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本シリーズではこれまでデータガバナンスの概念、データガバナンスを実現するための方法、さらに現在の日本におけるデータ活用の問題点等について議論してきました。今回は、当社執行役員 内製化サービス推進 神野雅彦と、2022年12月にブレインパッドにジョインしたビジネス統括本部 データビジネス開発部 シニアマネジャー 小坂真司とで、金融業界のデータガバナンスに関するブレインパッドの抱負について語りました。
■登場者紹介
大手IT企業、外資系企業、海外駐在、日系コンサルティング会社および外資系コンサルティングファームを経て、ブレインパッドに参画。戦略コンサルタントとしての経験を活かし、顧客企業のデータドリブン企業への変革、DX推進体制の強化、データ組織・人材開発の伴走支援、金融領域の活性化、デジタル基盤を含むトランスフォーメーションを実現するためのビジネス開発、プランニング等を担う。2022年10月より現職。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)標準化委員会 委員長代行。
大手独立系SI企業、大手監査法人等を経てブレインパッドに参画。主に金融機関向けのシステム構築やITリスクコンサルタントを経験。これまでの経験を活かし、データガバナンスや金融機関向けのサービス開発を担当予定。
ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) 前回までは一般的なデータ活用やデータドリブン、データガバナンスの話をしてきました。ここで話を金融業界に絞っていきたいと思います。
金融業界は、良い意味で堅実で堅牢ですよね。ただ金融庁が出している公開情報や白書を見ていると、金融業界が時代の要請に十分応えられているのかどうかが課題として認識されています。持続可能なビジネスモデルが構築されているか、お客様本位の取り組みができているか、デジタルやデータが活用できているのか――そういったことが重要視されてきています。
特にデジタルやデータの活用については、他のインダストリーと比較して遅れていますよね。ライフサイエンス業界はもちろん、小売業や製造業と比較しても、いささか遅れをとっています。
先日FDUA(一般社団法人金融データ活用推進協会)の佐藤市雄理事と話をしました。その際出てきたのが、金融業界は「価値創出の源泉の変化に気づくのがちょっと遅かった」という話でした。銀行でいえば、金利で稼げなくなっているのに危機感が薄く、攻めに転じることができなかったということです。その分相変わらず守りに注力しているわけですが、ガバナンスやルールを守りすぎる良し悪しってありますよね。そのあたりをどう考えますか。
ブレインパッド・小坂真司(以下、小坂) 金融機関は社会インフラという側面もあるので、「守りのガバナンス」をしっかりするのはもちろん必要です。ただあまりにも当局のほうばかり見て、顧客本位になっていないように見えます。現状まだ手数料ビジネスで生計を立てられていることもあり、少なくとも大手金融機関が今すぐ破綻するようなことはないので、新たに何かをやらないといけないという気持ちになりにくいのかもしれません。あるいは何かやらないといけないと思う人がいても、今のビジネスで稼げていることもあり、新しいことへの取り組みの優先順位が高くならず時間がかかっているのではないでしょうか。規制は強いけれど、その分守られているという感覚も抜けきっていない気がしています。
ルールを守ることは当然ですが、これからはそのルールの範囲で何ができるかを考えられる金融機関が生き残っていくと思います。杓子定規にルールを守っていれば金融庁にはOKと言われるかもしれません。しかし顧客からそっぽを向かれる可能性があります。特に中小の金融機関はルールを守るだけでは生き残れないのではないでしょうか。そこに対して私たちが、データを使ってこういうビジネスができる、企業価値を上げることができる、といった提言と支援ができれば、金融業界全体に関する支援につながっていくのではないかと思います。
神野 同じビジネスをしているのに、アナログな会社とデジタルな会社の差がとても大きいのも金融業界の特徴だと思います。あるお客様から、「営業の活動実績とそれに伴うTIPSやナレッジをデータ化して、営業活動のリコメンドをしたい」という相談をされました。「それはいいですね。で、どんなデータがあるんですか」と聞いたら、「まず紙です。あとは営業担当の頭の中です」と言われてしまったのです。せめて何かしらデータになっていればよいのですが、基本アナログのデジタル化からとなると、想定以上の対応が必要となります。DXブームとはいえ、、そういう会社がまだまだ多い業界だと改めて感じました。これではDXの進展が極めて遅いのも無理はありません。
小坂 実際遅いですね。
神野 データガバナンスやデータ活用について金融機関に話す際、デジタルやデータ活用に係る現状との乖離が大きいので、「人材育成をしましょう」「組織を作りましょう」と提案してもいきなりは受け入れてもらえません。今まで経験したことがないことだから、新しい取り組みに一歩踏み出すには、大きな意思決定をする勇気が必要となります。データ活用という概念が理解されても、具体的な行動を取ることの難しさをひしひしと感じます。
小坂 以前金融庁の方と話をしたときに、「コンサルタントなんだから、金融機関の実態や本音をよくご存知でしょう。ぜひ教えてほしい。なかなか本音を聞き出すことができないんだよね。」と言われました。金融機関の人たちが金融庁の人の前でいかに身構えているかが伝わってきますよね。
神野 金融庁といえば、検査か注意しかしてこないと思ってしまいがちですよね。
小坂 金融庁としては、「こっちを見なくていい。顧客を見てほしい」と言ってはいるのですが、やはり検査はありますし、検査結果やインシデントの発生によっては、行政処分を受けることもあるので、どうしても顔色をうかがってしまうんですよね。そうなるとどうしても業界が横並びになります。神野さんも経験があると思いますが、金融機関に行くと真っ先に聞かれるのが、「同業他社はどうしているの?」ということです。ただ横並びのいいところもあって、どこかが進み始めると一斉に進み出します。しかし現状はなかなかそうならないですね
神野 一方で「横の人の仕事がわからない」という風土もあります。マルチタスクができるジェネラリストが育つ文化ではない。どこから変えていけばいいのか、なかなか悩ましい。アジャイルに取り組んでいるチームもありますが、それは社内ではちょっと異色なチームと捉えられたりもします。点での成功体験が面で広がらないと、金融機関の全社的な業務最適化はなかなか進みません。
小坂 その通りだと思います。
神野 データガバナンスについても「守りのガバナンス」を重視しがちです。「データはお客様から預かっているもの。だから守らなければならいないし、さわってもいけない」という感覚です。データをビジネスに活用するという発想がそもそもないのです。これが非常にもったいない。
小坂 個人情報や機微情報などは堅牢に守る必要はありますが、それ以外はそこまででもない。個人情報についてもマスキングして匿名化してしまえば利用できるのですが、そういった考えになかなか至りません。
神野 しっかり守るところは守るべきだし、とはいえ攻めにいくべきときは攻めにいかないといけないし……。
小坂 守らないと怒られるので、どうしても守り重視になってしまうんですね。金融庁が悪いとは言いませんが、過去のいろいろな体験がトラウマのようになっていると思います。。
神野 そのあたりを変えたくて十数年金融機関と関わってきましたが、単発の取り組みばかりで継続的かつ全体的な取り組みは極僅かです。
小坂 おっしゃる通り、単発なものばかりです。継続する取り組みがほとんどありません。
神野 単発の案件でも成長に寄与はしているのですが、他の業界に比べると10分の1ぐらいの効果しかありません。結果として遅れがどんどん広がっていく……。
小坂 本当にそうです。ライフサイエンス業界などは、以前からコンサルタントが密接に入り込んで一緒にデータ活用に取り組んでいますが、金融業界はなかなかそうはなってはいません。
神野 そんな中、FDUA(一般社団法人金融データ活用推進協会)が誕生しました。いま私たちが挙げた課題の解決を図っていこうとする組織です。昔から金融業界の課題を解決しようという同様のコンソーシアムや協会はあったんですよね。
小坂 はい。そうですね。
神野 しかし生まれては消え、また生まれては消えの繰り返しでした。しかしFDUAは本気度が違うという感触があります。今までと何が違うかといえば、対象がデータサイエンティスト、つまり現場なんですよ。DMO(Data Management Office)やデータサイエンティスト・チームを対象に、会社の壁を越え、管理監督省庁やベンダーも巻き込んでシナジーを追求していこうとしています。ブレインパッドもこの夏に加盟しまして、私はその中の標準化委員会委員長代行に就任しました。
FDUAに関しては、ブレインパッドが本気でコミットして、いろいろな情報をキャッチさせてもらいながら、データの専門家として、できる限りの貢献をしていくべきであると考えています。なぜなら漫然としたデータ活用やデータガバナンスではなく、データ活用の作法やデータフォーマット、プラットフォーム、組織・人材評価、ガバナンス整備など、我々が元々提唱していたデータガバナンスの標準化を金融業界で実現できるかもしれないからです。
この「ビッグ・ウェイブ」に乗らない手はない。そのためには大きな貢献をすることがどうしても必要です。そんなタイミングで小坂さんがジョインされたからには活躍していただくしかありません。
小坂 ぜひ手伝わせてください。金融庁もデジタル庁も関わっているということで、金融業界の横並びの文化が良い意味で作用して、一斉に動き始めると思います。そこでブレインパッドが標準化のとりまとめをしているのであれば、多くの金融機関からのご相談が来るはずです。まさに金融機関のデータ活用を盛り上げる一角を担えることになります。
神野 現在加入している会社が急増していて、金融の事業会社はもちろん、我々のようなパートナー企業も増えています。その中でも地方の金融機関の増え方は、注目に値します。
小坂 地方の金融機関は物理的な距離があることや人の数が足りない場合が多いので、情報を収集するにはFDUAのような協会に所属しないと情報を入手するのが容易でないのかと思います。実際、私たちのようなコンサルタントが地銀に訪問すると、情報を持ってきてくれてありがたいと歓迎されるのです。何かをやらないといけないという意識はあるのですが、情報も人も足りない。そこにFDUAのような協会があればコンサルタントに会えるし、情報も得られる。そのため参加する企業が増えているのだと思います。
神野 FDUAに参画していると、金融機関の「困りごと」がよくわかります。我々が仕事で企業に訪問したときよりも、ずっと生々しい課題を話されています。この課題を解決することが重要であり、、本質的な目的は、金融業界にデータサイエンスやデータドリブンをどうやって広げていくかだと考えています。FDUAをひとつの土俵と捉えて、我々は専門家としての知見を外に提供していくことに注力したい。
FDUAや我々が、金融機関の取り組みに大きく影響を与えることができればと思っています。
小坂 これで金融業界でのデータ活用の取り組みが広がっていけばいいなと思います。
神野 究極的には、データ活用で社会に大きく貢献したいと考えています。ここまで金融に絞って話をしてきましたが、我々としては単純にデータ分析のお手伝いをすることが本質ではないですよね。以前から発信しているのですが、日本をデータドリブン化して、日本経済の活性化を目指したいと考えています。小坂さんがブレインパッドで何をしていきたいのか、中長期的な視点で語ってもらえますか。
小坂 金融業界全体が盛り上がってほしいのはもちろんですが、私自身はずっとカード業界を対象とした仕事をしてきたので、クレジットカード会社にまず貢献したいですね。銀行もそうですが、カード会社もデータを大量に持っています。しかし大手企業でも使いこなせていません。データをどう扱っていいのかわからなくてデータ活用が進んでいないのは、他の金融機関と同じです。
カード業界では長い間、不正利用対策が大きな課題になっています。キャッシュレスが進む中、カードの利用頻度が増えていることもあるのですが、とにかく不正利用が減少せずに、毎年被害金額が増えているのです。ゼロにはできないかもしれませんが、データの力で減少させることはできるはずです。個社だけでは難しいかもしれませんが、業界全体としての取り組みの検討を進めていくべきかと思っています。もちろん他社に出せない情報もありますが、業界全体で連携して撲滅に努めれば、不正利用の減少につながるのではないかと思っています。
カード業界がひとつになってソリューションを開発できればものすごい「革命」であり、とても大きなやりがいを感じます。
神野 不正検知については、サイバー攻撃と同じで、追求し始めるとキリがないのですが、データサイエンスを活用することで貢献できる領域を広げて、新しく不正検知に係る画期的なソリューションを提供していきたいと考えています。
実現できれば、企業や利用者の方々に対して、安心と安全を提供することができて、まさしく社会貢献にもつなげることができると考えています。そうすると、市場の広がりを期待することができます。セキュリティを高めながら利便性を高めないといけないし、海外からの利用も視野に入れないといけない。難しいですが、ぜひ小坂さんが中心となって取り組んでいってくれればと思います。
小坂 はい。
神野 ところで、データに係るイノベーションって言葉が見当たらないと思っています。そういえば、「データドリブン・イノベーション」という言葉が数年前に誕生したけど、聞かなくなりましたよね。
小坂 本当ですね。どこにいってしまったんでしょう?
神野 DXに取って変わられたのかもしれません。我々がやっていきたいことは、単純にサービスを提供することではなく、イノベーションを起こすことですよね。ちょっと余談になってしまいましたが、本当にどこに消えたんだろう。まあ言葉がなくなっても、目指すところではあります。
なぜそんな話をしたかというと、我々ブレインパッドは、データに関わる上流から下流までを一貫してサポートできる、リーディングカンパニーなのです。ですから、先ほどの不正検知についても形にしていきたいですし、その他にも革新的な取り組みをしていきたい。
小坂 今までは分析をメインにやってきたので、そこから「脱却」を図らないといけない。ただそれはおそらくイメージの問題で、実際には脱却しているのでしょう。上流も下流もやれるのであれば、そこをしっかりアピールして競合他社もクライアントもリードしていかないといけないということですよね。
分析に関してはこれまでの実績から評価されているので、ビジョンや戦略策定から寄り添えて、さらに次の段階として内製化も支援できる――そういう一気通貫の会社であることを周知していきたいですね。
神野 実は内製化支援を“BrainPad DAY”と命名して、アピールし始めたところなのです。“DAY(ディー・エー・ワイ)”は“DIY(ディー・アイ・ワイ)”を文字って、“Do It Yourself”ではなく“Let’s Do Analyses Yourself”の略です。 「お客様自らデータ分析・データ活用に取り組んでいきましょう!」って趣旨なのです。これに精力的に取り組んでいこうとしているのですが、実はブレインパッドにとっては新しい取り組みではないんですよ。全部これまでにやってきたことを体系化した、Suiteに仕上げたのです。しかし外部からはそう見えないらしく、「えっ! そんなことを始めたの?」と言われます。
小坂 そういうことなんですね。
神野 必要な要素は持っていますし、足りないところもあるので、全部ブレインパッドで完結することにこだわってはいません。足りないところはビジネスパートナーと積極的に組んで実現していくことが重要です。実はこの対談記事と前後して、Google Cloud様と内製化というキーワードでアライアンスすることが公表されます。
小坂 一社で完結しようとしても限界はありますので、ビジネスパートナーと組んで進めることは必要不可欠だと思います。それで当社の売上が減るような話でもなく、逆に増えていくのではないかと考えます。自分たちでできることはやればいいと思いますが、無理に全部やる必要はありません。それにこだわるよりも、ブレインパッドは一気通貫で支援出来ることを知ってもらうことが重要だと考えます。
神野 “BrainPad DAY”で「上流から下流まで遂行できるブレインパッド」を改めてアピールしていくので、小坂さんにはリーダー的な役割を担ってもらうことを期待しています。FDUAでも外部パートナーでも、もちろんこちらからの貢献が必須ですが、活用できるものはすべて活用して、金融業界全体のデータ活用推進に貢献していきましょう。
小坂 本当に形にしていきたいですね。強いやりがいを感じます。改めてよろしくお願いします。
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