましょう。我々のお客様は人員不足に伴う課題も多く、AIやDXの適用としては、業務プロセスの省力化や業務自体の効率化を目的とした支援をお客様から依頼されることが多いと思います。

角谷 そうですね。しかし、労働力が流動化していない日本社会においては、AIやDXによる効率化によって余剰となる人材を、そのまま削減することは困難が伴います。単純な作業はAIを活用したシステムに任せて、創造的な仕事に従事させると言っても、労働者にその適正があるかどうかは別の問題です。

そのようなプロセスを再設計するには、労働者間で配置転換が容易である必要があり、多くの労働者が均一的で大量の処理を行う業務でないと再設計自体は難しい。

つまり、AIを含んだシステムで業務効率を図る計画段階において、現場の実情に合った業務設計を行うことが重要になります。その上で、費用対効果を上げていく必要があります。

山崎 業務効率化に関わるDXは、一般的に「守りのDX」と呼ばれますが、既存のサービスや商品の改善、ビジネスモデルの変革などに関わるDXは「攻めのDX」と呼ばれます。最近では、攻めのDXへの注目も高いですね。

角谷 投資対効果で考えると、上記のような問題から攻めのDXの方が大きな効果を出せるケースが多いように感じます。技術的な進歩が著しくて生成AIが浸透した今は、生成AIの問題点をカバーし、守りのDXだけではなく攻めのDXへ領域を広げて、それを扱う人材が整えば、十分に収益化に繋げられると考えています。

ただ、攻めのDXに関しては、各業界において、深い業界知識と顧客行動の理解が重要となってきます。

山崎さんも先ほどおっしゃっていましたが、行動経済学では認知バイアスの存在が取り上げられたりします。ユーザーを取り込んでLTVを高めようとすると、顧客行動がどのような認知バイアスによって影響を受けているのかを理解する必要がありますよね。

例えば、少額の料金で長年メンバーシップになって多少の便益を受けてきたとします。一方で、今後はそのサービスがあまり必要では無くなったとしても、人は今までのコストや時間を考えると勿体なく思い、メンバーシップ費用を払い続けるなどの非合理な行動を続けてしまいがちです。

これはサンクコスト(埋没費用)をどのように感じてしまうかという問題ですが、データを詳細に分析すると、このような顧客行動の傾向が見えてくるかもしれません。材料費の高騰によって、多くの商品を値上げするときでも、目玉商品として特別にリーズナブルな価格設定をしていた商品に対しては、顧客は以前の価格を覚えてしまっているので、他社比で遜色ない価格であっても必要以上に高く感じるかもしれません。

これは以前に提示された情報や価値観に影響を受ける心理現象で『アンカリング効果』といいます。こういった傾向がデータ分析によって見えてくるのであれば、効果的な施策を設計できると思います。

【関連記事】DXを実現する「攻めのIT」とは?「守りのIT」と根本的に異なる2つのIT投資の視点

AIやDXを扱う人材に求められるスキル

山崎 最後に3つめとして人材の観点では、どういった課題が大きいと見られていますか?単に、DX人材が不足しているという課題だけではないということでしょうか。

角谷 人材不足に対応したいというのはその通りですが、特に質の方に課題があると思います。量的には、簡単なコーディングや分析はAIが自動で行うことができるようになりつつあり、過去のデータサイエンティスト不足といった状況とは、様相が変わりつつあると思っています。

山崎 今までと異なる人材が必要ということですね。

角谷 はい。AIを適用する前に、費用対効果を判断したり、本当にAIが必要な領域かを判断できる人材が必要だと思います。意思決定に関わり、AIやDXを管理し、推進できるデータ分析人材です。

投資する前に、AIによる意思決定や、複雑なシミュレーションを行って意思決定する必要があるような問題かどうかをよく考える必要があります。

山崎 問題をきちんと整理し、ロジカルに考えれば、複雑なシミュレーションを必要とする問題かどうかを判断できるケースも多いですね。データ分析は重要ではありますが、データ分析のみで解こうとしている企業は割と多いイメージがあります。

角谷 その通りです。しかしながら、このような訓練を受けた分析担当者が企業サイドに実際は少ないことが課題だと思います。適切にAIを用いる『意思決定に関わるために訓練された人材』がAIやDX活用の現場では求められています。

山崎 弊社では、その人材を企業内に醸成・育成するための支援をサービスとして提供していますので、自社で育成に悩まれている企業をDXイネーブルメントしていく育成サービスを提供していくのも我々ブレインパッドの役割ですね。

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意思決定支援のためのAI

角谷 DX投資が一巡してきた昨今では、AIやDX活用では収益には繋がりづらいと批判されることもありますが、技術的な進歩が著しくて生成AIが浸透した今は、生成AIの問題点をカバーし、守りのDXだけではなく攻めのDXへ領域を広げて、それを扱う人材が整えば、十分に収益化に繋げられると考えています。
開発エンジニアからみて山崎さんはほかに意見をお持ちですか。

山崎 私の視点では、ソフトウェア・ハードウェアの側面でひとつずつあります。

ソフトウェアの側面では、業務改善のためのAI活用はある程度進行していますが、意思決定に関わるAIの活用が未だ進んでいないと感じております。不確定な情報のなかで決定を支援するためには、感性情報学や感性工学を取り入れたAIの進歩には期待しています。

シンギュラリティの到来が囁かれる中、我々の想像が及ばない内容がAIからレコメンドされる可能性もあります。人の納得感に配慮した支援がAIから行われるという世界観が、AIによる意思決定支援には必要になるように感じております。

ハードウェアの側面では、やはり計算リソースの課題の解決策には注目しています。

AIにかかる投資の多くが計算リソースにつぎ込まれています。収益をあげるには、生成AIをはじめとするAIが比較的リーズナブルに手に入る必要があります。

例えば、リザバー・コンピューティングなどによる計算技術だったり、エッジAIや分散AIのような分野にも期待をもっています。このような計算技術の進展は、環境面においても取り組まれるべき技術要素だと考えています。

角谷 ブレンパッドはハードウェアやクラウド環境は利用者として振る舞うことがほとんどですが、AIが動作する環境にも注目していく必要がありそうですね。

山崎 角谷さんは社内で取り組むべき技術課題の選定に関わっていますが、今後取り上げたい技術は何かありますか。

角谷 当社で重要と考えて、リサーチしている領域として「LLM」や「拡散モデル」、「強化学習」、「論理型AI」があります。その辺りのテーマは、AIをうまく活用するにあたって重要な課題の解決と関係が深いので、近々取り上げたいと思います。

山崎 本日は、AI関連ビジネスの現状について我々がデータ分析サービスの中で観察される課題について対談しました。次回は、AIやDX、データ分析に関係する技術全体を俯瞰して、今後の技術の向かう方向性についての対談をお届けしたいと思います。

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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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