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2022年現在、多くの企業がDX推進に取り組むようになり、業務のデジタル化が進展している中、データガバナンスの必要性が叫ばれるようになった。しかし言葉だけが一人歩きし、多くの企業がデータガバナンスの真の意味を理解していないように見える。
「データガバナンスがもたらすもの」と題した本シリーズでは、論点ごとにデータガバナンスを深掘りした内容をお送りする。
第6回では、DX関連案件の上流コンサルティングを担当している執行役員 神野雅彦が、同社の取締役 関口朋宏と、執行役員 ビジネス統括本部長の西村順を招き、データ活用やデータガバナンスに関するこれまでの変化と日本企業が抱える根本的な課題、および課題解決について必要な観点や視座について語り合った。 前編では、課題を洗い出していく。
■登場者紹介
外資系コンサルティング会社にて、戦略コンサルタントとしてさまざまな業界の事業戦略、大規模な組織再編、人事戦略の立案・実行を支援。その後、ブレインパッドに参画し、ビジネス・コンサルティング組織の立ち上げを行い、収益拡大を牽引。2019年9月より取締役に就任し、大手企業との資本業務提携や大規模プロジェクトの実行責任者を務めると共に、2021年からプロダクト事業を統括。2022年7月に、株式会社TimeTechnologiesのCEOに就任し、主力プロダクト「Ligla」の事業を牽引。2022年10月より現職。
大手IT企業、外資系企業、海外駐在、日系コンサルティング会社および外資系コンサルティングファームを経て、ブレインパッドに参画。戦略コンサルタントとしての経験を活かし、顧客企業のデータドリブン企業への変革、DX推進体制の強化、データ組織・人材開発の伴走支援、金融領域の活性化、デジタル基盤を含むトランスフォーメーションを実現するためのビジネス開発、プランニング等を担う。2022年10月より現職。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)標準化委員会 委員長代行。
外資系コンサルティングファームに入社後、戦略コンサルタントとして、通信キャリア、製造メーカー等を中心に事業計画策定、新規事業立案、組織改革、営業改革、SCM改革、BPR、DX等のさまざまなテーマに従事。その後、物流ソリューションベンチャー企業の上席執行役員を経て、ブレインパッドに参画し、コンサルティング部門を統括するとともに、自らも大規模プロジェクトの企画・実行責任者を務める。2022年10月より現職。
ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) 本シリーズでは、ここまでデータガバナンスとは何か、私たちブレインパッドがどのようなコンセプトやフレームワークでクライアントのデータガバナンス実現を支援しているかといった話をしてきました。今回は、DXやデータドリブン経営を実現したいと考える企業の上流工程のコンサルティングの担当経験が豊富なお2人と一緒に、日本、特に大企業が抱えている課題と、将来の方向性についてフリーディスカッションを繰り広げながら、ブレインパッドが描く未来を伝えることができればいいなと思っています。
まずは課題提起です。先日、あるクライアントと経営と事業に係る課題について、お話ししてきたんです。そこで感じたのが、多くの企業に言えることなのですが、目の前に直面している課題の話がほとんどで、中長期的なビジョンや、そもそもデータに強い組織とは何ぞやといった根本的な話になかなかならないんですよね。そこで、改めて私たちが提唱している「攻めのデータガバナンス」が重要になるわけですが、それを推し進めるにはどうしたらいいのか、少し途方に暮れたのです。
ブレインパッド・西村順(以下、西村) 私はサプライチェーンマネジメントが専門なのですが、その関連でいうと生産部門、販売部門、R&D(Research & Development:研究開発)などの意見が合わなくて、なかなかプロジェクトが動き出さないことが多い。これは単純な組織が縦割りである、とか、ステークホルダーが多くて調整が難しい、といった組織課題だけでなく、データガバナンスの文脈においても、ビジネスサイドとITサイドでせめぎ合いがあると考えられます。
例えばビジネスサイドからは、「ただ過去のデータを集計したいだけなのに、どうしてデータが出てくるのがこんなに遅いのか」と文句が出ます。それに対してIT部門の言い分は「事業部門が勝手にサーバーを立てて、システムを乱立するのが根本原因だ」と言い返したくなってしまう。さらにこれに対して、「事業部門が新しい別のシステムを入れるのは、ITサイドが用意するシステムが事業貢献を考えていないからだ」とはじまり「ツールを導入してくれと言ったのはそちらで、せっかく導入したのに利用率が低いじゃないか」と、双方の言い分には大きな溝が生まれているケースがほとんどです。
そこで経営サイドが号令を掛けて進めようとするわけですが、この課題解決を、コミュニケーション課題、風土課題、組織課題といった情緒的な課題の側面だけで捉えてしまうと、溝が埋まり切らないんですよね。
この辺りの課題の解きほぐしには、もっと論理的な解決が必要だと感じています。
神野 先ほどのクライアントに提出した資料では、DMO(Data Management Office、下図の「マネジメント/統括」を担当)を作りましょうと提案しました。
図で「データ開発(デジタル)」が指すのはIT部門やシステム開発部門のことで、「データ所管(ビジネス)」とIT部門(データ開発(デジタル))」とDMO(データ統括(マネジメント))の「三権分立」体制にしましょうということです。データのマネジメントをする人たちが必要で、その人たちにビジネスとITの仲介役になってもらおうという発想ですね。ただ、DMOを設置してそれをCDIO/CDO(Chief Digital OfficerあるいはChief Data Officer)が統括している企業はまだまだ少ないのが現実です。
西村 「データを活用すること=“新しい”業務が生まれた」と捉える必要があるのではないでしょうか。DMOを設置するのはその一環だと思いますが、今ある組織フレームに入れ込むのではなく、新規ビジネスを始めることと同様だから、新部門を作る必要があるんじゃないかと。
ブレインパッド・関口朋宏(以下、関口) その議論に水を差すつもりはないのだけど、大昔から帳簿があって、それでマネジメントをしてきたわけじゃないですか。計算する道具は、算盤、電卓、表計算、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画/基幹システム)と進化してきたわけだけど、帳簿を見て分析することと変わりはありません。それと今の「データ分析」とか「データ活用」と何が違うのでしょう。これらを“新しい”ものと捉えるのか、過去からやってきたことの延長と捉えるのか、そこはちょっと議論すべきですよね。
新しいことだからといって、今までと違う発想でやっていくべきなのか、取れるデータと処理する技術が向上したことによって、できることが増えただけなのか。似たようなことを言っている気もしますが、いつも悩むところです。
神野 紙だけど帳簿があって、そこに載っているのは数字だから、元々データはありました。それをデジタル化してコンピュータに載せたけれど、紙データをデジタルにしただけで、それはデータ活用とは呼べなかったのでしょう。
いざデータ活用を始めようとなると、マーケティングや営業、企画などフロントオフィス系の話からになるのですが、先見性のある人たちは、経営のデジタル化が重要で、バックオフィスに蓄積されているデータをどうやって「攻め」に使うかを重視し始めています。つまり論点は、データやシステムをいかに攻めに使う方向に転じさせるかだと思うのです。
西村 私がデータ活用を“新しい”業務と捉えるべきと言う理由は、関口さんや神野さんが今言った「過去からやってきたこと」は、企業活動のログを取っているだけだと思うからなんですね。その目的はきちっと説明責任を果たすことだったわけで、これが「攻め」のデータ活用となってくると、複数年にわたった商品の販売履歴などが必要になります。しかし今までのログでは単年での使用しか考えておらず、そのままでは分析はできないのです。だからデータ活用をするとなれば、今までとは世界観が変わることになり、これは「“新しい”業務」と捉えたほうがいいと思ったのです。
関口 データを活用するためにはデータが溜まっていることが前提だけど、「活用」とは何かと言えば、データを見て今良い状態なのか、悪い状態なのか、将来どんなリスクが発生しそうなのかを考えることですよね。
「考える」活動をデジタル化することがデータ活用だとすれば、それは確かに“新しい”ことのような気がします。
西村 今までは人が考えていたから、たとえば5個の変数しか扱えなかったのが、デジタル化によって100個扱えるようになりました。そうなると今までの範囲や限界を超えることができる、だから“新しい”ということです。
神野 データドリブンについて話をしましょう。これまでは「勘と経験」で意思決定してきたのに対し、データできちんと裏付けを取って、頭を使って考えること/意思決定することが「データドリブン」ですよね。今、データドリブンで経営をすることが企業に求められてきているのですが、なかなか進みません。こちらについては、どのような見解でしょうか?
関口 データ活用を進めたいと言う会社は多いのですが、なぜ進めたいのか、つまりWhyがない会社が多いのです。知りたいことや検証したい仮説がないと、データ分析をしても意味をなさないと思うんですよ。そのような前提がない会社で経営層から「データを活用しろ」と言われても、指示された社員は何をして良いかわからなくてつらいだけです。
このような悩みを抱えている会社が多いのですが、経営者が強い「Why」(データを活用したい理由)を持ってさえいればデータ活用は進むはずだと思うんです。何が邪魔しているんでしょう。
神野 企業のネイチャー(社内風土、コンピタンスなど)やカルチャー(社内文化、仕事の進め方など)が良かれ悪かれ邪魔しているのでしょう。データを使って気づきを得られて、そこ体に価値を感じ取っている現場担当者は、意外と社内に結構いるんですよ。しかしその気づきを受け入れて意思決定できない上長や会社組織が多いんです。そのため、データの分析結果から案を出しても、勘と経験に基づいて出してきた別案を上長が採用して通ってしまうのです。
関口 これって、経営に関わる問題提起をしていませんか。ファクトに基づいてA案を出しているのに、ファクトに基づかないB案が通ってしまうということでしょう?
神野 そうなんです。データ分析の結果が勘と経験に負けることが往々にしてあるのです。要は上長の意向が優先されることがわかっているので、提言したくてもできない。これなどはカルチャーの問題でしょう。
西村 マネジメントが、勘と経験に基づいて出した結論をデータで補強してほしいのでしょうね。勘と経験に基づいた結論と一致する分析結果が欲しい、それが正しい……。でもそれでは今までのやり方を踏襲しているだけ。新しい意思決定の仕方を取り入れるんだというメンタリティが必要ではないでしょうか。
関口 なるほど。過去を否定するのが難しい、あるいは成功体験にとらわれているということでしょうか。ファクトが左と言っているのに、過去の経験から右に行ってしまう――それって機械学習の過学習(訓練データを学習しすぎた結果、未知のデータに対して適合できなくなること)とそっくりですね。
西村 分析結果を見て、「何でこうなった?」と聞く会社と「で、次はどうするんだ?」と聞く会社の2通りがあって、これがカルチャーの違いなんですかね。「何で」を聞く会社では、アルゴリズムやデータ、前提条件などが問題になり、原因の追及ばかりしていて、なかなかデータドリブンになっていきません。
神野 続きの話になりますが、成果を急いで求める会社が多いんですよね。途中経過を含めて、今どういう風に進んでいるのかをじっくり見ていくべきなのに、結果ばかりが重視されます。しかし結果だけを急いで求めるとスマッシュヒットは放てるかもしれませんが、継続的な活動につながっていきません。
西村 分析の力で正しい意思決定ができて、それを元にプロセスが良い方向に回り出して初めて「分析の成果が出た」と言えると思うんです。ただ成果が出たときに、どこまでがデータによるもので、どこからがプロセスによるものかがよく見えないとデータ分析の成果を正しく評価できません。データドリブンで進めるなら、データによる成果とプロセスによる成果をしっかり見分けないといけないのです。
関口 オプションが複数あって、その中からどれか1つを選ぶための分析ならまだいいんです。問題なのは、施策ありきで、そのためのHowを出せという分析は、先ほどもでてきた「勘と経験を分析で裏付けるための分析」なんですね。意思決定のプロセス、すなわち思考のプロセス自体を見直さないといけません。
西村 マネジメントが意識すべきと思うのは、データドリブンでやると決めたら、人間が判断せず、データで自動的に決めるプロセスを作ることです。
関口 日本のビジネスパーソンは真面目なんでしょうね。人は本来は楽をしたい生き物であり、そのためにいろいろな技術が発展してきました。デジタルで自動化できるのであれば、その分、楽をすればいいのに、今まで以上に頑張って仕事をしてしまう人が多いように見受けられます。デジタル化の究極は定型業務の全自動化だと思うのですが、そうなると働いている人たちの価値がなくなるという議論になりがちです。そうではなく、人間がやらなくてもいい仕事は全部自動化して、人間がやるべき仕事だけやればいい――こういうカルチャーに変えていくのも経営の仕事なのかなと思います。
西村 話は変わりますが、分析をルーティンに落とせないことがあります。ある分析が非常に有効に働くことがあって、ならば毎回それと同じ効果を出そうとルーティン化するわけですが、その効果はだんだん飽和していってしまうからです。したがって同じことを繰り返すのではなく、常に改善することを考え続けないといけません。
改善に取り組む分析官にとっては、ルーティン業務をこなしながら仕事を覚えていくのとは別のスキルが必要で、そこが難しい。その部分をサポートすることで、我々のような外部の人間の存在意義がさらに出てくると思っているんですよ。マネジメント側が、分析において内部と外部をどう使い分けるかが、1つの論点としてこれから重要になってくると感じています。
関口 分析業務は定型業務ではなく、非定型業務だと言ってますよね。定型業務の効率化に関しては日本企業のお家芸で、トヨタのカンバン方式などが代表的です。しかし非定型業務をどう効率化していくかについては苦手意識があるのかもしれません。非定型業務は正解がない。人の能力に極めて依存し、アウトプットにも大きな差が出ます。クオリティを定義するのも、スタンダードな方式を決めるのも難しい。逆にアウトプットさえ良ければやり方は何でもいい。だから外部の力を借りてもいい。
定型業務であればプロセスを磨くことでアウトプットも良くなったのが、非定型業務だとそうはいかない。この辺りの発想転換も必要かもしれないですね。
関口 ところで、私たちがコンサルティングをするに当たって、To Be像(目指す姿)を描くことが求められます。しかしクライアントに質問してもなかなか答えが出てきません。外部の人間にプッシュしてもらってようやく出てくる感じなのですが、やり方は問わないので、もっと社内から能動的にTo Be像が出てくる文化にならないかなと思います。
神野 あるクライアントで分析のテーマを決める際に、経営課題から事業課題に落とし込んでいったのですが、直近の課題しか出てきません。しかも、自身が担当する目の前の業務上の課題ばかりです。これって、ビジネスや業務への理解が浅いということです。これは、データサイエンスの力よりもビジネス的視座のほうがデータドリブンの実現のためには重要であるということが理解できていないという大きな問題を表しています。
この数年でデータサイエンティストにビジネスドメインの知識が必要とされるようになりましたが、さらにワンランクアップして経営に近い立ち位置が求められていくのではないでしょうか。
関口 そうですね。また、誰のために仕事をしているのかも問われるようになってきました。ESGがその代表例でしょうか。主語が自分ではなくて、地球や社会や顧客なんですね。欧米の企業だと、昨日まではそんなことは言っていなかったのに、ある日突然ガラッと変わったじゃないですか。投資家の目が厳しいからかもしれませんが、「誰かのためにこうありたい」ということのパワーはすごいものがあって、日本企業ももっと第三者の目を意識して、カルチャーを変えていくことをしないといけない気がします。
神野 ありがとうございます。残念ですが、時間が来てしまいました。ここまででデータ活用やガバナンスに関する現状認識や課題感は共有できたと思います。次回は、出てきた課題に対して、どんな打ち手があるか話をさせてください。
西村 データドリブンのビフォーをヒューマンドリブンと言えばいいのか、よくわかりませんが、ビジネスの起点が人間からデータに変わるということで、これはとてつもないことを言っているわけです。そこでパートナーリングが重要になってくるのですが、何をコアとして自社に残して、どの部分を外部に出すべきか、その辺りももっと議論できると面白いんじゃないでしょうか。
神野 そうですね。それもぜひ議論しましょう。今日はありがとうございました。
※後編に続く。
【データガバナンスに関連する記事】
データガバナンスとは?データ管理体制の重要性
この記事の続きはこちら
【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第6回 データ活用のあり方と攻めのデータガバナンス(後編)
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