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なぜ今「リスキリング」が必要なのか?DX時代に生き残るための、人材育成の考え方と3つのステップ
ブレインパッド・小暮純子(以下、小暮) 今回はデータドリブン組織としての風土や文化を醸成していくということについて伺いたいと思います。
前回は、データ活用人材の集団を組織化するというところで終わったのですが、どういう組織を作るのがいいのでしょうか。たとえば分析組織を各事業部で持つべきなのか、それとも全社横断的な組織にするべきなのでしょうか。
ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) それは企業の文化やコアコンピタンス、ビジネスモデルによって違ってきますので、一概にどちらがいいかは決められません。ただ組織生成のパターンは、大きく4つに分類することができます。どれを採用するかは、事業目標や事業戦略に基づいて考えることになります。
1つめは課題解決型と呼ばれるもので、各事業部の配下に分析組織を配置します。ITサービスやメディアサービス業などに多く見られます。
2つ目はプロジェクト遂行型で、CoE(Center of Excellence)、つまり優秀な人材を1箇所に集約するモデルを採用したものです。CoEに集まった人材の中から各部門のデータ分析プロジェクトを支援するチームを組成する形になります。大手ITベンダーや外資系コンサルティングファームなどに見られるパターンです。
3つ目は全社提案型で、独立した分析組織を作り、その組織が直接的あるいは間接的に他部門を支援します。メディアサービス業、ITサービス業のほか、飲食業や流通業、物流業などで多く採用されるパターンです。
4つ目はイノベーション創出型で、機能部門の配下にある分析チームが事業部門のプロジェクトを間接的に支援するパターンです。公共サービス、金融業などで採用されることが多いパターンです。
データ分析が初期段階の企業では圧倒的に問題解決型が多く、あとはイノベーション創出型が少し見られる程度です。問題解決型とイノベーション創出型は単独部門の課題を解決するパターンで、プロジェクト遂行型と全社提案型は複数部門の課題を横串で解決するパターンです。つまり横串の組織を作るほうが難しいのです。
したがって初期段階の企業であれば、まずは少人数の専門部隊を作ることから始めることです。部署でなくタスクフォースでも構いません。各事業部から他薦・自薦問わず集めることです。自薦でも構わないのは、新しい取り組みにはやる気が重要だからです。
このメンバーをいずれはCoE化していき、単独部門のプロジェクトにも複数部門のコラボレーションプロジェクトにも、コアメンバーやアドバイザーとして配置していくのがよいと考えます。
CoEから人を出すメリットは、分析のビジネス的効果があったときに、誰の功績かがわかりやすいからです。これはあとで話をする文化醸成を加速するのに役立ちます。デメリットはCoEのメンバーが必ずしも事業をよく知っているわけではないことです。したがって現実のプロジェクトでは、様々な部門から人を集めて、このデメリットを補完することが肝要です。
小暮 データ分析組織の組成において、考慮すべき重要な観点は何でしょうか。
神野 ここで重要になってくるのがデータガバナンスです。データの品質を高く保ちながら、ビジネス価値を生むデータの利活用を進めるのがデータガバナンスの目的で、組織組成もこの目的に沿って考えなければなりません。データガバナンスには攻めと守りがあり、またガバナンスを支える仕組みが必要です。
「攻め」はデータを所管し、利活用することで価値を生むことを求められるビジネス部門の役割です。「守り」はデータを統括し、利活用のためのルール作りとその遵守を求める、DMO(データマネジメントオフィス)と呼ばれるマネジメント部門の役割です。「インフラ」はデータベースやシステムを開発・運用するデジタル部門(IT部門)の役割です。
攻めと守りとインフラが三位一体となり目的達成を目指すと同時に、三権分立的に影響し合って、それぞれの役割を間違いなく果たせるような体制になっていなければなりません。
その際に重要なことは、誰が(データでビジネス価値を生むという意味での)データ利活用の責任者かということです。最終責任者はCDOやCDIOと呼ばれる役員であることは言うまでもありませんが、遂行責任者はデータスチュワードと呼ばれる職種の人たちになります。
データスチュワードとは、社内外の関係者から預かったデータ資産を責任を持って管理・運用する人または部署のことです。各データが本来どうあるべきか決めることを求められるので、ビジネスとシステムの両方の知見を持っている必要があります。彼らはDMOに所属するのが普通です。
小暮 具体的にはどのような職務を遂行するのでしょうか。
神野 大きく4つあります。1つ目は、データモデル仕様に関わる検討と改善。2つ目は、データ品質要件およびビジネスルールの定義と維持。3つ目は、データ資産の監視、すなわちデータの品質や利用方法に関して問題がないか確認し、あれば対応するということです。もう1つは、問題発生時の問題の詳細および対応内容のCxOへの報告です。
職務内容からデータガバナンスの中核を担う人材であることがわかると思います。データサイエンティスト同様、育成が必要ですし、評価体系の整備が急がれます。
日本の現状を見ていますと、情報システム部門出身者を中心にDMOを組織している会社が多いようです。しかしそれではビジネス部門とイーブンな会話ができないので、どうしても守りが中心となり、ビジネス成果に繋がらないケースが多くなってしまいます。その結果、我々ブレインパッドへの相談が増えているということで、我々にとってはありがたいですが、日本全体のことを考えるとあまり好ましい現象とは言えません。
小暮 組織ができました。ビジネス部門とDMOとデジタル部門が三位一体でデータ利活用を推進しています――という状態になっている企業も増えてきていると思うのですが、相変わらずデータドリブン文化が日本には根付いていないように感じられます。組織ができれば、データドリブンな意思決定もできるようになるものなのでしょうか。
神野 勘と経験に頼るのではなく、データに基づいて意思決定しようというのがデータドリブン経営だと思います。しかし何でもかんでもデータに基づくのもスピーディーではありませんし、データでは解決できない課題があることも既に述べた通りです。したがって勘と経験に加えて、データを加味した上で意思決定するということでいいと思うのですが、それがデータ分析人材だけでなく、また経営者だけでもなく、全社的に行われることがデータドリブン組織の必要十分条件だと考えます。
そのためにはデータを誰もが利用できる状態、つまり「データの民主化」が達成されていることが必要です。これはそもそもデータガバナンスの大きな目的です。
またトップダウンとボトムアップの両方の施策が必要です。トップからは「データ利活用を進めるぞ」という号令が必要ですし、ボトムからは分析チーム内、部門内、事業部内、全社と徐々に範囲を広げていく取り組みが必要です。
小暮 企業がこれらの取り組みを進めるための支援をしていく上で、ブレインパッドが重視していることは何なのでしょうか。
神野 データドリブンが文化として根付いている、そういう文化を醸成していくことです。データドリブン化も、これまでの企業における様々な変革同様、痛みを伴うものです。どういう痛みかと言うと、データに基づく結論と勘と経験に基づく結論が食い違うことによる痛みです。我々は食い違いが生じた場合にはデータを信じろと言うのですが、経験を積んだ人ほど受け入れがたい話であることを理解した上でそう言っています。
とはいえトップがやれと言っているのですから、表立って拒否することもできません。どうするかと言えば、「業務に追われていて、データドリブンでやりたいのだがやる時間がない」などと言い出すわけです。どんな改革でも同じですね。
そこで様々な意識改革施策でチェンジマネジメントをしようとしたり、データを利活用することでどんな良いことがあり、利活用しないとどんな悪いことがあるといった啓蒙活動をしたりするわけです。カンフル剤を打ち込むことで組織文化を徐々に変えていき、データドリブン文化を醸成して根付かせようということです。
私がよく言うのは、組織のネーチャー(風土)は変えられなくても、カルチャー(文化)は変えられるということです。ネーチャーというのは組織の存在意義や目的であったり、コアコンピタンスであったりするので変えられません。変えたら違う会社になってしまいます。しかし文化は仕事のやり方であったり、考え方であったりするので、これは変えられます。
文化を変えるポイントは、人を褒めて讃えて、少しずつ文化を育んでいくことい尽きます。けっして無理矢理人を変えようとしてはいけません。新しい文化が心地よければ、人はそれに適合するのです。
小暮 文化醸成をしていく上でのポイントはありますか。
神野 前回述べたインフルエンサーに活躍してもらうことです。カンフル剤として彼らは適任だと言えます。キャリアで言えばビジネスアナリストに育った人に、自ら情報発信をしてもらうことが有効です。さらに事業部門のプロジェクトに関わってもらって、現場の人の目の前でデータ分析の効果を体現してもらうことです。目の前で起こったことを否定することはできません。結果として効果があれば、半信半疑だった人も驚きを持って受け入れることになります。
「分析結果を配布する」ということで、文化醸成ができると思っていませんか?
文化醸成において、一時的な施策により期待効果を得ようとする動き方もあるのですが、これはお勧めしません。一時的な施策は、あくまで一時的な効果しか生まないので、瞬間最大風速はあっても持続力がないのです。結果的に、文化醸成にはつながらないということが非常に多く見られ、ブレインパッドとしても多くの相談を受けます。
これに対して、ブレインパッドではデータドリブンジャーニーを活用することを提唱しています。これは、カスタマージャーニーと呼ばれるものの、データドリブン版です。
企業において、データサイエンティストが、どのようにデータドリブンの役割を担っていくのかを、時系列で整理したものです。また、データサイエンスに関わる経営層、管理職、現場の3つの観点で描くことが肝要です。これによって、社内におけるデータドリブン文化を、各観点単位で定義させ、文化醸成の成長を明示することができます。
よく、WBSやタスクリストで管理することを考えがちですが、文化醸成はプロジェクトでありつつも、一般的なプロジェクト管理が適用できるものではありません。人と人が生み出すシナジーであり、ケミストリーとなります。また、タスクや施策として単発として終わらせるのではなく、ブラッシュアップを繰り返しながらアジャイルのようなアプローチでトライアンドエラーを繰り返しながら、作り上げていくこととなります。これらはいつどのように生じさせるかというよりも、先述の状態定義と合わせて、着実に実行していくことが求められるのです。
これらを意識しないと、ダラダラと取り組みを続けることとなってしまい、「なんとなくデータドリブン」になってしまいます。このようなやり方でデータドリブンな意思決定のメリットやベネフィットを少しずつ伝播していくと、必ず文化として定着していきます。
ブレインパッドでは、これらを回避するために、多くの知見とアセットを活用しながら、お客さまのデータドリブン変革を支援していきます。
小暮 データを活用したビジネスをずっと展開してきたブレインパッドだから言える、データドリブン文化の醸成方法ではないかと思います。今回の話を受けて、私自身も領域を問わず、分析伴走というやり方を通して、人材育成や組織組成に力を入れ、日本企業のデータドリブン文化醸成に貢献していきたい気持ちが高まりました。
今回は、データドリブンを実現する上で肝となる人材育成と文化醸成の話を中心に展開させていただきました。引き続きシリーズが展開されますので、ご期待ください。
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