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ビジネスを取り巻くAI・DXの現状と未来~第2回 国際会議からみた技術動向

公開日
2024.11.26
更新日
2024.11.25

近年、生成AIの開発競争が激化し、新たなビジネスモデルが生まれつつあります。目まぐるしく進化するテクノロジーは、私たちの社会をどのように変えようとしているのでしょうか?

この記事では、ブレインパッドの技術系執行役と同社フェローが、それぞれが注目する技術の最新動向を語り合い、AIやDXの現状や将来性を深掘りし、私たちの生活やビジネスにどのような影響を与えるのかを考察していきます。

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本記事の執筆者
  • データサイエンティスト
    角谷 督
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    事業・管理ユニット
    役職
    フェロー 兼 事業・管理ユニット副統括
    東京理科大学理工学部情報科学、同工学研究科経営工学専攻、博士(工学)。日米金融機関でのクォンツ実務経験や、金融機関向けコンサルティング会社でのコンサルタント経験を経て、2012年にブレインパッドに参画。卓越したデータマイニング、機械学習、モデリング技術を有し、人数・スキルレベルともに国内有数の当社データサイエンティスト組織を統括した経験があり、現在はプロジェクト等の品質管理やリサーチに従事。論文に「日本株式市場における投資家の取引行動とコスト構造の分析」(経営財務研究、25(1))等がある。 2023年7月より現職。
  • 経営
    山崎 清仁
    KIYOHITO YAMAZAKI
    会社
    株式会社ブレインパッド
    所属
    XaaSユニット
    役職
    上席執行役 XaaS担当 兼 統括ディレクター
    名古屋大学理学部卒業。株式会社PFU、株式会社サイバード、フリービット株式会社を経て、OSSを活用した事業で創業を経験。通信、モバイルアプリの開発やITサービスの運用に数多く携わり、IPA未踏ターゲット事業の採択経験を有する。2019年よりブレインパッドに参画し、サービスインフラのクラウド化を促進。プロダクト開発部門、SRE部門を統括し、自社プロダクトの拡大と品質保持、安定稼働を担いつつ、技術戦略、エンジニア組織の強化を推進する。2023年7月より現職。

AIの国際会議ICLRから見えた最新技術トレンドとは?

株式会社ブレインパッド・角谷 督(以下、角谷)私はブレインパッドのフェローとして、最新技術の動向や研究領域の社内外の情報流通を主に担っております角谷です。
シリーズでお届けしている『ビジネスを取り巻くAI・DXの現状と未来』の2回目となります。今回は、ICLR2024に参加した弊社社員とAI技術に関して議論した内容についてお話したいと思います。山崎さん、よろしくお願いします。

株式会社ブレインパッド・山崎 清仁(以下、山崎)よろしくお願いします。私はXaaSユニットを統括しております上席執行役の山崎です。私は、Rtoaster(アールトースター)を中核にしたプロダクト事業を技術面から支え、サービスの開発や安定した運営を担っております。
今回は技術トレンドを中心にお話しできればと思います。AI全体として研究の発展や流れという観点では、角谷さんはICLR2024を通じてどのようなことに気づかれましたか?

【参考】
ICLR2024:https://iclr.cc/Conferences/2024
ICLR2024 Fact sheet:https://media.iclr.cc/Conferences/ICLR2024/ICLR2024-Fact_Sheet.pdf

角谷 ICLRでは、面白い研究や応用系で考えさせられる研究も多くありました。AI研究の注目分野という観点でお話しますと、まず、研究発表数では以下のグラフのような分布となっていました。(図1参照)

※ 研究発表数は、ICLRの口頭発表に限定した数字です。技術領域、技術課題のカテゴリ名は弊社によるものです。

図1.技術領域別発表数
図1.技術領域別発表数

グラフが示す通り、昨今の生成AI技術の急速な進歩に応じて、「大規模言語モデル(LLM)」と「拡散モデル」の件数が群を抜いています。次に論文数の多いグループとして、「トランスフォーマー」「責任あるAI」「強化学習」が続いています。トランスフォーマーはLLMとも関係しますが、研究内容では言語モデル以外での応用が盛んになっています。

責任あるAIは、説明可能性といったユーザーにとっての分かりやすさや公平性のように実用的かつ社会的課題にこたえるために重要な技術ですので、AIが社会実装されつつある現在、今後より重要になってくると考えています。

山崎 前回のエントリで、当社が力を入れるとおっしゃっていた分野(LLM及び拡散モデル、強化学習)が上位にランキングされているということですね。

角谷 そうですね。図1の上から8番目にある「ニューロシンボリックAI」は「推論型AI」を実現する技術であり、こちらも比較的上位の研究テーマとなっています。また「責任あるAI」を実現する上でも重要な技術です。現在活用されているAIでは、取得された情報から文脈に適した回答を提案・提供するテキストを文法的に正確に返すというものです。

「責任あるAI」では高度な推論で複雑な問題を解決すること(推論型AIで実現できる)や、さらに進んでユーザーによる継続的な情報の入力やフィードバックが無くても、事前定義されたルールや経験から自律的に学習することで意思決定を行うことができることになることが求められています。


社会実装に向けたAI技術研究の取り組み

山崎 図1からも様々な技術領域があることはわかりました。では、社会実装という観点で見た場合、どのような研究が実際に使われているのでしょうか。

角谷 もちろんすべての応用例を知っているわけではないので、今のご質問に正確に答えることは難しいのですが、比較的多く使われていることが実用段階にあると考えるなら、AIの各技術領域と実用化までの年数の関係はおおよそ以下の図2にマッピングした通りだと思っています。

ここでいう実用化というのは、潜在的な需要を考慮したときに概ね利用されているという状態を考えています。これは当社の技術領域に詳しい何人かの社員と議論した結果のものとなっていますので、絶対的に正しいものでないことはご了承ください。

図2.技術領域と実用化年数のマッピング
図2.技術領域と実用化年数のマッピング

山崎 「責任あるAI」は比較的実用化が近く、「ニューロシンボリックAI」の実用化はかなり先に見えます。このあたりは、どのように考えていますか。

角谷 簡単な推論型のAIは多くの研究がなされており、それらはLLMで課題となっている倫理的に問題のある回答などを避ける技術としては有用だと思います。高度な推論型AIにはニューロシンボリックAIや自律型エージェントの技術が必要となってきますので、究極の「責任のあるAI」の実用化は先の話となりますが、LLMが普及しつつある現在、高度な技術が確立されていなくても、世の中の要請によって実用化に向かっていると考えています。

例えば、「機械学習やディープラーニングを解釈する技術」なども責任あるAIの1つですし、それらが倫理や公平性に反していないかどうかをその解釈から判断することもできます。一方、我々としても簡単な推論型AIに関する技術はキャッチアップしておく必要があると思っています。

山崎 公平性というのは、例えば性別など本人が変更できない属性によってサービスが異なるようなAIは倫理的に問題があるということですよね。AIや機械学習がもたらす回答が、どのようにデータを扱ってその回答を返したのかを解釈させて、それが倫理的に問題ないかを判断させるのは、ユーザーが介在して行うこともできるが、それを自律的に機械に学ばせたりすることができるのが理想ということですね。

角谷 高度な技術が確立されて広く使われていくという状態に達するのは、比較的時間が掛かります。技術領域からもう少し踏み込んで、技術課題という観点で研究発表数を見ると、異なった景色が見えるかもしれません。
次の図3、図4が技術課題ベースで見た場合の発表件数と実用化年数の関係図になります。

図3.技術課題別発表数
図3.技術課題別発表数
図4.技術課題と実用化年数のマッピング
図4.技術課題と実用化年数のマッピング

角谷 インコンテキスト学習や画像生成、マルチモーダルAIやそれに伴う表現学習などが現在盛んに研究されていて、実用化されつつあると思います。

山崎 インコンテキスト学習について説明してもらえますか?

角谷 特に大規模言語モデル(LLM)における学習方法の一つで、モデルが与えられた入力のコンテキストに基づいて新しいタスクを理解し、適応する能力を獲得することでしょうかね。これによってLLMなどでもプロンプトで回答例を幾つか与えることで、正確な答えが返ってくるようになります。

山崎 なるほど。One-shot promptingやFew-shot promptingなど、入力を工夫することでモデルの精度が上がるということですね。マルチモーダルAIとは、異なる種類の情報をまとめて扱うAIという理解ですが、そこでの表現学習にはどのようなものがあるのでしょうか。

角谷 画像、音、自然言語、時系列データなど、現在は色々なデータを取得することができます。ある分析対象に対して、画像と音、それに関わる自由記述された文章があった場合、単独で分析するよりも、それらを総合的に分析したほうが有用な情報を得られそうですよね。そのために特徴量をそれぞれの種別のデータごとに抽出・設計する必要があるのですが、これをコンピュータで自動に学習し、学習で獲得した特徴表現を使って目的のタスクを実行させるための試みが表現学習ということになります。

山崎 現代では、色々なセンサーから様々な形式のデータが取得できるようになっているから、そのような技術の研究が盛んになっているということですね。前回、出てきた生成AIの回答の妥当性に関する研究も盛んなのでしょうか。

角谷 LLMなどの生成系AIの回答の妥当性やポリティカルコレクトネスに関する正誤判断は、明確に機械的な解を与えることが難しいです。そのため、LLMの評価自体もひとつの重要な技術課題として研究されています。

また、評価以前に、誤った回答をしないことも重要なので世界モデルなども研究されており、これらの技術が独立しているわけではありません。ですから、図3の技術領域としてあらわされている「責任あるAI」における技術課題としてはLLMの評価や世界モデルなどが関係してきますし、技術領域としてプロットされた「ニューロシンボリックAI」の技術課題のひとつであるAIアライメントなども関係します。

山崎 各技術課題を解決するための技術が複雑に絡み合っているということですね。

角谷 そういうことになります。これらの様々な領域にわたる技術を少人数ですべてカバーすることは現実的ではないと思われます。そのため、多くのデータサイエンティストが自身の興味や関心、強みを活かして広く技術領域をカバーしていくことが重要となりますね。


ブレインパッドの注力領域と選定基準

山崎 データサイエンティストのカバー領域も広くなり、大変な時代だと感じます。比較的ホットで重要なテーマを、当社がリサーチに力を入れていく領域としたのは理解しましたが、具体的な選定基準はありますか?

角谷 はい。大きく2つの基準を設けて選定しています。1つ目は研究動向、および技術の発展性・汎用性を踏まえて、以下の4つの技術領域のいずれかを含んでいることです。

  1. 生成AIのデータ生成技術を支える拡散モデル
  2. 生成AIの言語データ生成とマルチモーダル処理を支える大規模言語モデル
  3. 生成AIを含む複雑なシステムを制御する技術である強化学習
  4. 生成AIを含む複雑なシステムの出力結果を具体的な施策につなげる予測+最適化

そして、2つ目が社会的ニーズ、当社の得意領域を踏まえて、以下の5つの技術課題のいずれかに関連していることです。

  1. 経験豊富な数理最適化や予測最適化を含むオペレーションズ・リサーチの課題
  2. プロジェクトを通じた価値提供によって技術を獲得しつつあるマテリアルズ・インフォマティクス
  3. 創業以来の得意分野ともいえるマーケティング分析(特に消費者の購買行動分析)
  4. マルチメディア社会がもたらすソーシャルネットワーク上の炎上を未然に防止するためのマルチモーダル情報処理
  5. 製造業における設計や情報メディアにおける仮想現実・拡張現実に不可欠な3Dデータ処理

つまり、実際にニーズのある課題と関連する技術のクロスで研究テーマを選んでいます。

山崎 具体的な研究テーマとしてはどのようなものが候補として挙げられているのでしょうか?

角谷 具体的な研究テーマとしては強化学習になります。需要予測などのマーケティング分野、最適化問題などと関連があり、重要な技術領域だと考えています。

山崎 ありがとうございます。今回は技術動向全般についてみてきましたが、次回は「強化学習」が需要予測や最適化問題にどのように関係するのか、強化学習を用いて何を解こうと考えているのかについてお話できればいいですね。

角谷 はい。その内容でお話ししたいと思います。


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株式会社ブレインパッドについて

2004年の創業以来、「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げ、データの可能性をまっすぐに信じてきたブレインパッドは、データ活用を核としたDX実践経験により、あらゆる社会課題や業界、企業の課題解決に貢献してきました。 そのため、「DXの核心はデータ活用」にあり、日々蓄積されるデータをうまく活用し、データドリブン経営に舵を切ることであると私達は考えています。

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