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「【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの」では、ここまで8回にわたり、データガバナンスとはなにか、また、組織組成/人材育成、データ基盤構築とデータガバナンスの関係性、金融業界におけるデータ活用のあり方などについて解説してきました。
本記事では、金融業界向けのデータガバナンス構築プロジェクトに携わっている、株式会社ブレインパッド ビジネス統括本部 データビジネス開発部の小暮純子と齋藤拓也の若手コンサルタント2名と、株式会社ブレインパッドの執行役員で、内製化サービス推進および金融インダストリー責任者を務める神野雅彦をモデレーターに迎え、組織にデータ活用の意識を根付かせるために必要な「データドリブンな文化醸成」をテーマに、現場における課題感や実際に起こるさまざまな問題を踏まえながら、話を聞きました。
前編では、データドリブン文化醸成の定義づけ、そこから得られる効果について議論します。
■登場者紹介
大学院修士課程卒業後、2021年にコンサルタントとしてブレインパッドに新卒入社。入社後は、金融業界のマーケティングDX支援や、分析組織立上げおよびデータドリブン文化醸成のプロジェクトに従事。
大学学士課程卒業後、2022年にコンサルタントとしてブレインパッドに新卒入社。入社後は、金融業界の分析組織立上げおよびデータドリブン文化醸成のプロジェクトに従事。
大手IT企業、外資系企業、海外駐在、日系コンサルティング会社および外資系コンサルティングファームを経て、ブレインパッドに参画。戦略コンサルタントとしての経験を活かし、顧客企業のデータドリブン企業への変革、DX推進体制の強化、データ組織・人材開発の伴走支援、金融領域の活性化、デジタル基盤を含むトランスフォーメーションを実現するためのビジネス開発、プランニング等を担う。2022年10月より現職。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)標準化委員会委員長代行。
※所属部署・役職は取材当時のものです。
株式会社ブレインパッド・神野雅彦(以下、神野) 今回は、現場で大活躍中の若手のホープ2人を交えて色々とディスカッションしたいと思います。
最初に、そもそも「データドリブン文化醸成」(以下、「文化醸成」と同義)とは何か、お二人の考えを聞かせてください。
株式会社ブレインパッド・齋藤拓也(以下、齋藤) 一言でまとめますと、「『データによる定量的で客観的な根拠に基づく意思決定を行う文化』を全社員に浸透させること」と認識しています。
株式会社ブレインパッド・小暮純子(以下、小暮) その要素としては、2つあると思っています。
1つは、「全社員に浸透させる」ことが重要であるということです。一部の社員や組織がデータドリブンな意思決定を実践していても、あまりデータ活用の効果が出ません。全社的に実践することで、データ活用のスピードも速く、組織としてのデータ活用の効果も大きくなります。
もう1つは、「定量的で客観的な根拠に基づく」ことが重要だということです。結果ありきのデータ分析でデータが歪められたり、誤った意思決定を下したりしてしまうことがよく見受けられますが、これではデータを活用していてもデータドリブンとは言えません。
神野 なるほど。つまりデータドリブン文化醸成は、全社的な視座で企業全体に向けて進めるとともに、データ活用を促すだけではなく、「データドリブンとは何か」、「データに基づく正しい意思決定とはどういうことか」といったことを理解させることも意識して進めなくてはいけないということですね。
神野 データドリブン文化醸成の定義付けやポイントはよくわかりました。つづいて、文化醸成をすることによって得られる効果について伺っていきたいと思います。お二人が実際に現場で感じているポイントはどんなことでしょうか。
齋藤 データ活用の最終的なゴールは、収益増大やコスト削減などのビジネス的な価値を生み出すことです。したがって文化醸成の一番大きな効果も、これらのビジネス的な価値が生み出されることでなければならないと考えます。
小暮 他に期待できる効果としては、文化醸成ができていることで、ゴールに至るスピードが速くなることも挙げられます。
神野 なるほど、全社的に取り組まないといけない、その上でビジネス的な価値を生み出さないといけないとなると、組織力が大きな役割を果たすのではないでしょうか。
では、組織組成とデータを使いこなすという二つの論点で話を進めていきたいと思います。
データ分析の結果をもとに意思決定したり、行動変革をしたりすることでデータから価値が生まれることに関しては、過去の記事でもさまざまな切り口で議論してきました。一方で、データはあっても分析の実施や、分析の先の意思決定や行動変革に結びつかない企業が多いことも同時に伝えてきました。
こういった状況を踏まえた上で、文化醸成がデータ活用の推進や導出される効果に与える影響について、どのように考えていますか。
齋藤 「分析して終わり」では、ビジネス価値を見出すにはなかなか至りません。そこで何を分析するか、分析した結果をどうするかについては、分析を担当する人材だけではなく、その結果を利用するが分析はしない社内の人材、すなわち「データ活用人材」と一緒に考えていく必要があるかと思います。
そうすることで全社的にデータを活用していこうという意識や行動が身につき、データをもとに意思決定や行動することがスムーズに行えるようになると考えます。
小暮 最終的なゴールであるビジネス効果を出す、企業価値を高めるといったことを実現するには、その企業が抱えている、重要度が高く、かつデータで解決できる課題を見つけだし、それをデータで解決していくことが大切です。
これは、以前議論したデータ分析人材の3つの力(図)のうち「見つける力」に該当するのですが、いくら見つける力が優れている分析人材がいても、データ活用人材の力を借りないと事業や業務、現場を理解することはできません。文化醸成ができているとスムーズにデータ活用人材の力が借りられて、知見をもらうことも容易にできるようになります。課題を見つける際にも、データ活用人材の協力により、大きなビジネスインパクトをもたらす課題を見つけることができます。
【関連】【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第4回 組織組成・人材育成とデータガバナンス(前編)
齋藤 「使わせる力」に関しても、文化醸成と関わりが深いと思います。文化醸成ができていると、分析結果をどうビジネス適用するかを考えるのにデータ活用人材の協力が得やすくなり、分析人材だけで考えた施策よりも、より強力な施策が打ち出せるようになります。
小暮 分析組織とビジネス部門が切り離されている企業もあり、そういった企業では全社的なデータドリブン文化醸成がより重要になるのではないでしょうか。
神野 企業の中でデータを活用するというと、基本的にデータを分析するという活動が重視されがちです。しかしこの1年ほどでお客様のステージも変わってきたと感じるのは、「分析しているだけでは駄目だ」、「データをしっかりビジネスに使って判断していかなければならない」、「企業課題や事業課題をデータで解決しなければならない」という考えに賛同してくださる方が増えていることです。その裏付けとして「データでビジネス課題を解決できるんだ」という信念を持つ人も多くなっています。
とはいえ、全社的にデータドリブン文化を理解できているかというと、そのような企業はまだまだ少ないわけで、お二人が言うように、見つける力と使わせる力が重要であることを啓蒙し、しっかり浸透させていくことが重要なのだと改めて理解しました。
ビジネス価値の向上ももちろんですが、データドリブンの肝は意思決定を高速化することでビジネスのサイクルを高速化することにあり、その大きなカンフル剤が文化醸成であるということだと思います。
神野 「【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの」のこれまでの内容と関連づけると、第4回の中編で、データ活用人材が社内で育ってきた状況で、評価制度やキャリアパスの整備、データドリブン組織組成が必要になるという話が出てきました。こういった人事制度や組織組成に関わる取り組みに関しては、他部門とのコラボレーションや経営層の意思決定と承認が必要になってきます。これに関して文化醸成が効力を発揮する場面について教えてもらえますか。
【関連】【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第4回 組織組成・人材育成とデータガバナンス(中編)
齋藤 評価制度やキャリアパスの整備には会社全体の人事制度が絡んできます。最初は小規模な分析組織からボトムアップで組織化していく流れもあるかもしれません。しかし分析人材をどう評価するのかという話になると、その分析組織自体が全社的に承認されていないと組織組成は進んでいかないのではないでしょうか。
したがって、手始めに、人事部が「この組織は、データ分析を使ってビジネス価値を生み出す組織だ」としっかり定義することが肝心です。そうすればデータ活用人材とはどういうものかという定義付けもでき、それに沿った評価制度を作っていこうという流れもスムーズになるはずです。
小暮 組織組成においては、データ分析の必要性をまず理解してもらうことが重要です。大きい組織ほど、多様性の観点から、データ分析人材が優遇されているという反感を持たれる可能性があり、そういった負の感情を抑えるためにも評価制度やキャリアパスをしっかり整備すべきです。そして、これらの整備がデータ分析によって価値を生み出すために必要なことだということを全社的に理解してもらうことが重要だと考えます。
齋藤 小暮さんが言うように、データ分析の必要性を他部門に理解してもらうことが組織組成をスムーズに進める上でやはり重要なポイントになります。たとえばDMO(データマネジメントオフィス)は、データマネジメントを実施するためにIT部門にさまざまな要求を行いますが、それらの要求を受け入れてもらうためには、データを活用してビジネス価値を生み出すことの重要性をIT部門に理解してもらう必要があります。
神野 第4回の中編で話したことは、仕組み、すなわちツールを作ることが必要ということでした。評価制度もキャリアパスもツールであり、作るだけなら簡単です。しかしそのツールを使いこなす組織となるために、全社的に変わっていかなければならないことがポイントだと思います。ツールというと、システムのイメージが強くなりますが、ここではデータ活用を実現するための武器であるという定義になります。
今、齋藤さんと小暮さんからさまざまな話がありましたが、文化醸成の肝というのは、全社的にデータを活用すると自分たちの仕事がすごく楽になるとか、自分たちのビジネスに大きな付加価値が生まれるといったことを気付かせ、理解させ、浸透させ、社員が行動を自ら変革しようとする「行動力」を醸成することではないでしょうか。
そのような行動力が生まれることで、DMOのような新しい組織や、データを活用した新しい意思決定のやり方を受け入れられるようになる――そうすることで、全社的な組織組成・組織変革が進めやすくなるのではないでしょうか。
小暮 コンサルタントが入って仕組みを作っても、使われずに終わることがよくあります。コンサルタントに会社を変えてもらうのではなく、お客様自身が変わる努力をすることが大切です。そのためにもデータを何に活用できるのかをしっかり理解できることが大切だと考えているので、今の神野さんの話には全面的に同意します。
神野 ありがとうございます。今の日本企業の現状に則して言うと、データとの親和性の高い事業体とそうでない事業があるようです。また事業体のカルチャーとネイチャーという話で言うと、そもそも数字を見て判断して、行動していく事業体のお客様はデータドリブンに変えていきやすいのです。KPIツリーであったり、事業目標や課題の話であったり、データを活用する目的であったり、そのような話がとてもしやすいからです。一方で、「デジタルと言われても、紙に落ちているわけではなく、目に見えないので、まるで雲をつかむような話だ」とおっしゃるお客様もいます。企業ごとにけっこう大きな乖離があると感じます。
前者のような前衛的なお客様では文化醸成のニーズはさほどないのかもしれません。おそらく文化醸成のニーズが高いのは、後者のような保守的なお客様でしょう。保守的なお客様にデータの良さや恩恵を得られる姿をしっかり啓蒙することが、そのようなお客様に貢献することだと信じています。
神野 小暮さんのお話の中で、「データ分析人材に対する反感がある」とあったのですが、データ分析人材が組織内で浮いているといったことはあるのでしょうか。
小暮 どういうプロジェクトの始まり方か、どういう環境でデータ分析をしているかによりますが、「何だかよく知らないけど、データをいじってばかりいる連中がいるな」と他の部門の人から思われていることがありました。
齋藤 特に育成の途中の段階だとなかなかビジネス的な価値が出ないので、「勉強ばかりしているよね」という印象を持たれることが多いかもしれません。早く結果を出すことが重要視される文化の会社だとそうなりがちです。
またビジネス的知見はすばらしくても、テクニカルな部分についてはあまり詳しくない方が意思決定層にいると、分析人材の苦労が理解されないこともあります。
神野 だとすると、百十四銀行様の事例のように、新規の分析組織が大きな結果を出すまでにはやはり時間がかかると経営層が認めつつ、一方で分析組織側は小さな結果を早く出していくように進めていくといった取り組み方も肝心ということですね。
小暮 そうですね。データ分析は試行錯誤ですから、必ずしも施策につながるような良い結果が出るとは限りません。試行錯誤、つまり仮説を立てること自体にも価値があるということを上層部が理解して社内に伝えていく必要があります。
神野 ここまで「データドリブン文化醸成」を定義付け、それによって得られる効果について話をしてきました。どちらかというとポジティブな話題が多かったように思います。後編では、文化醸成ができないとどうなるかという問題提起をし、どうすれば文化醸成を進めることができるのかを議論していきたいと思います。
次回は、引き続き、文化醸成に係る組織の課題と実現に向けた打ち手の話を伺いたいと思います。
この記事の続きはこちら
【シリーズ】データガバナンスがもたらすもの-第9回 データドリブン文化醸成とは(後編)
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