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2022年現在、多くの企業がDX推進に取り組むようになり、業務のデジタル化が進展している中、データガバナンスの必要性が叫ばれるようになった。しかし言葉だけが一人歩きし、多くの企業がデータガバナンスの真の意味を理解していないように見える。
そこで当社で専門的にデータガバナンスに取り組んでいる人材がモデレーターを務め、他の社内有識者と対談しながらデータガバナンスについて解き明かしていく連載を企画した。
第4回目は、ビジネス統括本部 データビジネス開発部でデータガバナンス関連の開発業務に従事する小暮純子がモデレーターを務め、同じく執行役員・神野雅彦とデータビジネス開発部シニアマネジャー・鬼頭拓郎を迎え、データガバナンスに関わる組織組成・人材育成について、その全体像を語ってもらった。
■登場者紹介
大手IT企業、外資系企業、米国駐在、日系コンサルティング会社および外資系コンサルティングファームを経て、ブレインパッドに参画。戦略策定と業務改革を中心として、国内外の業務/ITの専門家経験を活用したDX/デジタルトランスフォーメーションおよびデータ利活用に係るコンサルティングサービスを提供。特にデジタル活用実現に向けたデータドリブン組織への変革を主軸として、チェンジマネジメントおよび戦略策定を推進。現職では、金融インダストリーを中心としつつ、データドリブン組織組成と人材育成および内製化推進の責任者として従事。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)標準化委員会 委員長代行。
大学院修士課程にて数学を研究した経験を活かし、外資系のアナリティクスツール会社にてBI、BAのセールスサポート、プロフェッショナルサービスを担当。その後信用調査会社にて与信管理のコンサルティング業務を行う。ブレインパッド入社後は機械学習ツールを用いたプリセールス、トレーニング、コンサルティングを行い現在に至る。
大学院修士課程卒業後、2021年にコンサルタントとしてブレインパッドに新卒入社。入社後は、金融業界のマーケティングDX支援や、分析組織立上げおよびデータドリブン文化醸成のプロジェクトに従事。
ブレインパッド・小暮純子(以下、小暮) ここまで、データガバナンスについて、そもそもの内容、なぜ取り組むのか、その手順、データサイエンスに貢献するデータガバナンスとはーー といった様々なテーマで議論してきました。今回のテーマはデータガバナンスにおける組織組成・人材育成となりますが、なぜこのテーマなのか、神野さんから説明をお願いします。
ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) このシリーズの第1回で、データガバナンスには大きく「監督」といった守りの側面と「執行」といった攻めの側面があることを示しました。ブレインパッドが提唱する「攻守一体のデータガバナンス」です。そのあとの回でも攻守一体のデータガバナンスは、我々がデータガバナンスを考える上で主軸となるものとして、何度も登場したキーワードでした。
これは、さらに細かく6つの観点に分けることができるということも説明しました。「組織/人材」もその6つの観点の1つです。今回特に組織/人材を取り上げる理由は、データガバナンスの最終ゴールが「データによるビジネス価値の創出」であるはずなのに、多くの企業においてそれがうまくいっていない、すなわち「データドリブン経営が実現できていない」大きな原因が、本当の意味でデータを活用できる人材が育成できていないからだと考えるからなのです。
ブレインパッド・鬼頭拓郎(以下、鬼頭) 私は「分析伴走」というミッションで顧客と関わっています。分析経験の少ない顧客と一緒に分析テーマの策定から実際の分析までを行いながら、最終的には顧客主導で分析が行えるようにするという役割です。数年前までの顧客ニーズはデータ分析の基礎を学びながらツールを使いこなせるようになりたいというものでしたが、今ではビジネスで成果を出すことに変わってきました。そうなると人材に求められるスキルが、統計等が理解できて、分析モデル構築のためのツールを使いこなせるといった範囲では収まらなくなります。ビジネスや業務に関する幅広い知識や素養が求められるようになってきているのです。データドリブン経営の実現のためにはそのような人材が必要ですが、なかなか育ってきていません。
神野 データの活用・分析に注目が集まるようになったのは、1990年代後半にPCが1人1台行き渡るようになったころからだという記憶があります。SASシステムなどの分析ツールが業務ユーザーのPCから利用できるようになったからです。ただ当時はマーケティングならマーケティングといった特定領域で、数理最適化や需要予測が実施されていただけでしたが、その領域が、今では経営全体にまで広がってきた結果、そこまで広いデータの活用・分析の範囲に対応できる人材がなかなかいないということが浮き彫りになってきたと考えます。
鬼頭 分析モデルを作るだけなら、AutoMLでも可能になりました。以前はデータ分析ができるだけで大きな価値がありましたが、その部分の相対価値は下がり、次の段階である実際のデータ運用とそれに伴うビジネス価値の創出に軸足が移っています。
神野 データ活用人材に求められる能力は、大きく3つあります。
1.見つける力
2.解く力
3.使わせる力
鬼頭さんが言っているのは、今まで「解く力」、すなわち分析に大きな価値があり、これがデータ活用の肝であることは変わらないのですが、「解く力」だけをいくら強くしても成功しないということです。DXやデータドリブンになかなか成功しない会社は、「解く力」を重視し過ぎるという落とし穴に陥っているのです。データからビジネス価値を導き出すには、1つ目「見つける力」と3つ目「使わせる力」のほうがより重要なのですが、日本企業では圧倒的にこの2つの能力が不足しています。
もう1つ、組織にデータドリブンを文化として根付かせるためには、個別最適化に陥る個々の取り組みという「点」を全体最適化といった「面」に展開していく力が必要です。それにはいわゆるインフルエンサーの役割を持つ人材が必要であり、組織組成においても中心になる必要があります。CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)やCDIO(CDO+CIO(CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)、またはChief DIgital Officer))に必要不可欠な要素なのですが、日本にはまだまだ少ないのが現実です。
人材/組織という観点でデータガバナンスを考える上で、上記に挙げた2つのことを書くことして取り組むことがとても重要になります。
小暮 データガバナンスおよびそのゴールであるデータドリブン経営において人材がいかに重要かはわかりました。組織/人材の論点は何でしょうか。
神野 インフルエンサーのようなデータリーダーシップ、組織が顧客や受益者にどのように価値を提供するかというオペレーティングモデル、文化醸成、組織構造などが大きな論点になります。もちろんスキルセットとそれらを習得するための教育も重要な論点です。
小暮 デジタル化が進展している中で、TableauのようなBIツールも含めて、分析ツールを使いこなせる人が増えているのも事実です。このようなトレンドの中で、なぜ改めてデータ人材育成が求められているのでしょうか。
鬼頭 デジタル化の進展で新たなデータが大量に蓄積されています。これらを活用してビジネス価値を生まなければなりません。そのための人材が不足していることはすでに説明した通りで、育成することが必要です。
背景としては、デジタルによる自動化・効率化によって、ルーチンワークや事務処理ではなく、より付加価値の高い仕事に時間を使うことが可能になってきたということがあります。しかし、いざそうなったときに付加価値の高い仕事をするための能力が不足していることがあるわけです。そこで今注目を集めているのが「リスキリング」です。リスキリングと聞くと、人材の能力を再構築するイメージがありますが、そうではなくビジネス人材にテクノロジー教育をするなど、すでに持つ能力に継ぎ足す形でハイブリッドな人材を育成するのが本質です。ビジネスをよく知る人材がデータを活用するスキルを身につけることでデータから価値を生むことが可能になるわけです。
小暮 ここまで、データガバナンスにおける組織/人材の論点についてお話いただきましたが、日本企業におけるデジタル人材の育成においてはどのような課題があるのでしょうか。
神野 経済産業省が作成した『デジタル人材に関する論点』では、大きくマクロな課題とミクロな課題に分けて論じられています。マクロな課題とは育成・確保への取り組みが進まない構造的な組織の課題、ミクロな課題とは具体的な育成・確保の手段やツールに関する、個人の業務や現場ベースの課題という認識です。詳細は鬼頭さんに説明してもらうとして、マクロな課題の背景を少し説明します。
日本は「IT後進国」「デジタル後進国」と言われているわけですが、実際にIT人材の不足が日本経済にもたらしている悪影響は計り知れないものがあります。
ベンダー主導の「請負型IT導入」が主流だったこともあり、IT導入は投資というより経費という考え方が一般的になっています。投資であればリスクテイクは当然であり、欧米では間違いなくそのようなカルチャーが醸成されているのですが、日本では経費扱いですから失敗は原則許されません。またテクノロジーに精通した人材は「点」で存在するのですが、年功序列制度もあってか、社内に導入したテクノロジー全体を「面」としてとりまとめる人材のケイパビリティも不足しています。さらに言えば先端的で面白い仕事をしたいと考える技術者はテックベンチャーや、より評価される外資系企業に高給でヘッドハンティングされています。
このような背景から、日本企業には企業としてのデータ戦略が欠落しており、あっても具体性のない絵に描いた餅になってしまっています。この事態を打開することに我々は貢献したいと考えているのですが、全人口に対するデジタル人材の割合が極めて小さいのでなかなか進まないのが現実です。
以上がマクロな課題の本質的な部分であり、ここから様々な課題が発生しているのです。
小暮 「様々な課題」を具体的に挙げてください。
鬼頭 大きく6つあります。1つ目は、分析を行う組織の箱は作ったものの、事業価値や成果に結びつかないということ。これは先ほどからずっと言い続けていることです。
2つ目は、データを活用したいが、データがどこにあるかわからなかったり、その意味や内容がわからなかったりすること。
3つ目は、データを本当に活用するためには、ビジネス/業務知識も含めた幅広い知識が必要なのに、SQLが書けるなどのデータベース利用知識があればよいといった誤解があること。
4つ目は、データ基盤を構築すれば、データ利活用ができるという短絡的な考えがあること。実際には目的ありきでデータ基盤を構築しなければなりませんが、本末転倒してしまっているのです。
5つ目は、現場や経営層がデータ分析に過度な期待をし、事実(FACT)を受け取れなくなっていること。コストを掛けてデータ分析したからには必ず意味のある結果がもたらせると思っているのですが、実際には無価値な分析もあり、それは素直に受け止めて、次に繋げるべきなのです。
そして6つ目は、旧来の組織のまま、例えばIT部門にデジタル部門の役割を期待し、結果としてデータから恩恵を得らるような取り組みがうまれないことです。
データによる意思決定はデータサイエンティストだけではなく組織全体で行う必要があり、企業全体のリテラシーの問題もあると考えられます。
神野 「データはかく語りき」なので、間違った分析を行わない限りは、事実が導き出されます。その結果を素直に受け入れられるか、また、本質的に経営層の理解が得られるかが重要です。
小暮 ミクロな課題についても詳細を挙げてもらえますか。
鬼頭 ミクロな課題は、人材育成の手段やツールに関する問題とされていますが、その根底にはやはり手段やツールに対する過剰な期待が存在しています。ここでも大きく6つの課題を挙げることができます。
1つ目は、デジタルの導入はできていて、利用も進んでいるが、蓄積されたデータを使いこなせていないということ。
2つ目は、業務のデジタル化に取り組んでいるものの、業務効率効果がそれぞれのシステムに閉じた「点」になっており、全体最適化といった「面」での効率化に繋がっていないこと。
3つ目は、ツール導入がゴールになっていて、最終ゴールであるはずのビジネス全体のデジタル化に思いが至っていないこと。
4つ目は、データ分析が、単なるレポート提出に終始してしまっていること。
5つ目は、分析結果に過度な期待をしてしまって失望することが多く、モチベーションの低下に繋がっていること。本当の意味で成果が出る前に諦めてしまう会社が多いということです。
6つ目は、データ分析によって可視化はできても、それが事業貢献に繋がらないこと。分析報告会で経営者に分析レポートを見せたら、「これはすごいグラフができたね!でも事業には使えないなあ」と言われてしまうケースがとても多いのです。
データ利活用とはデータを活用することの恩恵を最大にし、価値を享受することなのですが、ツールの使いこなしをデータ利活用と誤解すると上記の6つの課題のどれか、あるいは複数が発生することになります。データ利活用そのものを誤解しているわけですから、結果として人材育成の手段やツールも間違えてしまうわけです。
神野 ここまでをまとめると、デジタル化でデータ蓄積は進んでいるが、それからビジネス価値を導き出すために何をしたらいいかわからないという企業がほとんどで、できるようになるためにはデータから価値を導き出せる人材を育てるしかないということです。またそのような人材がいたとしても、従来通り経験と勘で意思決定する組織のままであれば、宝の持ち腐れとなってしまいます。現場にとってもデータと数字に基づいて業務目標が定められ、指示もされるのであれば納得感がありますが、経験と勘に基づく指示ではモチベーションが下がります。だからこそデータに基づく経営、すなわちデータドリブン経営が求められており、その実現には人材と組織が重要な成功要因となるということです。
小暮 なかなかデータドリブンが実現しない会社はまず何を変えていく必要があるのでしょうか。
鬼頭 経営者の理解が重要と考えます。私は現場側で「分析伴走」をしているので、少し立場が現場寄りかもしれませんが、現場がすごく頑張っているのに、経営者が過度な期待をした結果、成果が出る前に諦めてしまうケースを目にすることもあるのです。伴走が必要なぐらいですから、まだよちよち歩きなわけで、そこで諦めてしまうのは本当にもったいないと思います。
神野 経営層、ミドル層そして現場担当者が全て自分ごととして進めていくことが肝心です。現場だけでは先ほど述べた解く力が伸びるだけで、データによる価値創出に結びつきません。全ての層が課題を見つける力を備え、トップダウンで使わせる力を発揮しなければなりません。
鬼頭 その通りですね。それら3つを結びつけていくことも我々ブレインパッドの重要な役割だと改めて認識した次第です。
小暮 データ分析を推進できる人材と組織がなぜ必要か、またその実現のための課題を詳しく理解できました。次回は、ブレインパッドが組織組成と人材育成支援にどのように向き合っているかをお伺いしたいと思います。
※中編に続く。
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