企業研修 島津製作所様
DX推進に向け、データ活用文化を社内に醸成する
デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で、避けて通れないのが「データ」の活用だ。爆発的な勢いで蓄積されるデータは、いまやヒト・モノ・カネに次ぐ第4の経営資源となった。これを適切に活用することで、人の勘や経験からは生み出せない新しいビジネスの種を創造することが可能になる。
効果的なデータ活用を進めるには、そのための素養を持つ人材が不可欠だ。データサイエンティストなどの専門家はもちろん、広範な社員が日常的にデータを使いこなし、業務上の課題解決や生産性向上へつなげる。このような体制づくりをどれだけスムーズに進められるかが、DXの成否を左右する要因の1つとなる。
日本の基幹産業である製造業界でも、このような要請は高まっている。工場での生産活動や研究・開発、営業、マーケティングなど、様々な現場で発生するデータを収集し、目的に応じて活用する。これにより、製品品質や歩留まりの向上、新規ビジネスの創出などにつなげるのである。
分析計測機器・医用機器・産業機器・航空機器など、幅広い領域で革新的な製品を開発・提供する島津製作所も、このようなテーマで取り組みを進める企業の1社だ。同社は、パートナーであるブレインパッドと共に、データ活用人材の育成に向けた取り組みを開始。網羅的かつ実践的な研修プログラムに基づき、明日の価値創造を担う人材を育てている。
取り組みは現在も継続中だが、既にデータ活用文化が社内に根付きはじめているという。次ページで、同社が成功できた理由と具体的なアプローチを紹介しよう。
「データ活用の必要性と全体プロセス」から学べる
医薬、環境、ライフサイエンスなどの分野で研究開発・品質管理に使われる各種分析計測機器や、医用画像診断機器、産業機器、油圧機器から航空/海洋関連の機器まで、多様な製品を有する総合精密機器メーカー、島津製作所。1875年の創業以来、独創的かつ先進的な製品・技術を強みに国内外の産業に貢献してきた。
同社は、2022年度までの現中期経営計画で「世界のパートナーと社会課題の解決に取り組む企業へ」をテーマに設定。多彩な自社製品を生かした社会課題解決のための仕組みづくりと社会実装を進めるほか、一層の成長につなげる新市場の創出にも注力している。
これらの目標の達成に向けて不可欠なのがDXである。全社のDX推進を担う「DX・IT戦略統括部 DX戦略ユニット」(※)を2021年4月に設置し、様々な取り組みを展開している。「新しいビジネスモデルの創出を含め、お客様への情報・サービス提供の拡充を目指す『ビジネスDX』、情報一元化による業務のスマート化を中心とした『業務DX』の2つの軸で取り組みを推進しています」と同社の五十嵐 久晴氏は説明する。
この2軸の取り組みは、どちらも顧客や業務と密接にかかわるものとなる。そのため、DXを成果につなげるには、広く全社員がデータと向き合うマインドセットとスキルを獲得し、自ら課題解決や生産性向上を目指す必要があると島津製作所の西腋 清行氏は考えた。「とはいえ、多岐にわたる内容の人材育成を、独力で取り組むことは困難でした。データやDXのプロフェッショナルである外部パートナーと組む必要があると考えたのです」。
複数の企業を比較・検討し、最終的にパートナーに選んだのがブレインパッドだ。
「機械学習や統計解析、R、Pythonなど、個々の要素技術や言語、ツールに関する研修や教材は複数の企業が提供していました。一方、ブレインパッドの提案は、そもそも『なぜデータ活用が必要なのか』や、『効果につなげるまでの全体プロセスでとらえることの重要性』をしっかり押さえていました。技術習得だけにとどまらず、マインドの部分から学べる。この点がほかにない魅力でした」(西腋氏)
このときブレインパッドが提案したのは、大手飲料メーカーで採用され、大きな成果が上がったプログラムをベースとしたものだ。「業態こそ異なりますが、『現場社員全員が、日常的にデータを活用できるようにする』という目的は同じだったため、既に実績のあるプログラムを下地にすることがベストだと考えました」とブレインパッドの奥園 朋実氏は述べる。
社員の意外なポテンシャルが可視化されたケースも
データの重要性と入門レベルの分析技術を学ぶフェーズ1、分析結果のビジネス活用など、実践の基礎を習得するフェーズ2、そしてより高度な活用方法やスキルを学ぶフェーズ3の3段階で構成。受講者の目指すべき姿も、レベル別に「初級者」「実践者」「実践リーダー」と定義し、プログラム構成に変化をつけている。
「フェーズ1ではデータ活用・分析の重要性を啓蒙する『データ活用セミナー』を実施するほか、統計学の基礎に関するeラーニング教材を提供します。フェーズ2では集計・可視化を用いて統計学的なものの見方や表現方法を習得する『データサイエンス基礎講座』、およびAIを用いた業務改善の企画立案を行う『AIビジネスプランナー養成講座』を開催。最後のフェーズ3では、SQLや統計モデリング、機械学習など、より実践的なデータサイエンス技術活用のための講座をラインアップしています」とブレインパッドの下村麻由美氏は紹介する。
講座やワークショップなどはすべて、下村氏をはじめとするブレインパッドの経験豊富な講師陣が担当。データサイエンスと、顧客企業でのビジネス活用の知見を併せ持つ講師陣が、受講者の効果的な学びを支援するという。
いずれの講座も全社員を対象に応募を募ったが、反応は上々。例えば、データ活用セミナーは定員50人で3回実施したが、各回とも満席だったという。フェーズ2の各講座も同様で、これまで延べ100人程度が受講している。研修を進める中では、ワークショップでのファシリテート力が高い人、優れたアイデアを出す人など、個々の社員の意外なポテンシャルも見えつつあるという。
受講者の評価も高い。これについて島津製作所の松浦真也氏は次のように話す。「データサイエンス基礎講座の演習では、わざと異常値を紛れ込ませたデータセットが用意されていました。多くの受講者は、その異常値に気付かずに分析を進めてしまっていました。こうした失敗を経験できる点はとても意義があると感じました。受講者が、その後の業務でデータを活用する際に、その経験が大いに役立つと思います」。
ブレインパッドと共にデータ活用の楽しさを全社に伝える
現在はフェーズ2までの“1周目”を終了。今後はフェーズ1、フェーズ2の“2周目”を実施した上で、新たにフェーズ3を実施する計画だ。
社員の間には、データと向き合うためのマインドセットが醸成されつつある。データ分析スキルの習得も着実に進んでおり、実業務での活用も徐々に活性化しているという。「フェーズ2までを受講した方の中からは、より高度なことを学びたい方が出てきます。そこでフェーズ3では、よりビジネス現場の課題に直結したデータ活用の手法を学びます。これにより、より多くのデータ活用成果を具現化できるようにしていきます」(奥園氏)。
今後も島津製作所は、ブレインパッドと共に構築したデータ活用人材育成プログラムを基に、全社に向けたデータサイエンス教育を継続していく。グループ企業からの参加も募りながら、より多くの社員をデータ活用人材へと育成していく予定だ。
「3~4年後までには、『実践者』レベルの人材を100人程度に増やしたいですね。また、実践者を育てる立場である『実践リーダー』も30人程度は確保したいと考えています」と西腋氏。目標に対する進捗はおおむね順調だという。
「我々としては、部門長クラスの方の参加も促しながら、一層多くの社員にデータサイエンスを身につけていただきたいと考えています。それに向けた取り組みも含め、ブレインパッドには引き続き支援をお願いしたい。データ活用の楽しさを全社に伝える伝道師としての役割を、大いに期待しています」(五十嵐氏)
誰もがデータを扱えるようにすることで、さらに革新的・先進的な価値の提供を具現化する――。ブレインパッドと進めるデータサイエンスへの取り組みが、島津製作所の強みを一層強固なものにしていくことだろう。
図 島津製作所が進めているデータ活用人材育成プログラム
スキルを学ぶeラーニングコンテンツ以外にも、データ活用の重要性を啓蒙するセミナーや、ワークショップ形式の講座などを組み合わせた。フェーズ1~3へ進むにつれ内容も高度化していく。
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