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リスキリングの意義などをより深く知りたい方はこちらもご覧ください。
なぜ今「リスキリング」が必要なのか?DX時代に生き残るための、人材育成の考え方と3つのステップ
ブレインパッド・小暮純子(以下、小暮) 前回は、データドリブン組織を作るためには、データガバナンスの6つの観点(戦略、統制/管理、技術、プロセス、品質、組織/人材)を同時並行で検討し、その全体像の中で組織/人材について考える必要があること、また日本企業のデータ活用人材育成においてはマクロな課題とミクロな課題があり、それぞれ解決していかないといけないという話を伺いました。
今回は人材育成のやり方と、人材が育ってきたら何をすればいいのかについて伺いたいと思います。
まずブレインパッドでは「伴走支援」という、課題設定から分析後の運用まで一通りのステップを顧客企業と一緒に行う、ハンズオンのサービスを提供しています。この目的は何なのでしょうか。
ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) 分析の手法については座学でも伝えられますが、実際に使えるようになるためには、実地で経験を積むしかありません。泳ぎ方の説明を受けても、実際にプールで泳がないと身につかないのと同じです。いきなりプールに放り込んでも普通は泳げないので、最初は手取り足取り教える必要があります。
分析の場合ですと、気になることはいつでも聞くことができ、相談できる環境や、見本を見せることも必要です。さらに、最終的には自走してもらうのが目標ですから、これで大丈夫と見極めることも必要です。以上の役割を果たすことができるデータサイエンティストを側に提供することが、私たちの言う「伴走支援」なのです。
小暮 なるほど。ですが、e-Learningも普及していますし、ブレインパッドの提供している外部研修もかなりコンテンツが充実してきました。必ずしも何カ月も常駐して支援する必要はないのではと思うのですが。
神野 前回、データ分析には「見つける力」・「解く力」・「使わせる力」の3つが必要と説明しました。この中で解く力については、座学やe-Learningでかなりの部分補えるのは確かです。それでも数学の公式だけ教えてもいきなり応用問題を解ける人は少ないので、最初は一緒に現実のデータで課題を解くことも必要かと思います。
実際、研修と少しの手ほどきで解く力を身につける人は多数います。ただその人たちが、「分厚い分析報告書を出してくるのだが、どうも事業課題と結びついていない」と嘆く経営者が多いです。「育て方を間違えたのだろうか?」「分析はできるようになったが次は何を教えたらいいのだろう?」といった相談が非常に増えています。
ブレインパッド・鬼頭拓郎(以下、鬼頭) 「解く力」以外の見つける力と使わせる力を身につけてもらうためには伴走が必要ということです。
まず「見つける力」で言うと、「事業課題を見つけなさい」と口で言うのはたやすいわけですが、ビジネスを理解すること自体、スキルが必要なわけで、それをいきなりできる人はなかなかいません。勘所が必要で、それを教えないといけないわけですが、こればかりは会社ごとに違うので研修で教えるのは不可能です。
また、私たちも顧客企業のビジネス部門の人たちにヒアリングしたり、実際のデータを見せてもらったりしないとはっきりしたことはわからないのです。ならば、顧客のデータサイエンティストにも同行してもらって一緒に調べればいい。
そうすることで、私たちもビジネスを理解できますし、顧客のデータサイエンティストに理解の方法を伝えることもできます。
そして、ビジネス課題の中には必ずしもデータでは解決できないものも多いのです。20個の課題があれば、そのうちデータで解決できるものはせいぜい10個ぐらいといったところでしょう。どういう課題がデータで解決できるかも研修で100%伝えるのは難しい。実際の課題に基づいて、どうやって判断するかを示すほうがわかりやすく伝えることができます。
「使わせる力」は、さらに研修では伝えにくいものです。データで解決できそうな課題を見つけたとしても、それを解くにはコストも時間もかかるので、まず上長や経営者の理解と承認を得る必要があります。これも「使わせる力」に含まれます。要するに合意形成のためのコミュニケーション力が必要ということですが、これも研修だけで伝えるのは困難です。
分析結果が出たあとも、ビジネスにインパクトがあることを説明して、経営者が納得しなければ運用に入れません。同様にコミュニケーション力が必要で、同じくネゴの場面を見せながら教えていく必要があります。
なお、解く力についても、伴走が肝要です。それはできるだけ最新のテクノロジーを使った、より高度な分析ができるほうが良いからです。データ分析、特に機械学習は日進月歩の領域なので、最新手法を常に吸収しているデータサイエンティストがそばにいる必要があるのです。
小暮 実際にはどのぐらいの人数で伴走するのですか。
鬼頭 プレインパッドメンバー1人がサポートとして、2人のデータサイエンティストをフォローする体制がメジャーです。この組み合わせも、お客さまの状況に応じて、変動させて対応しています。
小暮 分析をビジネス価値に繋げるためには「3つの力」が必要ということをお話しいただきました。その3つの力についてもう少し詳しく説明してください。
鬼頭 それぞれ一言で言うと、「見つける力」とはビジネス課題を発見する力、「解く力」は課題を分析で解決する力、「使わせる力」とは分析結果による提言を事業部で実際に使ってもらうようにする力です。それぞれに求められるスキルや知識を図にまとめました。
分析と聞くと「解く力」にフォーカスしてしまう企業が多いのですが、それだけではビジネスの成果に結びつかないのは、前回も述べた通りです。分析することでビジネスインパクトのある課題を見つけることが先で、それにはビジネス知識も必要ですし、現場の人から課題を引き出す力も必要です。またせっかく有効な分析ができても、それで終わりでは価値を創出することはできません。分析結果をどうやって事業部やその先の顧客に届けるかを考え、それを実現する力が求められるわけです。
小暮 図に、「ビジネスアナリスト」と「ピュアデータサイエンティスト」とありますが、これは何でしょう。
神野 3つの力のすべてに関して、基礎的なスキルを身につける必要はありますが、すべてを最大限に持つのは極めてハードルが高いことであり、私もそのような人材は数名しか知りません。ある程度以上の解く力を持っていることは前提になりますが、それ以降は、さらに解く力を極めたピュアデータサイエンティストと、解く力はピュアデータサイエンティストほどに至らなくとも、見つける力と使わせる力については一流で長けているビジネスアナリストにキャリアパスを別けるのが現実的です。
ビジネスアナリストは、一人前のデータサイエンティストにコンサルタント的な能力を付与した人材と考えてもらってもいいでしょう。
ビジネスアナリストの中には、よりビジネスに親しくなる人も多く、この2つの職種の間でコミュニケーションを媒介するコーディネーター的な職種を置く会社もあります。
小暮 キャリアパスについては、会社側が必要とする体制・人数で割り振るものなのでしょうか。
神野 プロフェッショナルな専門職なので、本人の意向が優先されます。上長や人事担当者と面談を重ねて、それぞれのスキルセットやコンピテンシーなどを確認しつつ、最終的には本人の意向で決まるのが普通です。
小暮 キャリアパスが違うということは評価体系も違うということですね。
神野 もちろんです。ただ今まで社内に存在しなかった職種なので、評価体系から作る必要がある会社が大半です。我々は評価体系作りの支援もしています。
小暮 評価体系はどうやって作るのでしょうか。
鬼頭 データサイエンティスト協会のスキルチェックシートを活用します。ただ、これは一般的なデータサイエンティストのスキルを網羅したもので、300もの項目があります。業種や業態、ビジネスモデルなどによって必要とされる項目が変わってきますので、顧客企業ごとにカスタマイズすることになります。スキルを獲得・発揮できる環境ではないのに、それが評価項目に含まれてしまうと評価される側の納得感に繋がらないからです。
それぞれの企業にカスタマイズされたスキルチェックシートに基づき、自己評価と他者(上長や人事部)評価の両方をすることで、自己のスキルレベルを再認識してもらいます。自己評価と他者評価にはギャップがあるのが普通で、そのギャップの中に次なる成長の促進要素があるということです。
小暮 カスタマイズされたものとはいえ、データサイエンティスト協会のスキルチェックシートだけで、データを利活用してビジネスに恩恵をもたらす人材かどうかを評価できるのでしょうか。
鬼頭 スキルチェックシートは定量評価と360度評価ができるという優れた面があります。しかし一方で必要最低限の項目を集めたものであり、それだけではおっしゃる通りデータ活用人材かどうか評価できません。そこで面談による定性評価も加味して、総合的な評価をすることが肝要になってきます。
週単位で、どんな課題を見つけ分析してどのような結果を得たか、様々な困難をどのように乗り越えたか等をヒアリングして、個々のデータサイエンティストの活動を可視化します。ただ定性評価は難しく、評価方法自体もダイナミックに変更していかないといけない場合もあります。そこでデータサイエンティストの定性評価の経験が豊富な私たちが、ここでも伴走することになります。
神野 よく、なんとなく育成する、なんとなく育てる。結果、育成に失敗するといった話を聞きませんか?これこそ、まさに育成失敗のジレンマに陥っている状況なのです。小学生のころを思い出してみてください。1年生、2年生と学年を上がっていくたびに、習得するものが増えていきますよね?これって、裏では各学年ごとの到達する学力および学習内容が定義されている、つまり状態が定義されているのです。これを状態定義と呼びます。これにより、具体的な成長のゴールが明確となり、マイルストーンごとの成長到達点を明示することができます。前述の状況は、それができていないため陥ってしまうのです。
小暮 なるほど、ただ教えるのではなく、マイルストーンを決めて、到達点に向かって育て上げるということが重要なんですね。
神野 そのとおりです。ただ教えるって形の伴走は、いつまでも独り立ちできない状況を作ってしまいます。お客さまの成長計画に合わせて、マイルストーンを設定し、状態定義をすることで、データサイエンティストとしての階段をしっかり登っていくことができるようになります。これはスキル定義とキャリアパスに関連して、具体的な階段の登り方として、定義することが肝要です。
小暮 ある程度人材が育ってきたら、次は何が必要でしょうか。
神野 育ってきた人材を集団として組織化することが必要です。そのための即効性のある施策は、スターを作って、彼らをインフルエンサーにすることです。分析によってビジネス価値を生むことに貢献した人材をスターとし、トップへの報告会をしてもらいます。それによってデータサイエンスの成功体験をまず経営層やマネージャー層と共有します。また他のデータサイエンティストやデータサイエンティスト志望者たちに彼らのようになりたいという仕掛けをしていくことも重要です。それには表彰やインセンティブも必要でしょうが、それ以上に彼ら自身に成功体験を発信してもらい、その輝いている姿を見せることが大切と言えます。
スターたちがインフルエンサーになることで、社内にデータサイエンスの価値に対する理解が生まれ、組織化がスムーズに進むことになります。
なお新しい組織ができるということは、業務プロセスも新しくなるということであり、それに伴う変革が起きることも忘れてはいけません。
小暮 スターを生み出すためのコツはあるのでしょうか。
鬼頭 分析のテーマの選び方が重要です。事業に直接的に大きなインパクト、つまりわかりやすい成果を出せるテーマを選び、それで実際に成果を出せれば、出した人は間違いなくスターになれます。とはいえ、そのようなテーマを選ぶのも最初は難しいので、テーマ選びの支援も私たちがすることになります。それによってテーマの選び方も学んでもらえるし、なぜこのテーマを選んだかを通して、事業の本質を理解してもらうこともできます。その意味では、私たちはインフルエンサー育成の支援もしていると言っていいでしょう。
神野 人材が育ってきたら次にすることは何かという質問に改めて答えると、彼らが生み出す価値に見合った評価体系や給与体系を整備することがまず必要です。そうしなければせっかく育てた人材が流出することにもなりかねません。次に、育った人材集団を組織化することが必要で、それはスターをインフルエンサーにすることで迅速に進めることができます。
組織化ができれば、次はデータドリブン組織としての風土と文化を醸成していく段階に入りますが、それについては次回にお話ししたいと思います。
※後編に続く。
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